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異国編:ジッピン前編:出会い

【245話】服屋

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服屋の中へ入ると、美しい柄の布を広げている一人の女性が座っていた。来客に気がつき顔をあげ、口元をかすかに緩める。バンスティンでは、店主は客を見ると「いらっしゃあい!」と声をかけて駆け寄ってくるのだが、女性はただ微笑んだだけだった。ゆっくりと布に目を戻し、控えめな声でぽそりと言葉を発する。

「×□◎●?」

「◇■▽…〇×◇■。※〇×?」

「〇※。■◆…◇▽◎」

しばらくヴァジーと会話したあと、女性はそっと立ち上がりアーサーとモニカに近づいた。何も言わずにしゃがんで彼らの体つきをじっと見ているその女性に、双子は戸惑いながら挨拶をする。

「あ…あの、こんにちはー…」

「こんにちは…」

「……」

女性は返事をせずに変わらずじっと見るだけだった。その様子がなんだか不気味で、モニカはアーサーに身を寄せる。アーサーは助けを求めてヴァジーとカユボティを見た。

「ヴァジー…」

「怖がらなくていいよ。体のサイズをはかっているだけだから」

「ジッピンでは寡黙な人が多いから気にしなくていい。ま、うるさいやつもいるが…」

「彼女はオツユさんというんだよ。彼女が仕立てるキモノは素晴らしいから、きっと君たちも気に入るはずだ」

「オツユさん…」

アーサーが彼女の名前を口にすると、オツユは顔をあげて目じりを下げた。一重まぶたにダークブラウンの瞳、やわらかそうな鼻にぷくりと膨らんだ小さな唇。バンスティンではあまり見ない顔立ちだった。アーサーの目には彼女がとてもきれいに見えてぽっと頬を赤らめた。(モニカはそれに目ざとく気付き、むっと頬を膨らました)

アーサーとモニカの採寸を終えたオツユは、二人の前に数種類の布を広げた。ジッピンの言葉で一言なにか言うと、さきほどいた場所に戻り、また布に針を通し始めた。

「アーサー、モニカ。この中から好きな布を選んで。それでキモノを仕立ててくれるから」

「え?!この布がキモノになるの?!」

「ていうかこれから作るんだ!」

「ああ。オツユは注文されてから作るんだ。オーダーメイドってやつだね」

「すごい!!」

「さあ、どれにする?」

双子はうんうん唸りながら布を選んだ。自分ではなかなか決められなかったので、アーサーはモニカの、モニカはアーサーの布を決めることにした。小一時間悩み、やっと二人はオツユに声をかけた。

「オツユさん!」

「これで作ってください!」

「……」

モニカが差し出したのは、淡いピンク色に小さな花模様がちりばめられたもの。アーサーは幾何学模様の紺色のものだった。オツユはそれを受け取り、優しい口調で二人に話しかけた。双子が首を傾げているとヴァジーが通訳してくれた。

「モニカのキモノはタチバナ文様、アーサーのはヤガスリ文様と言うらしい。オツユさんもそれらが一番君たちに似合うと思っていたと言っているよ」

「っ…」

「ちょっとアーサー!なに顔を赤らめてるの?!ねえ!!」

「な、なんでもないもんっ!似合うって言ってもらえて嬉しかっただけだもん!!」

「本当かなあ?!さっきからオツユさんの方ちらちら見てポーってなってるんですけどぉ?!」

「なってないよ!!」

「なってるーーーー!!!」

「ははは。オツユさんは美人だからなあ」

「なるほど、アーサーはああいう女性が好みなのか」

「ちっ、ちがうもんー!!!」

「◎◇▽※?」

「×■〇〇、△※◎」

騒いでいる4人にオツユが何か尋ねヴァジーが答えると、オツユはふふっと小さく笑って目を伏せた。耳に髪をかける仕草をしながら、アーサーを見て「アリガト」と小さく呟いた。

「?!」

「きゃーーー!!アーサーがまた顔真っ赤にしてるうう!!!」

「ちょっと!ヴァジー!!オツユさんに何言ったの?!」

「え?アーサーがオツユさんのことを気に入ったようだと言っただけだよ」

「わーーーー!!なんてこと言うんだよぉヴァジー!!」

「ははは」

「アーサーもなかなか見る目があるねえ」

「だからちがうってばぁ!!」

「きゃぁぁぁっ!!やめてぇぇぇっ!!」

モニカの絶叫と共に、町に強風が吹き荒れ近くの森に雷が数本落ちた。アーサーは慌ててモニカの手を引いて服屋を出る。アーサーが何を言ってもモニカはブスっとして強風をやませてはくれなかった。
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