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淫魔編:フォントメウ

【205話】アクセサリー店

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へとへとになったアーサーを連れて、次はアクセサリー店へ入った。ガラスのショーケースの中にさまざまな宝石のアクセサリーが並べられている。店内には男性エルフの店主と女性エルフの売り子がおしゃべりをしていた。シャナに気付いた彼らがパッと顔を輝かせる。

「おや?おやおや?」

「あら?あらあら?」

「どうも、リゥ、ユエ。久しぶり」

「1年ぶりくらいかな?まったく。少し帰省する頻度をあげたらどうだいシャナ?」

「そうよ。幼馴染にまで顔を忘れられちゃうわよ?」

「ふふ。ごめんね。元気してた?」

どうやらシャナとリゥ、ユエは仲が良いようだ。彼らと言葉を交わしているときのシャナは、今までで一番気楽に話しているように見えた。ひとしきり冗談を交わしたあと、リゥとユエがユーリに挨拶をして双子に目を向ける。

「シャナ、こちらのかわいらしいヒトの子は?」

「アーサーとモニカよ。偽名は訳あり」

「そう。まだ若いのに苦労してるのね」

「よろしく。アーサー、モニカ」

「アーサー、モニカ。こちらリゥとユエよ。二人は夫婦で、私の幼馴染でもあるの」

「アーサーです。よろしくおねがいします」

「モニカです!よろしくおねがいします」

「ふふ。本当にかわいらしいヒトの子ねえ」

双子と握手をしたエルフ夫婦はあたたかい笑みを浮かべた。二人のやわらかい雰囲気に、アーサーとモニカはふわふわとした気持ちになった。まるでふかふかの布団にくるまっているような居心地の良さだ。双子の様子にシャナはクスクス笑う。

「アーサー、モニカ?赤ちゃんみたいな顔になってるわよ?」

「「ハッ」」

「ふふ。本当にかわいらしい」

「それで、今日はどうしたんだい?」

「アーサーとモニカがアクセサリーを買いに来たの。良いのがあったら出してあげてくれる?」

「分かったよ。ユーリもなにか欲しいかい?」

「ううん。今日はいいかな」

「はあい。じゃあ、アーサーとモニカ。君たちに合うものを選ぶために、少し君たちのことを見させてもらうね。シャナ、僕たちに視覚強化の魔法をかけてくれるかい?」

「あら?自分でできるでしょう?」

「君の魔法の方がよく見えるんだ」

「ああ、そういうこと。分かったわ」

シャナは二人のこめかみに杖を軽く当てた。視覚強化されたリゥはアーサーの、ユエはモニカの目を覗き込む。リゥの顔が一瞬苦し気に歪む。だがすぐ元の表情に戻り、次に胸に目をやった。

「ユエ…」

「…ええ、見えてるわ」

「強力な加護の糸だ…」

「すごい…。こんな糸、見たことがないわ…」

「これは…少し選ぶのが難しいね」

リゥの視線がアーサーの小指に移る。はめている指輪を見て「えっ」と驚いた声をあげた。

「まさかこれ、リンクスの加護魔法かい?」

「あ、はい。さっきもらいました」

「わぁ…すごい。すばらしい。白金貨1000枚で買い取りたいくらいだよ…!」

「そ、そんなにすごいものだったの?!」

「すごいってものじゃない…。ヒトの世だったら値段が付けられないほどの価値があるものだよ。アーサー、先に謝っておくけれど、君が今嵌めている指輪ほど良いものはうちにはないからね」

指輪の価値を知ったアーサーは「ひぇ…なくさないようにしなきゃ…」と呟いた。食い入るように指輪を見つめているリゥに、ユエが苦笑いをしている。

「こらこらリゥ。そんな羨ましそうな目で見ないの」

「だって僕たちがどれほどお願いしたってひとつも作ってくれなかったんだよ…?」

「ふふ。でもリンクスがアーサーにそれを渡した気持ちが分かるわ」

「はは。たしかに」

「?…」

「それにしてもモニカ。あなたの魔力とその器、とぉっても綺麗ねえ」

「えへへ。ありがとう」

ユエはうっとりした目でモニカの胸あたりを見ている。

「ん~。迷うわあ…。この子にぴったりのアクセサリー…。モニカ?アクセサリーなら何をつけたい?」

「うーん。ネックレスはもうしてるし…。ピアスがいいな!」

「ピアスね。分かったわ。…じゃあちょっと悩ませてね」

「はあい」

「アーサーは?なにがいい?」

「僕はピアスもネックレスもしてるし、リンクスさんに指輪ももらっちゃったしなあ…」

「だったらアンクレットにしようか」

「アンクレット?」

「足首につけるアクセサリーだよ」

「わ!おしゃれ!それがいい!」

「分かった。じゃあ僕も選んでくるよ」

リゥとユエは立ち上がり、ガラスケースを覗きながら長い時間相談していた。しばらくして彼らはカウンターの奥へ姿を消した。待っているあいだ、双子はぶらぶらと店内を見て回る。モニカは赤い宝石のブレスレットを見つけ、周りに聞こえない小さな声でコソコソとアーサーに話しかけた。

「わ!ねえアーサー!このブレスレット、ジュリアに似合うと思わない?!」

「本当だね!これはウィルクに似合いそう」

「うわあ、絶対似合うよお!送ってあげようよ!」

「いいね!2か月後にはジュリアもウィルクも学院に戻るしね!学院に二人宛てで送っちゃおう!」

「きゃー!喜んでくれるかなあ?!」

「きっと喜んでくれると思う!」

そうと決めた二人は赤い宝石のブレスレットと、青い宝石のアンクレットが入れられた小箱を手に取った。シャナの元へ戻ろうとしたモニカだったが、アーサーが黄緑色の宝石が埋め込まれた指輪をじっと見ていることに気付き立ち止まった。

「アーサー?どうしたの?」

「…ヴィクスにもなにか贈りたいなあって思って」

「……」

「でもダメだよね…。城に送るのはさすがに…」

「じゃあ、ウィルクに頼みましょうよ!」

「えっ」

「ヴィクスに、ウィルクからの贈り物として渡してもらうの!もちろん私たちからってことは伏せてもらって!それだとヴィクスにアクセサリーを贈れるし、私たちのこともバレないわ」

「わあ!それいい考えだよモニカ!どうしちゃったの?!」

「どうしちゃったのって何よ!」

「あはは!ごめんごめん!」

「じゃあ、そうしましょ!ジュリア宛にブレスレットを送って、ウィルク宛にアンクレットと指輪を送る!それでオッケー?」

「賛成!喜んでくれるといいなあ~」

「ねー!」

3つのアクセサリーを持って双子はシャナの元へ戻った。すでに双子のアクセサリーを選び終わっていたリゥとユエがニコニコしながら待っていた。

「ごめんなさい!夢中になっちゃってた」

「気にしないで。そんなにはしゃいでアクセサリーを選んでもらえたら私たちも嬉しいわ」

「手に持っているのも買うのかい?」

「うん!贈り物!」

「いいね。どのアクセサリーにもちょっとした加護魔法が付与されているんだよ。ブレスレットと指輪には魔力回復の強化。アンクレットには再生力の強化の効果がある。本当にちょっとした、だけどね」

「わあああ!素敵!」

「あとで綺麗に包んであげるわね」

「わーい!」

「じゃあとりあえずその3つのアクセサリーは預かっておいて…。次は私とリゥがあなたたちに選んだアクセサリーを見てくれる?」

「見る!!」

ユエは小箱をそっと開けた。そこには乳白色の宝石のピアスが入っている。モニカはそれを見て「わぁぁ…!」と感激しながらぴょんぴょん飛び跳ねた。

「かわいい宝石…!!こんな宝石みたことない!!」

「乳白色ヒスイよ。綺麗でしょう?」

「きれい!!」

「ふふ、よかった。でも綺麗なだけじゃないのよ?この宝石には、魔力回復強化の加護魔法が付与されているの。それも、強力なね」

「店に並んでるものの軽く10倍は強力さ」

「ええー?!」

「シャナの顔で、特別にとっておきを出してきたの。どう?気に入ってくれたかしら?」

モニカはそのピアスを手のひらに乗せ、じっと見つめながら無言でコクコクと頷いた。嬉しすぎて言葉が出ないようだ。アーサーもモニカの手の中を覗き込んで「わぁぁ…」と声を漏らした。

「モニカ、よかったねえ。こんな素敵なピアスを選んでもらえて」

「うん…!一生大切にする…!」

「アーサー、君はこれ」

リゥがアーサーに手招きをする。小箱を開くと、赤紫と藍が混じり合ったような不思議な色をした宝石のアンクレットが入っていた。

「綺麗…」

「アレキサンドライトと言ってね。光によって色が変わる不思議な宝石だよ。赤紫になったり、藍色になったり、ふたつの色が混ざっていたり」

「わぁ…」

「加護魔法は、精神の安定を保つ」

「……」

「辛いことがあっても、これをつけていたら心がかき乱されにくい。ある程度は、だけどね」

「リゥさん…僕の記憶を…?」

「いや、見ていないよ。見なくたって分かる。今は安定してるけれど、それでもまだ、君にはこれが必要だ」

アーサーはアンクレットを小箱から取り出し握りしめた。それだけでもホッとするような気がした。

「…ありがとう、リゥさん」

「気に入ってくれたかな?」

「とっても」

双子はさっそくアクセサリーを身に付けた。モニカは鏡で自分の姿を見て「かわいいーー!!」と大喜びしている。アーサーは自分の足首を見ながら「なにこれぇ…!おしゃれすぎるよぉぉ…!」と漏らしていた。二人に気付かれないようにシャナが夫婦に声をかける。

「で?お代はいくらなの?」

「モニカとアーサーの分で白金貨100枚。プレゼントのアクセサリー3つで白金貨3枚よ」

「やっぱり!!あんな希少なものよく初対面の子に渡してくれたわね?!どうして?!私としてはありがたいけど!」

シャナは財布から白金貨を取り出しながら彼らに尋ねた。リゥとユエは目を合わせてからシャナににっこり笑った。

「ふふ。リンクスと同じ理由よ」

「リンクスと?」

「ああ。彼らはずるいよね。どうも守ってあげたくなってしまう。だって…」

「「あぶなっかしすぎるから」」

声を揃えてそう言った夫婦の答えに、シャナは困ったように笑った。

「納得したわ」
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