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魔女編:ポントワーブでの休息
【88話】絶品シチュー
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家の中に入ると、棚にたくさんのチーズが並べられていた。チーズの側面には《ブグルチーズ》と彫られている。
「ブグルチーズ?」
「そう、ブグル、俺の名前さ!」
「へー!」
「ブグルさん、200ブロックいただけますか?」
アーサーが尋ねると、ブグルは首を大きく縦に振った。
「助かる!!実はいつものお得意さんが今月買ってくれなくてね…在庫が余って本当に困っていたんだ」
「それは大変ですね」
「いや!しかし!そのおかげで君たちにチーズを渡せる!きっとお得意さんもそう思って今月は遠慮したんだろう!」
「前向きですね」
「はは!それだけが取り柄だからな!!」
ガハハと笑い、ブグルはチーズ200ブロックをモニカに渡した。アーサーは代金は金貨200枚を支払った。
「おや、まだいたのかい」
後ろから声がしたので振り返ると、牛の世話をしていた女性が立っていた。
「おかえり母さん!」
「ただいまブグル。この子たちにチーズを売ってあげたかい?」
「ああ!200ブロックも買ってくれた!」
「なんだって?!それはありがたいねえ」
「私たちも助かりました!ありがとうございます」
「嬢ちゃんたち、もう暗いし、今晩はうちへ泊まっていきな」
おばさんはエプロンを付けながらそう言った。双子は「えっ、いいんですか?」と驚いた顔をしたが、「いいんだよ!」とニコっと笑った。
「中心地からこんなところまでチーズを買いに来てくれたんだ。そのお礼だよ。おいしいご飯作ってあげる」
「わあ!ありがとうおばさん!」
「ななな母さん!!そんな!!同棲はまだ早いんじゃないか?!俺にだって心の準備が…!!」
「うん。あんたはちょっと黙ってようか。…ごめんね嬢ちゃん。うちの息子、牛とあたしの顔しかほとんど見ずに育ってきたから、ちぃっとばかしこじらせちまっててね…。ま、根は良い奴だし、手を出すほどの度胸もないから安心して」
「は、はい…」
「今からごはん作るから、風呂入っておいで。ブグル、この子たちに寝衣とタオル出してやんな」
「ああ!分かった!」
ブグル家の小さい浴槽に浸かり、双子は冷えた体を温めた。湯は白く濁っていて浸かった肌がスベスベする。
「これ、温泉かなあ?にごり湯?」
「気持ちいいねぇ。体もあったまる」
「それはミルク風呂だ!!」
大声と共に浴室の扉が開く。扉の向こうには素っ裸のブグルが立っていた。
「えっ…」
「さあ詰めてくれ!俺も入るから!」
「きゃ、きゃ、きゃああああああ!!!」
「わああああああ!!!」
モニカとアーサーはブグルに石鹸を投げつけて追い出した。ブグルはなぜ嫌がられているのか分からない様子で「なぜだあああ!!」と叫んでいる。アーサーがブグルの背中を蹴り浴室の扉を閉めた。
「カ、カミーユが言ってたこと、今実感した…!男の人とお風呂入るの、やだ…!!」
「モニカのはだかを見られると思ったら、すごくいやな気持になった…!」
ブグルは生まれたときから今までずっとこの家で育った。友だちもおらず、話す相手と言えば母親と牛だけ。今のアーサーとモニカ以上に一般常識を身につけていなかった。今回のお風呂事件も決して悪気があったわけではない。ただ、仲良くなりたくて入ろうとしただけだ。
なぜ追い出されたのか分からないまま、母親の元へ行き事情を話すと頭にゲンコツを食らった。お風呂から上がった二人に、母親とブグル二人そろって頭を下げた。事情を聞いた二人は笑ってブグルを許した。
「それにしても、あんた男の子だったんだねえ…あたしゃ気付かなかったよ…」
「ややこしくてごめんなさい。定期的にこの格好をしなきゃいけなくて…」
「いや、いいんだいいんだ。さあ、お待たせ。ミルクたっぷりのシチューだよ」
おばさんは大きな鍋をテーブルにドンと置いた。中を覗くと、まだクツクツと音を立てているシチューがたっぷり入っていた。
「わあああ!!おいしそう!!」
「たんまり食べな!パンもいっぱいあるよ!」
「いただきます!!」
とれたてのミルクを使ったシチューは、今まで食べたどのシチューよりもおいしかった。一口食べたあと、アーサーとモニカは何も言わずに黙々とスプーンを口に運んだ。鍋に入っていたシチューがあっという間になくなった。
「いい食べっぷりだねえ!!」
「はっ!!おいしくてつい食べすぎちゃった!!おばさんとブグルはしっかり食べられた?!」
「ああ!俺もたくさん食べたぞ!」
「今まで食べてきたシチューで一番おいしかった!!」
至福の表情を浮かべてくったりしている双子を見て、おばさんとブグルは嬉しそうにほほ笑んだ。
「そんなに喜んでもらえたら嬉しいな!なあ、母さん!!」
「ああ、そうだねえ。嬉しいねえ」
「あっ!そうだ、おばさん。お風呂にたまってたお湯、あれは温泉?」
モニカが尋ねると、おばさんが首を横に振った。
「ちがうよ。あれはミルク風呂。湯にちっとミルクを混ぜてるんだ。気持ちよかっただろ?」
「ミルク風呂ォ!?」
「すっごく気持ちよかったぁ!!体がポカポカしたよ!!」
「だろ?うちでは毎日ミルク風呂だ。入りたくなったらまたおいで」
「行くぅ!!」
4人は楽しくおしゃべりをした。2人っきりで生活していたブグルたちにとって、寂しかったなにかが満たされる時間だった。
翌朝、アーサーとモニカはブグルに叩き起こされた。
「アビー!モニカ!そりすべりをしよう!!」
「うぅ…」
「早く起きないか!!」
「今何時ぃ…?」
「朝5時だ!このお寝坊さんめ!」
「…あと2時間寝かせて」
「何を言っているんだ?!そんなに寝てどうするんだ!」
ブグルに揺り動かされてアーサーは鬱陶しそうに顔をしかめてモニカにしがみついた。モニカは枕に顔を押し付けて「朝から元気すぎるよぉ…」と唸っている。30分ほど寝ようと粘ったが、起きたほうが楽だと気付いた二人はいやいやベッドから起き出した。
化粧を済ませたアーサーとモニカが部屋から出てくると、おばさんが「おはよう!」と挨拶をした。
「おはようおばさん…」
「どうしたんだいモニカ。朝からげんなりした顔をして」
「ブグルが朝から元気で疲れちゃった…」
「ごめんねえ…。友だちができてはしゃいじまって」
テーブルの上にパンとチーズ、コーンスープが並べられる。アーサーとモニカは幸せそうに口を動かした。
「はぁ、おばさんの出してくれる料理は全部おいしい」
「あはは!あたしが料理上手なんじゃなくて、材料が良いんだ」
「どっちもだよ!」
「ありがとねえ」
「あれ?ブグルは?」
「ああ。ブグルはソリを用意してるよ。あんたらと遊びたいんだとさ」
「ソリ…」
「そうだ!そりすべりをするんだ!君たちと!俺で!」
外からブグルの声が聞こえてきた。
「さあいこう!あっちにちょうどいい勾配がある!!そりすべりにはもってこいだ!その上昨晩さらさらの雪が降った!今しないでいつするんだ!」
家のドアも窓も全て閉まっているのに、ブグルの声が家の中にまで鳴り響く。アーサーとモニカはコーンスープを飲み干し、パンを齧りながら家の外へ出た。寒さにぶるっと体が震える。ブグルは木で作られた手作りのソリを2台引きずりながら双子を案内した。
「ブグルチーズ?」
「そう、ブグル、俺の名前さ!」
「へー!」
「ブグルさん、200ブロックいただけますか?」
アーサーが尋ねると、ブグルは首を大きく縦に振った。
「助かる!!実はいつものお得意さんが今月買ってくれなくてね…在庫が余って本当に困っていたんだ」
「それは大変ですね」
「いや!しかし!そのおかげで君たちにチーズを渡せる!きっとお得意さんもそう思って今月は遠慮したんだろう!」
「前向きですね」
「はは!それだけが取り柄だからな!!」
ガハハと笑い、ブグルはチーズ200ブロックをモニカに渡した。アーサーは代金は金貨200枚を支払った。
「おや、まだいたのかい」
後ろから声がしたので振り返ると、牛の世話をしていた女性が立っていた。
「おかえり母さん!」
「ただいまブグル。この子たちにチーズを売ってあげたかい?」
「ああ!200ブロックも買ってくれた!」
「なんだって?!それはありがたいねえ」
「私たちも助かりました!ありがとうございます」
「嬢ちゃんたち、もう暗いし、今晩はうちへ泊まっていきな」
おばさんはエプロンを付けながらそう言った。双子は「えっ、いいんですか?」と驚いた顔をしたが、「いいんだよ!」とニコっと笑った。
「中心地からこんなところまでチーズを買いに来てくれたんだ。そのお礼だよ。おいしいご飯作ってあげる」
「わあ!ありがとうおばさん!」
「ななな母さん!!そんな!!同棲はまだ早いんじゃないか?!俺にだって心の準備が…!!」
「うん。あんたはちょっと黙ってようか。…ごめんね嬢ちゃん。うちの息子、牛とあたしの顔しかほとんど見ずに育ってきたから、ちぃっとばかしこじらせちまっててね…。ま、根は良い奴だし、手を出すほどの度胸もないから安心して」
「は、はい…」
「今からごはん作るから、風呂入っておいで。ブグル、この子たちに寝衣とタオル出してやんな」
「ああ!分かった!」
ブグル家の小さい浴槽に浸かり、双子は冷えた体を温めた。湯は白く濁っていて浸かった肌がスベスベする。
「これ、温泉かなあ?にごり湯?」
「気持ちいいねぇ。体もあったまる」
「それはミルク風呂だ!!」
大声と共に浴室の扉が開く。扉の向こうには素っ裸のブグルが立っていた。
「えっ…」
「さあ詰めてくれ!俺も入るから!」
「きゃ、きゃ、きゃああああああ!!!」
「わああああああ!!!」
モニカとアーサーはブグルに石鹸を投げつけて追い出した。ブグルはなぜ嫌がられているのか分からない様子で「なぜだあああ!!」と叫んでいる。アーサーがブグルの背中を蹴り浴室の扉を閉めた。
「カ、カミーユが言ってたこと、今実感した…!男の人とお風呂入るの、やだ…!!」
「モニカのはだかを見られると思ったら、すごくいやな気持になった…!」
ブグルは生まれたときから今までずっとこの家で育った。友だちもおらず、話す相手と言えば母親と牛だけ。今のアーサーとモニカ以上に一般常識を身につけていなかった。今回のお風呂事件も決して悪気があったわけではない。ただ、仲良くなりたくて入ろうとしただけだ。
なぜ追い出されたのか分からないまま、母親の元へ行き事情を話すと頭にゲンコツを食らった。お風呂から上がった二人に、母親とブグル二人そろって頭を下げた。事情を聞いた二人は笑ってブグルを許した。
「それにしても、あんた男の子だったんだねえ…あたしゃ気付かなかったよ…」
「ややこしくてごめんなさい。定期的にこの格好をしなきゃいけなくて…」
「いや、いいんだいいんだ。さあ、お待たせ。ミルクたっぷりのシチューだよ」
おばさんは大きな鍋をテーブルにドンと置いた。中を覗くと、まだクツクツと音を立てているシチューがたっぷり入っていた。
「わあああ!!おいしそう!!」
「たんまり食べな!パンもいっぱいあるよ!」
「いただきます!!」
とれたてのミルクを使ったシチューは、今まで食べたどのシチューよりもおいしかった。一口食べたあと、アーサーとモニカは何も言わずに黙々とスプーンを口に運んだ。鍋に入っていたシチューがあっという間になくなった。
「いい食べっぷりだねえ!!」
「はっ!!おいしくてつい食べすぎちゃった!!おばさんとブグルはしっかり食べられた?!」
「ああ!俺もたくさん食べたぞ!」
「今まで食べてきたシチューで一番おいしかった!!」
至福の表情を浮かべてくったりしている双子を見て、おばさんとブグルは嬉しそうにほほ笑んだ。
「そんなに喜んでもらえたら嬉しいな!なあ、母さん!!」
「ああ、そうだねえ。嬉しいねえ」
「あっ!そうだ、おばさん。お風呂にたまってたお湯、あれは温泉?」
モニカが尋ねると、おばさんが首を横に振った。
「ちがうよ。あれはミルク風呂。湯にちっとミルクを混ぜてるんだ。気持ちよかっただろ?」
「ミルク風呂ォ!?」
「すっごく気持ちよかったぁ!!体がポカポカしたよ!!」
「だろ?うちでは毎日ミルク風呂だ。入りたくなったらまたおいで」
「行くぅ!!」
4人は楽しくおしゃべりをした。2人っきりで生活していたブグルたちにとって、寂しかったなにかが満たされる時間だった。
翌朝、アーサーとモニカはブグルに叩き起こされた。
「アビー!モニカ!そりすべりをしよう!!」
「うぅ…」
「早く起きないか!!」
「今何時ぃ…?」
「朝5時だ!このお寝坊さんめ!」
「…あと2時間寝かせて」
「何を言っているんだ?!そんなに寝てどうするんだ!」
ブグルに揺り動かされてアーサーは鬱陶しそうに顔をしかめてモニカにしがみついた。モニカは枕に顔を押し付けて「朝から元気すぎるよぉ…」と唸っている。30分ほど寝ようと粘ったが、起きたほうが楽だと気付いた二人はいやいやベッドから起き出した。
化粧を済ませたアーサーとモニカが部屋から出てくると、おばさんが「おはよう!」と挨拶をした。
「おはようおばさん…」
「どうしたんだいモニカ。朝からげんなりした顔をして」
「ブグルが朝から元気で疲れちゃった…」
「ごめんねえ…。友だちができてはしゃいじまって」
テーブルの上にパンとチーズ、コーンスープが並べられる。アーサーとモニカは幸せそうに口を動かした。
「はぁ、おばさんの出してくれる料理は全部おいしい」
「あはは!あたしが料理上手なんじゃなくて、材料が良いんだ」
「どっちもだよ!」
「ありがとねえ」
「あれ?ブグルは?」
「ああ。ブグルはソリを用意してるよ。あんたらと遊びたいんだとさ」
「ソリ…」
「そうだ!そりすべりをするんだ!君たちと!俺で!」
外からブグルの声が聞こえてきた。
「さあいこう!あっちにちょうどいい勾配がある!!そりすべりにはもってこいだ!その上昨晩さらさらの雪が降った!今しないでいつするんだ!」
家のドアも窓も全て閉まっているのに、ブグルの声が家の中にまで鳴り響く。アーサーとモニカはコーンスープを飲み干し、パンを齧りながら家の外へ出た。寒さにぶるっと体が震える。ブグルは木で作られた手作りのソリを2台引きずりながら双子を案内した。
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