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異国編:ジッピン前編:出会い
【258話】出発
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アーサーとモニカがキヨハルの部屋へ入ると、いつも以上に身なりを整えた画家ふたりが座っていた。がちがちに緊張しており、双子に気付いてもかすれた声で挨拶することしかできない。双子はくすくす笑いながら彼らの背中に飛びついた。
「わっ!」
「どうしたの二人とも!なんだかいつもとちがうよ?」
「いやぁ…緊張してしまってね…。なんたってウキヨエシに今から会うんだから…」
「カユボティでも緊張することあるんだね!」
「あるさ…。私とヴァジー次第で今後のバンスティンの絵画界が変わるかもしれないんだから」
「きっと二人なら大丈夫よ!…あ、そうだわ!二人もウキヨエシの人にあなたたちの絵画を見せてあげたら?!きっと喜ぶわ!」
モニカの提案にカユボティとヴァジーは目を見合わせた。だがお互い苦笑いをして目を逸らす。
「あー…いや、僕たちの絵は見せない方がいいんじゃないかな…」
「ああ…。見せたらウキヨエを売ってくれなくなるかも」
「どうしてえ?あ、二人の絵が良すぎて?!」
「確かに二人の絵はすごいけど、それでウキヨエシさんが絵を売ってくれなくなることなんてきっとないよ!むしろ二人の絵がジッピンの絵画界を変えちゃうかもしれないよぉ?」
「…ふふ、君たちは僕たちの絵が素晴らしいと信じて疑わないんだね」
「ヴァジー?彼らは私たちの絵を知っているのかい?その上でああ言った?」
予想外の返しに驚いたカユボティはこそこそとヴァジーの耳元で囁いた。ヴァジーは頷き気が抜けたように笑う。
「ああ。知っているよ。それどころかクロネたちの絵を買い漁ってくれている。特にこの前はエドガの絵画を数百と買ったらしいよ。なんでもトロワに僕たちの美術館を建てたいとか」
「数百…?美術館…?おい、この子たちは本当にエリクサーだけでここまでのことをしてきたのかい?」
「いや、それは分からない。彼らはトロワの貧困層を預かっているらしいし…エリクサーだけではそんなことできないだろう。だがそれ以上のことは知らなくていいことだろう?」
「…そうだな。余計な詮索はするべきじゃない、か。少なくとも彼らに先見の目があることは確かだね」
「ああ」
「ありがとうアーサー、モニカ。君たちのおかげで少し緊張がほぐれたよ。キヨハルさんが来るまで座っていなさい」
「はぁい」
しばらくしてキヨハルが部屋へ入ってきた。そのうしろにレンゲとムクゲもいる。モニカの視線に気が付いたキヨハルは、ニコッと笑ってバンスティンの言葉で「オハヨウ」と挨拶をした。双子はジッピンの言葉で返す。
「オアヨウ!」
「オ、オアヨ」
「モニカもすこしジッピンの言葉が話せるようになってきたね。覚えが早い」
「ええ本当に」
ヴァジーがちらっとカユボティを見ながら頷いた。カユボティは居心地が悪そうに「ははは…」と笑っている。キヨハルがいつもの場所に座り煙管を吸い始める。レンゲとムクゲは漂う煙を目で追っていた。
「さて、今日は浮世絵師を訪ねる約束だったね。ヴァジー、私が知っている浮世絵師はまだあまり有名でない若い子だよ。それでもいいのかい?」
「有名かどうかなんて関係ありませんよ。もしかしたら今後の未来を担っていく人物になるかもしれない」
「そうだね。このようなことを聞くのは野暮だったかな。…あと、彼に会ったあと浮世絵が売っている店に連れて行ってあげよう。有名な浮世絵師が描いたものから、無名な浮世絵師が描いた安価なものまで揃っている。きっと君の友人が気に入るものを見つけられるだろう」
「っ!!お気遣いありがとうございます!!」
「どういたしまして。では、行こうか」
煙管を吸い終えたキヨハルが立ちあがり部屋を出る。画家と双子もあとをついて出ようとしたとき、レンゲとムクゲがモニカの服を引っ張り引き留めた。
「どうしたの?」
「桜が描かれた浮世絵を買ってきて」
「ヌシサマにあげたい」
おねだりをされたモニカはにっこり笑って頷いた。
「レンゲとムクゲは?どんなウキヨエがほしい?」
「わたしたち…?」
「うん」
「…大人の女の人の浮世絵」
「大人の男の人の浮世絵」
「分かった!楽しみに待っててね!」
「うん」
「うん」
「モニカー?はやく行くよー?」
「わっ!行かなきゃ!はーい!すぐ行くー!!」
玄関からアーサーの声が聞こえて慌ててキヨハルの部屋を出る。靴を履き待ってくれているアーサーたちの元へ駆け寄ると、キヨハルがモニカの肩を抱き誰にも聞こえない声で囁いた。
「君、見えているよね?」
「え?」
「わっ!」
「どうしたの二人とも!なんだかいつもとちがうよ?」
「いやぁ…緊張してしまってね…。なんたってウキヨエシに今から会うんだから…」
「カユボティでも緊張することあるんだね!」
「あるさ…。私とヴァジー次第で今後のバンスティンの絵画界が変わるかもしれないんだから」
「きっと二人なら大丈夫よ!…あ、そうだわ!二人もウキヨエシの人にあなたたちの絵画を見せてあげたら?!きっと喜ぶわ!」
モニカの提案にカユボティとヴァジーは目を見合わせた。だがお互い苦笑いをして目を逸らす。
「あー…いや、僕たちの絵は見せない方がいいんじゃないかな…」
「ああ…。見せたらウキヨエを売ってくれなくなるかも」
「どうしてえ?あ、二人の絵が良すぎて?!」
「確かに二人の絵はすごいけど、それでウキヨエシさんが絵を売ってくれなくなることなんてきっとないよ!むしろ二人の絵がジッピンの絵画界を変えちゃうかもしれないよぉ?」
「…ふふ、君たちは僕たちの絵が素晴らしいと信じて疑わないんだね」
「ヴァジー?彼らは私たちの絵を知っているのかい?その上でああ言った?」
予想外の返しに驚いたカユボティはこそこそとヴァジーの耳元で囁いた。ヴァジーは頷き気が抜けたように笑う。
「ああ。知っているよ。それどころかクロネたちの絵を買い漁ってくれている。特にこの前はエドガの絵画を数百と買ったらしいよ。なんでもトロワに僕たちの美術館を建てたいとか」
「数百…?美術館…?おい、この子たちは本当にエリクサーだけでここまでのことをしてきたのかい?」
「いや、それは分からない。彼らはトロワの貧困層を預かっているらしいし…エリクサーだけではそんなことできないだろう。だがそれ以上のことは知らなくていいことだろう?」
「…そうだな。余計な詮索はするべきじゃない、か。少なくとも彼らに先見の目があることは確かだね」
「ああ」
「ありがとうアーサー、モニカ。君たちのおかげで少し緊張がほぐれたよ。キヨハルさんが来るまで座っていなさい」
「はぁい」
しばらくしてキヨハルが部屋へ入ってきた。そのうしろにレンゲとムクゲもいる。モニカの視線に気が付いたキヨハルは、ニコッと笑ってバンスティンの言葉で「オハヨウ」と挨拶をした。双子はジッピンの言葉で返す。
「オアヨウ!」
「オ、オアヨ」
「モニカもすこしジッピンの言葉が話せるようになってきたね。覚えが早い」
「ええ本当に」
ヴァジーがちらっとカユボティを見ながら頷いた。カユボティは居心地が悪そうに「ははは…」と笑っている。キヨハルがいつもの場所に座り煙管を吸い始める。レンゲとムクゲは漂う煙を目で追っていた。
「さて、今日は浮世絵師を訪ねる約束だったね。ヴァジー、私が知っている浮世絵師はまだあまり有名でない若い子だよ。それでもいいのかい?」
「有名かどうかなんて関係ありませんよ。もしかしたら今後の未来を担っていく人物になるかもしれない」
「そうだね。このようなことを聞くのは野暮だったかな。…あと、彼に会ったあと浮世絵が売っている店に連れて行ってあげよう。有名な浮世絵師が描いたものから、無名な浮世絵師が描いた安価なものまで揃っている。きっと君の友人が気に入るものを見つけられるだろう」
「っ!!お気遣いありがとうございます!!」
「どういたしまして。では、行こうか」
煙管を吸い終えたキヨハルが立ちあがり部屋を出る。画家と双子もあとをついて出ようとしたとき、レンゲとムクゲがモニカの服を引っ張り引き留めた。
「どうしたの?」
「桜が描かれた浮世絵を買ってきて」
「ヌシサマにあげたい」
おねだりをされたモニカはにっこり笑って頷いた。
「レンゲとムクゲは?どんなウキヨエがほしい?」
「わたしたち…?」
「うん」
「…大人の女の人の浮世絵」
「大人の男の人の浮世絵」
「分かった!楽しみに待っててね!」
「うん」
「うん」
「モニカー?はやく行くよー?」
「わっ!行かなきゃ!はーい!すぐ行くー!!」
玄関からアーサーの声が聞こえて慌ててキヨハルの部屋を出る。靴を履き待ってくれているアーサーたちの元へ駆け寄ると、キヨハルがモニカの肩を抱き誰にも聞こえない声で囁いた。
「君、見えているよね?」
「え?」
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