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学院編:オヴェルニー学院

【140話】浮かれきった雰囲気

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年に一度の夜のダンスパーティー。寮の垣根を越えて生徒も先生もダンスと豪華な食事を楽しむ日。学院には古くからの言い伝えがあり、このダンスパーティーで恋人になった人たちは愛が冷めることなく一生を添い遂げられるという。生徒たちだけでなく、先生たちや使用人たちもこの日に愛の告白をするとかしないとか。

女子生徒は一週間前から体重を気にして筋トレや食事制限をし始める。週末に髪を切り、高級化粧品やアクセサリーを実家から送ってもらいパーティーに備えていた。男子生徒も同じようなもので、体を鍛え始めたり鏡の前でじっと自分の姿を眺めたりしている。

生徒たちの間で漂う浮かれた雰囲気のせいでこの一週間は授業がままならないのだが、先生も浮かれているので誰も注意する人はいなかった。ビアンナ先生でさえ廊下を歩いているときにダンスのステップを踏みながらターンしていたらしい。

ダンスパーティーの日は午後の授業が休みになる。昼食を終えたあと全員がシャワー室に駆け込んだ。汗を流し、良い香りのする石鹸で髪と体を洗う。リリー寮の女子はモニカに風魔法で髪を乾かしてもらえたおかげでいつもより時間短縮できて喜んだ。モニカがアーサーに化粧をしてもらおうとしたところをジュリアに引き留められる。

「モニカ様、お待ちください」

「え?どうしましたか王女」

「今日はわたくしにお化粧をさせていただきたいのです。ふふふ」

ジュリア王女の趣味は、読書、乗馬、そして化粧だ。実は初めてモニカと出会ったときに隣に座ったのは、彼女の端正で化粧映えしそうな顔立ちに惹かれたからというのも一つの理由だった。その後モニカがあまりに魔法が使えなさ過ぎて興味を失ってしまっていたが、剣術対抗戦以降いつ化粧をさせてもらおうかと機会を伺っていたようだ。

王族しか手に入れられない最高級の化粧品とジュリアの手腕で、モニカは絶世の美少女と呼ばれてもおかしくないほど美しくなった(おそらくジルが見たら悶絶したあと息絶えてしまうだろう)。寝室で準備をしていたリリー寮の女子たちはそんなモニカを見てキャーキャー騒ぎ立てた。ジュリアは「あああ…!なんて美しいのモニカ様ぁ…!!」と感激しすぎて涙を流していた。

「ん?なんか女子寝室が騒がしいな」

一方男子寝室では、男子生徒たちが一生懸命髪をセットしたり香水を手首に付けていた。鏡の前で髪をいじっていたチャドが女子寝室から聞こえる「キャーーーー!!」という声に反応する。ノアがニヤニヤしながら答えた。

「毎年こんな感じだろ?誕生日パーティーと比べものにならないくらい気合入れてお洒落してんだろうよ」

「ダンスパーティーの時のグレンダとドリーなんて鼻血出るほど可愛いもんな。ジュリア王女はいつもちゃんと化粧してるからあんまり変わらねえけど」

「今年はそれに加えてモニカがいるもんな。あー、楽しみ」

「まじで楽しみだわぁ」

他の生徒たちに鏡を占領されているので、アーサーは何もせずにぼぉっとベッドに寝転んでいた。そこにウィルク王子が紙袋を抱えてやってくる。

「お兄さまお兄さま!!」

「ん?どうしたのウィルク」

「あの!これ、仕立て屋に頼んで用意したんです!お兄さまの盛装!」

「え?!いいの?ありがとうウィルク」

「実は僕と色違いなんです…気に入っていただけたら嬉しいです」

紙袋の中には、美しい刺繍が施されたウェストコート、コート、ブリーチズ※、シャツ、クラヴァット※、絹靴下が入っていた(※ブリーチズ:太腿部分が膨らんだ半ズボン。※クラヴァット:首のまわりに巻く装飾用のスカーフ状の布)。コート、ウェストコート、ブリーチズはダークブランで、落ち着いた雰囲気を出しながらも刺繍によって華やかさがある。ウィルクはさらにアイテムボックスから新品のブーツを取り出してアーサーに渡した。

「ウィルク…すっごく素敵だよ!本当にもらっていいの?」

「はい!!是非!!」

「うわぁありがとう!!」

アーサーは弟をぎゅーっと抱きしめ、早速その服を着てみた。上等な服に見合うようにしないとと、チャドの隣に無理矢理入り込んで髪をセットし始めた。そんなアーサーをウィルクが嬉しそうに眺めてから、彼自身もアーサーの隣に立って身なりを整える。チャドはアーサーを鏡越しにちらりと見て「くっそー俺も負けてらんねえ!」と念入りに髪や服装をチェックした。

夜8時、半日かけてお洒落をした生徒と先生がダンスホールに集まる。ダンスパーティーの始まりだ。
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