上 下
232 / 718
異国編:ジッピン前編:出会い

【252話】すごい人

しおりを挟む
「この無限袋を私の屋敷へ運んでくれ」

「はいなぁ」

キヨハルが狩怪組の一人にそう指示したあと、彼らは商組(アキナイグミ)の間へ向かった。キヨハル、カユボティ、ヴァジーに気が付いた商組の人たちがにこやかに手を振っている。その前を通り過ぎ、キヨハルは一番奥で座っている女性に声をかけた。

「カユボティさんへお代を」

「はいなぁ」

例によって彼女も一度奥の間へ引っ込み、戻って来たときには大きな木箱を持っていた。それをカユボティに渡しながら女性は「8000万ウィンでぇす」と言った。カユボティは中を確かめることもせず「マイドアリ」と答える。キヨハルに目で合図をし、キヨハルが商組の一人にそれを屋敷へ運ぶよう指示した。

それを眺めていたアーサーとモニカは、首を傾げながらカユボティに尋ねた。

「カユボティも何か売ったのぉ?」

「ああ。バンスティンの商品を売ったのさ。一番需要があるのはアイテムボックスだね。ジッピンに空間魔法はないから、輸入するしかないんだ。他はここにいない魔物の皮もよく売れる」

ヴァジーに通訳してもらっていたキヨハルは、彼の言葉を補足した。

「本当に助かっているよ。アイテムボックスがこちらに来てからジッピンの生活は一変した。カユボティには感謝してもしきれない」

「あれ…カユボティって本当にすごい人なんじゃ…」

話を聞いていた双子がおろおろとカユボティを見上げた。カユボティは「そんなことないよ」と首を振っていたが、ヴァジーがクスクス笑いながら彼の謙遜を一蹴した。

「アーサー、モニカ。カユボティはね、はじめてバンスティンとジッピンとの交易を結んだ人なんだ。ちなみにキヨハルさんははじめてジッピンとバンスティンとの交易を結び、ジッピンにアイテムボックスを普及させた人だ。二人ともきっと歴史に残る人物になるよ」

「ほぇー…」

「これで名を残すのも悪くないけれど、やはり画家として名を残したいものだね」

「ふふ。それができるかは難しいところだなあ」

冗談を言い合うカユボティとヴァジーを見上げながら、とんでもない人とお知り合いになってたんだねえ、とアーサーとモニカは目を見合わせた。そんな双子の頭にカユボティがぽんと手を乗せる。

「さて、お待たせしたね二人とも。私の用事はもうすんだよ。ジッピンについてきてくれたお礼に、今から君たちにプレゼントを買ってあげよう」

カユボティの言葉に双子は目をキラキラさせた。

「プレゼントぉ?!」

「なになにぃ?!」

「ふふ。それはね…」

わくわくそわそわしているアーサーとモニカをしばらく焦らしたあと、カユボティはウィンクしながら答えを言った。

「カタナ」

「カタナーーーーーー!!!」

「きゃーーー!!私にも買ってくれるのぉ?!」

「もちろん。ジッピンの女性はカタナを持つことを禁止されているけれど、君はバンスティンの女性だから関係ないしね。ただ、モニカにカタナは大きすぎるかもしれないから…ワキザシを買ってあげる」

「ワキザシってなに?!」

「カタナよりも短いんだ。これだったらモニカでも扱えると思う」

「きゃーーー!!」

嬉しさでぴょんぴょんと飛び跳ねているアーサーとモニカに、保護者3人だけでなく商組の人たちも目じりを下げている。「かわいいなぁ」「めんこいめんこい」と漏らしながら、商組の間をあとにした外国人の兄妹を見送った。
しおりを挟む
感想 494

あなたにおすすめの小説

異世界の片隅で引き篭りたい少女。

月芝
ファンタジー
玄関開けたら一分で異世界!  見知らぬオッサンに雑に扱われただけでも腹立たしいのに 初っ端から詰んでいる状況下に放り出されて、 さすがにこれは無理じゃないかな? という出オチ感漂う能力で過ごす新生活。 生態系の最下層から成り上がらずに、こっそりと世界の片隅で心穏やかに過ごしたい。 世界が私を見捨てるのならば、私も世界を見捨ててやろうと森の奥に引き篭った少女。 なのに世界が私を放っておいてくれない。 自分にかまうな、近寄るな、勝手に幻想を押しつけるな。 それから私を聖女と呼ぶんじゃねぇ! 己の平穏のために、ふざけた能力でわりと真面目に頑張る少女の物語。 ※本作主人公は極端に他者との関わりを避けます。あとトキメキLOVEもハーレムもありません。 ですので濃厚なヒューマンドラマとか、心の葛藤とか、胸の成長なんかは期待しないで下さい。  

スキルを極めろ!

アルテミス
ファンタジー
第12回ファンタジー大賞 奨励賞受賞作 何処にでもいる大学生が異世界に召喚されて、スキルを極める! 神様からはスキルレベルの限界を調査して欲しいと言われ、思わず乗ってしまった。 不老で時間制限のないlv上げ。果たしてどこまでやれるのか。 異世界でジンとして生きていく。

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む

家具屋ふふみに
ファンタジー
 この世界には魔法が存在する。  そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。  その属性は主に6つ。  火・水・風・土・雷・そして……無。    クーリアは伯爵令嬢として生まれた。  貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。  そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。    無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。  その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。      だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。    そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。    これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。  そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。 設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m ※←このマークがある話は大体一人称。

ぬいぐるみばかり作っていたら実家を追い出された件〜だけど作ったぬいぐるみが意志を持ったので何も不自由してません〜

望月かれん
ファンタジー
 中流貴族シーラ・カロンは、ある日勘当された。理由はぬいぐるみ作りしかしないから。 戸惑いながらも少量の荷物と作りかけのぬいぐるみ1つを持って家を出たシーラは1番近い町を目指すが、その日のうちに辿り着けず野宿をすることに。 暇だったので、ぬいぐるみを完成させようと意気込み、ついに夜更けに完成させる。  疲れから眠りこけていると聞き慣れない低い声。 なんと、ぬいぐるみが喋っていた。 しかもぬいぐるみには帰りたい場所があるようで……。     天真爛漫娘✕ワケアリぬいぐるみのドタバタ冒険ファンタジー。  ※この作品は小説家になろう・ノベルアップ+にも掲載しています。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。