上 下
260 / 718
異国編:ジッピン後編:別れ

【279話】桜並木

しおりを挟む
甘味処でゆっくりと時間を過ごしたアーサーとモニカは、そのあと町を歩き弟と妹のためのおみやげを買った。オツユの店でキモノの仕立てを頼んだ頃には夕方になっていた。

双子が選んだ反物を受け取ったオツユが、反物に目を落としたままさりげなく話しかけた。

「桜並木はもう見た?」

「サクラナミキ?」

「ここから東にしばらく歩くと小さな川が流れているの。その河川に沿って桜がずらっと並んでいるのよ。とても綺麗だから、時間があるなら見に行くといいわ」

「ワァ!アリガトウ オツユ!ミテクルネ!」

「ええ。いってらっしゃい。でも、桜の木には触れないように気を付けて」

「ワカッタ!モニカ、あっちの方にサクラがたくさんあるんだて!行ってみない?」

「きゃー!行ってみたい!!サクラ見てみたかったのぉ!!」

「やった!行こう行こう!!」

双子はおおはしゃぎでオツユの店を飛び出した。20分ほど早歩きをしたあたりで、ピンク色の花びらが風に乗ってひらひらと空を舞っていた。風上に目をやると、すこし遠くでピンク色の花を満開に咲かせた木々がずらりと並んでいるのが見える。アーサーは目を輝かせて桜並木を指さした。

「モニカ!あれだ!!」

「きゃーーーー!!すごぉい!!あれがサクラ!!」

アーサーとモニカはパタパタ走りサクラのトンネルの入り口に立った。ふわふわのサクラの花がそよ風に揺れ、花びらが降っている。桜並木を歩いているジッピンの人たちも、しあわせそうにサクラを見上げ、降ってくる花びらを掴んで喜んでいる。アーサーも初めて見たサクラに大はしゃぎで、桜並木の下に立ち降ってくるサクラの花びらを夢中になって掴んでいた。

「モニカ見て!サクラの花びらを掴めたよ!」

「……」

「モニカ?」

「…あっ、うん!きれいね!」

入り口で立ち止まったままぼーっとサクラを眺めていたモニカが、アーサーに名前を呼ばれて我に返った。慌てて兄の傍へ駆け寄りサクラの花を見上げる。アーサーは首を傾げて妹を見た。

「…モニカどうしたの?あんまり嬉しそうじゃないみたい」

「ううんそんなことないよ!」

「ほんとう?」

「ほんとにほんと!…でも…」

「でも?」

「これ、ほんとうにサクラ?」

「えっ?サクラじゃないの?」

「分からない…。とっても綺麗だし素敵なんだけど。でもなんだかしっくりこないのよねえ…。私の中でサクラの花ってもっとこう…薄いピンクだった気がして」

「ええ…もしかして違うのかなあ。聞いてみようか」

アーサーが近くを通りがかった女の人に声をかけた。女性は突然異国のかわいらしい男の子に話しかけられ甲高い歓声をあげてしばらく騒いでいたが、落ち着きを取り戻したあとに「これは桜よ」と教えてくれた。

「モニカ、やっぱりこれがサクラだって」

「そうなんだあ」

「でも確かに、ハクサイの鷽と垂桜で描かれてたサクラって、もっと白い花だったよねえ」

「そうなの。このピンクの花びらに、薄く雪が乗ったくらいの色だったような…」

「薄く雪…?」

顎に手を当てて不思議そうにしているモニカの隣で、アーサーは手のひらに乗せた花びらを見た。

(なんだか今日のモニカの様子は変だなあ。サクラは初めて見たはずなのに、どうしてこんな反応するんだろう。ハクサイの絵だけでこのくらい不思議がるかな。それに…モニカってあんな詩的な表現する子だっけ?モニカは文字が苦手だから読書もしないし…。あんまり語彙力もないはずなのに。クロネたち画家と一緒にいた時間で感性が磨かれたのかな。うーん…引っかかるなあ)

しおりを挟む
感想 494

あなたにおすすめの小説

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む

家具屋ふふみに
ファンタジー
 この世界には魔法が存在する。  そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。  その属性は主に6つ。  火・水・風・土・雷・そして……無。    クーリアは伯爵令嬢として生まれた。  貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。  そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。    無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。  その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。      だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。    そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。    これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。  そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。 設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m ※←このマークがある話は大体一人称。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

ぬいぐるみばかり作っていたら実家を追い出された件〜だけど作ったぬいぐるみが意志を持ったので何も不自由してません〜

望月かれん
ファンタジー
 中流貴族シーラ・カロンは、ある日勘当された。理由はぬいぐるみ作りしかしないから。 戸惑いながらも少量の荷物と作りかけのぬいぐるみ1つを持って家を出たシーラは1番近い町を目指すが、その日のうちに辿り着けず野宿をすることに。 暇だったので、ぬいぐるみを完成させようと意気込み、ついに夜更けに完成させる。  疲れから眠りこけていると聞き慣れない低い声。 なんと、ぬいぐるみが喋っていた。 しかもぬいぐるみには帰りたい場所があるようで……。     天真爛漫娘✕ワケアリぬいぐるみのドタバタ冒険ファンタジー。  ※この作品は小説家になろう・ノベルアップ+にも掲載しています。

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?

あくの
ファンタジー
 15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。 加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。 また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。 長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。 リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。