上 下
162 / 718
淫魔編:ダンジョン巡り@ルアン

【182話】グール

しおりを挟む
あらゆる魔物が混在していた洞窟ダンジョンと違い、廃墟ダンジョンは部屋ごとに棲息している魔物が異なっていた。ゴブリンが棲息する部屋、オークが棲息する部屋、キラーアント、チムシーなど、1階は双子が過去に倒したことのあるG級魔物ばかりだった。危うげなくサクサクと倒し奥へ進んでいく。一番奥の扉の向こうはだだっ広い食堂だった。脚が折れたテーブルや、ひっくり返った椅子などが並んでいる。テーブルの上にはカビが生えたパン、じゅくじゅくになった果物、そして人の手足らしきものが置かれていた。

そこで食事を摂っていたのは四足歩行の魔物だった。約100体の、腐った肉を食べている最中のグール。グールは扉が開いたことに気付き侵入者に目を向ける。アーサーとモニカはその魔物の群れを見て顔をひきつらせた。

「わー、グールだ。それもいっぱい」

「やっぱりGランクダンジョンより手ごわい魔物がいるね。数も多いや。グールかあ…前戦ったときは皮膚が硬くて苦労したなあ」

「私の雷魔法でも半分以上生き残ったやつらだあ」

アーサーとモニカは自信がなさそうな顔をした。約一年半前、彼らはクエスト依頼でグールを討伐したことがある。その時は50体を相手にしたが、皮膚が硬く生命力の高いグールにとても苦戦した。当時、グールを倒し終えた頃にはアーサーは剣を握る握力すら残っておらずへとへとになっていた。グールは双子にとって苦手意識の残る魔物だった。そんな魔物が100体、彼らに向かって威嚇している。アーサーはため息をついて剣を構えた。

「とにかくやるしかないよね。…100体かあ、握力もつかなあ」

「雷なんて落としたら火事になっちゃうから落とせない…。弱っていない状態のグールと戦わないといけないわ。アーサー、大丈夫…?」

「うん、やってみる」

「あー、もう。風魔法を打ったら建物が崩壊しちゃうし、木製の家具が多すぎて火も雷もこわくて打てないよぉ」

「グールは毒耐性あるから毒魔法も効かないしね…。モニカは休憩してて。グールは僕がやるよ」

「力になれなくてごめんね。疲れたら一旦部屋を出て休憩しましょう。くれぐれも無理はしないでね?」

「うん。じゃ、いってくるよ。モニカは隅で待ってて。自分の身だけ守って」

「分かった」

モニカは椅子を引きずって部屋の隅へ移動した。椅子に座り、アーサーがグールと戦うところを見守る。兄が怪我をしてもすぐ回復できるように、アイテムボックスからエリクサーと増血薬を取り出した。そしていつでも援護できるよう右手には杖を握りしめている。

群れに近づくアーサーに複数のグールが飛び掛かった。刃が通らないんだろうなあと思いながらも、とりあえず回転斬りをして全てのグールに一太刀を浴びせた。

「えっ?」

「ん?!」

アーサーとモニカは目を疑った。剣を受けたグールの首が勢いよく飛んだのだ。びっくりして固まっているアーサーに大量の血しぶきが降りかかえう。アーサーは一撃で死んだグルーの死体と、自分の剣を握った手を交互に見た。

「あれっ?おっかしいな」

「アーサー!何をぼーっとしてるの?!囲まれてるわよ!」

「わ、ほんとだ」

突っ立っている間に数十体のグールがアーサーを取り囲んでいた。アーサーは慌てて弓を握り、グールの目に次々と矢を打つ。モニカの火魔法液を塗りこんだ矢じりに目を射抜かれたグールは、体内が焼けバタバタと倒れていった。

「わーすごいな火魔法液!威力バツグン!」

「グルルルルッ」

「っ!まずい前方ばかりに気を取られてた!」

順調に数を減らしていたアーサーだったが、突然背後から襲い掛かってきたグールに押し倒された。倒れているアーサーに生き残っているグールが襲い掛かる。

「ぐっ…!どけってばぁ!」

アーサーがのしかかっているグールに思いっきり蹴りを入れた。蹴りを食らったグールは天井まで飛び上がりベシャリと音を立てて床に落ちた。生きているが苦しそうに体を痙攣させている。

「んー?」

アーサーは自分の足と倒れているグールを見て首を傾げた。まだアーサーを囲っているグールに剣を振ると、いとも簡単に魔物は血を流す。以前あれほど苦戦した硬い皮膚が、まるで果物のようにサクサクと斬れた。

アーサーが100体のグールを殲滅するのに一時間もかからなかった。グールの血で真っ赤に染まった剣を拭き、同じく返り血でびっしょり濡れた顔をぬぐう。積み上げられた死体の山の中心で立つアーサーは、息ひとつ切らしていなかった。

「あれ?おかしいな。グールってこんなに弱かったっけ」

まだ信じられず、アーサーはグールの死体をじーっと見た。グールは以前戦ったものと変わらない。変わったものは…

「…そっか。僕が強くなったんだ」

2か月間のカミーユたちとの特訓、10か月間の学院での好敵手との研鑽。アーサーは自分が思っていたよりずっと強くなっていたようだ。自分の成長を実感し、アーサーは喜びで胸が震えた。その気持ちを共有したくて、星がこぼれおちそうな目で隅で座っているモニカの方を向いた。

「…あれ?」

だが、モニカはそこにはいなかった。あったものは椅子と、床に落ちたエリクサーと増血薬、そして…杖。アーサーの心臓がひゅんと音を立てて縮こまった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ガチャと異世界転生  システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!

よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。 獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。 俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。 単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。 ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。 大抵ガチャがあるんだよな。 幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。 だが俺は運がなかった。 ゲームの話ではないぞ? 現実で、だ。 疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。 そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。 そのまま帰らぬ人となったようだ。 で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。 どうやら異世界だ。 魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。 しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。 10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。 そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。 5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。 残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。 そんなある日、変化がやってきた。 疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。 その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。

『特別』を願った僕の転生先は放置された第7皇子!?

mio
ファンタジー
 特別になることを望む『平凡』な大学生・弥登陽斗はある日突然亡くなる。  神様に『特別』になりたい願いを叶えてやると言われ、生まれ変わった先は異世界の第7皇子!? しかも母親はなんだかさびれた離宮に追いやられているし、騎士団に入っている兄はなかなか会うことができない。それでも穏やかな日々。 そんな生活も母の死を境に変わっていく。なぜか絡んでくる異母兄弟をあしらいつつ、兄の元で剣に魔法に、いろいろと学んでいくことに。兄と兄の部下との新たな日常に、以前とはまた違った幸せを感じていた。 日常を壊し、強制的に終わらせたとある不幸が起こるまでは。    神様、一つ言わせてください。僕が言っていた特別はこういうことではないと思うんですけど!?  他サイトでも投稿しております。

伯爵家の次男に転生しましたが、10歳で当主になってしまいました

竹桜
ファンタジー
 自動運転の試験車両に轢かれて、死んでしまった主人公は異世界のランガン伯爵家の次男に転生した。  転生後の生活は順調そのものだった。  だが、プライドだけ高い兄が愚かな行為をしてしまった。  その結果、主人公の両親は当主の座を追われ、主人公が10歳で当主になってしまった。  これは10歳で当主になってしまった者の物語だ。

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

いらないスキル買い取ります!スキル「買取」で異世界最強!

町島航太
ファンタジー
 ひょんな事から異世界に召喚された木村哲郎は、救世主として期待されたが、手に入れたスキルはまさかの「買取」。  ハズレと看做され、城を追い出された哲郎だったが、スキル「買取」は他人のスキルを買い取れるという優れ物であった。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。