上 下
298 / 718
初夏編:初夏のポントワーブ

【317話】モニカのお願い

しおりを挟む
翌日の午前中、アーサーは久しぶりにエリクサー作りに専念した。ジッピンでもちょこちょこ空き時間に作ってはいたのだが、商人ギルドに納品するには数が少なすぎたからだ。アーサーが調合室に籠って薬素材を調合しているとき、さくっとスライムに魔法をかけて回復液を作り終えたモニカがおめかしをして顔を出した。

「アーサー、順調に進んでる?」

「うん!こんなにまとめて作るのが久しぶりで手がヒリヒリするけど順調だよ!…あれ?モニカお出かけするの?」

「うん。ちょっと買いたいものがあるから行ってくるわね。すぐ戻ってくるから」

「分かったあ!」

「なにか欲しいものある?」

「バナ…」

「バナナは昨日たくさん買ったでしょぉ?バナナ以外で!」

「うーん…。じゃあちょっとワガママ言ってもいい?」

「いいわよ。なあに?」

「今日のお昼、モニカ特製シチューが食べたいな!」

「シチュー?今からお買い物して作るからお昼過ぎちゃうけどいい?」

「うん!」

「分かった!じゃあシチューの材料買ってくるね!」

「やったー!」

「それまで調合がんばってねー」

「はぁい…」

兄にぎゅーっと抱きついてからモニカは買い物に出かけた。静かになった部屋で、アーサーは「やったー、モニカのシチューが待ってるぞ~」と意気込み薬素材をすり潰す。シチューのおかげでやる気は出たが、気を抜くと頭の中がシチューのことでいっぱいになってしまいなかなか調合に集中できなかった。

モニカが家に戻って来たのは2時間後だった。アーサーに声をかけてからシチュー作りに励む。少し焦げてしまい綺麗なクリーム色にはならなかったが、それでもアーサーはよだれを垂らして喜んでくれた。

「んーーー!!おいしいーーーー!!モニカのシチューは最高だよお!!」

「そ、そうかなあ?えへへ。ちょっと焦げちゃったけど…」

「全然気にならないよ!モニカは魔法も絵も料理も上手だね!多才だなあ」

「褒めすぎよアーサー。もう、照れちゃうじゃない」

「ほんとのこと言っただけだもーん」

二人は楽しくおしゃべりをしながら鍋いっぱいのシチューをぺろりと平らげた。満足げにおなかを叩いているアーサーに、モニカがそわそわしながら話しかけた。

「ねえ、アーサー?」

「んー?」

「キンギョすくいのときの約束、覚えてる?」

「あ、うん!なんでも言うこと聞くっていうやつね!お願いごとは決まった?」

「うん…。あのね、ずっとしたかったことがあって…」

「なになにー?」

モニカはアイテムボックスから紙袋を取り出した。少し頬を赤らめながらそれを兄に渡す。紙袋を開けて中を覗き込んだアーサーは無言でモニカを二度見した。

「……」

「……」

「…モニカ、これなに…?」

紙袋の中には長い銀髪のカツラが入っていた。アビー用のカツラはプラチナブロンドなので、アーサーはモニカの意図が分からずフリーズしている。だが、あまり良い予感はしない。モニカは自分の髪を指で弄びながらボソボソと答えた。

「あ、あのね。一度やってみたかったの。わ、わたしたち双子でしょ?入れ替えっこしてみたくって…」

「…?」

「で、でも、さすがにわたしがアーサーと入れ替えっこするのはむずかしいから、アビーとわたしが入れ替えっこするのならいけるかなーって…」

「モ、モニカごめん。ちょっと意味が分かりづらいんだけど…」

「ご、ごめん!説明へただったわよね。つ、つまり、私がアビーになって、アビーがモニカになるの!それで誰にも入れ替えっこしてるのがバレないようにお互いを演じながら町をお散歩してみたいの!」

「…じゃあ、このカツラで僕がモニカになるってこと…?」

「そう!お化粧もわたしがいつもしてる感じでして、服もわたしのものを着るの!わたしは、アーサーがいつもアビー用に使ってるカツラを付けて、アビーのお化粧をして、アビーの服を着るのー!!」

なんでそんなことがしたいの?それになんの意味があるの?という気持ちがアーサーの脳裏に一瞬浮かんだが、キラキラ目を輝かせているモニカを見たら意味なんて考える必要がないと思った。アーサーはにっこり笑って頷いた。

「うん!やろう!誰にもバレないくらい完璧にモニカを演じて見せるよ!」

「やったぁ!!私だってアビーになりきっちゃうもんね!!ありがとうアーサー!!」

ずっとしたかったことが叶い、モニカは嬉しくてアーサーに抱きつきながらぴょんぴょんと飛び跳ねた。勢い余って床に転げ落ちてしまった二人は、きゃはきゃは笑いながら床をごろごろ転がった。
しおりを挟む
感想 494

あなたにおすすめの小説

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む

家具屋ふふみに
ファンタジー
 この世界には魔法が存在する。  そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。  その属性は主に6つ。  火・水・風・土・雷・そして……無。    クーリアは伯爵令嬢として生まれた。  貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。  そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。    無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。  その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。      だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。    そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。    これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。  そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。 設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m ※←このマークがある話は大体一人称。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

ぬいぐるみばかり作っていたら実家を追い出された件〜だけど作ったぬいぐるみが意志を持ったので何も不自由してません〜

望月かれん
ファンタジー
 中流貴族シーラ・カロンは、ある日勘当された。理由はぬいぐるみ作りしかしないから。 戸惑いながらも少量の荷物と作りかけのぬいぐるみ1つを持って家を出たシーラは1番近い町を目指すが、その日のうちに辿り着けず野宿をすることに。 暇だったので、ぬいぐるみを完成させようと意気込み、ついに夜更けに完成させる。  疲れから眠りこけていると聞き慣れない低い声。 なんと、ぬいぐるみが喋っていた。 しかもぬいぐるみには帰りたい場所があるようで……。     天真爛漫娘✕ワケアリぬいぐるみのドタバタ冒険ファンタジー。  ※この作品は小説家になろう・ノベルアップ+にも掲載しています。

リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?

あくの
ファンタジー
 15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。 加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。 また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。 長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。 リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!

巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?

サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。 *この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。 **週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。