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異国編:ジッピン後編:別れ

【283話】俺を捨てられた脇差って言うなクソが

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キヨハルを待っている間、アーサーとモニカは刀屋へ行きウィルクのためのカタナを選んだ。アーサーのものと同じ長さのカタナではウィルクに長すぎると考え、モニカと同じく脇差を贈ることにした。カユボティに倣って鍔の模様で選んでいく。

「モニカ!この鳥の模様のツバ、良くない?!」

「わ!きれい!これにしましょ!」

「決まりだね!スミマセン、コレ クダサイ!」

アーサーが声をかけると、相変わらずむすっとした顔の店主が近寄ってきた。ワキザシを見て「80万ウィンだ」と答え、アーサーの着ものをじっと見た。

「えーっと、いち、にぃ、さん、しー、…はちじゅう!ハチジュウマンウィン、ドウゾ」

「まいどあり。お前、刀使ったろ」

「エッ、ドウシテ ワカッタノ」

「着物と鞘に返り血がついてる」

「ソウダッタ!ウン、ツカッタヨ」

「どうだった?」

「スゴカッタ!スルッテ キレル!」

「そうか。その刀は俺も気に入ってたんだ。大切にしろよ」

「ウン!」

「で?その嬢ちゃんは例の脇差さしてるが…なんともねえのか?」

「ン?…モニカ、ワキザシさしてるけどなんともない?っておじさんが」

「え?ううん。なんともないよ。どうして?」

「ドウシテ?」

「妖刀だから」

「ヨウトウ?ヨウトウッテナニ?」

「その脇差、いわくつきでな。持ち主は全員奇妙な死に方をするって聞いた。なんでも大昔に神に見捨てられた刀だとか…わ!」

店主が言葉を言い終える前に、モニカがワキザシを抜いて店主の首元に当てた。モニカとは思えない素早い動きに、アーサーは驚き妹の名前を呼んだ。

「モニカ?!なにしてるの?!」

「…俺は見捨てられたんじゃねえ。俺があいつを捨てたんだよボケが」

「ももももモニカ?!何言ってるの?!」

「っるせぇガキこら!!!」

「ひぃっ?!」

モニカは暴言を吐きながらアーサーを蹴り倒した。床に倒れこんだアーサーをモニカがゆっくり近寄り見下ろしている。ガラの悪い表情で兄を睨みつける妹に、アーサーは心臓がひゅんと縮こまった。

「モ…モニカ…。どうしたの…」

「あー、やっと出てこれたぜ。薄雪のやつ俺の力封じ込めやがって。こいつと薄雪の縁が薄れたおかげであいつの力が弱まった。ははっ、ざまあねえ」

「…モニカじゃない。おまえ誰だ!!」

「ああん?俺か?俺は朝霧」

「朝霧…?朝霧って、この妖刀の名じゃないか…」

名を聞き店主の顔が青ざめる。

「やはり妖刀…。持ち主の体を乗っ取ったのか…?」

「ご名答~。こいつの体は澄んでて居心地がいいぜ。まるであの場所にいるみたいだ。今までの奴らとちがうなあ」

モニカ(朝霧)は脇差の刀身をぺろりと舐めた。状況に追いつけず唖然としているアーサーを足で押し倒しニヤァと笑う。

「お前良い勘してんのに抜けてるよなあ」

「…モニカどこいったの…?」

「ああ、心配すんな。用が済んだらこの体はあいつに返してやる。なんたって今こいつは俺の持ち主だし、俺はこいつの刀としていいこと見せねえといけねえんだからなあ」

「用って何…?モニカ返してよ…」

「ちょっと待てって言ってんだろ?」

「今すぐ返せって言ってんだよ!!」

「おっと!」

アーサーは胸に乗せられていた足を掴み引っ張った。バランスを崩したモニカ(朝霧)は咄嗟に手をつきもう片方の足でアーサーの顔を蹴る。手の力が緩んだ隙に抜け出し、アーサーに馬乗りになって脇差を頬に当てた。

「っ…」

「どうした?もうやんねえのか?」

「……」

「できねえよなあ?!だってこの体、お前の大事な大事な妹のもんだもんなあ!!傷つけることなんてできねえ!ぎゃはは!!残念でしたクソがぁ!!」

「モニカの口でそんな言葉吐くのやめろ!!!」

「うるせぇ!!そもそもお前がもっとしっかりしてたらこんなことにならなかったんだ!!目に映せなくても心の奥底で勘付いてたぞお前は!!なのにやすやすと喜代春にこいつ引き渡しやがってよぉ!!」

「ど…どういうこと…?なにを言ってるのかさっぱり分からない…」

「だろうな!高尚な俺様のありがたぁいお言葉がこんなガキに分かるはずがねえ!だったらせめて崇めろ跪け俺様は大木古桜の…」

パチン、と音が鳴る。その瞬間刀屋が震えあがりそうなほど冷たい空気で満たされた。大声で騒いでいた朝霧も口を紡ぎ振り返る。アーサーもつられて刀屋の入り口に目をやると、そこには扇子で半分顔を隠した喜代春が立っていた。

「なにをしているんだい、朝霧」

「来たな喜代春ぅ…!」

「キヨハル!!モニカガ!!モニカガ!!」

「大丈夫だよアーサー。モニカは私が助けてあげる。だから落ち着いて」

「モニカ キズツケナイデ!オネガイ!!」

「もちろんモニカの体に傷はつけないよ」

「喜代春ぅぅぅぅ!!!」

怒りに満ちたモニカ(朝霧)は叫びながら喜代春に斬りかかった。モニカでは到底できない見事な刀さばきは、思わず見とれてしまうほどだった。
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