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初夏編:田舎のポントワーブ

【344話】化かし合い

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「アーサーとモニカ、無事よねェ?」

田舎のポントワーブ。黒髪のかつらをかぶったカトリナが、コーヒーを飲みながら一人呟いた。向かいに座っていたカミーユ(赤髪のかつらをかぶり、つけ髭と眼鏡をつけている)は、玄関の方に目を向けたまま呟き返す。

「大丈夫だろ。あいつらがポントワーブに帰ってきたのは昨晩の夜中だ。さすがにすぐには手出ししないだろ」

「そうだといいけど」

「アーサーとモニカの話?」

「ええ」

双子の話が聞こえ、金髪のかつらをかぶったジルがカミーユの隣に腰かけた。新聞を流し読みしながら会話に加わる。

「ポントワーブにあの子たちを監視する人がいるのは間違いない。魔女の小屋から、僕たちが送ったインコがアーサーとモニカの家に一羽も辿り着いてない時点で確定だよ。監視の目が何人なのかは分からないけどね」

「だな…」

「王都で流れてる…いえ、意図的に流された噂話からしても、王族はそろそろ本腰を入れてあの子たちの命を狙い始めてるわねェ」

「まあ、そうじゃなきゃ僕たちをここまで追い詰めたりしないよ。今回だって王族の計画では、あの変異種ヒト型魔物に僕たちを殺させて終わるはずだっただろうし」

「あの魔物も闇オークションで買った魂魄なんだろうな。あのダンジョンで、あいつだけ匂いが違った」

「それにしてもツメが甘いわァ。私がもし王族なら、万が一殺し損ねたときのためにあと3つくらいは後ろに指定依頼を押し付けておくけれど」

「恐ろしいこと言うんじゃねえよ…」

「僕もカトリナと同じことを思ってた。おかしいんだよね。これで終わりなの。本当に殺したいならここで終わらせたりしない」

「…遊ばれてるみたいで面白くないわァ」

「もしくは、王族の中に裏切者がいるか」

「だとしたら、国王を操作できるほどの大物ねェ」

「…ちょっと面白くなってきた」

ジルがニッと笑うと、カトリナも右の口角だけをクイと上げた。いつもはプラチナブロンドでコーラルピンクの口紅をつけているカトリナが、今は黒髪で真っ赤な口紅を付けているためか、その表情がまるで悪役のように見えた。カミーユはやれやれ、というようにため息をつき首を振った。

「はぁ。また頭の良いお前らにだけ先が見えてるパターンか?」

「そうだね。カミーユも頭がいいけどやっぱり脳みそも筋肉だから」

「あぁ?やんのかジル」

「いいよ。僕はまだ、君が僕の真横のベッドでアーサーとモニカと一緒に寝てた日のことを忘れてないから」

「いやそれいつの話だよ!」

「うふふ。ジルったら本当に、アーサーとモニカのことになるとおバカになっちゃうんだからァ。…あら?ところでリアーナは?」

「いるよー」

ダイニングテーブルから少し離れたソファの背もたれからぴょこっと腕が出て、ダルそうにゆらゆら振った。どうやら先ほどからソファで寝転んでいたようだ。

「あらァ。そこにいたの。やけに静かじゃない」

「呪い食ってた」

「そう…」

ダンジョンで呪いを受けたリアーナは、アサギリの力を借りて体内の呪いを食った。だが、その呪いは完全に消えたわけではなく、定期的にリアーナが食わないと増殖するようだった。魔物の血が濃くなってしまったリアーナは、聖魔法に耐えられないので浄化することもできない。リアーナ(プラチナブロンドのかつらをかぶっている)は重い体を起き上がらせて、カミーユたちが集まっているダイニングテーブルまで歩いてきた。口元には血が流れている。

「リアーナ…」

「ああ、心配すんな。もう食い終わったから」

「でも、こんなことを続けていたら魔物の血がもっと濃くなってしまうわ…」

「…だな。あたし、いつか魔物になっちまうのかなあ」

いつものリアーナでは考えられないほど弱々しい声だった。カミーユはガリガリと唇を噛み、リアーナの肩を乱暴に抱き頭を撫でた。目に涙をうるませているリアーナは、まるで小さい女の子のようだった。

「そんなこと、俺がさせねえ」

「させねえっつったってよぉ。どうしようもねえじゃん」

「リアーナ。大丈夫。アサギリがもうすぐ来るから。あの剣にまた清めてもらえばいいよ」

「だな…。それが一番手っ取り早い」

そんな会話をしていると、玄関からノックの音が聞こえた。カミーユたちは目を合わせ、こっそり玄関に近づく。2回、3回、1回、2回とノックが聞こえる。カミーユが3回ノックをすると、ドアの向こうから2回ノックが返ってきた。そこでやっと彼らは肩の力を抜いて玄関の扉を開ける。

「あ?」

「あら」

「ん?」

「お?」

「カミーユさん、連れてきました」

「みんな!ただいま!」

「ただいまー!!」

ドアを開けると双子がカミーユに抱きついた。ベニートがそんな双子を無理矢理家の中へ押し込みドアを閉める。アーサーとモニカは、変装したカミーユ、カトリナ、ジル、リアーナを順番に見て楽し気に笑った。

「きゃははは!!!みんな別人みたいー!!」

「あれ?!カトリナ?!カトリナだよね?!」

「リアーナすっごくきれい!!」

「カミーユは、学者さんみたいだね!!」

双子に話しかけられてもカミーユたちは返事をしない。ポカンと口を開けて二人をジロジロ眺めるだけだった。

「な…なあに?」

「僕たちの顔に、なにかついてるかな?」

「ついてるもなにも…」

「お前ら、なにしてんだ?」

「えっ…?」

アーサーとモニカはギクリと顔をひきつらせた。カミーユは不思議そうに首を傾げ、カトリナとリアーナはクスクス笑っている。ジルは顔を手で覆い「かわいい…」と呟いていた。だが、ベニートには何がなんだか分からない。

「しかしまあ、似ってねえな」

「?!」

「え?似てないって…?」

「なんだベニート。おまえ気付いてないのか?こいつら、入れ替わってるぞ。こっちがアーサー。こっちがモニカだ」

カミーユが女装したアーサー、次に男装したモニカを指さしてそう言った。ベニートが驚いてじっと双子を観察する。そこでやっと入れ替わっていることに気付いた。

「うわ!!えー?!全然気づかなかった!!」

「え?どうして?一目見たら分かるでしょ。背丈と体格、声と表情、息遣い。それに、モニカはこんなギシギシした髪じゃない。カツラの質が悪すぎるね。アーサーの髪だってもっとふわふわだし。それに、笑ったときの口角の上がり方で普通に分かるでしょ」

「うわー…きもっちわる…」

「なに?リアーナは気付かなかったの?」

「いや気付いてたけど!!そもそも魔力見えるあたしにはモロバレだから!」

「私もすぐに分かったわァ」

「ええええー!!町では誰にもバレなかったのに!!」

アーサーとモニカが悔しそうにしていると、カミーユは呆れたように頭を掻いた。

「だから言ってるだろ?お前らそんな似てねえって」

「うん。全然似てないよ」

「なんでそれでバレないと思ったのが不思議すぎるくらいだ!!ぎゃははは!」

「そうねェ。するならもうちょっとちゃぁんとしないとね?今度私が上手に入れ替えっこしてあげるわねェ」

カトリナはそう言ってアーサーとモニカの頭を撫でた。二人は恥ずかしそうに目を合わせはにかみ笑いをする。二人が入れ替えっこしていることがすぐにバレて少し悔しかったが、なぜかすぐにバレたことが嬉しかった。
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