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淫魔編:ポントワーブでの日常

【161話】ボルーノとの再会

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1年ぶりに会ったボルーノは、以前より痩せていたものの、双子が思っていたよりも元気そうだった。家に入ってきたボルーノに双子がそっと抱きついた。

「先生!!」

「来てくれてありがとう!!」

「ふぉっふぉ。二人とも元気そうじゃのう。それに背が伸びたかな?」

双子の成長にボルーノが目じりを下げる。アーサーとモニカは満面の笑顔を見せた。

「元気!!」

「先生!座って!!」

「カミーユたちに、ユーリ…勢ぞろいじゃのう」

「ようじいさん。久しぶりだな」

「久しぶりじゃのカミーユ。疲れた顔をしておるのぉ。睡眠不足と疲労が溜まっておる。ジル、リアーナ、カトリナ…お前さんらもじゃ。仕事のし過ぎじゃろうて。あとでユーリに薬を作ってもらいなさい。…おっこらせっと」

全員に声をかけながらボルーノがソファに腰かけた。カトリナがひざ掛けをかけてやり、リアーナが温かいお茶を渡した。

「こりゃまたびっぷ待遇じゃのう。まるで王様にでもなった気分じゃ。ふぉっふぉ」

「先生、薬屋やめちゃったの?」

「ちぃっとばかし疲れたから、店はユーリに任せることにしたんじゃ。じゃが薬を作るのはやめとらんよ。わしのペースで、わしの好きな薬を調合しておる。今の方が気楽で楽しいわい」

「じいさんはもともと85歳で薬屋やめるつもりだった。お前らとユーリが来たから今まで続けてたんだよな、じいさん」

「そうじゃ。ユーリも今では立派な薬師じゃ。これで安心して隠居できる」

「任せてください先生」

「頼もしいのう。で、アーサーとモニカ。この1年の話を聞かせておくれ。お前さんがいないこの町はちぃっとばかし退屈じゃったよ」

「うん!!」

双子は学院でのできごとをたくさん話した。ダフやライラなど、大好きな友人の話をしているときの二人はきらきらと目を輝かせていた。吸血鬼事件の話のときは…特にアーサーが寂し気な表情を浮かべ、どこか辛そうだった。今回もミモレスの話は伏せていたので、聞いていた全員がなぜ双子が敵の死をそこまで辛そうに話すのか不思議に思った。

「先生!見てほしいものがあるの!」

モニカが手を叩いてアーサーに合図をした。アーサーは頷き、アイテムボックスから増血薬を取り出した。モニカは薬を手のひらに乗せて「見ててね!」と言い、風魔法の歌を歌った。すると薬が凝縮され、ひとつの小さな粒となった。それを見てボルーノが目を見開いた。

「こ…これは…」

「じゃーん!!これで粉薬が嫌いな子どもも飲めちゃうよ!」

「おおお!!」

カトリナ以外の全員が新しい形の薬に驚きの声をあげた。特にユーリは「モニカ!それどうやるの?!やり方教えて!!」とものすごく食いついている。

「この形の薬…聞いたことがある…。確か…」

「私も見たことがあるわァ。ヴィラバンデ地区の隣を治めているフィール侯爵のみが作れる薬ね。どうしてモニカがその作り方を?」

「フィール侯爵?」

モニカが首を傾げたが、ミモレスの記憶を遡ったアーサーは、フィールという名がセルジュのことだと知っていた。

「モニカ。フィール侯爵ってセルジュ先生のことだよ。ミモレスが昔先生に爵位を与えたんだ。僕が知ってる中では男爵だったけど…。そっか、侯爵だったんだ先生」

「セルジュ?セルジュって吸血鬼の名前よねェ?あれ?まさか吸血鬼はフィール侯爵だったの?」

「うん」

「うそ…。フィール侯爵とオヴェルニー家は昔仲が良かったと聞いているわァ。一体いつから吸血鬼に乗っ取られて…」

「初めからだよカトリナ。200年前からフィール侯爵はずっとセルジュ先生だった」

「なんですって…?」

「おいアーサー、お前どうしてそこまで詳しい?」

「うっ…」

カミーユの鋭い問いかけにアーサーは言葉を詰まらせた。双子の正体を知っているカミーユには話してもいいが、それを知らないユーリの前ではミモレスのことを話せない。アーサーが意味ありげに首を横に振ると、察したカミーユが小さく頷いた。それを見ていたボルーノが話を薬に戻した。

「まあそこについてはいいじゃろう。ともかく…この薬を作れるというのは、とんでもない特技になるぞモニカ。粉が苦手なのは子どもに限らん。それに粒状の薬はかさばらんしのう。冒険者に喜ばれそうじゃ」

「そうだね。僕はいつもアイテムボックスが対状態異常の薬でぱんぱんだ」

「ジルは状態異常によええもんなあ!!」

「本当に…どこまでも成長しおるのぉ」

ボルーノはモニカが作った粒薬をつまんで微笑んだ。アーサーとモニカもにっこりと笑い、ボルーノに抱きついた。

「うん!!これからもいっぱい成長するよ!!」

「私たちの成長、見ててね先生!!」

「ふぉっふぉ」

その日ボルーノは双子の家でまったりと1日過ごした。カトリナが作ったご飯に大量の薬草を混ぜて食べ始めたので皆が「ええ…」と引いた声を出した。晩食を終え、アーサーはボルーノと一緒にお風呂に入り背中を流した。5年前よりずっと小さく見える骨の浮いた背中を見てこっそり涙を拭う。

「先生、きもちいい?」

「ああ、気持ちいいよアーサー。ありがとう」
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