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異国編:ジッピン前編:出会い
【249話】朝
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アーサーとモニカ、ノリスケが部屋の中に入ると、談笑していたキヨハル、ヴァジー、カユボティが振り返り3人に挨拶をした。
「ああアーサー、モニカ。おはよう。昨日はよく眠れたかい?」
「なんだか夜中アーサーの泣き叫ぶ声が聞こえたけど…一体何があったんだい?」
「おはよう!うう…うるさくしてごめんなさい。ちょっとパニックになっちゃって…」
申し訳なさと恥ずかしさでアーサーはもじもじと小声で謝った。ヴァジーとカユボティはクスクス笑いながら双子に座るよう合図した。
レンゲとムクゲは今朝もキヨハルの傍に立っていた。モニカがにこっと笑い控えめに手を振ると、キヨハルが優しく微笑んでモニカに話しかけた。モニカはまだジッピンの言葉が分からないので、アーサーに通訳してもらいながら彼と会話する。
「おはよう。朝ご飯はもう食べたかな?」
「アベア!オイシイ!ダシマキ スキ」
「だしまきが気に入ったんだね。おいしいよね、だしまき。私も好きだよ」
「ちょ、ちょっと待って。アーサー、ジッピンの言葉を話せるのかい?」
拙いながらもジッピンの言葉を話すアーサーにカユボティが腰を抜かしながら尋ねた。それにヴァジーが得意げに答える。
「いや?昨日まで全く話せなかったんだがね。昨晩僕の部屋に来て1時間教えたんだよ。そしたら話せるようになった」
「たったの1時間で?何かの冗談だろう?」
「冗談じゃないさ。そうだよね、アーサー」
「うん!昨日教えてもらったんだー!」
「それで聞き取りと話せるようになったって?そんなまさか」
「信じられないよね。でも本当なんだ。どうだい?カユボティもそろそろジッピンの言葉を勉強する気になったかな?」
「いや、その逆だね。これからはヴァジーの都合が悪い時はアーサーについてきてもらおう」
「えっ!ほんとうに?!僕がんばってもっと話せるように頑張るね!」
「私だってがんばるもん!!」
「はぁ…」
意地でも勉強したがらないカユボティに思わずヴァジーの口からため息が漏れた。
バンスティンの言葉で盛り上がっている4人を、キヨハルは静かに眺めて微笑んでいる。だが、彼が扇子をぱちんと音を立てて閉じると、ヴァジーとカユボティが会話をやめてキヨハルに向き直った。双子も無意識に背筋を伸ばす。しんと静まり返ったとき、キヨハルが静かに話し始めた。
「カユボティ、ヴァジー。私にこの子たちの、この子たちに私の紹介をしてくれるかな?昨日はすぐ商談に入ってしまってできなかったからね」
「分かりました。キヨハル、この子たちはアーサーとモニカ。冒険者であり、薬師であり、独自に開発した回復薬の商人でもあります」
「ほう。君たちと同じで肩書が多い」
「ははは。この子たちには負けます」
ヴァジーはジッピンの言葉でそう言ったあと、双子にバンスティンの言葉でキヨハルを紹介した。
「アーサー、モニカ。彼はキヨハルさん。彼はこのあたりの地主で、よろず屋…バンスティンでいう冒険者ギルドと商人ギルドを合わせたようなものだね、そのマスターをしているんだ」
「私はキヨハルに、よろず屋で仕入れたジッピンの魔物の毛皮などの素材をバンスティンに卸してもらうようお願いをする仕事をしている。今回もそれで来たんだよ」
ヴァジーとカユボティの説明に、アーサーとモニカは「ほえー」と気の抜けた声を出した。何かを思い出したモニカは「あ!もしかして!」と手を叩いた。
「じゃあ、ポントワーブで買ったイナリの毛皮も、カユボティが買い付けたものなの?」
「元を辿ればそうだね。私が買い付けてバンスティンへ持ち帰り、商人ギルドや問屋に卸しているから」
「そうだったんだあ!カユボティってすごい人だったんだね!!」
「ふふ、ありがとう。それもこれも、キヨハルさんの協力があってできることだ」
「じゃあ、キヨハルさんもすごい人なんだあ!」
「ああ。キヨハルさんは本当にすごい人だね。ジッピンでもかなりの権力者なんじゃないかな」
「おおおー!!」
アーサーとモニカがキラキラした目をキヨハルに向けていると、彼は苦笑いをしながらヴァジーを見た。
「ヴァジー?この子たちに何を言ったのかな?どうせ過剰に褒めたんだろう」
「いいえ?本当のことしか言ってませんよ」
「どうだか」
「ヴァジー、キヨアル、スゴイイオ イッエル! カナリノ ケンリョクシャ ダッエ イッア!」
「わ、こらアーサー!」
「ほら、過剰に褒めているじゃないか」
キヨハルが「そらみたことか」と扇子で口元を隠しながらヴァジーに視線を送ると、ヴァジーは頭をかきながらボソっと呟いた。
「うーむ、アーサーにジッピンの言葉を教えるのはやっぱりやめておこうかな…」
「どうしてさぁ!」
「ああアーサー、モニカ。おはよう。昨日はよく眠れたかい?」
「なんだか夜中アーサーの泣き叫ぶ声が聞こえたけど…一体何があったんだい?」
「おはよう!うう…うるさくしてごめんなさい。ちょっとパニックになっちゃって…」
申し訳なさと恥ずかしさでアーサーはもじもじと小声で謝った。ヴァジーとカユボティはクスクス笑いながら双子に座るよう合図した。
レンゲとムクゲは今朝もキヨハルの傍に立っていた。モニカがにこっと笑い控えめに手を振ると、キヨハルが優しく微笑んでモニカに話しかけた。モニカはまだジッピンの言葉が分からないので、アーサーに通訳してもらいながら彼と会話する。
「おはよう。朝ご飯はもう食べたかな?」
「アベア!オイシイ!ダシマキ スキ」
「だしまきが気に入ったんだね。おいしいよね、だしまき。私も好きだよ」
「ちょ、ちょっと待って。アーサー、ジッピンの言葉を話せるのかい?」
拙いながらもジッピンの言葉を話すアーサーにカユボティが腰を抜かしながら尋ねた。それにヴァジーが得意げに答える。
「いや?昨日まで全く話せなかったんだがね。昨晩僕の部屋に来て1時間教えたんだよ。そしたら話せるようになった」
「たったの1時間で?何かの冗談だろう?」
「冗談じゃないさ。そうだよね、アーサー」
「うん!昨日教えてもらったんだー!」
「それで聞き取りと話せるようになったって?そんなまさか」
「信じられないよね。でも本当なんだ。どうだい?カユボティもそろそろジッピンの言葉を勉強する気になったかな?」
「いや、その逆だね。これからはヴァジーの都合が悪い時はアーサーについてきてもらおう」
「えっ!ほんとうに?!僕がんばってもっと話せるように頑張るね!」
「私だってがんばるもん!!」
「はぁ…」
意地でも勉強したがらないカユボティに思わずヴァジーの口からため息が漏れた。
バンスティンの言葉で盛り上がっている4人を、キヨハルは静かに眺めて微笑んでいる。だが、彼が扇子をぱちんと音を立てて閉じると、ヴァジーとカユボティが会話をやめてキヨハルに向き直った。双子も無意識に背筋を伸ばす。しんと静まり返ったとき、キヨハルが静かに話し始めた。
「カユボティ、ヴァジー。私にこの子たちの、この子たちに私の紹介をしてくれるかな?昨日はすぐ商談に入ってしまってできなかったからね」
「分かりました。キヨハル、この子たちはアーサーとモニカ。冒険者であり、薬師であり、独自に開発した回復薬の商人でもあります」
「ほう。君たちと同じで肩書が多い」
「ははは。この子たちには負けます」
ヴァジーはジッピンの言葉でそう言ったあと、双子にバンスティンの言葉でキヨハルを紹介した。
「アーサー、モニカ。彼はキヨハルさん。彼はこのあたりの地主で、よろず屋…バンスティンでいう冒険者ギルドと商人ギルドを合わせたようなものだね、そのマスターをしているんだ」
「私はキヨハルに、よろず屋で仕入れたジッピンの魔物の毛皮などの素材をバンスティンに卸してもらうようお願いをする仕事をしている。今回もそれで来たんだよ」
ヴァジーとカユボティの説明に、アーサーとモニカは「ほえー」と気の抜けた声を出した。何かを思い出したモニカは「あ!もしかして!」と手を叩いた。
「じゃあ、ポントワーブで買ったイナリの毛皮も、カユボティが買い付けたものなの?」
「元を辿ればそうだね。私が買い付けてバンスティンへ持ち帰り、商人ギルドや問屋に卸しているから」
「そうだったんだあ!カユボティってすごい人だったんだね!!」
「ふふ、ありがとう。それもこれも、キヨハルさんの協力があってできることだ」
「じゃあ、キヨハルさんもすごい人なんだあ!」
「ああ。キヨハルさんは本当にすごい人だね。ジッピンでもかなりの権力者なんじゃないかな」
「おおおー!!」
アーサーとモニカがキラキラした目をキヨハルに向けていると、彼は苦笑いをしながらヴァジーを見た。
「ヴァジー?この子たちに何を言ったのかな?どうせ過剰に褒めたんだろう」
「いいえ?本当のことしか言ってませんよ」
「どうだか」
「ヴァジー、キヨアル、スゴイイオ イッエル! カナリノ ケンリョクシャ ダッエ イッア!」
「わ、こらアーサー!」
「ほら、過剰に褒めているじゃないか」
キヨハルが「そらみたことか」と扇子で口元を隠しながらヴァジーに視線を送ると、ヴァジーは頭をかきながらボソっと呟いた。
「うーむ、アーサーにジッピンの言葉を教えるのはやっぱりやめておこうかな…」
「どうしてさぁ!」
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