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異国編:ジッピン後編:別れ
【296話】一夜
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◆◆◆
《おいしいかい月下?》
《うん!おいしい!》
《よかった。たんとお食べ》
《うん!》
《しかしおまえはよく食うなあ!そんなんだからデブなんだよ!》
《ふくよかなことは良いことだよ朝霧。食べるということは生きる意志があるということ。ふくよかであることは幸せの証。とても愛らしいじゃないか》
《薄雪おまえなあ…。こいつ拾ってから甘やかしすぎなんだよ!!自分のメシも全部こいつに食われてるじゃねえか!!》
《かまわない。私は水と花の蜜さえあれば生きていけるから》
《かー!ヒトだけかと思えば物の怪にさえ情を移すのかお前はぁぁっ!》
《この子は今まで愛情を一滴も注がれなかった。少しくらい多めに注いであげてもいいじゃないか》
《薄雪!これも食べていーい?!》
《いいよ。好きなものはすべて食べなさい》
《やったぁ!ぼくおいしいもの食べるのだいすき!!》
《いいことだ。でも、食べてはいけないものがある》
《なあに?》
《毒のあるものと、イキモノ》
《どうして?》
《どちらも君を穢すから。…って、聞いてないね》
《食うのに夢中になってんじゃねえよ!!いいか?!お前は物の怪のくせにイキモノを食ってこなかった!!命を奪ったことのないおまえだから、物の怪にもかかわらず大木古桜の清気に拒絶されなかったんだ!!一匹でもイキモノ食ってみろ!!お前はもう薄雪のそばでいられなくなるぞ!!っておい!!俺の話を聞け!!》
《…ふふ。むずかしいことは今度話そう。こんなに幸せそうに食べているのだから》
《チッ…》
《月下の美人は一夜しか花を咲かせないと言うが…、君の一夜はいつだろうね。その時が楽しみだな》
《ふん。一夜と言わずずっと花開かせたままにしてやれよ。お前ならできるだろう》
《相変わらず風情がないね、朝霧は。花は閉じるからこそ美しいのだよ》
《ずっと満開の花咲かせてるおまえがよく言う…。いや、だからこそか…》
◆◆◆
「殺じでやるぅぅぅぅっ!!!」
「えーーー!!急になに?!」
鬼の形相で襲い掛かってきた月下に面食らいながらも、アーサーはさっと身をかわしソレの首を斬り落とした。薄雪の血肉により弱り、その上聖魔法が付与された剣を受けて月下がよろける。その体に聖魔法剣が突き刺される。剣は心臓を貫き、月下は絶叫しながらアーサーにしがみつく。倒れまいとガタガタ震える足で必死に立っていた。
「うぎゃぁぁあっぁっ!!!」
「うわぁ!!!」
「うぐぁぁ…うぅぅっ…」
「よかった…!聖魔法が効いてるね。それよりどうしてこんなボロボロになっちゃってるんだろう…」
「うぅぅぅ"っ…!あぐぅうっ…!」
月下の頭はもう生えてこない。地面に転がったソレは涙を流しながらアーサーを睨んでいた。
「どうじで…っ、僕の体…再生じないの…っ!いだいっ…!いだいよぉっ…!」
「特別な魔法を使ったんだ。君はもうすぐ死ぬと思う」
「僕死ぬの…?いやだぁっ…!!僕まだ薄雪食っでないっ…!死にだくないっ…!」
「……」
「どうしておまえなんだぁっ…!!どうして僕よりお前のほうが美しいんだよぉっ…!僕のほうが…っ!僕のほうが…!!」
泣き喚きながらずっとそれを繰り返す月下に、アーサーは困ったように頭を掻いた。体を地面に横たえ、首の上に落ちた頭を置く。じろじろと月下を見たあと、首を傾げながら呟いた。
「うーん…。どう見たって僕よりあんたのほうがきれいだと思うけど…」
「え…っ」
「あんたもそう思ってるんでしょ?僕もそう思うし、僕よりあんたの方がきれいってことでいいんじゃない?」
「……」
「あーあ。きれいなのにもったいないなあ。これで悪さをしなかったら、きっと人気者だっただろうにね」
「わるさってなに…僕わるいことした…?」
「してるよ!!見てよあれ!僕の仲間苦しんでるんだよ!!あれを悪さって言うの!あと人を傷つけたり、いたぶったりして楽しむのは悪さ!それに意味もなく同種のいきものを殺すのも悪さだよ!」
「わるさ…」
「ねえ、お願い。術を解いてくれない?解いてくれないなら、僕はあんたがはやく死ぬように切り刻まなきゃいけないんだ。それ以上醜い姿で死にたくないでしょ?だからお願い。術を解いて」
「……」
月下はぼぉっとアーサーを見つめたあと、指で印を結び術を解いた。アーサーのうしろで4人が咳き込んでいるのが聞こえる。どうやら解放されたようだ。トウジとアキラとモニカがアーサーに駆け寄ってくる。
「アーサー!物の怪を倒したんだな!!…って、まだ生きてんじゃねーか!!」
「はやくとどめを…」
「待って!もう少しお話させて。もう死ぬのを待つだけだから」
「お話って…アーサーあなた、こいつに痛い思いたくさんさせられたんだよ!?」
「うん。でも今はもう僕を殺そうとしてないよ。大丈夫。だからモニカは、狩怪隊のひとたちを治療してあげて」
「…ほんとうに大丈夫なの?」
「うん」
「…分かったわ」
「ありがとう、モニカ」
「トウジ、アキラ、アッチ イコ」
「え…本当にいいのか…?」
「アーサー、アアイウ ヒト。キニシナイデ スキニサセル。ダイジョブ」
「お、おう…」
戸惑いながら3人がミコたちの元へ戻る。モニカがナツの治療をし、トウジとアキラがハルの手当をし始めた。アーサーは月下に向き直り、だんだんと灰になっていく体に手を乗せた。
「もうすぐ死ぬけど…、なにか言いたいことはある?」
「…どうして…あっさり僕のほうが…美しいって認めたの…?」
「だって本当のことだもん」
「悔しくないの…?」
「悔しくないよ。あんたにとっては美しさが一番かもしれないけど、僕にとっての一番はそれじゃないから」
「美しさより大切なことがある…?」
「僕にはね」
「おまえだって…それのためならなんだってするんだろ…?」
「…しちゃうかも」
「じゃあおまえもわるさしてる…」
「うん」
「……」
「……」
「僕、醜い…?」
「きれいだよ」
「…もう一回言って…」
「きれいだよ」
灰になっていく月下はアーサーの手を握り、穏やかな笑みを浮かべ目を閉じた。小さな声で、アーサーではない誰かに向かって呟く。
◇◇◇
「薄雪…聞こえる…?」
「ああ。聞こえるよ」
「アーサーが…僕のこときれいだって言ってくれたよ…」
「聞いていたよ」
「アーサーは…アーサーより僕のほうがきれいだって言ったよ…」
「そうだね」
「薄雪…、僕、美しいでしょ…?」
「いいや、醜いよ」
「…聞かなきゃよかった…」
「早くお眠りなさい月下。あなたが息絶えたのち、残った灰を浄化し私のもとで眠らせてあげるから」
「ほんとう…?」
「はい。生花の月下は一晩しか花を咲かせない。あなたの一晩は…幼い頃のあの日だったのかもしれない。あなたは気付いていないけれど、あのときのあなたは何よりも美しかった。花はとうの昔に閉じていたんだよ」
「……」
「アーサーに手折られた今、あなたはもう生花ではなくなった。知っているかい月下。上手に枯らせた花は、生花に劣らず美しいのですよ。私があなたを、大切に手元に置いて、美しく枯らせてあげましょう。…だから、はやくお眠り」
「うん…。また薄雪の傍にいることができて…薄雪が僕を美しくしてくれるなら…それでいい…」
「アーサーにお礼を言いなさい。彼を苦しめたあなたの言葉に耳を傾け、醜いあなたを美しいと言ってくれた。彼の美しさに触れたからこそ、あなたはこうして穏やかに眠れるのです」
「…ひどいや薄雪…。死ぬまで僕のことを醜いって言うんだね…」
「醜いモノに美しいとはとても言えません」
「もう…。アーサーとお話してたほうが楽しかった…」
◇◇◇
「…アーサー…」
「どうしたの?」
「僕の名は…月下…」
「ゲッカ。きれいな名前だね」
「…元は醜い物の怪だった…」
「そうなんだ」
「…ありがとう」
「え?僕…あんたを殺したんだけど…どうしてお礼なんか…」
「薄雪に…お礼を言えって言われた…」
「ウスユキ?」
「きれいって言ってくれてありがとう…実ははじめて言われたんだ…」
「そうなの?!こんなにきれいなのに?!」
「はは…。うん。…じゃあね。アーサー。そろそろ逝くよ…」
「あ、うん…。もし生まれ変わったら、わるさしないようにね」
「うん…」
「生まれ変わってから出会えたら、今度は仲良くしようね」
「うん…。アーサー…きれいって言って…」
「きれいだよゲッカ」
「……これ、返すね…」
月下は袖をまさぐりペンダントをアーサーの手に乗せた。そのまま彼の手を握り、ふっと月下の体から力が抜ける。その瞬間、ソレの体は灰となった。
「…わっ!!」
一陣の風が吹く。風は灰を巻き込んで森の奥へと去っていった。
《おいしいかい月下?》
《うん!おいしい!》
《よかった。たんとお食べ》
《うん!》
《しかしおまえはよく食うなあ!そんなんだからデブなんだよ!》
《ふくよかなことは良いことだよ朝霧。食べるということは生きる意志があるということ。ふくよかであることは幸せの証。とても愛らしいじゃないか》
《薄雪おまえなあ…。こいつ拾ってから甘やかしすぎなんだよ!!自分のメシも全部こいつに食われてるじゃねえか!!》
《かまわない。私は水と花の蜜さえあれば生きていけるから》
《かー!ヒトだけかと思えば物の怪にさえ情を移すのかお前はぁぁっ!》
《この子は今まで愛情を一滴も注がれなかった。少しくらい多めに注いであげてもいいじゃないか》
《薄雪!これも食べていーい?!》
《いいよ。好きなものはすべて食べなさい》
《やったぁ!ぼくおいしいもの食べるのだいすき!!》
《いいことだ。でも、食べてはいけないものがある》
《なあに?》
《毒のあるものと、イキモノ》
《どうして?》
《どちらも君を穢すから。…って、聞いてないね》
《食うのに夢中になってんじゃねえよ!!いいか?!お前は物の怪のくせにイキモノを食ってこなかった!!命を奪ったことのないおまえだから、物の怪にもかかわらず大木古桜の清気に拒絶されなかったんだ!!一匹でもイキモノ食ってみろ!!お前はもう薄雪のそばでいられなくなるぞ!!っておい!!俺の話を聞け!!》
《…ふふ。むずかしいことは今度話そう。こんなに幸せそうに食べているのだから》
《チッ…》
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《ずっと満開の花咲かせてるおまえがよく言う…。いや、だからこそか…》
◆◆◆
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「えーーー!!急になに?!」
鬼の形相で襲い掛かってきた月下に面食らいながらも、アーサーはさっと身をかわしソレの首を斬り落とした。薄雪の血肉により弱り、その上聖魔法が付与された剣を受けて月下がよろける。その体に聖魔法剣が突き刺される。剣は心臓を貫き、月下は絶叫しながらアーサーにしがみつく。倒れまいとガタガタ震える足で必死に立っていた。
「うぎゃぁぁあっぁっ!!!」
「うわぁ!!!」
「うぐぁぁ…うぅぅっ…」
「よかった…!聖魔法が効いてるね。それよりどうしてこんなボロボロになっちゃってるんだろう…」
「うぅぅぅ"っ…!あぐぅうっ…!」
月下の頭はもう生えてこない。地面に転がったソレは涙を流しながらアーサーを睨んでいた。
「どうじで…っ、僕の体…再生じないの…っ!いだいっ…!いだいよぉっ…!」
「特別な魔法を使ったんだ。君はもうすぐ死ぬと思う」
「僕死ぬの…?いやだぁっ…!!僕まだ薄雪食っでないっ…!死にだくないっ…!」
「……」
「どうしておまえなんだぁっ…!!どうして僕よりお前のほうが美しいんだよぉっ…!僕のほうが…っ!僕のほうが…!!」
泣き喚きながらずっとそれを繰り返す月下に、アーサーは困ったように頭を掻いた。体を地面に横たえ、首の上に落ちた頭を置く。じろじろと月下を見たあと、首を傾げながら呟いた。
「うーん…。どう見たって僕よりあんたのほうがきれいだと思うけど…」
「え…っ」
「あんたもそう思ってるんでしょ?僕もそう思うし、僕よりあんたの方がきれいってことでいいんじゃない?」
「……」
「あーあ。きれいなのにもったいないなあ。これで悪さをしなかったら、きっと人気者だっただろうにね」
「わるさってなに…僕わるいことした…?」
「してるよ!!見てよあれ!僕の仲間苦しんでるんだよ!!あれを悪さって言うの!あと人を傷つけたり、いたぶったりして楽しむのは悪さ!それに意味もなく同種のいきものを殺すのも悪さだよ!」
「わるさ…」
「ねえ、お願い。術を解いてくれない?解いてくれないなら、僕はあんたがはやく死ぬように切り刻まなきゃいけないんだ。それ以上醜い姿で死にたくないでしょ?だからお願い。術を解いて」
「……」
月下はぼぉっとアーサーを見つめたあと、指で印を結び術を解いた。アーサーのうしろで4人が咳き込んでいるのが聞こえる。どうやら解放されたようだ。トウジとアキラとモニカがアーサーに駆け寄ってくる。
「アーサー!物の怪を倒したんだな!!…って、まだ生きてんじゃねーか!!」
「はやくとどめを…」
「待って!もう少しお話させて。もう死ぬのを待つだけだから」
「お話って…アーサーあなた、こいつに痛い思いたくさんさせられたんだよ!?」
「うん。でも今はもう僕を殺そうとしてないよ。大丈夫。だからモニカは、狩怪隊のひとたちを治療してあげて」
「…ほんとうに大丈夫なの?」
「うん」
「…分かったわ」
「ありがとう、モニカ」
「トウジ、アキラ、アッチ イコ」
「え…本当にいいのか…?」
「アーサー、アアイウ ヒト。キニシナイデ スキニサセル。ダイジョブ」
「お、おう…」
戸惑いながら3人がミコたちの元へ戻る。モニカがナツの治療をし、トウジとアキラがハルの手当をし始めた。アーサーは月下に向き直り、だんだんと灰になっていく体に手を乗せた。
「もうすぐ死ぬけど…、なにか言いたいことはある?」
「…どうして…あっさり僕のほうが…美しいって認めたの…?」
「だって本当のことだもん」
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「悔しくないよ。あんたにとっては美しさが一番かもしれないけど、僕にとっての一番はそれじゃないから」
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「僕にはね」
「おまえだって…それのためならなんだってするんだろ…?」
「…しちゃうかも」
「じゃあおまえもわるさしてる…」
「うん」
「……」
「……」
「僕、醜い…?」
「きれいだよ」
「…もう一回言って…」
「きれいだよ」
灰になっていく月下はアーサーの手を握り、穏やかな笑みを浮かべ目を閉じた。小さな声で、アーサーではない誰かに向かって呟く。
◇◇◇
「薄雪…聞こえる…?」
「ああ。聞こえるよ」
「アーサーが…僕のこときれいだって言ってくれたよ…」
「聞いていたよ」
「アーサーは…アーサーより僕のほうがきれいだって言ったよ…」
「そうだね」
「薄雪…、僕、美しいでしょ…?」
「いいや、醜いよ」
「…聞かなきゃよかった…」
「早くお眠りなさい月下。あなたが息絶えたのち、残った灰を浄化し私のもとで眠らせてあげるから」
「ほんとう…?」
「はい。生花の月下は一晩しか花を咲かせない。あなたの一晩は…幼い頃のあの日だったのかもしれない。あなたは気付いていないけれど、あのときのあなたは何よりも美しかった。花はとうの昔に閉じていたんだよ」
「……」
「アーサーに手折られた今、あなたはもう生花ではなくなった。知っているかい月下。上手に枯らせた花は、生花に劣らず美しいのですよ。私があなたを、大切に手元に置いて、美しく枯らせてあげましょう。…だから、はやくお眠り」
「うん…。また薄雪の傍にいることができて…薄雪が僕を美しくしてくれるなら…それでいい…」
「アーサーにお礼を言いなさい。彼を苦しめたあなたの言葉に耳を傾け、醜いあなたを美しいと言ってくれた。彼の美しさに触れたからこそ、あなたはこうして穏やかに眠れるのです」
「…ひどいや薄雪…。死ぬまで僕のことを醜いって言うんだね…」
「醜いモノに美しいとはとても言えません」
「もう…。アーサーとお話してたほうが楽しかった…」
◇◇◇
「…アーサー…」
「どうしたの?」
「僕の名は…月下…」
「ゲッカ。きれいな名前だね」
「…元は醜い物の怪だった…」
「そうなんだ」
「…ありがとう」
「え?僕…あんたを殺したんだけど…どうしてお礼なんか…」
「薄雪に…お礼を言えって言われた…」
「ウスユキ?」
「きれいって言ってくれてありがとう…実ははじめて言われたんだ…」
「そうなの?!こんなにきれいなのに?!」
「はは…。うん。…じゃあね。アーサー。そろそろ逝くよ…」
「あ、うん…。もし生まれ変わったら、わるさしないようにね」
「うん…」
「生まれ変わってから出会えたら、今度は仲良くしようね」
「うん…。アーサー…きれいって言って…」
「きれいだよゲッカ」
「……これ、返すね…」
月下は袖をまさぐりペンダントをアーサーの手に乗せた。そのまま彼の手を握り、ふっと月下の体から力が抜ける。その瞬間、ソレの体は灰となった。
「…わっ!!」
一陣の風が吹く。風は灰を巻き込んで森の奥へと去っていった。
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