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学院編:オヴェルニー学院
【139話】ライラ復活
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モニカの回復魔法もあり、ライラは10日ほど療養しただけで完全復活した。寮に戻った彼女に真っ先に飛びついたのはジュリアだった。
「ライラ!!!」
「じゅ、ジュリア王女!わ、わ、私なんかにだ、だ、抱きつくなんて!!」
モニカ、アーサー、チャド、ノア、他のリリー寮の生徒もライラの傍に駆け寄った。みんなに注目されてライラは顔を真っ赤にしている。ジュリアは彼女にしがみつきながら声を震わせた。
「ライラ…無事でよかった…!」
「王女、あの時は、み、みっともないところをお見せしてすみませんでした…」
「何を言っているの!あの時のあなたほど胸を打たれたものはないわ。あなたはこの国の宝よ」
「お…おうじょぉ…!」
ライラにとって、これほど嬉しい言葉はない。ブワッと涙が溢れ声を出して泣いた。それにつられてジュリアもエンエンと泣く。二人が落ち着くまで、生徒たちは急かすことなく見守っていた。
「モ、モニカ。私のことを助けてくれてありがとう」
「ううん!ライラこそ、私たちのことを助けに来てくれてありがとう」
「わ、私は何もできなかったよ…」
「いいえ。あなたのおかげで時間をかせぐことができたのよ。感謝してもしきれないわ」
「おうじょぉ…!!」
彼女たちを見ていたチャドが踵を返して寮を出ようとしたので、ノアがあとをついていった。
「お、おい!ライラに声をかけなくていいのか?!」
ノアが声をかけてもチャドは答えない。ずかずかと歩いて寮を出たと思ったら、扉の前でしゃがみこんだ。顔を両手で覆い「あ~~~…」と情けない声を出している。ノアは何も言わず隣に立ち、チャドが落ち着くのを待った。ズズっと鼻をすする音が聞こえる。目を真っ赤にしているチャドと目が合ったので、ノアはニヤっとして足で相棒を小突いた。
「泣いてんのか?お?」
「うっせ!…あ~俺だっせぇ…」
「何がださいんだよ。バカだなお前」
「んだとぉ?」
「無事を泣いて喜ぶことの、どこがダサいっつってんの」
「…なんだよお前、かっけえこと言うなよ」
「はぁ?俺はかっこいいことしか言ったことないけど?」
「はぁ?」
しばらく睨み合ったあと、プッと噴き出し二人で笑った。ノアがげしげしとチャドを蹴って茶化し、チャドがその足を掴んでノアを転ばせる。しばらくふざけ合ったあと、ノアがチャドの前に手を差し出した。
「ほら、もう落ち着いたろ。談話室に戻るぞ」
「…おう」
立ちあがったチャドが「目腫れてねえか?」とノアに聞く。ノアは「大丈夫だって」と答えて談話室のドアを開け、チャドの背中を蹴ってライラの元まで連れて行った。
◇◇◇
「ねえライラ!!」
ある昼食時、アーサーが食事中のライラに顔を寄せた。突然キラッキラの美少年が目の前に現れたことによる衝撃で、ライラはアーサーの顔面に頬張っていた肉を噴き出した。
「……」
「……」
「わぁぁぁ!!!ごごごごめんなさいアーサー!!!うわああどうしよう殺されるぅぅう!!モニカと王女とその他大勢の女子に殺されちゃうよぉぉぉぉ!!!」
「だ…大丈夫だよライラ!びっくりさせちゃってごめんね!」
アーサーは困ったように笑いながら、肉まみれになった顔をナフキンで拭いた。「殺される…殺される…」と頭を抱えて震えているライラの肩に手を置き、目をキラキラさせて本題を切り出した。
「ねえライラ!君、A級アーチャーなんでしょ?!」
「え…あ、うん…」
「一緒に弓の練習しない?!僕、ライラの弓を引くところ見てみたいなあ!」
「わ、私なんかでいいの…?私、アーサーより下手だよ…?」
「でもこの学院で誰よりも弓が上手だって聞いたよ!ねえ行こうよ!」
「う…うん…。え?あ、あ、アーサー…私の手を握らないで…こここ殺されちゃう…。あ、アーサー!?ちょっ、ちょっと!手を握ったまま廊下を走らないでぇぇ!!ほほほほらみんなが見てる…!殺意がこもった目で女の子たちがわわわ私を睨んでるからぁぁぁ~!!!」
ライラの言葉に耳を貸さず、アーサーは彼女の手を引き廊下を突っ切った。訓練場に着いてようやく手を離してもらえた。二人が手を繋いで訓練場に行くのを目撃した生徒たちがぞろぞろと見物にやってくる。人だかりができている訓練場を見てまた生徒が増え、その生徒たちが友人を呼ぶので訓練場の周囲に大勢の生徒が集まった。
「アーサーとライラが弓対決するってよ!!」
「え!まじで?!すげええ!!」
「ライラが弓引くとこ見れるの?!」
「ライラは魔法クラスだから弓術大会にも出られないし…彼女が誰かと対決するところはもう見られないと思ってた!!」
「ねえどっちが勝つと思う?!」
「俺はライラ!」
「わたしはアーサーくん!」
見物客が勝手に盛り上がっており、ライラは「んひぃぃっ…」と半べそをかいた。アーサーは彼らを全く気にしていない様子で、「さあ、やろうよライラ!」といつも通りの調子だ。
「ねえライラ、まずは的の中心に何本矢を射れるかやろうよ!」
「わ、分かったぁ…」
こんなにワクワクした顔をされたらさすがのライラも断ることができない。しぶしぶ弓を握り、的の前に立った。ちらっとアーサーを見ると「準備はいい?」と聞かれた。ライラが頷くとニコーっと笑ってから的の方を見て弓を引いた。一瞬にしてアーサーの表情が変わる。真剣で、静か。ざわっとライラの闘争心に火が付いた。深呼吸し、彼女も本気で弓を引いた。
「いくよ」
「うん」
ダン、と1本目の矢が的に当たる。二人とも見事中心を射抜いている。2本目、3本目…次々と矢が中心に吸い込まれていく。10本射たところでアーサーとライラが顔を見合わせた。二人ともお互いの実力に興奮しているようだ。思わず二人は歓声をあげた。
「わーーーー!!!」
「きゃーーーー!!!」
「ライラ!君凄いね!!!矢を引く速さが尋常じゃない!!」
「アーサーもすごい!!!こんなに正確に射れる人は見たことがないわ!!!」
動かない的の中心に矢を射ることは当然のことかとでも言うように、二人とも10本全ての矢が中心に刺さっていた。それを見ていた生徒たちはぽかんと口を開いていた。
「な…なんだこれ…」
「え?矢ってあんな中心に当たるものだっけ?」
「いやいや…私この前4本当たって褒められましたけど…」
「さすがA級アーチャー…」
「…と万能アーサー…」
アーサーはライラの手を握ってぴょんぴょん飛び跳ねながら、次の提案をした。
「ねえライラ!次はちょっと戦ってみない?エリクサーはたっぷり持ってるから」
「え?!ほんと?!」
「うん!エリクサーで即時回復できる攻撃まででやってみよ!」
「うん!やるぅ!!」
すっかり夢中になったライラは観客の目を忘れてノリノリで対人戦に賛成した。二人は離れて立ち、アーサーが空高く矢を射る。矢が地面に刺さった瞬間、二人は弓を引いた。スピードはライラの方が速い。アーサーの胴体を狙って3本同時に矢を飛ばしたが、アーサーに軽々躱される。不安定な体勢でアーサーも弓を引く。2本の矢がライラめがけて飛んできた。
(あの体勢でこんなに正確に矢を飛ばせるなんて…!すごいわアーサー!!)
(ライラすごい!!挙動一つ一つに無駄がない!!一瞬でも気を抜けない!)
(楽しい!!)
(楽しい!!)
ライラが3本同時を3回射たあと、弓がひどくしなるほど力を込めて一本の矢を打った。9本の矢に気を取られていたアーサーに目にも止まらない速さの矢が飛んでくる。気付いたときにはもう遅い。その矢はアーサーの腹を貫いた。
「っ!」
それでもライラは攻撃の手を止めない。次々と矢を射てアーサーを混乱させようとした。
「え…?」
さきほどまでアーサーがいた場所に誰もいない。ライラは慌てて振り返った。
(後ろっ…!)
「上だよ」
「!」
ライラの耳元で風の切る音がした。足元に激痛が走る。ちらりと目を向けると両足の甲に深く矢が刺さっていた。
「ちっ!」
(いつの間に飛んでたのっ…!なんて跳躍力…なんて素早さ…!それに…戦い慣れてる!くっ、動けないっ…!)
アーサーがライラの目の前に着地した。羽が生えているように、軽やかに。二人が近距離で弓を引く。
「……」
「……」
「どうする?射る?」
「そ、そうね、じゃあこの矢を射て終わりにしましょうか」
「分かった」
二人とも全力を込めて最後の矢を射た。ライラの肩、アーサーの腕に矢が刺さる。近距離だったためどちらの矢も体を貫通した。アーサーもライラも、痛みを感じていないような満面の笑みを浮かべている。アーサーは自分に刺さった矢を引き抜いてライラに抱きついた。
「ライラー!!!すっっっっごく楽しかったよぉぉぉ!!ありがとぉぉ!!」
「わたしもぉぉぉ!!!とってもとっても、楽しかったぁぁぁ!!!」
「またやろうよ!!」
「うん!!やるぅ!!」
「ちょっとアーサー!何してんの?!」
近くを通りかかったモニカとジュリアが、人混みをかき分けて訓練場の中に入ってきた。血を流している二人を見てだいたい何をしていたのか察したモニカは、やれやれとため息をつきながらライラに回復魔法をかけてあげた。
「アーサー…。ライラは病み上がりなのよ?なんでまた血を流させてるのよ…」
「ううっ…ごめんなさい…」
「最近ライラを見てソワソワしてると思ったら…弓対決をしたかったのね」
「はい…」
「ライラ、大丈夫?」
覚えたてのつたない回復魔法でアーサーを治癒しながら、ジュリアがライラに声をかけた。ライラはにっこり笑って「大丈夫です!」と元気いっぱい答えた。
「あ、アーサーとの弓勝負、とってもとっても楽しかったです!」
「僕も楽しかったよぉー!最高だよライラ。ねえ、僕が卒業するまで毎日しない?」
「したい!!わ、私、アーサーほど優秀な弓使いに出会ったことがないわ!是非毎日お、お手合わせ願いたい!!」
「あらあら、ライラは意外と好戦的なのね」
興奮しっぱなしのライラを見てジュリアがクスクスと笑った。
アーサーが学院を去るまで、毎日とはいかなくても3日に1回はライラと弓を打ち合った。二人の実力はほぼ互角だったので、お互いに実力を高め合うことができた。卒業するころにはアーサーとライラは親友と呼べるほど仲良くなっていた。
「ライラ!!!」
「じゅ、ジュリア王女!わ、わ、私なんかにだ、だ、抱きつくなんて!!」
モニカ、アーサー、チャド、ノア、他のリリー寮の生徒もライラの傍に駆け寄った。みんなに注目されてライラは顔を真っ赤にしている。ジュリアは彼女にしがみつきながら声を震わせた。
「ライラ…無事でよかった…!」
「王女、あの時は、み、みっともないところをお見せしてすみませんでした…」
「何を言っているの!あの時のあなたほど胸を打たれたものはないわ。あなたはこの国の宝よ」
「お…おうじょぉ…!」
ライラにとって、これほど嬉しい言葉はない。ブワッと涙が溢れ声を出して泣いた。それにつられてジュリアもエンエンと泣く。二人が落ち着くまで、生徒たちは急かすことなく見守っていた。
「モ、モニカ。私のことを助けてくれてありがとう」
「ううん!ライラこそ、私たちのことを助けに来てくれてありがとう」
「わ、私は何もできなかったよ…」
「いいえ。あなたのおかげで時間をかせぐことができたのよ。感謝してもしきれないわ」
「おうじょぉ…!!」
彼女たちを見ていたチャドが踵を返して寮を出ようとしたので、ノアがあとをついていった。
「お、おい!ライラに声をかけなくていいのか?!」
ノアが声をかけてもチャドは答えない。ずかずかと歩いて寮を出たと思ったら、扉の前でしゃがみこんだ。顔を両手で覆い「あ~~~…」と情けない声を出している。ノアは何も言わず隣に立ち、チャドが落ち着くのを待った。ズズっと鼻をすする音が聞こえる。目を真っ赤にしているチャドと目が合ったので、ノアはニヤっとして足で相棒を小突いた。
「泣いてんのか?お?」
「うっせ!…あ~俺だっせぇ…」
「何がださいんだよ。バカだなお前」
「んだとぉ?」
「無事を泣いて喜ぶことの、どこがダサいっつってんの」
「…なんだよお前、かっけえこと言うなよ」
「はぁ?俺はかっこいいことしか言ったことないけど?」
「はぁ?」
しばらく睨み合ったあと、プッと噴き出し二人で笑った。ノアがげしげしとチャドを蹴って茶化し、チャドがその足を掴んでノアを転ばせる。しばらくふざけ合ったあと、ノアがチャドの前に手を差し出した。
「ほら、もう落ち着いたろ。談話室に戻るぞ」
「…おう」
立ちあがったチャドが「目腫れてねえか?」とノアに聞く。ノアは「大丈夫だって」と答えて談話室のドアを開け、チャドの背中を蹴ってライラの元まで連れて行った。
◇◇◇
「ねえライラ!!」
ある昼食時、アーサーが食事中のライラに顔を寄せた。突然キラッキラの美少年が目の前に現れたことによる衝撃で、ライラはアーサーの顔面に頬張っていた肉を噴き出した。
「……」
「……」
「わぁぁぁ!!!ごごごごめんなさいアーサー!!!うわああどうしよう殺されるぅぅう!!モニカと王女とその他大勢の女子に殺されちゃうよぉぉぉぉ!!!」
「だ…大丈夫だよライラ!びっくりさせちゃってごめんね!」
アーサーは困ったように笑いながら、肉まみれになった顔をナフキンで拭いた。「殺される…殺される…」と頭を抱えて震えているライラの肩に手を置き、目をキラキラさせて本題を切り出した。
「ねえライラ!君、A級アーチャーなんでしょ?!」
「え…あ、うん…」
「一緒に弓の練習しない?!僕、ライラの弓を引くところ見てみたいなあ!」
「わ、私なんかでいいの…?私、アーサーより下手だよ…?」
「でもこの学院で誰よりも弓が上手だって聞いたよ!ねえ行こうよ!」
「う…うん…。え?あ、あ、アーサー…私の手を握らないで…こここ殺されちゃう…。あ、アーサー!?ちょっ、ちょっと!手を握ったまま廊下を走らないでぇぇ!!ほほほほらみんなが見てる…!殺意がこもった目で女の子たちがわわわ私を睨んでるからぁぁぁ~!!!」
ライラの言葉に耳を貸さず、アーサーは彼女の手を引き廊下を突っ切った。訓練場に着いてようやく手を離してもらえた。二人が手を繋いで訓練場に行くのを目撃した生徒たちがぞろぞろと見物にやってくる。人だかりができている訓練場を見てまた生徒が増え、その生徒たちが友人を呼ぶので訓練場の周囲に大勢の生徒が集まった。
「アーサーとライラが弓対決するってよ!!」
「え!まじで?!すげええ!!」
「ライラが弓引くとこ見れるの?!」
「ライラは魔法クラスだから弓術大会にも出られないし…彼女が誰かと対決するところはもう見られないと思ってた!!」
「ねえどっちが勝つと思う?!」
「俺はライラ!」
「わたしはアーサーくん!」
見物客が勝手に盛り上がっており、ライラは「んひぃぃっ…」と半べそをかいた。アーサーは彼らを全く気にしていない様子で、「さあ、やろうよライラ!」といつも通りの調子だ。
「ねえライラ、まずは的の中心に何本矢を射れるかやろうよ!」
「わ、分かったぁ…」
こんなにワクワクした顔をされたらさすがのライラも断ることができない。しぶしぶ弓を握り、的の前に立った。ちらっとアーサーを見ると「準備はいい?」と聞かれた。ライラが頷くとニコーっと笑ってから的の方を見て弓を引いた。一瞬にしてアーサーの表情が変わる。真剣で、静か。ざわっとライラの闘争心に火が付いた。深呼吸し、彼女も本気で弓を引いた。
「いくよ」
「うん」
ダン、と1本目の矢が的に当たる。二人とも見事中心を射抜いている。2本目、3本目…次々と矢が中心に吸い込まれていく。10本射たところでアーサーとライラが顔を見合わせた。二人ともお互いの実力に興奮しているようだ。思わず二人は歓声をあげた。
「わーーーー!!!」
「きゃーーーー!!!」
「ライラ!君凄いね!!!矢を引く速さが尋常じゃない!!」
「アーサーもすごい!!!こんなに正確に射れる人は見たことがないわ!!!」
動かない的の中心に矢を射ることは当然のことかとでも言うように、二人とも10本全ての矢が中心に刺さっていた。それを見ていた生徒たちはぽかんと口を開いていた。
「な…なんだこれ…」
「え?矢ってあんな中心に当たるものだっけ?」
「いやいや…私この前4本当たって褒められましたけど…」
「さすがA級アーチャー…」
「…と万能アーサー…」
アーサーはライラの手を握ってぴょんぴょん飛び跳ねながら、次の提案をした。
「ねえライラ!次はちょっと戦ってみない?エリクサーはたっぷり持ってるから」
「え?!ほんと?!」
「うん!エリクサーで即時回復できる攻撃まででやってみよ!」
「うん!やるぅ!!」
すっかり夢中になったライラは観客の目を忘れてノリノリで対人戦に賛成した。二人は離れて立ち、アーサーが空高く矢を射る。矢が地面に刺さった瞬間、二人は弓を引いた。スピードはライラの方が速い。アーサーの胴体を狙って3本同時に矢を飛ばしたが、アーサーに軽々躱される。不安定な体勢でアーサーも弓を引く。2本の矢がライラめがけて飛んできた。
(あの体勢でこんなに正確に矢を飛ばせるなんて…!すごいわアーサー!!)
(ライラすごい!!挙動一つ一つに無駄がない!!一瞬でも気を抜けない!)
(楽しい!!)
(楽しい!!)
ライラが3本同時を3回射たあと、弓がひどくしなるほど力を込めて一本の矢を打った。9本の矢に気を取られていたアーサーに目にも止まらない速さの矢が飛んでくる。気付いたときにはもう遅い。その矢はアーサーの腹を貫いた。
「っ!」
それでもライラは攻撃の手を止めない。次々と矢を射てアーサーを混乱させようとした。
「え…?」
さきほどまでアーサーがいた場所に誰もいない。ライラは慌てて振り返った。
(後ろっ…!)
「上だよ」
「!」
ライラの耳元で風の切る音がした。足元に激痛が走る。ちらりと目を向けると両足の甲に深く矢が刺さっていた。
「ちっ!」
(いつの間に飛んでたのっ…!なんて跳躍力…なんて素早さ…!それに…戦い慣れてる!くっ、動けないっ…!)
アーサーがライラの目の前に着地した。羽が生えているように、軽やかに。二人が近距離で弓を引く。
「……」
「……」
「どうする?射る?」
「そ、そうね、じゃあこの矢を射て終わりにしましょうか」
「分かった」
二人とも全力を込めて最後の矢を射た。ライラの肩、アーサーの腕に矢が刺さる。近距離だったためどちらの矢も体を貫通した。アーサーもライラも、痛みを感じていないような満面の笑みを浮かべている。アーサーは自分に刺さった矢を引き抜いてライラに抱きついた。
「ライラー!!!すっっっっごく楽しかったよぉぉぉ!!ありがとぉぉ!!」
「わたしもぉぉぉ!!!とってもとっても、楽しかったぁぁぁ!!!」
「またやろうよ!!」
「うん!!やるぅ!!」
「ちょっとアーサー!何してんの?!」
近くを通りかかったモニカとジュリアが、人混みをかき分けて訓練場の中に入ってきた。血を流している二人を見てだいたい何をしていたのか察したモニカは、やれやれとため息をつきながらライラに回復魔法をかけてあげた。
「アーサー…。ライラは病み上がりなのよ?なんでまた血を流させてるのよ…」
「ううっ…ごめんなさい…」
「最近ライラを見てソワソワしてると思ったら…弓対決をしたかったのね」
「はい…」
「ライラ、大丈夫?」
覚えたてのつたない回復魔法でアーサーを治癒しながら、ジュリアがライラに声をかけた。ライラはにっこり笑って「大丈夫です!」と元気いっぱい答えた。
「あ、アーサーとの弓勝負、とってもとっても楽しかったです!」
「僕も楽しかったよぉー!最高だよライラ。ねえ、僕が卒業するまで毎日しない?」
「したい!!わ、私、アーサーほど優秀な弓使いに出会ったことがないわ!是非毎日お、お手合わせ願いたい!!」
「あらあら、ライラは意外と好戦的なのね」
興奮しっぱなしのライラを見てジュリアがクスクスと笑った。
アーサーが学院を去るまで、毎日とはいかなくても3日に1回はライラと弓を打ち合った。二人の実力はほぼ互角だったので、お互いに実力を高め合うことができた。卒業するころにはアーサーとライラは親友と呼べるほど仲良くなっていた。
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