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淫魔編:モニカの画家生活
【225話】モニカの弟子入り
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アーサーたちを見送ったあと、モニカはプンプンしながら宿の中へ戻った。宿主が欠伸をしながらそんな彼女に話しかける。
「どうしたんだいモニカ。顔を真っ赤にして」
「なんでもない!私は普通の女の子だもん!!」
「誰も何も言ってないんだが…。で?今日からまたお絵描き再開かい?」
「お絵描きじゃくてお仕事ね!うん、準備してからヴァジーのアトリエへ行くの」
「まぁたあの変な絵を描く画家のところへ行くのかい。どうせならアンギーさんやカヴァンルさんのところへ行けばいいものを…」
「ううん、私はクロネたちに絵を習いたいの!だって彼らの絵が一番すきなんだもん」
「変わってるねえ」
「だから私は普通の女の子だってばあ!」
◇◇◇
【クロネ!私に絵を教えてください!】
【ん?】
アーサーたちがルアンダンジョンへ出発した日、モニカは早速カフェに行きクロネに絵を教えて欲しいとお願いした。その時カフェにいたのはクロネ、リュノ、シスル、エドガの4人だった。頭を深く下げてお願いするモニカを見てエドガがハンと鼻で笑う。
【お前、画家にでもなりたいのか?】
【う、ううん…ちがうけど…アーサーに喜んでもらえるような絵を描きたいの!】
【人に評価される絵がそう簡単に描けるとでも?デッサンもしたことがないようなお前に俺たちが教えることはなにもない。教えてほしければ線を100万回引いてから来るんだな】
【うぅ…】
【エドガ、君に人の心はないのか?だいすきな兄のために素敵な絵を描きたいと思う気持ちをなぜ君は鼻で笑うんだ】
シッシと手を払い酒に目を戻したエドガにクロネが突っかかった。リュノとシスルは「あーあ。また始まったよ」と二人で肩をすくめながら目配せしている。二人の喧嘩を初めて見たモニカは「ひぅ…」と体を小さくした。
【気持ちだけで絵がうまくなるのか?】
【ならない。だが、その想いがいつかきっと素敵な絵を生み出す。それに君は見たことないかもしれないが、モニカの絵には可能性がある。まだまだ未熟だが人を惹きつける絵を彼女は描けるんだ】
【…お前のその能天気でふわふわした物言いがいつもいつも気に食わない。抜きんでた才能だけで絵を描いてきたお前には分からないだろう。頭で思い描いている絵が表現できない苦しさを。モニカは、今はただ何も考えずに楽しく絵を描いているだけだ。本気で絵を描き始めたらその苦しみを知ることになるんだぞ。それでモニカが絵を嫌いになったらどうする。それだったら下手くそな絵をニコニコ笑いながら描いてる方がいいだろう】
【エドガ。人ってのはたいがい君ほど生真面目に努力しない。完璧を求めて寝る間を惜しんだりもしない。絵の難しさを知っても、モニカはきっと楽しく絵を描いてくれるさ。絵を描くのが辛くなれば、甘いものを食べて気を紛らわせばいい。描きたくなったらまた筆を持てばいい。俺はいつもそうしているが?】
【ハンッ。ヴァジーの金で食べる甘いものはうまいか?】
【誰の金で食べたっておいしいものはおいしい。そんなことも知らないのか?】
【あー。お前と話していたら頭がおかしくなりそうだ。帰る】
そう言ってエドガが席を立った。カフェを出る前にクロネを睨んで念を押す。
【モニカの筆を折るんじゃないぞ】
【当然だ。俺はアンギーさんほどスパルタじゃないよ】
エドガが店を出たあと、クロネがモニカに向き直った。リュノとシスルもニコニコしている。
【さて、うるさいカタブツがいなくなったことだし、早速アトリエへ行こうか】
【えっ、本当に絵を教えてくれるの?】
【もちろん。と言っても俺はそんなに口出しするつもりはないがね。ただ一緒にキャンバスを並べて絵を描くだけだ。それでもいいかな?】
【うん!!お願いします!】
【俺も行く】
【僕も行くよ】
【ああ、じゃあみんなで行こうか。マスター、じゃあまた夜に】
【お代は?】
【ヴァジーに請求しといて】
【またかい…】
という流れで、彼らはモニカの弟子入りを快諾してアトリエへ招いた。そのアトリエはヴァジーが所有しているもので、自分のアトリエを持っていない貧乏画家たちが自由に出入りしている。部屋の隅にはクロネやリュノ、シスル、その他モニカがまだ知らない画家の絵が数えきれないほど保管されていた。
クロネは二つのイーゼルを並べて立て、そこにキャンバスを置いた。
【モニカ、早速描こうか】
【うん!】
【どんな絵を描きたいんだい?】
【えっとね、1枚目は…】
その日から重症のアーサーたちがルアンへ帰ってくるまで、モニカは毎日このアトリエでクロネたちと絵を描いていた。隣で絵を描いているクロネは、モニカがうまく描けなくて困っていると優しくアドバイスしてくれた。リュノやシスルも時々モニカに構いにきた。拙い絵を見ても誰も下手だと言ったりしなかった。むしろ彼女の絵から何かを学ぼうとしている気すらして、「そんな見ないでよぉー!」と追い返してしまうこともあった。そんなときは、画家はケタケタ笑いながらわざとじーっとモニカの絵を眺めてからかった。
絵の知識が付いてきたら、だんだんと自分の絵の下手さが分かってきた。画家の前でこんな絵を描いていることが恥ずかしくなり、また、思ったような絵にならず泣きそうになることもあった。エドガが言っていたのはこのことか、とモニカは気付く。確かに何も知らずに絵を描いていた時の方が楽しかった。自分の下手な絵を見たくなくて、アトリエに行きたくないと思う日もあった。それでもモニカは重い腰をあげてアトリエへ行く。
「アーサーは冒険者のお仕事をがんばってるんだもん。私は私のお仕事をがんばらなくっちゃ」
「どうしたんだいモニカ。顔を真っ赤にして」
「なんでもない!私は普通の女の子だもん!!」
「誰も何も言ってないんだが…。で?今日からまたお絵描き再開かい?」
「お絵描きじゃくてお仕事ね!うん、準備してからヴァジーのアトリエへ行くの」
「まぁたあの変な絵を描く画家のところへ行くのかい。どうせならアンギーさんやカヴァンルさんのところへ行けばいいものを…」
「ううん、私はクロネたちに絵を習いたいの!だって彼らの絵が一番すきなんだもん」
「変わってるねえ」
「だから私は普通の女の子だってばあ!」
◇◇◇
【クロネ!私に絵を教えてください!】
【ん?】
アーサーたちがルアンダンジョンへ出発した日、モニカは早速カフェに行きクロネに絵を教えて欲しいとお願いした。その時カフェにいたのはクロネ、リュノ、シスル、エドガの4人だった。頭を深く下げてお願いするモニカを見てエドガがハンと鼻で笑う。
【お前、画家にでもなりたいのか?】
【う、ううん…ちがうけど…アーサーに喜んでもらえるような絵を描きたいの!】
【人に評価される絵がそう簡単に描けるとでも?デッサンもしたことがないようなお前に俺たちが教えることはなにもない。教えてほしければ線を100万回引いてから来るんだな】
【うぅ…】
【エドガ、君に人の心はないのか?だいすきな兄のために素敵な絵を描きたいと思う気持ちをなぜ君は鼻で笑うんだ】
シッシと手を払い酒に目を戻したエドガにクロネが突っかかった。リュノとシスルは「あーあ。また始まったよ」と二人で肩をすくめながら目配せしている。二人の喧嘩を初めて見たモニカは「ひぅ…」と体を小さくした。
【気持ちだけで絵がうまくなるのか?】
【ならない。だが、その想いがいつかきっと素敵な絵を生み出す。それに君は見たことないかもしれないが、モニカの絵には可能性がある。まだまだ未熟だが人を惹きつける絵を彼女は描けるんだ】
【…お前のその能天気でふわふわした物言いがいつもいつも気に食わない。抜きんでた才能だけで絵を描いてきたお前には分からないだろう。頭で思い描いている絵が表現できない苦しさを。モニカは、今はただ何も考えずに楽しく絵を描いているだけだ。本気で絵を描き始めたらその苦しみを知ることになるんだぞ。それでモニカが絵を嫌いになったらどうする。それだったら下手くそな絵をニコニコ笑いながら描いてる方がいいだろう】
【エドガ。人ってのはたいがい君ほど生真面目に努力しない。完璧を求めて寝る間を惜しんだりもしない。絵の難しさを知っても、モニカはきっと楽しく絵を描いてくれるさ。絵を描くのが辛くなれば、甘いものを食べて気を紛らわせばいい。描きたくなったらまた筆を持てばいい。俺はいつもそうしているが?】
【ハンッ。ヴァジーの金で食べる甘いものはうまいか?】
【誰の金で食べたっておいしいものはおいしい。そんなことも知らないのか?】
【あー。お前と話していたら頭がおかしくなりそうだ。帰る】
そう言ってエドガが席を立った。カフェを出る前にクロネを睨んで念を押す。
【モニカの筆を折るんじゃないぞ】
【当然だ。俺はアンギーさんほどスパルタじゃないよ】
エドガが店を出たあと、クロネがモニカに向き直った。リュノとシスルもニコニコしている。
【さて、うるさいカタブツがいなくなったことだし、早速アトリエへ行こうか】
【えっ、本当に絵を教えてくれるの?】
【もちろん。と言っても俺はそんなに口出しするつもりはないがね。ただ一緒にキャンバスを並べて絵を描くだけだ。それでもいいかな?】
【うん!!お願いします!】
【俺も行く】
【僕も行くよ】
【ああ、じゃあみんなで行こうか。マスター、じゃあまた夜に】
【お代は?】
【ヴァジーに請求しといて】
【またかい…】
という流れで、彼らはモニカの弟子入りを快諾してアトリエへ招いた。そのアトリエはヴァジーが所有しているもので、自分のアトリエを持っていない貧乏画家たちが自由に出入りしている。部屋の隅にはクロネやリュノ、シスル、その他モニカがまだ知らない画家の絵が数えきれないほど保管されていた。
クロネは二つのイーゼルを並べて立て、そこにキャンバスを置いた。
【モニカ、早速描こうか】
【うん!】
【どんな絵を描きたいんだい?】
【えっとね、1枚目は…】
その日から重症のアーサーたちがルアンへ帰ってくるまで、モニカは毎日このアトリエでクロネたちと絵を描いていた。隣で絵を描いているクロネは、モニカがうまく描けなくて困っていると優しくアドバイスしてくれた。リュノやシスルも時々モニカに構いにきた。拙い絵を見ても誰も下手だと言ったりしなかった。むしろ彼女の絵から何かを学ぼうとしている気すらして、「そんな見ないでよぉー!」と追い返してしまうこともあった。そんなときは、画家はケタケタ笑いながらわざとじーっとモニカの絵を眺めてからかった。
絵の知識が付いてきたら、だんだんと自分の絵の下手さが分かってきた。画家の前でこんな絵を描いていることが恥ずかしくなり、また、思ったような絵にならず泣きそうになることもあった。エドガが言っていたのはこのことか、とモニカは気付く。確かに何も知らずに絵を描いていた時の方が楽しかった。自分の下手な絵を見たくなくて、アトリエに行きたくないと思う日もあった。それでもモニカは重い腰をあげてアトリエへ行く。
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