上 下
183 / 718
淫魔編:フォントメウ

【203話】お買い物

しおりを挟む
「さて!アーサーもモニカもすっかり元気になって、杖も2か月後に戻ってくることが決まったことだし、今日はフォントメウの町でショッピングでもしましょうか!」

家に帰ってきたシャナが、ツェンとフェゥと一緒にごはんを食べていた子どもたちに提案した。ずっと気分が沈んでいたアーサーと、目が覚めてから難しい話ばかり聞かされてうんざりしていたモニカ、双子が元気になって喜んでいるユーリはパァっと顔を輝かせる。

「ショッピングぅー?!」

「きゃーーーー!!いきたいいきたい!!いーきーたーいー!!」

「母さん!僕が道案内するからね!」

「ええお願いするわねユーリ。フォントメウのお店は良いわよ~?特に寝衣とアクセサリー、コスメがおすすめ」

「コスメーーー!!!」

「ここのコスメは質素なものだけれど、とぉってもお肌にいいのよ。そしてここでしか手に入らない、キラキラと光るパウダーが売っているの。それを瞼の上に乗せるとね、すっごくすっごく綺麗になるのよ!カトリナはフォントメウのパウダーを愛用しているわ」

「なにそれえーーー!!きゃーーーー!!」

コスメと聞いてモニカは大喜びだ。アーサーの腕にむぎゅっと抱きつきキラキラした目で見る。

「アーサーも、アビーの分買おうね!!」

「うん!」

「あと、質の良いエーテル専門店もあるわ。モニカあなた、魔力がすっからかんでしょう?全回復するのに1か月はかかるわ。でもそこのエーテルを飲めば、おそらく半月で回復するはずよ」

「わー、助かる!!来月はヴァジーの依頼も控えてるのにどうしようって思ってたぁ」

「えっ、モニカそれ行くつもりなの?!」

「当り前じゃない!ジッピンよジッピン!!行くに決まってるでしょー!!」

「あら、あなたたちジッピンに行くの?」

「うん!ルアンの画家の護衛で行くことになったんだ」

「ジッピン…行ってみたいわあ。あそこにはこの国にない木があるって聞いたから…」

そんな話をしながら、双子とエルフ親子は身なりを整えて町へ出た。フォントメウで双子が普段着ている服装をしているとかなり目立ってしまうので、モニカはシャナの、アーサーはユーリの服を借りた。

町を歩いていると、何人かのエルフがモニカが前を通り過ぎるまで跪いていた。モニカは「これいやだなあ~」と小声でつぶやきながらも、跪いているエルフに微笑みをむけて手を振った。中には感激で涙を流してしまう者もいた。

「うう…。私そんなすごい人じゃないのにぃ…。白翼狼がただ夢の中でありがとうって言うためだけに付けた印なのにー…」

「この町じゃあモニカがお姫様みたいだね」

「やめてよアーサー…。お姫様になんてなりたくないわ…」

「アーサー、モニカ!ここがコスメ店だよ。入って」

小さな建物の前でユーリが立ち止まった。中へ入ると、ひときわ美しいエルフがカウンターの奥で座っていた。シャナとユーリを見て微笑みながら手を振っている。

「シャナ、ユーリ。久しぶりね。…あら?ヒトの子?」

「久しぶりチィ。こちらアーサーとモニカ。偽名は訳ありよ。ごめんね」

「いいのいいの!本名か偽名か気にするエルフなんてお年寄りだけよ。アーサー、モニカ、ゆっくりしていってね」

この町で偽名を名乗っていることを初めて問い詰められなかったことで、アーサーはなぜかウルウルしてしまった。

「ん?アーサーどうしたの?泣きそうな顔しちゃって」

「なんでもないよ。なんでもないけど、僕たち、今じゃ本名より今の名前の方がしっくりこない?」

「うん。本名なんだっけって時々忘れそうになるわ」

「僕はそこまでじゃないけど…。でも、アーサーとモニカって名前を受け入れてもらえることが、こんなに嬉しいことだったんだって思って。はじめは適当に付けた名前だけど、今じゃアーサーって名前もモニカの名前もだいすきなんだ」

「私もだいすき!それに呼びやすいしね!前の名前はちょっと変わっててあんまり好きじゃないわ」

「ああ…アーサーは色んな人に"なんで偽名使ってるんだー"って聞かれていたものね。ごめんなさい。今まであなたが出会ってきたエルフたちはみんなご年配の方たちばかりで…。この町に暮らしているエルフでも、私くらいの世代になるとそんなことでとやかく言わないわ」

「良かった…。ちょっとこわい町だなあって思っちゃってたから…」

「あらあら。こんな可愛い男の子にお年寄りはなにをしたの?まったく。そんなんだから若いエルフはほとんどヒトの世に出てしまうのよぉ」

「アーサー、今から行くお店はみんな若いエルフがしているところよ。きっとあなたにも優しくしてくれるわ」

「よかったあ」

「それよりアーサー!見てよこのコスメぇぇぇ!!まず容器がすごくかわいいわ!!」

モニカは棚に並べられているコスメを見て大騒ぎしている。チィおすすめのコスメを紹介してもらい、アーサーが気に入った淡い緑色と、ユーリが気に入った水色、シャナが気に入ったベージュ色の3色を買うことにした。さっそく緑色のパウダーを瞼の上に乗せ、アーサーに感想を求めている。

「ねえねえアーサーどう?!」

「うわあああ!すっごく綺麗だよモニカ!瞼の上に色を乗せるだけでこんなに変わるんだねえ。かわいいー!!」

「えへへー照れるなあ~嬉しいなあ~」

「ねえモニカ、せっかくだからさ、紅とかおしろいも買っちゃったら?このお店のおしろい、サラサラしてて塗り心地良さそうだよ」

「わ、本当だー!それにほら見てアーサー!この口紅もきらきらしてるぅー!」

「うわあ~かわいい!ちょっと塗ってみる?」

「うん!アーサー塗ってくれるぅ?」

「はあい」

アーサーは指先に紅を付けてモニカの唇にぽんぽんと乗せた。発色が良く、キラキラと微かにきらめくその紅を乗せたモニカのかわいらしさに、ユーリとアーサーが顔を赤らめた。

「わあ。モニカ、すごく似合ってるよ」

「うんうん…!モニカ、エルフみたいに綺麗だよ…!」

「ええっ…!そ、そんなぁ、エルフみたいだなんてアーサー、それは言い過ぎよぉ…えへへ」

「ううん。本当に綺麗だよモニカ。わあ…」

「ユーリどうしよう…!こんな綺麗な子が僕の妹だなんてさ…!どうしよう…!」

「あはは。モニカが綺麗すぎてアーサーが変になっちゃった」

子どもたちが盛り上がっているのを少し離れて見ていたシャナとチィがクスクスと笑っている。

「シャナ?あのヒトの子、本当に兄妹なの?恋人同士に見えちゃうわ」

「兄妹よ。あの二人、ちょっと変わった育ち方をしていてね。一般的なヒトと感覚が違うのよ。ヒトとの距離感もね」

「そうなの。ふふ、かわいらしいわねえ。それにユーリもとても楽しそう。あんなに笑っているところを見たのは初めてだわ」

「ええ。ユーリにとってあの二人は、かけがえのない存在よ。家族のように思っているわ。お互いにね」

「素敵な関係ね。あーあ、私もこの町を出ようかしら。シャナみたいにヒトの旦那が欲しいわあ」

「分かる。エルフの男性って中性的でなんだか物足りないのよねえ」

「それなのよ!シャナの旦那みたいにゴリラみたいな人と結婚したいわあー」

「待って。あなたカミーユのことゴリラみたいな人って思ってたの?!」

「え?どう見てもゴリラでしょ?」

「ゴリラじゃないわよ!とっても可愛らしい男の子よ」

「おとこのこ…?いやいやいや…いやいや…」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ガチャと異世界転生  システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!

よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。 獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。 俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。 単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。 ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。 大抵ガチャがあるんだよな。 幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。 だが俺は運がなかった。 ゲームの話ではないぞ? 現実で、だ。 疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。 そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。 そのまま帰らぬ人となったようだ。 で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。 どうやら異世界だ。 魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。 しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。 10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。 そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。 5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。 残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。 そんなある日、変化がやってきた。 疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。 その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。

『特別』を願った僕の転生先は放置された第7皇子!?

mio
ファンタジー
 特別になることを望む『平凡』な大学生・弥登陽斗はある日突然亡くなる。  神様に『特別』になりたい願いを叶えてやると言われ、生まれ変わった先は異世界の第7皇子!? しかも母親はなんだかさびれた離宮に追いやられているし、騎士団に入っている兄はなかなか会うことができない。それでも穏やかな日々。 そんな生活も母の死を境に変わっていく。なぜか絡んでくる異母兄弟をあしらいつつ、兄の元で剣に魔法に、いろいろと学んでいくことに。兄と兄の部下との新たな日常に、以前とはまた違った幸せを感じていた。 日常を壊し、強制的に終わらせたとある不幸が起こるまでは。    神様、一つ言わせてください。僕が言っていた特別はこういうことではないと思うんですけど!?  他サイトでも投稿しております。

魔女の弟子ー童貞を捨てた三歳児、異世界と日本を行ったり来たりー

あに
ファンタジー
|風間小太郎《カザマコタロウ》は彼女にフラれた。公園でヤケ酒をし、美魔女と出会い一夜を共にする。 起きると三歳児になってしまってさぁ大変。しかも日本ではなく異世界?!

伯爵家の次男に転生しましたが、10歳で当主になってしまいました

竹桜
ファンタジー
 自動運転の試験車両に轢かれて、死んでしまった主人公は異世界のランガン伯爵家の次男に転生した。  転生後の生活は順調そのものだった。  だが、プライドだけ高い兄が愚かな行為をしてしまった。  その結果、主人公の両親は当主の座を追われ、主人公が10歳で当主になってしまった。  これは10歳で当主になってしまった者の物語だ。

いらないスキル買い取ります!スキル「買取」で異世界最強!

町島航太
ファンタジー
 ひょんな事から異世界に召喚された木村哲郎は、救世主として期待されたが、手に入れたスキルはまさかの「買取」。  ハズレと看做され、城を追い出された哲郎だったが、スキル「買取」は他人のスキルを買い取れるという優れ物であった。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。