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淫魔編:先輩の背中

【213話】ダンジョン準備

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双子とベニートたちを乗せた馬車が宿の前に停まる。ポントワーブへ戻る前、アーサーとモニカが泊まっていたところだ。ダンジョンからそのままポントワーブへ戻ったアーサーは、荷物をその宿に置いたままだった。宿に入ってきた双子を見て店主がガタリと立ち上がる。

「ちょっと君たち!今までどこ行ってたんだい!荷物を置きっぱなしで10日以上も帰ってこないからどうしたもんかと思ってたんだよ!まったく!」

「本当にごめんなさい!」

「…まあ、戻ってきてくれたんならそれでいいんだけど…。12日分の宿代はいただくからね?」

「もちろんです!あと、今日からも泊めてもらえませんか?僕たちと、あと3人分の宿を3週間」

「…また姿を消したりしないかい?」

「しません!」

「分かった。君たちの部屋は前と同じでいいかい?」

「はい!」

「残りの3人は?大部屋?個室?」

「個室でお願いします」

「それだと、君たちが失踪してた12日間の宿代金貨12枚と、3週間分の宿代金貨21枚、個室3部屋3週間で金貨63枚。合計金貨96枚だよ」

「分かりました」

アーサーはアイテムボックスに手を突っ込み、少し多めに白金貨10枚支払った。金貨4枚分も上乗せしてくれたことで店主の機嫌が一変し、しかめ面が満面の笑顔になる。「どうぞこれからもごひいきに~」と言いながら焼き菓子が入った袋をサービスしてくれるほどだった。

ホッとしたアーサーとモニカは、外で待たせていたベニートたちを中へ招いた。それぞれに用意した部屋へ案内すると、彼らはやたらと豪華な家具が並ぶ広い部屋に口をあんぐり開けている。

「…え?お前ら、いつもこんなとこに泊まってるのか?」

「ううん。ルアンのときだけよ。この町で初めて泊まったのがこの宿だったから、それからずっと使ってるの」

「えーっと、まさかこれ個室?ベッドがひとつしかないけど…」

「うん!個室の方がいいかなあと思って」

「おい見ろよベニート!!めちゃくちゃでっかい風呂があるぞ!!なんだこれすげえ!!うわああベッドふかふか!!」

「俺たちは旅行にでも来たのか…?」

大喜びでベッドの上で飛び跳ねているイェルド、戸惑いながらも広くて清潔感のある浴室に喜びを隠せないアデーレ、居心地が悪そうに椅子とテーブルを部屋の隅まで引きずって座るベニートと、双子が用意した宿に対する反応はそれぞれだった。

1時間の休憩を挟み、ベニートたちが双子の部屋へ集まった。作戦会議だ。

「今日から3週間で4つのダンジョンを掃討する。昨日は単純計算してダンジョン1つにつき約5日と言ったが、ダンジョンに行く前に準備が必要だ。俺たちはだいたいそれに3日使う。今回もそれでいこうと思う。あとトラブルに備えて2日余裕を持たせてスケジュールを組みたい。だから1つのダンジョンは平均4日間で掃討するつもりでいく。それでいいか?」

ベニートがそう言うと、アデーレが「了解」、イェルドが「オーケー!」と頷いた。アーサーとモニカも大きく頷く(モニカはダンジョンに行かないが、後学のために参加しろとベニートに言われたので作戦会議には参加していた)。全員の了承を取ったベニートは「よし」と椅子から立ちあがった。

「そうと決まればまずは必要な物を買いそろえる。アーサー、モニカ。冒険者ギルドまで案内してくれ」

「分かった!」

双子の案内のもと、5人は冒険者ギルドへ行った。中へ入ったベニートは、そのまままっすぐ酒場のカウンター席へ座った。

「マスター、情報を買わせてくれ」

「はい。どの情報でしょうか?」

「ルアンダンジョン、ロワンダンジョン、ドルワンダンジョン、トワンダンジョンのダンジョンマップと魔物表。もちろん最新版の詳細版でね」

「かしこまりました」

アーサーとモニカはぽかんと口を開けながらベニートとマスターの会話を聞いていた。そんな彼らにアデーレが声をかける。

「アーサー、モニカ。クエスト受付嬢で依頼を受注したら、そのまままっすぐ酒場へ行くこと。そしてマップと魔物表を買うのよ。あなたたちなら少しくらい値がはったって最新版の詳細版を買えるでしょう。だから必ずそれを買うこと」

「はい!」

マップと魔物表を購入したベニートに、イェルドが近寄りそれを覗き込んでいる。トワンダンジョンの魔物表を見て「うわぁ…」と声を漏らした。

「見ろよベニート。ここの淫魔、50年以上もずっと倒されずに棲みついてるって書いてあるぞ。よっぽどタチの悪い淫魔だ。こんなの対策もせずに飛び込んだらそりゃ痛い目見るぜ…」

「だな。恐ろしいことをするやつらだ全く。その上棲息魔物にアンデッド系が多い。Fランクダンジョンでもかなり厄介なところだ」

「よく生きて帰ってこられたな…」

「情報もなしに潜ったら、普通のF級冒険者なら間違いなく死んでるな」

「あいつら今までゴリ押しで依頼こなしてたんだろうなあ…」

「忘れたのか?聖水も持たずに魔女にアタックするやつらだぞ。そうに決まってる」

「ひぇぇ…」

「ベニート、買えた?」

ベニートとイェルドの元へアデーレがやってくる。ベニートはマップと魔物表をひらひらと揺らし、ギルド内の空いている椅子へ腰かけた。イェルド、アーサー、モニカもテーブルを囲んで椅子に座る。アデーレは椅子にアイテムボックスを置いてモニカに話しかけた。

「モニカ、飲み物を買いに行くから手伝ってくれる?」

「うん!」

「何飲む?ビール?」

「ビール」

「ビール!」

「アーサーは何飲む?私はオレンジジュースが飲みたいな!」

「僕もオレンジジュース!」

「はあい」

「じゃ、ちょっと待っててね」

「サンキュー!」

酒場へ歩いていくアデーレとモニカを眺めながら、イェルドが残り二人に話しかけた。

「なあ、モニカすっげーかわいくなってないか?!」

「?!」

「ああ。びっくりした。前までガキンチョだったのにな」

「それ!!」

「大人っぽくなったし、化粧がうまくなった。あと、服装がすげー好み」

「分かる!!髪型も毎日違って毎回かわいい」

「ちょっと待って!二人ともモニカのこと好きにならないでね?!」

思わずガタリと立ち上がったアーサーを、ベニートとイェルドはぽかんと見上げた。しばらくの沈黙のあと、二人は肩を震わせて笑いをこらえている。

「な、なんだよぉ!なんで笑うの?!」

「い、いや。すまない。別にバカにしてるわけじゃないっ…。くくっ」

「ぷぷっ。安心しろアーサー。さすがに俺ら、7歳も年下の子に手なんか出さねえよ。ぷぷっ…」

「さっきのはただモニカの成長を喜んでただけだ。そんな目でモニカを見たことはない。ふっ…くくくっ」

「お前の大好きなモニカ取ったりしないから安心して席に座ってくれ。ブフッ…!ぶはははは!!」

我慢できず盛大に笑うイェルドと、顔を背け声を殺して笑うベニート。またもや突っ走ってしまったアーサーは、顔を真っ赤にしながら静かに椅子に座り直した。そうしているうちにアデーレとモニカが戻ってくる。

「おまたせ。はい、ビール」

「ああ、ありがとう」

「さんきゅー!」

「イェルドの笑い声、あっちにまで聞こえてたわよ。なんの話をしてたの?」

「内緒」

「はいアーサー、オレンジジュースよ!…あれ?なんで顔が真っ赤なの?」

「ま、真っ赤なんかじゃないもん」

「ううん、真っ赤だよ。なにがあったの?」

「…内緒」
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