上 下
134 / 718
学院編:オヴェルニー学院

【154話】アーサージュリアvsモニカウィルク3

しおりを挟む
「僕でしょ?モニカの弱点」

「え…?」

モニカは何をされたのか一瞬分からなかった。キスをされたことに気付き、ぶわぁぁと顔を真っ赤にする。全身から力が抜けて杖を手から離してしまった。

「あ、あ、あ、あ、あーさー?い、い、いったい、なにを」

「モニカごめん!!!」

「うっ…」

混乱しているモニカの腹にアーサーの剣が突き刺さる。それで戦いの場だと思い出したモニカは、口から大量の血を吐き出しながら兄に特大の雷を落とした。体力の限界だったアーサーはそれに耐えきれず、白目をむいてふらついた。だがすぐに意識を戻して回復魔法を自分にかけようとしているモニカのみぞおちに拳をのめり込ませた。意識を失う直前、モニカがアーサーを火だるまにしてばたりと倒れた。アーサーもめらめらと燃えながら地面に倒れこむ。

「……」

「……」

《……》

共倒れか、どちらかが立ちあがるか…観客が息を飲んで二人の勝負を見守った。

「くっ…」

「!」

ふらふらと起き上がったのはアーサーだった。立ちあがろうとしたが、力が残っておらず「ぐえっ」と変な声を出してまた地面に倒れた。がっくがくの腕でなんとか上体を起こし、剣を空にかざした。

審判が試合終了の合図を鳴らす。

「そこまで!アーサージュリアペアの勝利とします!!」

《こ…これは…》

《……》

あまりの死闘に観客席が静まり返っている。実況者であるリーノとニコロも言葉が見つからないようだ。校長先生が称賛の拍手をゆっくりと送ると、それにつられて他の観客も呆然としながら拍手した。拍手は会場中に広がり、興奮した歓声がアーサーとモニカ、ジュリアとウィルクに送られた。

「勝っ…た…」

アーサーはそう言って意識を失った。救急チームがアーサーとモニカを治療スペースへ移動させる。

《なんという戦いだったのでしょうか…!!アーサー選手とモニカ選手はもちろん!ジュリア選手とウィルク選手も…ほんとうに…ほんとうに、素晴らしい戦いを見せてくれました…!!》

実況しているリーノの声が震えている。泣いているようだった。ニコロなんてずるずる鼻水をすすりながらマイクに向かって話している。

《ええ…!人間離れした相手に立ち向かう姿…胸を打たれました…っ!》

《それに後半…二人がリタイアした時はモニカ選手が勝つと思っていたのですが…》

《アーサー選手とモニカ選手の接戦…すごすぎて実況するのを忘れてしまってました》

《にしてもアーサー選手…》

《さすが冒険者と言うべきか…勝つためなら手段を選ばない…とんでもない策を思いついたものです》

《よくもまあ戦いながらあんなことを思いついたものですね…!あとでモニカ選手にこっぴどく怒られそうですが…》

《あははは。間違いないですね》

《…ということで!これで寮対抗2vs2戦は終了です!優勝はアーサージュリアペア!!改めて、素晴らしい戦いを見せてくれた4人に拍手をお願いします!!》

◇◇◇
リリー寮控室。アーサーは、脚を組んで椅子に座っているモニカの前で正座していた。モニカの後ろにはジュリアが腕を組んで立っている。ウィルクは少し離れた場所でプルプルと震えながらその様子を見ていた。

「アーサー?」

「…はい…」

「私に何か言うことはない?」

「…姑息な真似をして申し訳ありませんでした…」

「ちがう。敵の弱点を突くのは戦いの上で最も大切なことよ。私たちだって師匠に聖水や聖魔法をばんばん使って追い込んでたでしょ。あなたのしたことを姑息だなんて思っていないわ」

「……」

「他に言うことはない?」

「…キスしてごめん…」

アーサーが消え入りそうな声でそう言った瞬間、控室の傍にある木に雷が落ちた。倒れた木が控室の窓を割る。部屋の端で立っているカーティス先生とザラ先生が顔を青くしている。

「ちがう」

「ええ…?ちがうのぉ…?」

「あなた、私が怒ってる理由本当に分からないの?」

「僕がモニカに有無を言わさずキスをして、びっくりしてるモニカに剣を刺したから怒ってるんでしょ…?ほんと、勝つためとはいえ君にひどいことをしたと…」

「ちがうって言ってんでしょうがぁぁ!!」

「ひゃぅ!!」

「うおぁ!」

「きゃー!」

控室のまわりに10本の雷が落ちた。割れた窓から吹雪が入ってくる。モニカは兄の胸ぐらを掴んでぐあんぐあん揺らした。

「私はねえ!!あんたが自分を大切にしないから怒ってんのよ!!精霊に?!吸血鬼に!!私!?何人に唇を奪われたら気が済むの?!勝つためだったら誰とでもキスするの?!なんでもするの?!」

「えっそっちぃ?!」

「当り前でしょう?!ただでさえあんたは自傷のけがあるのよ?!その上あんな…キス…まで誰とでもしてぇ…!!じゃあなに?!もしグレンダと戦ったらグレンダともキスするの?!」

「いや…グレンダはそんなことしなくても勝てるし…。さっきはああしないと勝てなかったから…」

「じゃあグレンダがすっごく強くてああしないと勝てなかったらするの?!」

「する…かも…」

「ぎゃーーーー!!そういうとこ!!そういうとこに怒ってんのよ!!!」

「ふぎぃぃっ」

「あんたは人の弱点を見抜くのが上手いわ!!特訓のときもジルがあなたに弱いって知ってたから捨て身でジルに抱きついたでしょう!!体に槍をブッ刺しながら!!!確かにああしないとジルに隙は生まれなかった!!今日だって私にはああしないと勝てなかったかもしれない!!でも!!いくらなんでも自分を大切にしてなさすぎるのよあんたは!!」

「ぐぇぇっ」

「ジルとの戦いも、今日の戦いも、勝たないと死ぬなんてことはないの!!あなたは真面目だから、勝負と言われたら勝たないといけないって思っちゃう!!だから自分がどんな目にあってでも勝とうとするけれど!!自分を捨てていいのは命がかかってる戦いだけにしなさい!!」

「ぅぐっ…ぅぐぁっ」

「いい?!必要以上に血を流しちゃだめ!!キスは好きな人としかしない!!体を張るのは命がかかってるときだけ!!約束して!!」

「モニカお姉さま!お兄さまが白目をむいてしまっています!!手を離してあげてください!!」

「はっ!」

モニカがぱっと手を離すと、アーサーが喉元を押さえてぜぇぜぇと荒い息をした。呼吸を整えてからモニカの約束に頷く。

「分かったよモニカ。約束する。君に無駄な心配かけないように気を付けるよ。モニカにひどいことしたのに、僕の心配をしてくれてありがとう」

「分かってくれたのならいいの」

モニカはニコっと笑ってアーサーの胸に手を当てた。

「あ、でもやっぱり私にキスをしたあとに剣をブッ刺したことは普通に腹が立ってるから、ちょっとお仕置きさせてもらうわね」

「えっ?…ぐぁっ!!」

「たぁっぷり毒魔法をかけておいたわ。…ご褒美になってないといいんだけど」

「ぎゃーーー!!!お兄さましっかりぃぃぃ!!!」

「アーサー様…申し訳ありません。私も少しお仕置きをさせてもらいます」

ジュリアがそう言ってアーサーを氷漬けにした。

「お、おねえさまーーーなにをぉぉぉ!!!」

しっかりとお灸を据えられたアーサーは、そのあとモニカに回復魔法をかけてもらい、閉会式でジュリアと表彰台に立った。談話室に戻るとリリー寮の生徒たちが4人を待っていた。優勝したアーサーたちと同じくらいモニカたちにも称賛が送られた。

大騒ぎしているところにビアンナ先生がやってきた。まだ制服のままの生徒たちと、血まみれの服を着ているアーサーたちを見て慌てて声をかける。

「あら!まだ盛装していないんですか?!もうパーティーが始まってしまいますよ!!早く支度しなさい!!」

年度最終日は毎年忙しい。夕方まで寮対抗戦、夜にパーティーが開催される。最高学年の生徒たちはこの日を最後に学院を卒業し、その他の生徒たちは2か月間の長期休暇に入る。
パーティーには生徒たちの両親も参加し、お世話になった教師や子の友人と挨拶を交わし友好を深める。パーティーが終わると生徒は両親と一緒に家に帰るようだ。リリー寮の生徒たちもすでに帰り支度をほとんど済ませているようで、談話室に彼らのアイテムボックスが並べられていた。

アーサーとモニカも急いで盛装に着替えパーティーが開かれるダンスホールへ向かった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ガチャと異世界転生  システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!

よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。 獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。 俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。 単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。 ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。 大抵ガチャがあるんだよな。 幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。 だが俺は運がなかった。 ゲームの話ではないぞ? 現実で、だ。 疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。 そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。 そのまま帰らぬ人となったようだ。 で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。 どうやら異世界だ。 魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。 しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。 10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。 そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。 5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。 残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。 そんなある日、変化がやってきた。 疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。 その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。

『特別』を願った僕の転生先は放置された第7皇子!?

mio
ファンタジー
 特別になることを望む『平凡』な大学生・弥登陽斗はある日突然亡くなる。  神様に『特別』になりたい願いを叶えてやると言われ、生まれ変わった先は異世界の第7皇子!? しかも母親はなんだかさびれた離宮に追いやられているし、騎士団に入っている兄はなかなか会うことができない。それでも穏やかな日々。 そんな生活も母の死を境に変わっていく。なぜか絡んでくる異母兄弟をあしらいつつ、兄の元で剣に魔法に、いろいろと学んでいくことに。兄と兄の部下との新たな日常に、以前とはまた違った幸せを感じていた。 日常を壊し、強制的に終わらせたとある不幸が起こるまでは。    神様、一つ言わせてください。僕が言っていた特別はこういうことではないと思うんですけど!?  他サイトでも投稿しております。

どうやら異世界ではないらしいが、魔法やレベルがある世界になったようだ

ボケ猫
ファンタジー
日々、異世界などの妄想をする、アラフォーのテツ。 ある日突然、この世界のシステムが、魔法やレベルのある世界へと変化。 夢にまで見たシステムに大喜びのテツ。 そんな中、アラフォーのおっさんがレベルを上げながら家族とともに新しい世界を生きていく。 そして、世界変化の一因であろう異世界人の転移者との出会い。 新しい世界で、新たな出会い、関係を構築していこうとする物語・・・のはず・・。

伯爵家の次男に転生しましたが、10歳で当主になってしまいました

竹桜
ファンタジー
 自動運転の試験車両に轢かれて、死んでしまった主人公は異世界のランガン伯爵家の次男に転生した。  転生後の生活は順調そのものだった。  だが、プライドだけ高い兄が愚かな行為をしてしまった。  その結果、主人公の両親は当主の座を追われ、主人公が10歳で当主になってしまった。  これは10歳で当主になってしまった者の物語だ。

いらないスキル買い取ります!スキル「買取」で異世界最強!

町島航太
ファンタジー
 ひょんな事から異世界に召喚された木村哲郎は、救世主として期待されたが、手に入れたスキルはまさかの「買取」。  ハズレと看做され、城を追い出された哲郎だったが、スキル「買取」は他人のスキルを買い取れるという優れ物であった。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。