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初夏編:初夏のオヴェルニー学院
【314話】初夏のオヴェルニー学院
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初夏のオヴェルニー学院リリー寮。長期休暇から戻って来た生徒たちは久しぶりに友人と再会する。女子生徒たちは友人とハグをして喜び、男子生徒たちは肩を抱いて大声で笑っている。そして談話室の隅では、まだ入学したての新入生とがカチカチになって先輩たちの様子を眺めていた。特にリリー寮の新入生徒は、王子、王女と共同生活をすることに恐怖すら覚えていた。
当のウィルク王子とジュリア王女はというと、相変わらず華のある容姿と立ち居振る舞いで友人たちと話をしている。他の生徒とはちがいハグや大声で笑うことはせず、友人の挨拶に微笑みを返すだけだった。
ウィルクはこの2か月で少し背が伸び大人びていた。彼を一目見てグレンダが「ひぐぅっ…!」とうめき声を上げるのをマーサは聞き逃さなかった。
ジュリアは以前と変わらず綺麗だったが、顔がどこか陰り疲れが見えた。友人が心配する素振りを見せると、「なんでもないわ。昨日眠れなかっただけよ」と慌てて笑顔を作っていた。
「ウィルク王子、ジュリア王女」
生徒たちがくつろいでいる談話室に、寮長であるビアンナ先生が顔を出した。手にはアイテムボックスをふたつ持っている。呼ばれたウィルクとジュリアが返事をして先生の前に立つと、ビアンナ先生が珍しくニコっと笑った。
「あなたたちに贈り物です」
「贈り物?」
「ええ。誰からだと思いますか?」
贈り物と聞いて、彼らは真っ先に暗殺を目論む者から送られてきたものだと考えた。
(アイテムボックスか…。何が入っているのか分からなくて気味が悪いな)
(毒か、魔法が込められた何かか、そのあたりかしら)
(いやでもビアンナ先生が持ってきたということは中身は確認してるはずだ)
(まさかビアンナ先生まで私たちのことを…?)
「そ、そんな怖い顔をしなくてもいいですよ。もっとワクワクした顔を見せてくれるかと思いましたのに…。まあいいです。これは、あなたたちの大好きな、アーサーとモニカからの贈り物です」
「えっ!?」
「お兄さまとお姉さまから?!」
「ええ、念のために中身を確認しましたが、珍しいものばかり入っていましたよ。それに分厚い手紙も。もちろん手紙は中を読んでいませんよ」
先生が言葉を言い終えるまでにふたりはアイテムボックスに飛びついた。「ウィルクへ」「ジュリアへ」とそれぞれにタグがつけられている。
「ジュリアお姉さま…!お兄さまと、お姉さまからの贈り物だって…!」
「ええ…ええっ。信じられませんわ…!あああ、アーサー様とモニカ様から…!と、とりあえず、中身を確認してもいいかしら…?」
ジュリアがそわそわとアイテムボックスを抱きしめた。こんなに嬉しそうなお姉さまは2か月ぶりだと思いながら、ウィルクは大きく頷いた。
「確認しましょうお姉さま!そうじゃないと僕もこれからの授業に集中できません!」
「そうよね!じゃあ、早速開けましょうか」
「王子ー!王女ー!!どうされたんですかぁ?!」
「誰かからの贈り物ですかぁ?!」
はしゃいでいる彼らが気になったのか、マーサとグレンダが二人の元へ駆け寄ってきた。ジュリアは「アーサー様とモニカ様から贈り物をいただいたの」と自慢げに答える。するとマーサとグレンダが大声で歓声をあげた。
「きゃーーー!!アーサーとモニカからぁ?!」
「中身はなんですか?!」
「今から開けるの」
「私たちも見て良いですか?!」
「かまわないわ」
「きゃーーー!!!」
「お姉さま!はやく開けましょう!」
「ええ、じゃあ開けるわよ」
どきどきしながらアイテムボックスを開くと、そこにはたくさんの物が入っていた。ウィルクのアイテムボックスの中にだけ、もうひとつの小さなアイテムボックスが入れられていた。ジュリアたちに勘付かれないようこっそりそれを確認すると、「ヴィクスへ」とタグが付けられているのが見え、ウィルクの目にブワッと涙が溢れた。あとでこっそり兄の元へ届けようと決め、ジュリアが取り出していた箱と似たものをウィルクも取り出した。
箱の中には赤い宝石がはめこまれたブレスレットと青い宝石のアンクレットが入っていた。宝石を見慣れている彼らだからこそ、アクセサリーにはめ込まれた宝石が品質の良いものだと分かる。
「きれい…」
ウィルクが目をきらきらさせてアンクレットを眺めていたが、ジュリアは驚いて目を見開いていた。
「…綺麗なだけじゃないわ…。これ…加護魔法がかけられている。それにこの素材と造形…まさかフォントメウのものじゃ…」
「フォントメウ?フォントメウとは、幻のエルフの村ですよね?」
「ええ…」
「どこで手に入れたのでしょうか。フォントメウの加護魔法付きアクセサリーなんて、王族でもめったにお目にかかれませんよ」
「私でさえふたつしか持っていないわ。それもこんなに状態の良いものではない、古くて輝きを失ったものよ。こんな…こんな状態の良いものなんて、フォントメウに行かない限り手に入らない…」
「あはは!そんなまさか。フォントメウはエルフしかたどり着けない村だと学びました。S級冒険者のカミーユは中に入れると聞きましたが、それはフォントメウのエルフと家族となったからです。お兄さまとお姉さまでも、さすがにそれは」
「そ、そうよね」
「王子、王女、アクセサリーの箱を開けたときに紙きれが落ちましたよ」
うしろで見ていたマーサが二片の紙きれをふたりに渡した。
「文字からして、モニカが書いたメモですね!」
メモにはこう走り書きされていた。
-----------------
アーサーとわたしも持ってるのよ!
みんなでお揃いでつけようね!
-----------------
それを読んだウィルクとジュリアは我慢できずに泣き出してしまった。子どものように声をあげながら泣く彼らに、新入生とはぎょっとしている。だが、彼らのアーサーとモニカ愛を知っているそれ以外の生徒たちは、微笑まし気にその様子を遠目から眺めていた。
「おねぇざまぁ…っ、おそろいっ…僕たちでおそろいだなんてっ…」
「ええ…!思えば私たち…お揃いなんて持ったことがなかったわね…っ。私たちと、アーサー様とモニカ様でおそろいなんてっ…うぅっ…」
「一生大切にしますっ…うぅぅっ…」
「ちょっと希少すぎて身に付けるのがもったいないけれど…っ、毎日身に付けるわ…っ」
二人はえんえん泣きながらアクセサリーを身に付けた。マーサとグレンダは二人に抱きつき「よかったね!!王子!王女!!」と一緒に喜んでくれた。いつもなら密接されることをいやがる王子と王女も、この時だけは友人に「うれしいよぉぉっ」と言いながら抱き返した。
当のウィルク王子とジュリア王女はというと、相変わらず華のある容姿と立ち居振る舞いで友人たちと話をしている。他の生徒とはちがいハグや大声で笑うことはせず、友人の挨拶に微笑みを返すだけだった。
ウィルクはこの2か月で少し背が伸び大人びていた。彼を一目見てグレンダが「ひぐぅっ…!」とうめき声を上げるのをマーサは聞き逃さなかった。
ジュリアは以前と変わらず綺麗だったが、顔がどこか陰り疲れが見えた。友人が心配する素振りを見せると、「なんでもないわ。昨日眠れなかっただけよ」と慌てて笑顔を作っていた。
「ウィルク王子、ジュリア王女」
生徒たちがくつろいでいる談話室に、寮長であるビアンナ先生が顔を出した。手にはアイテムボックスをふたつ持っている。呼ばれたウィルクとジュリアが返事をして先生の前に立つと、ビアンナ先生が珍しくニコっと笑った。
「あなたたちに贈り物です」
「贈り物?」
「ええ。誰からだと思いますか?」
贈り物と聞いて、彼らは真っ先に暗殺を目論む者から送られてきたものだと考えた。
(アイテムボックスか…。何が入っているのか分からなくて気味が悪いな)
(毒か、魔法が込められた何かか、そのあたりかしら)
(いやでもビアンナ先生が持ってきたということは中身は確認してるはずだ)
(まさかビアンナ先生まで私たちのことを…?)
「そ、そんな怖い顔をしなくてもいいですよ。もっとワクワクした顔を見せてくれるかと思いましたのに…。まあいいです。これは、あなたたちの大好きな、アーサーとモニカからの贈り物です」
「えっ!?」
「お兄さまとお姉さまから?!」
「ええ、念のために中身を確認しましたが、珍しいものばかり入っていましたよ。それに分厚い手紙も。もちろん手紙は中を読んでいませんよ」
先生が言葉を言い終えるまでにふたりはアイテムボックスに飛びついた。「ウィルクへ」「ジュリアへ」とそれぞれにタグがつけられている。
「ジュリアお姉さま…!お兄さまと、お姉さまからの贈り物だって…!」
「ええ…ええっ。信じられませんわ…!あああ、アーサー様とモニカ様から…!と、とりあえず、中身を確認してもいいかしら…?」
ジュリアがそわそわとアイテムボックスを抱きしめた。こんなに嬉しそうなお姉さまは2か月ぶりだと思いながら、ウィルクは大きく頷いた。
「確認しましょうお姉さま!そうじゃないと僕もこれからの授業に集中できません!」
「そうよね!じゃあ、早速開けましょうか」
「王子ー!王女ー!!どうされたんですかぁ?!」
「誰かからの贈り物ですかぁ?!」
はしゃいでいる彼らが気になったのか、マーサとグレンダが二人の元へ駆け寄ってきた。ジュリアは「アーサー様とモニカ様から贈り物をいただいたの」と自慢げに答える。するとマーサとグレンダが大声で歓声をあげた。
「きゃーーー!!アーサーとモニカからぁ?!」
「中身はなんですか?!」
「今から開けるの」
「私たちも見て良いですか?!」
「かまわないわ」
「きゃーーー!!!」
「お姉さま!はやく開けましょう!」
「ええ、じゃあ開けるわよ」
どきどきしながらアイテムボックスを開くと、そこにはたくさんの物が入っていた。ウィルクのアイテムボックスの中にだけ、もうひとつの小さなアイテムボックスが入れられていた。ジュリアたちに勘付かれないようこっそりそれを確認すると、「ヴィクスへ」とタグが付けられているのが見え、ウィルクの目にブワッと涙が溢れた。あとでこっそり兄の元へ届けようと決め、ジュリアが取り出していた箱と似たものをウィルクも取り出した。
箱の中には赤い宝石がはめこまれたブレスレットと青い宝石のアンクレットが入っていた。宝石を見慣れている彼らだからこそ、アクセサリーにはめ込まれた宝石が品質の良いものだと分かる。
「きれい…」
ウィルクが目をきらきらさせてアンクレットを眺めていたが、ジュリアは驚いて目を見開いていた。
「…綺麗なだけじゃないわ…。これ…加護魔法がかけられている。それにこの素材と造形…まさかフォントメウのものじゃ…」
「フォントメウ?フォントメウとは、幻のエルフの村ですよね?」
「ええ…」
「どこで手に入れたのでしょうか。フォントメウの加護魔法付きアクセサリーなんて、王族でもめったにお目にかかれませんよ」
「私でさえふたつしか持っていないわ。それもこんなに状態の良いものではない、古くて輝きを失ったものよ。こんな…こんな状態の良いものなんて、フォントメウに行かない限り手に入らない…」
「あはは!そんなまさか。フォントメウはエルフしかたどり着けない村だと学びました。S級冒険者のカミーユは中に入れると聞きましたが、それはフォントメウのエルフと家族となったからです。お兄さまとお姉さまでも、さすがにそれは」
「そ、そうよね」
「王子、王女、アクセサリーの箱を開けたときに紙きれが落ちましたよ」
うしろで見ていたマーサが二片の紙きれをふたりに渡した。
「文字からして、モニカが書いたメモですね!」
メモにはこう走り書きされていた。
-----------------
アーサーとわたしも持ってるのよ!
みんなでお揃いでつけようね!
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それを読んだウィルクとジュリアは我慢できずに泣き出してしまった。子どものように声をあげながら泣く彼らに、新入生とはぎょっとしている。だが、彼らのアーサーとモニカ愛を知っているそれ以外の生徒たちは、微笑まし気にその様子を遠目から眺めていた。
「おねぇざまぁ…っ、おそろいっ…僕たちでおそろいだなんてっ…」
「ええ…!思えば私たち…お揃いなんて持ったことがなかったわね…っ。私たちと、アーサー様とモニカ様でおそろいなんてっ…うぅっ…」
「一生大切にしますっ…うぅぅっ…」
「ちょっと希少すぎて身に付けるのがもったいないけれど…っ、毎日身に付けるわ…っ」
二人はえんえん泣きながらアクセサリーを身に付けた。マーサとグレンダは二人に抱きつき「よかったね!!王子!王女!!」と一緒に喜んでくれた。いつもなら密接されることをいやがる王子と王女も、この時だけは友人に「うれしいよぉぉっ」と言いながら抱き返した。
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