【完結】花が結んだあやかしとの縁

mazecco

文字の大きさ
上 下
59 / 71
大切なモノ

57話 ウメ

しおりを挟む
妖刀朝霧には夢見の力があった。覗いた記憶を、持ち主に夢で見せることができる。
あやかしの胸を貫いた朝霧は、彼女の記憶を覗き薄雪に夢を見せた。
夢から覚めた薄雪は、清らかな気にあてられ苦しんでいるあやかしを見下ろした。

「そうでしたか。あなたの軸は、必要とされること」

「……」

「亡くした我が子の腐った肉を食べているうちにあやかしになった…アチラ側にいる青頭巾というあやかしによく似ていますね」

「…私の愛するモノを奪わないで…。コレは私だけのモノなの…」

「花雫はあなたのモノではありません」

うわごとのように同じことを繰り返すあやかしに薄雪はぴしゃりと言った。あやかしは口から血を流しながらキッと彼を睨みつける。

「お前がいなくなれば私のモノになる…!」

「私がいなくなっても花雫はあなたのモノにはなりません。花雫は花雫のモノです。誰のモノでもない」

「この子は私を見てくれた!私と言葉を交わしてくれた!私の話を聞いてくれた…!!!この子だけが…っ!この子だけが私の!!」

「…あなたの気持ちは…痛いほど分かります」

「分かるものか!!誰からも必要とされない私の気持ちが!!美しいお前はさぞ愛されてきたんだろう!!必要とされてきたんだろう!!」

「……」

「見てみろこの醜い私を!!」

「ええ。醜いですね」

「私はただ愛おしみたいだけなのに!!必要とされたいだけなのに!!」

「愛おしむモノから大切なモノを奪ってどうするんです…。ああ、身近にそういうモノがいるので何も言えませんね…」

「みなが私の愛するモノを奪っていく!!おぉぉっ…。うぁぁ…っ」

あやかしは花雫を抱きしめ泣き崩れた。
愛おしみたいだけなのに、彼女を抱きしめるだけで瘴気が溢れ穢してしまう。ソレに触れられた花雫の体には醜い痣が這っていた。

薄雪は穢れていく花雫をまっすぐと見ながらあやかしに問いかけた。

「あなた、名は」

「…ウメ」

「ウメ。良い名ですね。あなたも花の名をしているのか」

「…名を聞かれたのなんて、はじめてだ」

「ウメ。コチラ側で生まれたあなたは知らないでしょうが、あやかしは軸が折れたら消えてしまうのです」

「…突然なんの話だ」

「あなたの軸は”必要とされること”。誰かに必要とされ続けなければ消えてしまうのです」

「ふん…。私は必要とされたことなんてない。馬鹿にしているのか」

「いいえ」

薄雪は膝をついた。あやかしと視線を合わせ、頬に手を添える。添えた手はジュゥ…と音を立てて肉が爛れたが、薄雪は気にする素振りを一切見せずそっと微笑んだ。

「いますよ。300年経った今でもあなたを必要としているモノが」

「あ…」

「さあ、迎えに行っておあげなさい。彼は土の中でずっとあなたの帰りを待っています。そして彼と共に私の元へお戻りなさい。私があなたを清め、望む場所へ誘いましょう。

それともあなたが望むのであれば、私の妖力とヒトを癒す力を分け与えアチラ側へお送りいたします。そうすれば苦しむ人々を癒すモノとして、あなたはヒトに神として崇められ必要とされるでしょう」

「なぜ…私にそこまでする。私はお前の愛おしむモノを奪おうとしたのに」

「私はヒトを愛するあやかしです。いまはあやかしであれど、あなたは元々ヒトでした。望んでもいないのにあやかしとなってしまい、300年に渡り苦しんできたあなたを幸せにしたいと思うのはおかしいことでしょうか」

「……」

「ウメ。素敵な名です。これもきっと、花が結んだ縁なのでしょう。あなたを救わせてください、ウメ。私を目に映してくれた、3人目のヒト」

ウメの瞳から一筋の涙がこぼれ落ちた。300年間生きてきてはじめて触れた優しさに、朽ち果てた家に置いてきたヒトとしての心をおぼろげに思い出す。

彼女が小さく頷いたのを見て、薄雪は朝霧の柄を握った。

「朝霧。彼女の穢れを清めなさい」

朝霧から花が舞ったその瞬間、刀身が真っ黒に染まった。その穢れは柄を握っていた薄雪の手にも移り、彼の顔が苦しみに歪んだ。

(ヒトからあやかしとなったモノは、たいがいヒトを苦しめる存在となる。苦しめるモノがヒトに必要とされるわけがない。苦しかったでしょう。なんて悲しいモノなのでしょう。もっと早く出会っていれば…ウメの穢れもここまでひどくならなかっただろうに。すまなかったね…ウメ。もう楽におなりなさい)

すべての花びらが床に落ちる。薄雪は荒い息で朝霧をウメの体から引き抜いた。すかさず扇子を広げ息を吹きかける。舞った花びらが傷口を覆い、瞬く間に塞がった。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

おにぎり屋さんの裏稼業 〜お祓い請け賜わります〜

瀬崎由美
キャラ文芸
高校2年生の八神美琴は、幼い頃に両親を亡くしてからは祖母の真知子と、親戚のツバキと一緒に暮らしている。 大学通りにある屋敷の片隅で営んでいるオニギリ屋さん『おにひめ』は、気まぐれの営業ながらも学生達に人気のお店だ。でも、真知子の本業は人ならざるものを対処するお祓い屋。霊やあやかしにまつわる相談に訪れて来る人が後を絶たない。 そんなある日、祓いの仕事から戻って来た真知子が家の中で倒れてしまう。加齢による力の限界を感じた祖母から、美琴は祓いの力の継承を受ける。と、美琴はこれまで視えなかったモノが視えるようになり……。 第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞をいただきました。

後宮出入りの女商人 四神国の妃と消えた護符

washusatomi
キャラ文芸
西域の女商人白蘭は、董王朝の皇太后の護符の行方を追う。皇帝に自分の有能さを認めさせ、後宮出入りの女商人として生きていくために――。 そして奮闘する白蘭は、無骨な禁軍将軍と心を通わせるようになり……。

男装官吏と花散る後宮〜禹国謎解き物語〜

春日あざみ
キャラ文芸
<第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞をいただきました。応援ありがとうございました!> 宮廷で史書編纂事業が立ち上がると聞き、居ても立ってもいられなくなった歴史オタクの柳羅刹(りゅうらせつ)。男と偽り官吏登用試験、科挙を受験し、見事第一等の成績で官吏となった彼女だったが。珍妙な仮面の貴人、雲嵐に女であることがバレてしまう。皇帝の食客であるという彼は、羅刹の秘密を守る代わり、後宮の悪霊によるとされる妃嬪の連続不審死事件の調査を命じる。 しかたなく羅刹は、悪霊について調べ始めるが——? 「歴女×仮面の貴人(奇人?)」が紡ぐ、中華風世界を舞台にしたミステリ開幕!

後宮の裏絵師〜しんねりの美術師〜

あきゅう
キャラ文芸
【女絵師×理系官吏が、後宮に隠された謎を解く!】  姫棋(キキ)は、小さな頃から絵師になることを夢みてきた。彼女は絵さえ描けるなら、たとえ後宮だろうと地獄だろうとどこへだって行くし、友人も恋人もいらないと、ずっとそう思って生きてきた。  だが人生とは、まったくもって何が起こるか分からないものである。  夏后国の後宮へ来たことで、姫棋の運命は百八十度変わってしまったのだった。

あやかし警察おとり捜査課

紫音
キャラ文芸
※第7回キャラ文芸大賞にて奨励賞を受賞しました。応援してくださった皆様、ありがとうございました。 【あらすじ】  二十三歳にして童顔・低身長で小中学生に見間違われる青年・栗丘みつきは、出世の見込みのない落ちこぼれ警察官。  しかしその小さな身に秘められた身体能力と、この世ならざるもの(=あやかし)を認知する霊視能力を買われた彼は、あやかし退治を主とする部署・特例災害対策室に任命され、あやかしを誘き寄せるための囮捜査に挑む。  反りが合わない年下エリートの相棒と、狐面を被った怪しい上司と共に繰り広げる退魔ファンタジー。  

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

処理中です...