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淫魔編:ポントワーブでの日常
【162話】一時の別れ
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翌朝、アーサーとモニカは馬車でボルーノを店まで送った。ボルーノは双子が学院にいる間もしこしこエリクサーの薬を作ってくれていたらしく、70万本分のそれを双子の前にどさりと置いた。アイテムボックスに入るように、1000本分ずつ小分けにしてくれていた。トロワ開拓でかなり資産を削られたので全てを買い取ることはできなかったの。双子はとりあえず15万本分の薬素材を買い取ることにした。
「先生、ありがとう!小分けにしてくれてて助かったよぉ~」
「ホッホ。じゃろうじゃろう」
「すっごく助かるけど、無理だけはしないでね先生!」
「分かっておるよ。暇つぶしに作っとるだけじゃ」
大量の素材を、二人で汗をかきながらアイテムボックスに放り込んだ。アーサーはボルーノにお代の白金貨450枚を渡し、しばらく雑談を楽しんでから店を出た。
「じゃあね先生!」
「また遊びに来るからね!」
「待っておるぞい」
アーサーとモニカはその足で宿屋のおばあさんに会いに行った。宿に入ってきた双子を見て、おばあさんはがたりと椅子から立ちあがった。
「アーサー…モニカ…」
「おばあさん!帰ってきたよぉ!」
「あんたたち!!私に黙って1年も家をあけたね?出て行く前に一言あってもよかったんじゃないのかい!心配したんだよ!!」
「ごっ、ごめんなさい!」
「ったく…心配したんだよ?」
ブスッとしているおばあさんに何度も謝りながら、モニカは学院で買った雑誌をおみやげとして渡した。おばあさんは少し驚いた顔をしてから大事そうにそれを抱えた。
「ポントワーブでは売ってない雑誌だねえ。ありがとう」
「えへへ。おばあさんの好きなうわさ話がたくさん載ってるよ」
「ふふ。たからものがまた増えたよ」
「おおげさだなあばあさんは」
◇◇◇
双子がポントワーブに帰ってきた4日後の朝、双子が起床してダイニングへ降りると、カミーユたちが武装をして家を出る準備をしていた。シャナとユーリも仕事へ行く恰好をしている。そんな6人を見てアーサーとモニカがあからさまに落ち込んだ表情をした。カミーユは双子の頭をがしがしと撫でてからほっぺたを軽くつねる。
「むぎゅっ」
「むぃんっ」
「じゃあなお前ら。俺らは今日から長期任務に入る。しばらく帰って来ねえから、それまで良い子にしてろよ」
「え…?ポントワーブを出るの…?」
つねられた頬をさすりながらアーサーが尋ねると、カミーユが頷いた。
「ああ。東のダンジョン掃討をまとめて依頼されちまってな」
「はあ。この5日でだいぶ回復したけどそれでも魔力100パーに戻ってねえ…。ギルド本部はあたしらのことコキ使い過ぎなんだよ…」
珍しくリアーナがギルドに対して文句を言っている。相当疲れているようだ。モニカは心配そうにリアーナを見た。
(私たちと2vs2したときはそれほど魔力を使ってなかったわ。きっとそれまでに受けてた依頼でたくさん魔力を使ったのね。魔力コントロールが上手なリアーナが5日かかっても魔力満タンにならないって…。一体どんな依頼を受けてたのかな…)
「リアーナ、町を出る前にエーテル店へ行きましょうねェ。既製のエーテルじゃおそらく持たないわ」
「だな。久しぶりに行くか…」
「僕はユーリの店に行きたい。今の薬量じゃ心もとない」
「はぁ?!お前溢れるほど持ってるじゃねーか!!」
「一応各100袋ずつ持ってるけど…それでも不安」
「100袋て!!あたしなんて10袋ずつしか持ってねえぞ?!」
「それは持ってなさすぎだろお前!せめて30ずつ用意しとけ!」
「だって足りなくなったらジルにもらえばいいし」
「だからジルが多めに持ってんじゃねえか!いっつもお前がジルの薬取るから!」
「へへっ」
「へへっ、じゃねーよ」
カミーユはため息をつきながらリアーナの頭をぺちんと叩いた。それから双子に向き直る。
「アーサー、モニカ。お前らも暇なときにダンジョン掃討依頼受けとけよ。今のお前らはクラスと実力が違いすぎる」
「冒険者クラスを上げるのに一番効率がいいのがダンジョン掃討よォ。二人の実力はAクラスレベルだから…」
「いや、Bだ」
「過保護…」
「うるせえ。ま、ほんと暇な時でいいからB目指してがんばれ」
アーサーは首を傾げ、モニカは指を折ってクラスを数えた。
「僕たちが、Bクラス…?」
「S,A,B,C,D,E,F…えっ、4クラスも上じゃない!」
「そうだ。FからBまでクラスアップしようと思ったら二人で依頼完了証400枚必要だ。ダンジョンだと1回依頼完了するだけで一人5枚もらえるから、単純計算してダンジョン40回潜るだけでいい。400回依頼こなすよりずっと楽だろ?」
「ダンジョン40回…」
「無理に行かなくてもいいのよォ。まあ、できたら1か月に1回、ダンジョン掃討依頼を受けるのが理想かしらァ」
「1か月に1回ならいけるかも!」
「そうね!ダラダラ過ごしてたらなまっちゃうし、いいかもねそれ!」
双子は目を合わせて「うん!」と頷いた。
「カミーユ!僕たち頑張るよ!」
カミーユたちが双子にダンジョンを勧めた本当の理由は、いつか来る王族の罠に備えてだ。いくら強敵一体と戦えても、ダンジョンでの戦いは勝手が違う。狭い空間の中で一度に大多数の魔物と対峙しないといけないダンジョンは、場慣れしないとうまく戦えない。もしSランクダンジョンの指定依頼が来てもそれなりに戦えるようになるために、Fランクのダンジョンから徐々に慣らしていく必要がある。ダンジョン掃討依頼を受ける気になった双子を見て、カミーユたちは内心ほっとした。
「あっ!そうだカミーユ。実はモニカがね、聖魔法液っていうのを作ったんだけど…」
「聖魔法液?」
カミーユが聞き返すと、アーサーがアイテムボックスから聖魔法液と毒魔法液を取り出した。
「うん。エリクサーみたいに、スライムに魔法をかけて液状化したんだ。こっちが聖魔法液でこっちが毒魔法液。これだと属性付与の武器を持っていない人が使ったり、矢に塗れるから便利だと思って作ったんだ」
「へえ!すげえじゃねえか!」
「でね、毒魔法液は悪用されそうだからその気はないんだけど、聖魔法液を商人ギルドで売るのはどうかなーって考えてるんだ。どう思う?」
大人たちがしばらくの間黙り込んだように双子には見えたが、実際は唇をかすかに動かして話し合っていた。
《どう思う?俺は反対だ》
《だめ。王族にモニカの手の内を知らせたくないわ》
《あたしも反対だ。聖魔法を使えるなんてバレたら王族どころか他のめんどくせえやつらに目を付けられる》
《僕も反対》
《決まったな》
「アーサー、モニカ。やめといたほうがいい。確かにもし売ればかなり高く売れるだろう。おそらく、一本で金貨10枚」
「金貨10枚ぃ?!」
《おいカミーユいらんこと言うなよ!》
《金貨10枚どころか100枚でも売れるだろうねこれ》
「だが、高価なものを生み出せるってことはその分モニカに危険が及ぶってことだ。アーサー、モニカを危険には晒したくないだろう」
「うん。絶対いやだ」
「だったらやめとけ」
「わかった」
《あら、意外とすぐ引くのねェ》
《エリクサーで懲りてんだろう。だから売る前に俺らに相談したんだ》
《賢くなって…》
「よし、俺らはそろそろ行くが、他に聞きたいことはあるか?」
アーサーとモニカは首を横に振って「今のところは大丈夫!」と答えた。それを聞いた大人たちが立ちあがった。
「じゃあな。なんかあったらいつでもインコを飛ばして来いよ」
「ありがとう!!」
「私たち、ダンジョン掃討がんばってクラス上げとくね!」
「おう、期待してるぞ」
「無茶だけはすんなよ!!」
「うん!!」
最後にカミーユがシャナとユーリにハグをする。二人の頬にキスをして、申し訳なさそうに微笑んだ。
「シャナ、ユーリ、行ってくる。いつも家をあけてすまんな」
「私たちは大丈夫よ。どうか無事で帰ってきて」
「父さん、いってらっしゃい」
「…じゃ、行くか」
カミーユが声をかけると、リアーナは「うぃーす」といつもより覇気のない声で、カトリナとジルは頷いて荷物を持った。シャナとユーリも双子に別れの挨拶をして家を出る。双子は彼らの姿が見えなくなるまで、ずっと手を振り続けた。
「ばいばいみんなあ!!」
「またねー!!お仕事がんばってねー!!」
◇◇◇
「今回はAランクダンジョン3か所か。先月は2か所だったし、来月は4か所だったか?…ったく。俺らじゃなかったらとっくに死んでるぜ」
「Sランクダンジョンじゃないだけまし」
「Sランクダンジョンはこの国に3か所しかないもの。私たちを弱らせて弱らせて…最後に持ってくるつもりなのよォ…。良い性格してるわァ」
「……」
必要なものを買いそろえ、馬車に乗り込んだカミーユが疲れ切った声で呟いた。カトリナとジルもぐったりと背もたれにもたれかかっている。リアーナはカトリナに膝枕をしてもらい目を瞑っている。双子の前では元気に振舞っていたが、馬車の中では一言も喋らない。
(いつもうるさくてかなわんが、静かなこいつは調子が狂うぜ…。前の依頼で無理させすぎたか。1週間の休暇を与えてもこいつの魔力が回復しねえなんざ初めてだ)
Sクラス冒険者は、国から名誉と多額の報酬を与えられる代わりにその身を縛られる。彼らは指定依頼を断ることができない。特に国が直接依頼してきたものは、拒否した場合は処刑と依頼書に記載されているほど強制力がある。例え体がボロボロだったとしても、町を離れたくなくても…彼らは依頼を受諾する以外の選択肢を与えられていない。
「魔力持つかなー…。ちっ、ばあちゃん家行っときゃよかったぜ…」
「だからお前は別行動してばあさんち行けっつったろうが…」
「だってあいつらと遊びたかったんだもん…」
「リアーナ、アーサーとモニカに会えるの楽しみにしていたものねェ」
「このダンジョン地獄が終わったらすぐに行こう。おばあさんに魔力回復してもらわないとさすがにまずいよ」
「そんな悠長なこと言ってらんねえ。こいつは俺らの生命線だ。今すぐばあさんち行くぞ」
「そうねェ。行きましょう」
「だめだ。ばあちゃんち寄ってたら期日に間に合わなくなるだろ。あたしは大丈夫だから、このまま東向かうぞ」
「…本当に大丈夫なの?」
「おー…。任せとけっての。血反吐ぶちまけてでも人型の魔物はあたしが倒してやるからよ」
「先生、ありがとう!小分けにしてくれてて助かったよぉ~」
「ホッホ。じゃろうじゃろう」
「すっごく助かるけど、無理だけはしないでね先生!」
「分かっておるよ。暇つぶしに作っとるだけじゃ」
大量の素材を、二人で汗をかきながらアイテムボックスに放り込んだ。アーサーはボルーノにお代の白金貨450枚を渡し、しばらく雑談を楽しんでから店を出た。
「じゃあね先生!」
「また遊びに来るからね!」
「待っておるぞい」
アーサーとモニカはその足で宿屋のおばあさんに会いに行った。宿に入ってきた双子を見て、おばあさんはがたりと椅子から立ちあがった。
「アーサー…モニカ…」
「おばあさん!帰ってきたよぉ!」
「あんたたち!!私に黙って1年も家をあけたね?出て行く前に一言あってもよかったんじゃないのかい!心配したんだよ!!」
「ごっ、ごめんなさい!」
「ったく…心配したんだよ?」
ブスッとしているおばあさんに何度も謝りながら、モニカは学院で買った雑誌をおみやげとして渡した。おばあさんは少し驚いた顔をしてから大事そうにそれを抱えた。
「ポントワーブでは売ってない雑誌だねえ。ありがとう」
「えへへ。おばあさんの好きなうわさ話がたくさん載ってるよ」
「ふふ。たからものがまた増えたよ」
「おおげさだなあばあさんは」
◇◇◇
双子がポントワーブに帰ってきた4日後の朝、双子が起床してダイニングへ降りると、カミーユたちが武装をして家を出る準備をしていた。シャナとユーリも仕事へ行く恰好をしている。そんな6人を見てアーサーとモニカがあからさまに落ち込んだ表情をした。カミーユは双子の頭をがしがしと撫でてからほっぺたを軽くつねる。
「むぎゅっ」
「むぃんっ」
「じゃあなお前ら。俺らは今日から長期任務に入る。しばらく帰って来ねえから、それまで良い子にしてろよ」
「え…?ポントワーブを出るの…?」
つねられた頬をさすりながらアーサーが尋ねると、カミーユが頷いた。
「ああ。東のダンジョン掃討をまとめて依頼されちまってな」
「はあ。この5日でだいぶ回復したけどそれでも魔力100パーに戻ってねえ…。ギルド本部はあたしらのことコキ使い過ぎなんだよ…」
珍しくリアーナがギルドに対して文句を言っている。相当疲れているようだ。モニカは心配そうにリアーナを見た。
(私たちと2vs2したときはそれほど魔力を使ってなかったわ。きっとそれまでに受けてた依頼でたくさん魔力を使ったのね。魔力コントロールが上手なリアーナが5日かかっても魔力満タンにならないって…。一体どんな依頼を受けてたのかな…)
「リアーナ、町を出る前にエーテル店へ行きましょうねェ。既製のエーテルじゃおそらく持たないわ」
「だな。久しぶりに行くか…」
「僕はユーリの店に行きたい。今の薬量じゃ心もとない」
「はぁ?!お前溢れるほど持ってるじゃねーか!!」
「一応各100袋ずつ持ってるけど…それでも不安」
「100袋て!!あたしなんて10袋ずつしか持ってねえぞ?!」
「それは持ってなさすぎだろお前!せめて30ずつ用意しとけ!」
「だって足りなくなったらジルにもらえばいいし」
「だからジルが多めに持ってんじゃねえか!いっつもお前がジルの薬取るから!」
「へへっ」
「へへっ、じゃねーよ」
カミーユはため息をつきながらリアーナの頭をぺちんと叩いた。それから双子に向き直る。
「アーサー、モニカ。お前らも暇なときにダンジョン掃討依頼受けとけよ。今のお前らはクラスと実力が違いすぎる」
「冒険者クラスを上げるのに一番効率がいいのがダンジョン掃討よォ。二人の実力はAクラスレベルだから…」
「いや、Bだ」
「過保護…」
「うるせえ。ま、ほんと暇な時でいいからB目指してがんばれ」
アーサーは首を傾げ、モニカは指を折ってクラスを数えた。
「僕たちが、Bクラス…?」
「S,A,B,C,D,E,F…えっ、4クラスも上じゃない!」
「そうだ。FからBまでクラスアップしようと思ったら二人で依頼完了証400枚必要だ。ダンジョンだと1回依頼完了するだけで一人5枚もらえるから、単純計算してダンジョン40回潜るだけでいい。400回依頼こなすよりずっと楽だろ?」
「ダンジョン40回…」
「無理に行かなくてもいいのよォ。まあ、できたら1か月に1回、ダンジョン掃討依頼を受けるのが理想かしらァ」
「1か月に1回ならいけるかも!」
「そうね!ダラダラ過ごしてたらなまっちゃうし、いいかもねそれ!」
双子は目を合わせて「うん!」と頷いた。
「カミーユ!僕たち頑張るよ!」
カミーユたちが双子にダンジョンを勧めた本当の理由は、いつか来る王族の罠に備えてだ。いくら強敵一体と戦えても、ダンジョンでの戦いは勝手が違う。狭い空間の中で一度に大多数の魔物と対峙しないといけないダンジョンは、場慣れしないとうまく戦えない。もしSランクダンジョンの指定依頼が来てもそれなりに戦えるようになるために、Fランクのダンジョンから徐々に慣らしていく必要がある。ダンジョン掃討依頼を受ける気になった双子を見て、カミーユたちは内心ほっとした。
「あっ!そうだカミーユ。実はモニカがね、聖魔法液っていうのを作ったんだけど…」
「聖魔法液?」
カミーユが聞き返すと、アーサーがアイテムボックスから聖魔法液と毒魔法液を取り出した。
「うん。エリクサーみたいに、スライムに魔法をかけて液状化したんだ。こっちが聖魔法液でこっちが毒魔法液。これだと属性付与の武器を持っていない人が使ったり、矢に塗れるから便利だと思って作ったんだ」
「へえ!すげえじゃねえか!」
「でね、毒魔法液は悪用されそうだからその気はないんだけど、聖魔法液を商人ギルドで売るのはどうかなーって考えてるんだ。どう思う?」
大人たちがしばらくの間黙り込んだように双子には見えたが、実際は唇をかすかに動かして話し合っていた。
《どう思う?俺は反対だ》
《だめ。王族にモニカの手の内を知らせたくないわ》
《あたしも反対だ。聖魔法を使えるなんてバレたら王族どころか他のめんどくせえやつらに目を付けられる》
《僕も反対》
《決まったな》
「アーサー、モニカ。やめといたほうがいい。確かにもし売ればかなり高く売れるだろう。おそらく、一本で金貨10枚」
「金貨10枚ぃ?!」
《おいカミーユいらんこと言うなよ!》
《金貨10枚どころか100枚でも売れるだろうねこれ》
「だが、高価なものを生み出せるってことはその分モニカに危険が及ぶってことだ。アーサー、モニカを危険には晒したくないだろう」
「うん。絶対いやだ」
「だったらやめとけ」
「わかった」
《あら、意外とすぐ引くのねェ》
《エリクサーで懲りてんだろう。だから売る前に俺らに相談したんだ》
《賢くなって…》
「よし、俺らはそろそろ行くが、他に聞きたいことはあるか?」
アーサーとモニカは首を横に振って「今のところは大丈夫!」と答えた。それを聞いた大人たちが立ちあがった。
「じゃあな。なんかあったらいつでもインコを飛ばして来いよ」
「ありがとう!!」
「私たち、ダンジョン掃討がんばってクラス上げとくね!」
「おう、期待してるぞ」
「無茶だけはすんなよ!!」
「うん!!」
最後にカミーユがシャナとユーリにハグをする。二人の頬にキスをして、申し訳なさそうに微笑んだ。
「シャナ、ユーリ、行ってくる。いつも家をあけてすまんな」
「私たちは大丈夫よ。どうか無事で帰ってきて」
「父さん、いってらっしゃい」
「…じゃ、行くか」
カミーユが声をかけると、リアーナは「うぃーす」といつもより覇気のない声で、カトリナとジルは頷いて荷物を持った。シャナとユーリも双子に別れの挨拶をして家を出る。双子は彼らの姿が見えなくなるまで、ずっと手を振り続けた。
「ばいばいみんなあ!!」
「またねー!!お仕事がんばってねー!!」
◇◇◇
「今回はAランクダンジョン3か所か。先月は2か所だったし、来月は4か所だったか?…ったく。俺らじゃなかったらとっくに死んでるぜ」
「Sランクダンジョンじゃないだけまし」
「Sランクダンジョンはこの国に3か所しかないもの。私たちを弱らせて弱らせて…最後に持ってくるつもりなのよォ…。良い性格してるわァ」
「……」
必要なものを買いそろえ、馬車に乗り込んだカミーユが疲れ切った声で呟いた。カトリナとジルもぐったりと背もたれにもたれかかっている。リアーナはカトリナに膝枕をしてもらい目を瞑っている。双子の前では元気に振舞っていたが、馬車の中では一言も喋らない。
(いつもうるさくてかなわんが、静かなこいつは調子が狂うぜ…。前の依頼で無理させすぎたか。1週間の休暇を与えてもこいつの魔力が回復しねえなんざ初めてだ)
Sクラス冒険者は、国から名誉と多額の報酬を与えられる代わりにその身を縛られる。彼らは指定依頼を断ることができない。特に国が直接依頼してきたものは、拒否した場合は処刑と依頼書に記載されているほど強制力がある。例え体がボロボロだったとしても、町を離れたくなくても…彼らは依頼を受諾する以外の選択肢を与えられていない。
「魔力持つかなー…。ちっ、ばあちゃん家行っときゃよかったぜ…」
「だからお前は別行動してばあさんち行けっつったろうが…」
「だってあいつらと遊びたかったんだもん…」
「リアーナ、アーサーとモニカに会えるの楽しみにしていたものねェ」
「このダンジョン地獄が終わったらすぐに行こう。おばあさんに魔力回復してもらわないとさすがにまずいよ」
「そんな悠長なこと言ってらんねえ。こいつは俺らの生命線だ。今すぐばあさんち行くぞ」
「そうねェ。行きましょう」
「だめだ。ばあちゃんち寄ってたら期日に間に合わなくなるだろ。あたしは大丈夫だから、このまま東向かうぞ」
「…本当に大丈夫なの?」
「おー…。任せとけっての。血反吐ぶちまけてでも人型の魔物はあたしが倒してやるからよ」
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