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休日
14話 冷凍食パン
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目が冴えてしまった私は、起き上がりトイレに行ってから水を飲んだ。水道水をそのまま飲めるのは田舎の特権。
それからタバコに火を付けて、スパスパ吸いながらスマホをいじっていた。すると綾目がひょっこり私の顔を覗き込む。
「ん?どうしたの綾目」
「花雫。朝ごはん食べないの?食パン昨日買ってたよね」
「あー…あるんだけどさ…。冷凍してあるから…」
「してあるから?」
「解凍するのめんどくさい」
「うわぁ…」
「解凍。解凍とはそんなに手間のかかることなのかい?綾目」
私たちの会話を聞いていた薄雪が会話に入ってきた。綾目はジトっとした目で首を振る。わるいことをした子を言いつけるように、私を指さして主人に言いつけた。
「いいえ。トースターでチンするだけです。それをめんどくさがってます花雫は」
「トースターでチン。どうするんだい?」
「え?」
「方法を教えてくれるかな、綾目」
「は、はい」
綾目は立ち上がり、薄雪とキッチン(廊下についてるせっまいキッチン)へ行き、冷凍庫から食パンを一枚取り出した。カッチカチの食パンをぽいっとトースターへ突っ込む。
「ここに食パンを入れて、このチョボをクルっとするだけです」
「ふむ。それなら私もできそうだね」
「あ…え…?薄雪さまが…あの薄雪さまが…トースターでチン、するんですか…?」
「ええ。それで花雫が喜ぶのなら」
戸惑っている綾目を気にする様子もなく、薄雪は慣れない手つきでつまみを回した。
「あっ、薄雪さま。少し回しすぎです。回しすぎるとパンが焦げてしまいます」
「ほう。奥深い」
「奥深くはないです全く」
徐々に赤くなっているトースターの中に「おお」と感嘆の声をあげている。どうなっているのか気になり、蓋を開けてヒーターに触れようとしたので慌てて綾目が止めていた。
チンと音が鳴るまで、薄雪はトースターの中をずっと覗き込んでいた。だんだんとパンに焦げ目がついていくのを見て、「おお、パンに焦げ目が」とはしゃいでいる。
彼らのやりとりがかわいすぎて、私はソシャゲをすることも忘れてずっとガン見していた。
「はい花雫。できたよ。お食べ」
綾目が用意したお皿にトースターを乗せ、私に差し出す薄雪はどこか得意げだった。食パンを焼いてドヤ顔をする同居人はなかなかいいぞ。なんだか私がめちゃくちゃ料理ができる人になったみたいだ。
あまりにかわいい薄雪に、私は思わず彼の頭をわしゃわしゃと撫でた。
「わーーーーー!花雫!!薄雪さまになんて無礼なことをぉぉっ!!」
「あっ!ごめんなさい!」
「綾目」
「ひっ!?」
「かまわないから」
「し、しかしぃ…」
「私も頭を撫でられた。これでおあいこだよ、綾目」
薄雪は私に撫でられた部分を手櫛で梳きながら、綾目に向かってフフンと笑った。
「あ、あれぇ…?そっちですか…?」
「さっきからなにを綾目と張り合ってるんですか薄雪…」
「それより花雫。はやく食パンを食べてください。冷めてしまいます。せっかくの私がチョボをクルっとした食パンが」
「あ、うん。いただきます。ありがとうございます、薄雪」
「はい」
いつもはマーガリンとかジャムを塗って食べるけど、そんなことを言える雰囲気ではなかったので、私はそのままトースターをかじった。はじめてチョボを回したにしては程よい焼き加減で、なかなかおいしかった(?)。
私が食パンをたべるところを薄雪は嬉しそうに眺めていた。食べているだけでこんな幸せそうな顔をしてもらえるなんて初めてだったから、なんだか照れる。
「ちょ、ちょっと。あんまり見ないでください」
「いいではありませんか。あなたは今、ひとりのあやかしをしあわせにしているのですから」
「やめれぇっ…。あ、あなたたちも食パン食べてくださいっ。私だけむしゃむしゃ食べてるの恥ずかしいし」
「そうですか。ではいただきましょう。綾目。君の分も私がチョボをクルッとしてあげよう」
「チョボ回し、楽しかったんですね」
薄雪はまたトースターの前で動かなくなった。二枚同時に焼けるからチョボ回しは一回でいいですよと綾目に言われて、少し残念そうだった。
それからタバコに火を付けて、スパスパ吸いながらスマホをいじっていた。すると綾目がひょっこり私の顔を覗き込む。
「ん?どうしたの綾目」
「花雫。朝ごはん食べないの?食パン昨日買ってたよね」
「あー…あるんだけどさ…。冷凍してあるから…」
「してあるから?」
「解凍するのめんどくさい」
「うわぁ…」
「解凍。解凍とはそんなに手間のかかることなのかい?綾目」
私たちの会話を聞いていた薄雪が会話に入ってきた。綾目はジトっとした目で首を振る。わるいことをした子を言いつけるように、私を指さして主人に言いつけた。
「いいえ。トースターでチンするだけです。それをめんどくさがってます花雫は」
「トースターでチン。どうするんだい?」
「え?」
「方法を教えてくれるかな、綾目」
「は、はい」
綾目は立ち上がり、薄雪とキッチン(廊下についてるせっまいキッチン)へ行き、冷凍庫から食パンを一枚取り出した。カッチカチの食パンをぽいっとトースターへ突っ込む。
「ここに食パンを入れて、このチョボをクルっとするだけです」
「ふむ。それなら私もできそうだね」
「あ…え…?薄雪さまが…あの薄雪さまが…トースターでチン、するんですか…?」
「ええ。それで花雫が喜ぶのなら」
戸惑っている綾目を気にする様子もなく、薄雪は慣れない手つきでつまみを回した。
「あっ、薄雪さま。少し回しすぎです。回しすぎるとパンが焦げてしまいます」
「ほう。奥深い」
「奥深くはないです全く」
徐々に赤くなっているトースターの中に「おお」と感嘆の声をあげている。どうなっているのか気になり、蓋を開けてヒーターに触れようとしたので慌てて綾目が止めていた。
チンと音が鳴るまで、薄雪はトースターの中をずっと覗き込んでいた。だんだんとパンに焦げ目がついていくのを見て、「おお、パンに焦げ目が」とはしゃいでいる。
彼らのやりとりがかわいすぎて、私はソシャゲをすることも忘れてずっとガン見していた。
「はい花雫。できたよ。お食べ」
綾目が用意したお皿にトースターを乗せ、私に差し出す薄雪はどこか得意げだった。食パンを焼いてドヤ顔をする同居人はなかなかいいぞ。なんだか私がめちゃくちゃ料理ができる人になったみたいだ。
あまりにかわいい薄雪に、私は思わず彼の頭をわしゃわしゃと撫でた。
「わーーーーー!花雫!!薄雪さまになんて無礼なことをぉぉっ!!」
「あっ!ごめんなさい!」
「綾目」
「ひっ!?」
「かまわないから」
「し、しかしぃ…」
「私も頭を撫でられた。これでおあいこだよ、綾目」
薄雪は私に撫でられた部分を手櫛で梳きながら、綾目に向かってフフンと笑った。
「あ、あれぇ…?そっちですか…?」
「さっきからなにを綾目と張り合ってるんですか薄雪…」
「それより花雫。はやく食パンを食べてください。冷めてしまいます。せっかくの私がチョボをクルっとした食パンが」
「あ、うん。いただきます。ありがとうございます、薄雪」
「はい」
いつもはマーガリンとかジャムを塗って食べるけど、そんなことを言える雰囲気ではなかったので、私はそのままトースターをかじった。はじめてチョボを回したにしては程よい焼き加減で、なかなかおいしかった(?)。
私が食パンをたべるところを薄雪は嬉しそうに眺めていた。食べているだけでこんな幸せそうな顔をしてもらえるなんて初めてだったから、なんだか照れる。
「ちょ、ちょっと。あんまり見ないでください」
「いいではありませんか。あなたは今、ひとりのあやかしをしあわせにしているのですから」
「やめれぇっ…。あ、あなたたちも食パン食べてくださいっ。私だけむしゃむしゃ食べてるの恥ずかしいし」
「そうですか。ではいただきましょう。綾目。君の分も私がチョボをクルッとしてあげよう」
「チョボ回し、楽しかったんですね」
薄雪はまたトースターの前で動かなくなった。二枚同時に焼けるからチョボ回しは一回でいいですよと綾目に言われて、少し残念そうだった。
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