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魔女編:Fクラスクエスト旅

【64話】ミノタウロスとハーピー

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 ミノタウロスはスィフィシュ町から南へ2時間移動した草原に棲息していた。
 アーサーとモニカは木の陰に隠れ、ミノタウロスを観察する。二足歩行で武器を手に持つその魔物は、明らかに手ごわそうだった。

「見える範囲だけでも10体はいるわね…」
「うん…オークより絶対手ごわそう」
「やめてその名前を出さないで…おえっ」
「ごめん!でもおいしかったじゃん」
「アーサー?」
「ごめんなさい」

 妹から逃げるように、アーサーが木の陰から飛び出した。

「ちょっとアーサーどこ行くの?!」
「一回戦ってみる!」
「ばかっ!舐めてると痛い目見るわよ?!」
「やばかったらすぐ戻る!」
「もう…」

 モニカは呆れたようにため息をつき、ミノタウロスに突っ込んでいくアーサーを見守った。
 アーサーが走りながらミノタウロスの首を狙って矢を射る。しかし矢に気付いた魔物が盾で防いだ。

「知性が高いっ…!」

 一体のミノタウロスがアーサーに気付き、剣を振りかぶって突進してきた。
 アーサーは剣で攻撃を受け止めたが、魔物の剛腕に剣を弾き飛ばされる。よろめいたアーサーに、間髪入れず次の攻撃が襲い掛かってきた。

「くっ…!」

 ミノタウロスの剣がアーサーの首筋に触れる。アーサーは身をかがめて避け、足をミノタウロスに引っかけた。

「痛ぁぁぁっ!」

 横転させようとしたがびくともしない。脛を強打してダメージを負ったのはアーサーの方だった。
 アーサーは脛をさすりながら、先ほど弾き飛ばされた剣を拾った。

「賢いし硬いし…!いったん引いて作戦をたてないと…!」
「グルァァァ!!」
「わっ!」

 モニカの元へ戻ろうとした矢先、ミノタウロスに腰を掴まれた。持ち上げられ、アーサーの足が地面から浮く。とてつもない握力だ。ミシミシと骨が軋む音がして、アーサーの顔が苦痛に歪んだ。

「くそっ…!」
「アーサー!頭引っ込めて!」

 モニカが木の陰から叫んだ。アーサーが頭を屈めた瞬間、刃のような風がミノタウロスの首を吹き抜けた。
 魔物の手の力がゆるんだ瞬間に、アーサーは短剣でミノタウロスの指を切り飛ばし、脱出した。
 地面に落とされたアーサーは、すぐミノタウロスに向き直った。

「え…?」
「うそ…」

 モニカの風魔法をもってしても、ミノタウロスの首は3分の1程度しか切れていない。血を噴出させながらも、アーサーに向かって剣を振るおうとしている。アーサーは両手で剣を握り地面を蹴り上げた。その勢いを利用して、ミノタウロス繋がっている首を切り落とすことができた。

「はぁっ!はぁっ!」

「アーサー!大丈夫?!」

「大丈夫だよ。どこかの骨は折れてそうだけど…」

「全然大丈夫じゃないじゃん…」

「モニカ、助けてくれてありがとう。…でもまだ残り2体倒さなきゃいけない。さっきみたいに、モニカが風魔法で首を傷つけて弱らせてから、僕がとどめを刺すよ」

「まずは怪我を治しましょう。骨が折れてたら完治させられないけど、ある程度くっつけることはできるわ」

 モニカがアーサーの手を引いて木の陰に引き返す。エリクサーを飲ませてから、モニカが回復魔法をかけた。肋骨にひびが入っているだけだったので、ほぼ完治させることができた。二人は果物をかじってから再びミノタウロスの元へ向かう。

「よし、いくよ」

「うん!」

 まずモニカが風魔法でミノタウロスの首を傷つけた。1体は首の半分、もう1体は3分の1程度切ることができた。突然の攻撃に魔物はあたりを見回している。
 ここは草原なので隠れる場所がない。アーサーが魔物に突っ込んでくるのが丸見えだ。一体のミノタウロスがアーサーを敵と認識し、攻撃態勢に入った。ひるまずに魔物の足元まで詰め寄り、ミノタウロスの右足首を切断した。バランスを崩して倒れた魔物に剣を振りかぶるが、もう一体のミノタウロスがアーサーに襲い掛かってくる。斧による攻撃をひらりと回避すると、倒れているミノタウロスの腹に、振り下ろされた斧がめりこんだ。

「ギエァァァァ!!」

「ギョェェァア!!」

 まるで、「いてぇぇぇ!」「うわごめぇぇん!」と言っているかのような叫び声を2体の魔物があげている。友人(?)を攻撃してしまったミノタウロスが焦って斧を引き抜くと、斧が抜かれた腹から大量の血が噴き出した。そしてまた2体の悲鳴が響き渡る。

「ええー…」

 ミノタウロスAは止血しようと思いっきり傷口に手を押し付けて、それが痛すぎて思わずAの頭をグーで殴るミノタウロスB。頭を殴られて痛かったのか、Aが傷口から思わず手を離して自分の頭をさすると、Bの腹からまた血が噴き出した。Bは自分の出血量を見てフラァ…と気絶した。AはアワアワとBから噴き出す血を両手ですくい、それをBの口元へ運んだ。失血を防ごうとしているのだろう。

 アーサーは2体のミノタウロスをしばらく見つめていたが、これ以上見ていたら助けたくなってきてしまうので、「ごめんね…!」と言いながら二体の首を切り落とした。知性が劣るので少し滑稽だが、まるで人間のような行動をとったミノタウロスたちを殺してしまい、アーサーもモニカも少し気分が落ちてしまった。

 哀れなミノタウロスの素材は回収せず、二人はクエストに提出する耳だけ切り取り2体の墓を作った。そこに2体のミノタウロスを並べて埋めてからその場を去った。
 ◇◇◇
 二人はそのままハーピーの潜む森へ向かった。木々の上を飛び交うハーピーは、自分たちの領域に踏み込んだ人間たちを見つけ排除しようと襲い掛かる。耳障りな甲高い鳴き声をあげながら双子に向かって滑空した。

「早速来た!」

 アーサーは弓をひいたが、機敏なハーピーはするりと矢を避けて足でアーサーの腕を掴んだ。そしてアーサーを掴んだまま再び空へ舞う。

「わあああ!!」

「アーサー!」

 モニカがハーピーに雷を落とす。「キェァァァ!」と断末魔を叫んだあと、地面に落下した。アーサーは落下時に叩きつけられたようで気を失っている。さらに感電もしているようでアーサーから電気が迸っている。

「わぁぁぁ!どうしよう!アーサー!」

 《モニカ!早く回復魔法を!》

「そ、そうね!ありがとう杖」

 モニカが兄に回復魔法をかける。感電がおさまり、アーサーが目を開けた。

「大丈夫?!」

「なんか…びりびりって来た…」

「ごめんアーサー…使う魔法間違えちゃった…」

「ううん、僕こそごめん。油断した」

「いいの。あと4体、雷で落とすわ」

「うん。あんなに遠かったら矢も届かないからお願い」

「わかった」

 モニカは立ち上がり、空に杖を向け歌った。魔力をたっぷりこめているのか、眉間にしわが寄っている。ハーピーの飛んでいる空のまわりがゴロゴロと唸りだし、そして轟音と共に4つの稲光が走った。

「キェォァァァァ!!」

 遠くから悲鳴が聞こえ、ハーピーが地面に落ちてきた。運悪く雷に当たった9匹のハーピーが土の上で痙攣している。

「おお、大量!」

「モニカはやっぱりすごいなあ!」

「でしょぉ?…でも、魔力があと3分の1くらいしかないわ。残りのクエストで足りるかしら…」

「相手は魔女だもんね…未知すぎるよ」

 双子はハーピーの羽をむしり、アイテムボックスに放り投げてから、川のほとりで一夜を過ごすことにした。ここからみえる山のてっぺんに魔女の住処があるらしい。のんきなアーサーはすぐに寝息を立てていたが、モニカはなかなか眠れなかった。胸がザワザワして落ち着かない。モニカは兄の手を握り、嫌な予感が当たらないことを祈った。
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