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異国編:ジッピン後編:別れ

【276話】カユボティのお願い

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ノリスケにキモノを着付けてもらったアーサーとモニカは再びキヨハルの部屋へ行った。そのときにはヴァジーとカユボティもいて3人で談笑していた。昨日火花を散らせながら商談をしていたとは思えないほど親し気だ。双子に気が付いたカユボティが、ニッと笑って手招きをする。

「おっと、主役のおでましだ。アーサー、モニカ。座って」

「主役?」

「きみたちに話があるんだ」

二人が座布団の上に座ると、ノリスケが温かいお茶を出した。そのほんのり苦い飲み物をちびちび飲みながら、カユボティの話を聞く。

「ジッピンへ来て今日が4日目。ジッピンはどうだい?気に入ってくれたかな?」

「とっても!!」

「だいすき!!」

「そう。よかった。…ところでアーサー、モニカ。3日間のきみたちを見ていて、ぜひお願いしたいことがあるんだ」

「なあに?」

「ルアンに戻ったら、ジッピンの芸術品だけを並べた画廊を建てようかと考えていてね。君たちにはそこの美術商になってほしいんだ」

「画廊?!」

「ビジュツショウ?!…ってなにぃ?!」

カユボティのお願いにアーサーとモニカは目をキラキラ輝かせた。よく分からないが、面白そうなことにちがいないと興味津々だ。

「画廊は、芸術品を展示したり販売する場所。美術商は、そこに並べる美術品を選んで仕入れる人のことだよ」

「なにそれえ!!楽しそう!!!」

「わぁぁぁ!!僕たちが選んだものがお店に並ぶってこと?!」

「そういうこと。ここ数日の二人を見ていて確信したよ。君たちは美術品を見る目がある。…あいにく私は今している事業と画業で手いっぱいで、美術商をする余裕がなくてね、だがこんな儲か…楽しそうなことを思いついてしまってはやるしかないだろう?だから、信頼できる君たちに任せたいと思って」

「今儲かりそうと言いそうになった」

「ふふ。カユボティらしいね。純粋無垢な子どもたちと、金もうけに目がない彼との対比がすばらしい」

横で聞いていたヴァジーと、ヴァジーの通訳で話を聞いていたキヨハルがコソコソと囁き合った。ヴァジーはジトッとした目で、キヨハルはニヤニヤしながらカユボティを眺めている。二人のつぶやきが聞こえていたのか、カユボティは大きく咳ばらいをしてから話を続けた。

「君たちは冒険者でありエリクサー商人であり、トロワ貧困層の実質的領主でもあると聞いている。忙しいことは分かっているよ。それに君たちの家はポントワーブだ。ルアンが近所といっても馬車で3時間かかるからね。頻繁に画廊に足を運べとは言わない」

「うーん、普段はそこまで忙しくはないけど、クエスト依頼に行ってるときは確かに余裕ないかも」

「ビジュツショウやりたい!!でも、私たち不定期にどこか行っちゃうよ?それでもいいの?」

「かまわない。君たちがいなくてもちゃんと経営できるように人を雇うから。君たちにしてほしいことは店に立つことじゃなくて、あくまで店に並べる商品を選ぶこと。

今回のジッピン滞在でできるだけ気に入ったものを買い漁って欲しい。君たちが気に入った店の店主に私が話をつけて、君たちが好みそうな商品を定期的にバンスティンへ輸出してもらう。その商品をまずは君たちの家へ送る…もしくはポントワーブの一角に倉庫を建ててあげてもいいよ。

商品が届いたら、時間があるときに選別して気に入ったものをルアンに送ってほしい。それが画廊に並ぶ」

「楽しそうぅぅぅっ!!!」

「楽しそうだねえ!!でも、気に入らなかったものはどうするの?」

「気に入らなかったものは隣国へ流す。隣国も、それどころか世界中探したって、私…バンスティンほどジッピンの美術品に目をつけている国はないからね。突然現れた異国の芸術。閉鎖的な島国だったからこそ生まれた独自の美術…。それが突然目の前に現れるんだ。絶対に売れ…喜んでもらえる」

「本音が隠しきれていない。商人失格だな彼は」

「それほど興奮しているんですよ。…カユボティ、隣国に流してしまえばルアンに建てる画廊の売上や珍しさが落ちてしまうんじゃないか?」

「逆だよヴァジー。あくまで隣国に流すのは、モニカとアーサーが気に入らなかったもの。つまり、そこまで質の高くない作品だ。だが、それでも隣国の人たちは興味を持つだろう。興味を持ったブルジョアはどうすると思う?より質の高い作品を欲しがるよね。

質の高くないものでジッピンの美術品の認知を広げ有名にさせる。そして彼らはある噂を耳にする。ルアンに非常に質の高いジッピンの美術品が並んでいる画廊があるらしいと。ふふっ。ふふふっ」

「ああ、なるほど。その、カユボティが流す噂を耳にしたブルジョアたちは、競い合ってルアンの画廊の作品を買い漁るだろうね」

「ルアンの画廊で購入した作品をゲストのブルジョアに自慢する。その話を聞いたブルジョアもルアンの画廊へ買いに行き、また別のゲストに自慢する…。きっとルアンの画廊で並べた商品は飛ぶように売れるようになるだろうね。まったく。おそろしい子だよ君は」

アーサーとモニカはニヤニヤしているカユボティをぽかんと眺めていた。我に返ったカユボティは慌てて表情を切り替えて爽やかな笑みを浮かべた。(それを見たヴァジーとキヨハルは「こわ…」と漏らしていた)

「アーサー、モニカ。具体的な流れと取り分の話を先にしておくよ。まずジッピンから美術品がポントワーブへ届く。その美術品を君たちが選別し、ルアンへ届ける。君たちが気に入ったものは画廊に並び、そうじゃないものは隣国へ流れる。月に一度、売り上げを君たちへ商人ギルドを介して届けよう」

「ふむふむ」

「画廊を建てる費用、美術品の輸送費用はもちろん私が持つ。画廊を経営する費用もね。君たちには美術品を仕入れるお金を負担してもらいたい。商品は仕入れ額の10倍程度で販売する予定だよ。売り上げの4割を君たちへ渡そう。6割は私が受け取る。ないとは思うけど、売れ残った分は私が原価で買い取ってクロネたちに贈るよ。その分は10割君たちへ返そう。だから君たちに損はさせない。どうかな?」

「信じられないほど良心的だな」

「子どもたちが負担するのは仕入れの費用だけ。他はすべてカユボティが負担していて手数料4割。その上売れ残りまで10割返金か。…彼は子どもたちに弱みでも握られているのかい?」

「はは。惚れた弱みでしょうか」

「なるほどね」

カユボティの話を聞き、双子は「どうするぅ?」と顔を見合わせた。だが、二人とも本音はやりたくて仕方がないようで、そわそわわくわくしているのが見え見えだ。

「ぼっ、僕たちのお店ってことだよねえ?!」

「うんっ!しかも大好きなルアンに建ててくれるって!!」

「そのうえ並ぶ商品はジッピンの美術品!!」

「手数料とかはよく分からないけど…カユボティがお世話してくれるみたいだし大丈夫だよね!!」

「うん!きっと大丈夫だよぉ!!」

「カユボティが世話をしてくれるから大丈夫…?」

「私もそう思えるような商談を彼としてきたかったな…」

「キヨハル、あなたも大概ですがね…」

大人二人が渇いた笑いをしている中、子ども二人は「うん!」と頷きカユボティに向き直った。

「カユボティ!!私たち、ビジュツショウやりたい!!」

「画廊持ちたい!!」

「おお、よかった!いい返事を聞かせてくれてありがとう!3人で素晴らしい画廊にしようじゃないか」

「うん!!!」

「やったーーー!!」

かくしてアーサーとモニカは、カユボティが管理する画廊の美術商となった。その日双子は手持ち半分、約500万ウィンを持って町へ出る。ルアンの画廊に並べる商品を探しながらの散策は、今まで過ごした3日間の中で一番楽しくワクワクするものだった。
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