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魔女編:ポントワーブでの休息

【86話】ご褒美

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雪遊びを終え、アーサーとモニカは服屋へ向かった。入店した可愛らしい少女二人に気付き、店主がにこやかに声をかける。

「おや、モニカ、アーサー、いらっしゃい。今日はアビーの日かい?」

「うん!今週いっぱいはアビーだよ」

「そうかいそうかい。ゆっくり選んでね」

ポントワーブでアビーの姿に驚く人はもういない。それほどまでにアーサーの女装は違和感がないのだ。モニカとアーサーはさっそく女性用の服が並んでいる場所へ行った。アーサーは服を体の前へ当てて鏡を見た。

「ねえモニカ見て。このモフモフしたポンチョ、良くない?」

「いいわね!何の毛皮かしら…すごく暖かそう!」

「それはイナリの毛皮だよ。ジッピンって国からのお取り寄せさ。おすすめだよ」

「モニカ、色違いで買おうよ!」

「いいわね!」

アーサーはダークブラウン、モニカはベージュ色のそれを籠に入れた。他にも毛皮のついたマントや、マフラー、手袋、耳当て、帽子、ブーツなど、冬用の衣服を籠一杯になるまで選んだ。

「うん!これだとアーサーの時もアビーの時も使えそう」

「そうね。どっちの時でも似合うよぉ。かわいいよお私のお姉ちゃん」

「モニカは本当にアビーが好きだなあ」

じゃれあいながら、双子は籠を店主に渡し会計をした。二人合わせて金貨90枚となりモニカとアーサーは少しびっくりした。

「わぁ…結構かかったね…?」

「うん…まあ、これからもずっと着るし、いいんじゃない…?」

アーサーが白金貨9枚を渡すと、店主はホカホカ顔で受け取った。いつもはそんなことしないのに店の外まで見送ってくれた。よほど嬉しかったのだろう。
アーサーとモニカは早速ポンチョを羽織り、久しぶりのポントワーブを散歩した。

「んんん!このポンチョ、本当に暖かい!」

寒さで鼻を赤くしたモニカが、ポンチョを顔に寄せて気持ちよさそうな顔をしている。アーサーはモニカの手が震えていることに気付いて手袋を取り出した。

「モニカ、手袋も付ける?」

「つけるぅ!マフラーも付けたい!」

「せっかくだったら帽子もつけちゃおう!」

「わーい!」

道端で真新しい衣服を身に着け、お互いくるりと回転してファッションショーをした。通りすがりの町民がクスクスと笑いながら二人に声をかける。

「おお、モニカ、アビー!新しい服か?似合ってるじゃねえか」

「あらあらモコモコして可愛いわねえ!」

「でしょお?さっき買ったの!暖かいよぉ!」

「見てるこっちもあったかくなってくらぁ!汚さねえようにしろよ!」

「じゃあねえ」

「はーい!ばいばい!」

話しかけてきた夫婦に手を振ってから、双子はカフェに入った。おしゃれな音楽が流れている暖かい店内で、ホットチョコレートとフレンチトーストを注文した。2か月ぶりに食べる甘いものに、双子のほっぺが落ちそうだ。

「ポントワーブはやっぱり最高だよぉ…」

「ねー」

「お前ら今までどこいってたんだい?」

とろけている双子にカフェの店主が声をかけた。アーサーが「ちょ、ちょっとね…」と言葉を濁すと、「まあどこでもいいんだけどさ」と洗っている皿に目を戻した。

「…にしても、冬場の皿洗いはこたえるな…。水は冷たいし、手は荒れるし…」

「大変そうだねえ」

「おっとすまない。お客さんの前でこんなこと言っちゃあいけないなあ」

「ううんいいの!手伝おうか?」

「気持ちだけもらっとくよ。お前らは俺のうまいメシ食ってとろけてな」

「えへへ。もうとろけてる~」

にへらと笑いながらアーサーが答えた。モニカはフレンチトーストを食べながら「ねえ、このトーストってどうやって作ってるのぉ?」と尋ねた。

「卵とミルクに浸してから焼くんだよ。簡単だからやってみな」

「やってみる!ありがとう!」

モニカは過去に受けた依頼紙の裏にフレンチトーストのレシピをメモした。

「アビー!私の作るフレンチトースト、楽しみにしててね!」

「うん!すごく楽しみ!」

◇◇◇
待ち合わせの時間になり、双子はレストランへ足を運んだ。店内ではすでにカミーユたちが待っていた。今日は全員普段着を身に付けていてくつろいだ様子だ。二人がテーブルに駆け寄ると、葉巻を吸っていたカミーユが「おお、来たか」と手を上げた。

「帰って早々アビーか?クセになってんじゃねえだろうな…?」

「ち、ちがうよ!!来週トロワに行くから練習してるの!!」

「アビー、言葉遣いもちゃんとしなさァい」

「ふぎぃ…」

アビーになっていると、カトリナにしごかれた地獄の1か月を思い出す。アビーに厳しいのは他の誰でもない、カトリナだ。アーサーは気合を入れ直して姿勢や表情をより女の子に寄せて見せた。

「ちがうわ。来週トロワに行くから練習しているの」

「合格よォ」

「ほっ…」

「ってかアビーお前、化粧うまいなあ?あたしよりうまいんじゃねえか?」

「そうなの!アビーったら私よりお化粧上手なんだよ!」

「そうかな…?照れるなあ」

「はらたつほどなんでも出来んだなおまえは」

カミーユはそう言ってから店主を呼び、酒と料理を注文した。

「おっさん、ビール樽ごとここに持ってきてくれねえか?」

「仕方ないですねえ。特別ですよ?」

店主はしばらくしてからビール樽を持って来た。カミーユたちが座っているテーブルの横にドスンと置く。

「全部飲んでくださいね!」

「心配すんな、足りねえくらいだよ。ありがとな、おっさん」

「いえいえ。ごゆっくりどうぞ」

カミーユたちは大ジョッキにビールを注ぎ、双子たちはオレンジジュースが入ったグラスを手に持った。

「アーサー…今はアビーか。あとモニカ。改めて言う。2か月間よく頑張ったな。今日はご褒美だ。好きなだけ食え!」

「わーーーい!!」

「かんぱーーーい!!」

乾杯をしたあとゴクゴクと飲み物を飲む。大人たちは鼻の下に白い泡をつけて「ぷはぁー!!」と幸せそうな声を漏らした。

「やっとうまいビールが飲めた。ばあさんの手作りビールは獣の味がすんだよ…」

「あれ、魔獣の血がたっぷり入ってるらしいぞ!」

「ブッ!!」

「嫌なことを聞いちゃったわァ…」

しばらく談話を楽しんだ後、アーサーがカミーユに尋ねた。

「カミーユたちは明日から何をするの?ポントワーブにいる?」

「いや。家に帰ったらギルド本部からたんまり手紙が届いてたからな…。明日から早速町を出て依頼の毎日だ」

「げえー。あのおっさんまじ容赦ねえな!」

「難しい依頼は全部僕たちにまわすからね」

「そうなんだぁ…」

しょぼんとしている双子に、今度はジルが「君たちはどうするの?」と聞き返した。

「来週はトロワへ行って。それからはしばらくはポントワーブでまったりしようと思ってるよ!」

「そうか。ここのところバタバタしてたもんね。ゆっくり休んで」

「うん!」

「お待たせしました。肉の丸焼きと、サラダとスープと…」

店主が次々と大もりの料理をテーブルに並べていく。アーサーとモニカはナイフとフォークを持ってよだれを垂らした。全ての料理が並び飛びつこうとしたらカミーユに止められた。

「まだだぞ…」

「ごくり」

「まだだ…」

「じゅる…」

「よし、食え!」

「いただきまぁす!!」

ばくばくとおいしい料理を口いっぱい頬張る双子を見て、カミーユたちは嬉しそうに笑った。

「なあカミーユ、さっきなんで焦らしたんだ?」

「特に理由はねえ。よだれ垂らすこいつが面白かったから焦らしてみた」

「ふふ。カミーユったら。この子たちで遊んじゃだめじゃない」

「二人は本当においしそうに食べるな。見てて気持ちがいいよ」

大人たちが見守る中、アーサーとモニカはむしゃむしゃと食べ、追加の料理まで注文した。満足気におなかを叩いたころには、テーブルの上に天井につくほど皿が積みあがっていた。見物客が「良い食いっぷりだぁ!!」と手を叩いて喜んだ。ちなみに飲食代を支払って財布が空っぽになってしまったカミーユは、シャナに怒られないかとビクビクしながら家に帰ったという。
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