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44話
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ヴァンク家の城に戻ったタールは、少年を自室のベッドへ横たえた。メイドに子ども用の寝衣と体に優しい食事を用意させる。タールみずから体を拭いてやり、服を着替えさせ食事を与えた。
「楽になったか?」
「あ…う…」
「…だめだな。血を飲ませないとだめか」
「うぅ…ぁ…」
タールは自分の首を切って血を滴らせてから少年を抱き上げた。自分の首元に少年の頭を持って行くと、少年は意識もうろうとしながらも血をすすった。血が抜けて貧血を起こしながらも、少年が口を離すまでじっと飲ませてやった。
「……」
「楽になったか?」
「…はい。ごめんなさい…」
「謝らなくていい。これからは我慢しなくていい。好きなだけ血を飲ませてやる」
「……」
「お前、名前は?」
「ラクスです…」
「ラクス。俺はタール。これからは俺がお前の親になる。俺が死ぬまで、ずっと俺のそばにいてほしい」
「…どうして、吸血鬼の僕なんかにそこまで…」
「吸血鬼だからだよ」
「え?」
「いや、なんでもない。とにかく、ここはもうお前の城だ。好きにしていい。血は俺がやるから」
「…ありがとう、ございます…」
タールはラクスを、おもちゃとしてではなく我が子のように可愛がった。タールからたくさんの愛情を注がれたラクスはよく笑うようになった。そして小さな吸血鬼に慕われたタールもまた、忘れていた笑顔を思い出した。
タールは結婚せずに一生を終えた。だが、彼が死ぬまでずっとラクスが彼を支えた。ラクスに看取られたタールの死に顔は、これ以上ないほど幸せそうだったという。
タールを失ったラクスはヴァンク家の城を去り、ある老婆の元を訪れた。タールが死に、孤独になったことを伝えると老婆は悲しそうに目を伏せた。
「そう…タール、死んじゃったのねぇ…。悲しいわ…」
「はい。だから…以前の約束、果たしてもらえますか」
「…ラクス。もちろんその約束は覚えているわぁ…。でも、本当にあなたはそれでいいのかしら?」
「はい。お父様がいなくなった今、僕は生きていく希望がありません。僕をお父様の場所へ連れて行ってください」
「分かったわ…。心優しい吸血鬼の少年ラクス。きっとあなたはタールと同じ場所に行ける」
「ありがとうございます」
老婆が歌を歌うと、ラクスは銀色の光に包まれた。苦しいけれど、暖かくて優しい聖魔法。ラクスはにっこり笑い、またたくまに灰となった。その灰を老婆はすくい、握りしめて涙を流す。
「さようなら。タールを心から愛してくれた、心優しい吸血鬼」
【10年後 マムズ地区 end】
「楽になったか?」
「あ…う…」
「…だめだな。血を飲ませないとだめか」
「うぅ…ぁ…」
タールは自分の首を切って血を滴らせてから少年を抱き上げた。自分の首元に少年の頭を持って行くと、少年は意識もうろうとしながらも血をすすった。血が抜けて貧血を起こしながらも、少年が口を離すまでじっと飲ませてやった。
「……」
「楽になったか?」
「…はい。ごめんなさい…」
「謝らなくていい。これからは我慢しなくていい。好きなだけ血を飲ませてやる」
「……」
「お前、名前は?」
「ラクスです…」
「ラクス。俺はタール。これからは俺がお前の親になる。俺が死ぬまで、ずっと俺のそばにいてほしい」
「…どうして、吸血鬼の僕なんかにそこまで…」
「吸血鬼だからだよ」
「え?」
「いや、なんでもない。とにかく、ここはもうお前の城だ。好きにしていい。血は俺がやるから」
「…ありがとう、ございます…」
タールはラクスを、おもちゃとしてではなく我が子のように可愛がった。タールからたくさんの愛情を注がれたラクスはよく笑うようになった。そして小さな吸血鬼に慕われたタールもまた、忘れていた笑顔を思い出した。
タールは結婚せずに一生を終えた。だが、彼が死ぬまでずっとラクスが彼を支えた。ラクスに看取られたタールの死に顔は、これ以上ないほど幸せそうだったという。
タールを失ったラクスはヴァンク家の城を去り、ある老婆の元を訪れた。タールが死に、孤独になったことを伝えると老婆は悲しそうに目を伏せた。
「そう…タール、死んじゃったのねぇ…。悲しいわ…」
「はい。だから…以前の約束、果たしてもらえますか」
「…ラクス。もちろんその約束は覚えているわぁ…。でも、本当にあなたはそれでいいのかしら?」
「はい。お父様がいなくなった今、僕は生きていく希望がありません。僕をお父様の場所へ連れて行ってください」
「分かったわ…。心優しい吸血鬼の少年ラクス。きっとあなたはタールと同じ場所に行ける」
「ありがとうございます」
老婆が歌を歌うと、ラクスは銀色の光に包まれた。苦しいけれど、暖かくて優しい聖魔法。ラクスはにっこり笑い、またたくまに灰となった。その灰を老婆はすくい、握りしめて涙を流す。
「さようなら。タールを心から愛してくれた、心優しい吸血鬼」
【10年後 マムズ地区 end】
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