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異国編:ジッピン後編:別れ

【286話】褒美

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しばらくしてシゲフミが応接間にやってきた。キヨハルに一礼してからザブトンの上に正座する。双子もキヨハルに言われて向かいに正座した。(キヨハルはシゲフミの隣に座った)

「さて喜代春さん。さきほどもざっくりお伝えしましたが、この子たちが4人もの町民の命を救ってくれました」

「4人ものヒトの命を救うとは。何度礼を言っても足りないね。アーサー、君の剣技をこの地で活かしてくれたこと、感謝する。狩怪隊でも君ほど戦えるものはそういないだろう」

「エヘヘ」

「モニカ、君の魔法によってダイスケは最小限の後遺症で済んだ。他の二人の治療もしてくれてありがとう。よろず屋でも指折りのミコでさえ、君ほどの治癒術は使えまい」

アーサーが通訳すると、モニカは嬉しそうに「ウン!」と答えた。キヨハルは微笑んだあと、シゲフミに目で合図をした。シゲフミは頷き木箱を双子に差し出す。

「今回森の物の怪を100体倒してくれたので100万ウィン、4名の命を助けてくださったので、400万ウィン。また、3人を治癒してくださったので30万ウィン。重傷を負ったダイスケに質の高い術を施してくださったので100万ウィン。合計630万ウィンです」

「え?!」

木箱の蓋を開けるとウィン札束が敷き詰められている。モニカはぶんぶんと首を横に振って木箱を押し返した。

「私たちは困ってる人を助けただけよ!こんな大金もらえない!」

「人の命を救ったんだよ。それがどれほどの功績か分かっているのかい」

「そうですよ。あなたは助けただけと言いますが、そのおかげで4人もの人の命を失わずにすみました。ジッピンにとって民は宝です。宝を守ってくださったあなたたちに、相応の褒美をお渡しするのが、俺たちよろず屋の役目なのです」

「だったらこのお金をジッピンの人たちに渡してあげて!」

「そうはいかない。宝を守ってくれたヒトに相応の礼をしなければ。私たちは褒美という形でしか恩を返せないんだよ。どうか私たちに恩を返させてくれないか」

アーサーは3人に通訳をしなければならず大忙しだ。自分の意見を言う暇もない。彼らは木箱を押し付け合いながらしばらく言い合いを続けた。いくら言っても折れないジッピン人に、モニカはぷぅと頬を膨らませて妥協案を提示した。

「むぅぅっ!だったらバンスティンと同じくらいの報酬にしましょう!アーサー、モノノケの強さはどのくらいだった?!」

「うーん、ゴブリンくらい」

「ゴブリンだったら100体倒しても大銀貨8枚くらいよ!アーサー、大銀貨8枚はウィンでどのくらい?」

「えーっと、だいたい8,000ウィンくらい」

「うん!そのくらい!8,000ウィンもらうわ!」

「8,000ウィン…?8,000ウィンってそんな…安酒飲むので精一杯の金額…」

モニカが提示した金額にシゲフミは口をパクパクさせた。

「き…君たちは命の危険を犯して100体もの物の怪と戦ったんですよ?そして4人の民を救ってくれた…。その褒美に8,000ウィンなんて…。そんな…民を守るために命をかけて戦ってくれている人を愚弄するような金額なんてとても飲めませんよ…」

「そうか。シゲフミは知らないか。バンスティンという国は、昔からヒトの命を軽く見る風潮があるのだよ。だから命をかけて戦っている冒険者…こちらでいう狩怪組だね。彼らの報酬は私たちから見たらおそろしいほど見合っていない。だが、バンスティンのヒトたちにとってはそれが普通なのだよ」

「信じられないです。人の命はなによりも大切なものなのではないのですか?人の命は金より重い。民の命は王より重いと…ジッピン国王は言っているではありませんか」

「良い国王の元で生まれたことに感謝するほかないね。バンスティンでは、王の命はなにより重く、民の命は金より軽い。バンスティンには優秀なヒトが多いのにもったいない。私であればもっとうまく動かすのに」

キヨハルは冗談を言いいながら乾いた笑いをあげた。アーサーとモニカはジッピン人の会話を聞いて視線を落としている。

「…アーサー、モニカ。ジッピンには、郷に入っては郷に従えということばがあるんだ。たとえ君たちが納得できなかったとしても、この地にいる間はジッピンの教えに従ってもらうよ」

「…はい」

「あと、物の怪と戦うことは命をかけているのだと自覚なさい。そして君たちが守ったものは、なにより大切なモノだということも」

「はい」

「ヒトの命は短く、ヒトはか弱い。誰かが守ってあげなければ生きられない。強い君たちがヒトを守り、そして君たちは私たちが守るよ。…おいたする子には仕置きをするけれどね。ともあれ、ジッピンのヒトは昔からそうして生きてきた」

「……」

「年寄りの長話は聞き飽きただろう。さあ、もうこれ以上聞きたくなければ褒美を受け取りなさい」

「はい…」

双子はすこししょんぼりしながら、木箱をそっと手に取った。
アーサーもモニカも、自分を含めた人の命を軽く見ていたことに気付きショックを受けていた。そしてそれは、生い立ちが大きな原因ではあるのだが、それ以前にバンスティンという国自体がそのような考えを持っているからなのだと知った。

「民の命は王より重い…か」

アーサーはぽそりと呟いた。その言葉はジッピン国王自身が口にしたという。もしバンスティンの国王もそのような考えを持った人であれば、以前のルアン貧困層のような場所も、王様オークに殺されても遺体を探しにすら来てもらえなかった冒険者のような人もいなかったのではないだろうか。

「……」

ちらりと兄の手を見ると、ほんのかすかに震えていた。モニカはその手をそっと握る。二人が感じていたのは、ジッピンで暮らす人への羨望と、国民を苦しめている両親に対する心疚しさだった。
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