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淫魔編:先輩の背中
【221話】王様オーク
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「アーサー、弓と剣どっちがいい?」
「剣!」
「だと思った。言っとくがお前は弓より剣の方が集中力が落ちる。遠距離戦より近距離戦の状況判断が苦手だ。背後に気を付けて戦うんだぞ」
「分かった!」
「遠距離が俺一人でキツかったらまた声をかける」
「うん!」
「じゃあ、行ってこい」
ベニートがイェルドとアーサーの背中を押した。そのまま二人は武器を構えてオークの群れに走って行く。そのあとをアデーレが追いかけた。ベニートの元を離れる前、アデーレはニコっと笑って彼を小突いた。
「さすがねベニート」
「いい加減あいつらの扱いにも慣れてきたさ。アデーレ、お前も死ぬなよ。お前は驚くと猫みたいに固まるからな。不意を突かれないように気を付けるんだぞ」
「分かった。じゃ、援護おねがいね」
「任せろ」
◇◇◇
イェルドとアーサーは二手に分かれてオークを蹴散らしていた。少し離れた場所でイェルドの咆哮が聞こえてくる。アーサーもいつもより激しく剣を振り下ろしていた。
「グァォォォ!!」
襲い掛かってきたオークの腕を切り落とし、心臓で剣を一突きする。戦い始めて数分しか経っていないのに、すでにアーサーは返り血で真っ赤になっていた。彼の背後にオークが近づき武器をふりかぶる。アーサーはオークの胸から剣を引き抜き、振り返ることなく攻撃を避け反撃した。
(うん、今日もうしろがよく見える)
昨日ベニートに叱られてから調子が良かった。まるで頭のうしろに目がついたかのように、背後の様子を感じ取ることができる。今まで考え事をしながらなんとなくで戦っていたアーサーが、魔物の群れ相手に戦うことだけに集中して剣を振ることを覚えたのだ。アーサーはどんどんと魔物を倒して奥へ進んでいく。
(アーサー、調子いいわね。すごい勢い)
近くで戦っていたアデーレは、アーサーの戦いぶりに舌を巻いた。怒りからかいつもより大振りだが、1時間経っても全く集中力が切れていない。ここのオークと戦い慣れてきたのか、武器を持った手を切り落としてから心臓を突きさすという一連の流れで負傷せずに敵を倒し続けている。仕留め損ねてもベニートがとどめを刺してくれることに気付き、確実に仕留めることより動ける魔物の数を減らすことに専念しているように見えた。アデーレは「私もがんばらなくっちゃ」とニッと笑い、オークの首を2体同時に斬り飛ばした。
アデーレという戦力が増え、更に昨日よりも低燃費で効率よく戦ったため、1時間ちょっとで100体のオークを殲滅することができた。最後の1体を倒したイェルドは、ふぅ、とため息をつきギロリと王様オークを睨みつける。
それまで椅子に座って仲間が殺されるところを眺めていただけだった王様オークがゆっくりと立ち上がった。オークの血で赤く染まった空間を見渡したあと、コバエのようにブンブンと飛び回っていた小さな人間をじっと見る。王様オークはこめかみに青筋をたて、ブルブル震えながら咆哮した。
「グォォォォォォ!!!」
耳をつんざく咆哮に冒険者は耳を塞ぐ。その咆哮は仲間を殺された怒りからではなく、人間ごときが自分の縄張りを我が物顔で好き勝手したことに対する怒りからだとイェルドは感じ取った。それがまた彼を苛立たせる。自分たちが殺したオークの死体をちらと見て、歯を食いしばりながら言葉を発した。
「500体もの仲間が殺されるのを…椅子に座ってふんぞり返って眺めてただけの王様か…。ハンッ!どこぞの国王とそっくりじゃねえかよオイ!!!」
「グァァァァァ!!!」
「っ!?」
4メートルの巨体が動いた。その図体からは想像もできないほど素早い動きでアデーレに襲い掛かる。アデーレは反応できず、王様オークの巨大な手に掴まれた。手の中にすっぽりとおさまったアデーレは、状況が呑み込めずに固まってしまっている。
「アデーレ!!!」
アデーレを救出しようとイェルドとアーサーが王様オークに飛び掛かる。オークはめんどくさそうにもう片方の手で二人を叩き飛ばした。吹き飛ばされた彼らは壁に激しく背中を打ち付けられた。イェルドは頭を強く打ったのか、血を流しながらばたりと倒れる。
ベニートが王様オークの目を狙って矢を射るが軽々と薙ぎ払われる。オークは大きな石をベニートめがけて投げた。剛腕から放たれる速球をぎりぎり躱し、照準が定まらないよう走り出す。まるで的に当てるゲームのように、オークは醜い笑い声をあげながら走って避けようとする人間に次々と石を投げつけた。そのうちのひとつがベニートの頭に直撃し、倒れてそのまま意識を失った。やっと動く的に石を当てることができ、オークは嬉しそうに笑っている。
「グギャギャギャッ!!」
「あ…あ…」
沈黙した3人を見てアデーレが弱々しい声を漏らす。王様オークは彼女を目の高さまで持ち上げスンスンと匂いを嗅いだ。お気に召したのかニタァ…と笑い、臭い口を大きく開ける。
「いや…いやぁっ…」
「グフゥッ。グァッ」
涙を浮かべているアデーレを、王様オークはぽいと口の中へ放り込んだ。
「剣!」
「だと思った。言っとくがお前は弓より剣の方が集中力が落ちる。遠距離戦より近距離戦の状況判断が苦手だ。背後に気を付けて戦うんだぞ」
「分かった!」
「遠距離が俺一人でキツかったらまた声をかける」
「うん!」
「じゃあ、行ってこい」
ベニートがイェルドとアーサーの背中を押した。そのまま二人は武器を構えてオークの群れに走って行く。そのあとをアデーレが追いかけた。ベニートの元を離れる前、アデーレはニコっと笑って彼を小突いた。
「さすがねベニート」
「いい加減あいつらの扱いにも慣れてきたさ。アデーレ、お前も死ぬなよ。お前は驚くと猫みたいに固まるからな。不意を突かれないように気を付けるんだぞ」
「分かった。じゃ、援護おねがいね」
「任せろ」
◇◇◇
イェルドとアーサーは二手に分かれてオークを蹴散らしていた。少し離れた場所でイェルドの咆哮が聞こえてくる。アーサーもいつもより激しく剣を振り下ろしていた。
「グァォォォ!!」
襲い掛かってきたオークの腕を切り落とし、心臓で剣を一突きする。戦い始めて数分しか経っていないのに、すでにアーサーは返り血で真っ赤になっていた。彼の背後にオークが近づき武器をふりかぶる。アーサーはオークの胸から剣を引き抜き、振り返ることなく攻撃を避け反撃した。
(うん、今日もうしろがよく見える)
昨日ベニートに叱られてから調子が良かった。まるで頭のうしろに目がついたかのように、背後の様子を感じ取ることができる。今まで考え事をしながらなんとなくで戦っていたアーサーが、魔物の群れ相手に戦うことだけに集中して剣を振ることを覚えたのだ。アーサーはどんどんと魔物を倒して奥へ進んでいく。
(アーサー、調子いいわね。すごい勢い)
近くで戦っていたアデーレは、アーサーの戦いぶりに舌を巻いた。怒りからかいつもより大振りだが、1時間経っても全く集中力が切れていない。ここのオークと戦い慣れてきたのか、武器を持った手を切り落としてから心臓を突きさすという一連の流れで負傷せずに敵を倒し続けている。仕留め損ねてもベニートがとどめを刺してくれることに気付き、確実に仕留めることより動ける魔物の数を減らすことに専念しているように見えた。アデーレは「私もがんばらなくっちゃ」とニッと笑い、オークの首を2体同時に斬り飛ばした。
アデーレという戦力が増え、更に昨日よりも低燃費で効率よく戦ったため、1時間ちょっとで100体のオークを殲滅することができた。最後の1体を倒したイェルドは、ふぅ、とため息をつきギロリと王様オークを睨みつける。
それまで椅子に座って仲間が殺されるところを眺めていただけだった王様オークがゆっくりと立ち上がった。オークの血で赤く染まった空間を見渡したあと、コバエのようにブンブンと飛び回っていた小さな人間をじっと見る。王様オークはこめかみに青筋をたて、ブルブル震えながら咆哮した。
「グォォォォォォ!!!」
耳をつんざく咆哮に冒険者は耳を塞ぐ。その咆哮は仲間を殺された怒りからではなく、人間ごときが自分の縄張りを我が物顔で好き勝手したことに対する怒りからだとイェルドは感じ取った。それがまた彼を苛立たせる。自分たちが殺したオークの死体をちらと見て、歯を食いしばりながら言葉を発した。
「500体もの仲間が殺されるのを…椅子に座ってふんぞり返って眺めてただけの王様か…。ハンッ!どこぞの国王とそっくりじゃねえかよオイ!!!」
「グァァァァァ!!!」
「っ!?」
4メートルの巨体が動いた。その図体からは想像もできないほど素早い動きでアデーレに襲い掛かる。アデーレは反応できず、王様オークの巨大な手に掴まれた。手の中にすっぽりとおさまったアデーレは、状況が呑み込めずに固まってしまっている。
「アデーレ!!!」
アデーレを救出しようとイェルドとアーサーが王様オークに飛び掛かる。オークはめんどくさそうにもう片方の手で二人を叩き飛ばした。吹き飛ばされた彼らは壁に激しく背中を打ち付けられた。イェルドは頭を強く打ったのか、血を流しながらばたりと倒れる。
ベニートが王様オークの目を狙って矢を射るが軽々と薙ぎ払われる。オークは大きな石をベニートめがけて投げた。剛腕から放たれる速球をぎりぎり躱し、照準が定まらないよう走り出す。まるで的に当てるゲームのように、オークは醜い笑い声をあげながら走って避けようとする人間に次々と石を投げつけた。そのうちのひとつがベニートの頭に直撃し、倒れてそのまま意識を失った。やっと動く的に石を当てることができ、オークは嬉しそうに笑っている。
「グギャギャギャッ!!」
「あ…あ…」
沈黙した3人を見てアデーレが弱々しい声を漏らす。王様オークは彼女を目の高さまで持ち上げスンスンと匂いを嗅いだ。お気に召したのかニタァ…と笑い、臭い口を大きく開ける。
「いや…いやぁっ…」
「グフゥッ。グァッ」
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