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学院編:オヴェルニー学院

【154話】アーサージュリアvsモニカウィルク3

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「僕でしょ?モニカの弱点」

「え…?」

モニカは何をされたのか一瞬分からなかった。キスをされたことに気付き、ぶわぁぁと顔を真っ赤にする。全身から力が抜けて杖を手から離してしまった。

「あ、あ、あ、あ、あーさー?い、い、いったい、なにを」

「モニカごめん!!!」

「うっ…」

混乱しているモニカの腹にアーサーの剣が突き刺さる。それで戦いの場だと思い出したモニカは、口から大量の血を吐き出しながら兄に特大の雷を落とした。体力の限界だったアーサーはそれに耐えきれず、白目をむいてふらついた。だがすぐに意識を戻して回復魔法を自分にかけようとしているモニカのみぞおちに拳をのめり込ませた。意識を失う直前、モニカがアーサーを火だるまにしてばたりと倒れた。アーサーもめらめらと燃えながら地面に倒れこむ。

「……」

「……」

《……》

共倒れか、どちらかが立ちあがるか…観客が息を飲んで二人の勝負を見守った。

「くっ…」

「!」

ふらふらと起き上がったのはアーサーだった。立ちあがろうとしたが、力が残っておらず「ぐえっ」と変な声を出してまた地面に倒れた。がっくがくの腕でなんとか上体を起こし、剣を空にかざした。

審判が試合終了の合図を鳴らす。

「そこまで!アーサージュリアペアの勝利とします!!」

《こ…これは…》

《……》

あまりの死闘に観客席が静まり返っている。実況者であるリーノとニコロも言葉が見つからないようだ。校長先生が称賛の拍手をゆっくりと送ると、それにつられて他の観客も呆然としながら拍手した。拍手は会場中に広がり、興奮した歓声がアーサーとモニカ、ジュリアとウィルクに送られた。

「勝っ…た…」

アーサーはそう言って意識を失った。救急チームがアーサーとモニカを治療スペースへ移動させる。

《なんという戦いだったのでしょうか…!!アーサー選手とモニカ選手はもちろん!ジュリア選手とウィルク選手も…ほんとうに…ほんとうに、素晴らしい戦いを見せてくれました…!!》

実況しているリーノの声が震えている。泣いているようだった。ニコロなんてずるずる鼻水をすすりながらマイクに向かって話している。

《ええ…!人間離れした相手に立ち向かう姿…胸を打たれました…っ!》

《それに後半…二人がリタイアした時はモニカ選手が勝つと思っていたのですが…》

《アーサー選手とモニカ選手の接戦…すごすぎて実況するのを忘れてしまってました》

《にしてもアーサー選手…》

《さすが冒険者と言うべきか…勝つためなら手段を選ばない…とんでもない策を思いついたものです》

《よくもまあ戦いながらあんなことを思いついたものですね…!あとでモニカ選手にこっぴどく怒られそうですが…》

《あははは。間違いないですね》

《…ということで!これで寮対抗2vs2戦は終了です!優勝はアーサージュリアペア!!改めて、素晴らしい戦いを見せてくれた4人に拍手をお願いします!!》

◇◇◇
リリー寮控室。アーサーは、脚を組んで椅子に座っているモニカの前で正座していた。モニカの後ろにはジュリアが腕を組んで立っている。ウィルクは少し離れた場所でプルプルと震えながらその様子を見ていた。

「アーサー?」

「…はい…」

「私に何か言うことはない?」

「…姑息な真似をして申し訳ありませんでした…」

「ちがう。敵の弱点を突くのは戦いの上で最も大切なことよ。私たちだって師匠に聖水や聖魔法をばんばん使って追い込んでたでしょ。あなたのしたことを姑息だなんて思っていないわ」

「……」

「他に言うことはない?」

「…キスしてごめん…」

アーサーが消え入りそうな声でそう言った瞬間、控室の傍にある木に雷が落ちた。倒れた木が控室の窓を割る。部屋の端で立っているカーティス先生とザラ先生が顔を青くしている。

「ちがう」

「ええ…?ちがうのぉ…?」

「あなた、私が怒ってる理由本当に分からないの?」

「僕がモニカに有無を言わさずキスをして、びっくりしてるモニカに剣を刺したから怒ってるんでしょ…?ほんと、勝つためとはいえ君にひどいことをしたと…」

「ちがうって言ってんでしょうがぁぁ!!」

「ひゃぅ!!」

「うおぁ!」

「きゃー!」

控室のまわりに10本の雷が落ちた。割れた窓から吹雪が入ってくる。モニカは兄の胸ぐらを掴んでぐあんぐあん揺らした。

「私はねえ!!あんたが自分を大切にしないから怒ってんのよ!!精霊に?!吸血鬼に!!私!?何人に唇を奪われたら気が済むの?!勝つためだったら誰とでもキスするの?!なんでもするの?!」

「えっそっちぃ?!」

「当り前でしょう?!ただでさえあんたは自傷のけがあるのよ?!その上あんな…キス…まで誰とでもしてぇ…!!じゃあなに?!もしグレンダと戦ったらグレンダともキスするの?!」

「いや…グレンダはそんなことしなくても勝てるし…。さっきはああしないと勝てなかったから…」

「じゃあグレンダがすっごく強くてああしないと勝てなかったらするの?!」

「する…かも…」

「ぎゃーーーー!!そういうとこ!!そういうとこに怒ってんのよ!!!」

「ふぎぃぃっ」

「あんたは人の弱点を見抜くのが上手いわ!!特訓のときもジルがあなたに弱いって知ってたから捨て身でジルに抱きついたでしょう!!体に槍をブッ刺しながら!!!確かにああしないとジルに隙は生まれなかった!!今日だって私にはああしないと勝てなかったかもしれない!!でも!!いくらなんでも自分を大切にしてなさすぎるのよあんたは!!」

「ぐぇぇっ」

「ジルとの戦いも、今日の戦いも、勝たないと死ぬなんてことはないの!!あなたは真面目だから、勝負と言われたら勝たないといけないって思っちゃう!!だから自分がどんな目にあってでも勝とうとするけれど!!自分を捨てていいのは命がかかってる戦いだけにしなさい!!」

「ぅぐっ…ぅぐぁっ」

「いい?!必要以上に血を流しちゃだめ!!キスは好きな人としかしない!!体を張るのは命がかかってるときだけ!!約束して!!」

「モニカお姉さま!お兄さまが白目をむいてしまっています!!手を離してあげてください!!」

「はっ!」

モニカがぱっと手を離すと、アーサーが喉元を押さえてぜぇぜぇと荒い息をした。呼吸を整えてからモニカの約束に頷く。

「分かったよモニカ。約束する。君に無駄な心配かけないように気を付けるよ。モニカにひどいことしたのに、僕の心配をしてくれてありがとう」

「分かってくれたのならいいの」

モニカはニコっと笑ってアーサーの胸に手を当てた。

「あ、でもやっぱり私にキスをしたあとに剣をブッ刺したことは普通に腹が立ってるから、ちょっとお仕置きさせてもらうわね」

「えっ?…ぐぁっ!!」

「たぁっぷり毒魔法をかけておいたわ。…ご褒美になってないといいんだけど」

「ぎゃーーー!!!お兄さましっかりぃぃぃ!!!」

「アーサー様…申し訳ありません。私も少しお仕置きをさせてもらいます」

ジュリアがそう言ってアーサーを氷漬けにした。

「お、おねえさまーーーなにをぉぉぉ!!!」

しっかりとお灸を据えられたアーサーは、そのあとモニカに回復魔法をかけてもらい、閉会式でジュリアと表彰台に立った。談話室に戻るとリリー寮の生徒たちが4人を待っていた。優勝したアーサーたちと同じくらいモニカたちにも称賛が送られた。

大騒ぎしているところにビアンナ先生がやってきた。まだ制服のままの生徒たちと、血まみれの服を着ているアーサーたちを見て慌てて声をかける。

「あら!まだ盛装していないんですか?!もうパーティーが始まってしまいますよ!!早く支度しなさい!!」

年度最終日は毎年忙しい。夕方まで寮対抗戦、夜にパーティーが開催される。最高学年の生徒たちはこの日を最後に学院を卒業し、その他の生徒たちは2か月間の長期休暇に入る。
パーティーには生徒たちの両親も参加し、お世話になった教師や子の友人と挨拶を交わし友好を深める。パーティーが終わると生徒は両親と一緒に家に帰るようだ。リリー寮の生徒たちもすでに帰り支度をほとんど済ませているようで、談話室に彼らのアイテムボックスが並べられていた。

アーサーとモニカも急いで盛装に着替えパーティーが開かれるダンスホールへ向かった。
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