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学院編:オヴェルニー学院

【145話】ユリとコスメと毒とカツラ

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姫と王子が泣き止んで双子のもとから離れてから、アーサーはアイテムボックスから小さな箱を取り出した。モニカも同時に箱を取り出している。お互いに持っている箱を見て、双子は目を見合わせた。

「え?」

「あれ?」

「もしかして、モニカも用意してくれてたの?」

「うん…。サプライズで渡そうと思って」

「僕も…」

どうやら二人ともこっそりプレゼントを用意していたようだ。考えていることが一緒でクスクス笑いながらプレゼント交換をした。モニカは早速箱を開け、感嘆の声をあげた。

「わあ!かわいい!!」

「ユリの模様が施された髪飾りだよ。モニカはユリが大好きだし、髪が自分の一番すきなところって言ってたでしょ?だからこれにしたんだ」

モニカはさっそく髪につけてみた。きらきらした目で「どう?」と兄に尋ねる。

「うん!かわいいよ」

「わーん嬉しい!!ありがとうアーサー!!一生大切にするよぉ!!」

「喜んでもらえてうれしいなあ。じゃあ次は僕が開けるね」

「うん!開けて開けて!!」

「…え?なにこれ」

「コスメグッズよ!!冬限定のコスメなの!!この口紅とかね、きっとアビーに合うと思うのよぉ!!」

モニカは興奮気味にコスメをひとつひとつ解説した。談話室にいた生徒たちがざわざわしている。

「え…?アーサーってそういう…?」

「ああ、だから女の子のダンスもできるんだ…」

「なるほどな…だって昨日のダンスしてるときのアーサーの仕草、完璧に女の子だったもんな」

「でも普段は普通の男の子なのにね…」

「二重人格…?」

「ちょっ!!ストップ!すとーっぷ!!!」

まわりの声に危機感を感じ思わず弁解する。

「みんな!ちがうんだ!聞いて?!確かに僕は女装することがあるよ!でもそれはあくまで仕事でだから!決して趣味じゃないから!!」

「え?!まじで女装すんのかアーサー?!」

「見たい!!アーサーの女装見たい!!」

「あはは。墓穴掘ったねアーサー」

モニカがニヤニヤしながらアイテムボックスからカツラを取り出した。アーサーは顔を真っ青にして「う…うそでしょ…?」と後ずさりした。

「私のプレゼントを全部見てからね。コスメはアビーの分。で、アーサーの分はこれ」

モニカはどすぐろい液体が入った瓶を1本取り出した。

「モニカ、なに?それ…」

「私特製の毒魔法液よ。本当はこんなの渡したくないけど、アーサーが一番喜ぶものってこれしか思い浮かばなくて」

「ええええ!!モニカの毒魔法液?!え、うそーーー!!うわーーー!!!」

目から星屑が零れ落ちそうなほど高揚した声をあげ、モニカから毒魔法液を受け取った。早速フタを開けてこくりと一口飲む。

「わーー!!なんで今飲むのぉ!!」

「いやなんで兄ちゃんに毒なんかプレゼントしてんのモニカ?!」

リリー寮の生徒が兄妹の奇行に呆れかえった。アーサーは猛毒をくらってよだれを垂らしながら痙攣しているのに嬉しそうにニコニコしている。モニカが回復魔法をかけようとすると当然のように止められた。

「モニカ待って…!そんなすぐ治しちゃうなんてもったいないよ…こんな素晴らしい毒をさぁ…!うぷっ」

「ぎゃーーアーサーが吐血したぁぁぁ!!」

「アーサー、もういいでしょう?みんながドン引きしてるわよ」

「もうちょっと…あー…やばいねこれ。呼吸困難…あれ…?もしかして体内溶けてるかも…わー初めての感覚…モニカ毒魔法強くなったねえ…最高のプレゼントだよぉ…」

「体内溶けてる?!うそ!!早く治さないと!まずエリクサー飲んで!!」

嫌がっているアーサーの口に無理矢理エリクサーを突っ込んで飲ませながら、モニカが急いで回復魔法をかけた。解毒が終わったアーサーがぶすっとしている。

「もうちょっと味わってたかったなあ」

「だめ!この毒魔法液は没収!!やっぱりあげない!」

「えええ!!うそでしょ!!ちょうだいよ!!」

「体内が溶けるなんて知らなかったの!!どうしても欲しくなったら言ってくれたら飲ませてあげるから!うっかり私がいないところで飲まれたら困るわ!」

「むぅ…」

「天才の考えてることは分かんないわ…」

リリー寮の生徒の一人がそう呟くと、全員が大きく頷いた。モニカはため息をつきながら、再びアイテムボックスからカツラを取り出した。

「え…その話は終わったよねモニカ…?うそだよね」

「私のお姉ちゃんのかわいさをみんなに自慢したいの。それに、このコスメも使ってみたいし」

「う…うわああああ!!」

モニカに取り押さえられ無理やりカツラをつけさせられた。暴れるアーサーの上に馬乗りになり、プレゼントしたコスメでアーサーに化粧を施す。化粧が終わるころには、アーサーは諦めて不機嫌そうにじっとしていた。モニカは仕上げにリガルリリーの香水をふりかけて満足そうに笑った。

「はい!アビーのできあがり!じゃーんみんなどう?!私のお姉ちゃん、アビーよ!!ほらアビー、ご挨拶して」

「もうモニカ、いい加減にしてよ…」

「アビー?お願い、ちょっとでいいからちゃんとアビーして?」

モニカにおねだりをされたアーサーは、ため息をついてから少女の微笑みを浮かべた。ソファから立ち上がり、恭しく生徒たちに会釈する。

「みなさま、はじめまして。モニカの姉アビーですわ。どうぞよろしくお願いいたします」

「ひぐぅっ…!」

「なっ…な、な…」

「だめだ、アーサーと分かっててもドキドキしてしまうっ…」

男子たちがときめいている中、女子たちは興奮した声をあげていた。特にジュリアの興奮は常軌を逸していた。

「まあまあまあ!!アーサー様…このお姿のときはアビー様とおっしゃいますの?!なんて愛らしい!!なんとお美しい!!」

「ありがとうございますジュリア王女」

アビーの優しい微笑みにジュリアは変な気持ちになった。

(あらっ、私ったら何を女の子にドキッとしてしまっているのかしら。…いえ、彼女は男の子だわ。ドキッとして当然よね。大丈夫。私は変じゃないわ。危ない危ない。アビー様が完璧な女の子すぎて頭が混乱してしまったわ)

「お前ほんとは女なんじゃないかアーサー?」

男子生徒が疑わし気にアーサーの胸をぺたぺた触った。アーサーは呆れたように「男に決まってるじゃないか。今まで一緒にお風呂入ってただろ?」と返している。しばらく生徒たちに好き勝手眺められたり触らせたりしたあと、アーサーが妹に声をかけた。

「モニカ、もうアーサーに戻っていいかな?」

「ええ、いいわよ。化粧を落としてアーサーに戻って」

「はぁい」

カツラを取ってのそのそと洗面台へ向かうアーサーの後ろ姿を見ながら、男子生徒たちがほぉっとため息をついている。

「はあ、危ない。アーサーに恋に落ちてしまうところだった」

「男だと分かってても、あの可愛さはやばいな…」
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