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夜中0時。タンプトン廃墟の地下。ヴェネチアンマスクで顔を隠したタールが受付に白金貨10枚を支払っていた。
中へ通されオークション会場へ入ると、不本意ながら懐かしい気持ちになった。顔を仮面で隠した黒い服を身に纏った貴族たちが、コソコソと小さな声で会話している。タールは後方端の席へ座った。
「あら、やっぱり来たのね」
「ちっ…」
装飾をちりばめた派手なヴェネチアンマスクを付けたルリンが嬉しそうにタールの隣へ腰かけた。対してタールは嫌な顔を隠そうともしない。ルリンは気にせず彼の腕に抱きついた。
「お目当てが手に入るといいわね」
「離れろ気持ち悪い」
「もう。教えてあげたのは私よぉ?もう少し感謝してくれてもいいんじゃない?」
「ちっ」
無視してもルリンは上機嫌で話しかけてきた。いい加減めんどくさくなったタールは、手首を軽く切ってルリンの口に押し付けた。血を見たルリンは理性を忘れ夢中で貪りだす。
「俺もお前も、もう人間じゃないな」
「私たちは年も取るし吸血鬼のような力も魔力もないわ。ただ血が好物な人間よ」
「はん」
「さて皆さまお待たせいたしました。今から闇オークションを開催いたします」
そうこうしているうちに闇オークションが始まった。魔物の魂魄や奇形の人間、いわくつきの骨とう品など、出品物は悪趣味なものばかりだった。それを参加者は破格の値段をつけて買い取っていく。
吸血鬼の少年の競りが始まったのは、オークションが開始して2時間後だった。檻に入れられたその少年は、血を与えられていないのかうつろな目でぐったり倒れこんでうめいていた。
「これが最後の商品でございます!今日の目玉、吸血鬼の子どもでございます!!」
吸血鬼と聞いて会場がざわめいた。参加者は顔を寄せ合って耳打ちしたり、立ちあがって姿をよく見ようとしている。手ごたえのある反応に司会者は満足げに説明を続けた。
「吸血鬼になっておそらく1年ほど経っております。血を与えてかわいがるもよし、血を与えず苦しむ姿を見て愉しむもよし。吸血鬼なので年を取ることもありません。永遠に少年のまま可愛がれますよ。今後吸血鬼が手に入ることなど、数百年ないでしょう。…さて、では白金貨50枚から」
「100枚!」
「150枚!」
「200枚!」
合図と共に参加者が手を挙げて金額を引き上げていく。タールはじっとその様子を眺めていた。
「あら?参加しないのタール?」
「黙ってろ」
「はあい」
「300枚!」
「500枚!」
「800枚!」
「1000枚!」
白金貨1000枚のところで参加者の声が少なくなった。
「…1100枚!」
「……1200枚!」
「……」
「…1500枚!!」
ぐぬぬ、と悔しそうな参加者のうなり声が聞こえる。黙り込んだ会場を見て、司会者は「1500枚でよろしいですか?」と声をかけた。
「……」
「ふむ。では1500枚でー…」
「3000枚」
「?!」
会場全員が後ろを振り返った。めんどくさそうに手をあげているタールを凝視する。1500枚と言った参加者が歯ぎしりをして再び手を挙げた。
「3100枚!」
「4000枚」
「ぐぅっ…!」
「4000枚、他はいらっしゃいませんか?」
「……」
「では、4000枚でー…」
「5000まぁい!」
「はぁ?!」
隣で手を挙げたルリンをタールは二度見した。
「おい!なんでだよ!」
「だってぇ、私もロイちゃんの代わりほしいもん。あんなにひどいことされたんだから、今度は私があの子にたくさんひどいことしてあげるんだあ。私は何か月も血を飲ませてもらえなかったら、あの子には一生血をあげないのぉ。たぁっくさん縛ってあげて、えへへ、かわいがってあげるんだー」
「くそ、このクズが…」
「あら、あなただって仲間だったじゃない。鞭で一緒にロイちゃんの背中血まみれにしてたじゃないの、忘れたのぉ?」
「……」
「ふふ。私が買ったらあなたにも遊ばせてあげる」
「5000枚、他はー…」
「6000枚」
投げやりにタールが手を挙げた。それを見たルリンがにやにやと口元に手を当てる。
「7000まぁい」
「8000枚」
「9000まぁい」
「1万」
「あらあらタール、あんな子ども一人になんて額を出すの?」
「お前もだろう」
「ふふ。人の欲しいものを取る楽しみを味わうためなら、いくらだって投げ捨ててあげるわ」
「悪趣味なやつ」
「11000まぁい!」
「はあ…。2万枚」
「えぇ?!」
「ほら、このままじゃ俺のものになるぞ。いいのか?」
「ぐぅ…25000枚!」
「3万枚」
「ひぃんっ」
「どうした?いくらだって投げ捨てるんじゃなかったのか?」
ニッと笑うタールを、ルリンは頬をふくらませて睨みつけた。さすがにこれ以上は払えないのかフンとそっぽを向く。
「もういい!好きにしたらぁ?!」
「ああ、そうさせてもらう」
「さ、3万枚…他にいらっしゃいませんか?いらっしゃいませんね…?で、では吸血鬼の少年は3万枚で落札となりました!」
◇◇◇
白金貨3万枚を支払い、タールは吸血鬼の少年を引き取った。やつれすぎて自分で立つ力もない。そんな少年を抱きかかえて馬車に乗ろうとするタールにルリンが声をかけた。
「タール!私にもその子で遊ばせてよね!!」
「断る。二度と俺の城に来るな」
「もぉー!!」
中へ通されオークション会場へ入ると、不本意ながら懐かしい気持ちになった。顔を仮面で隠した黒い服を身に纏った貴族たちが、コソコソと小さな声で会話している。タールは後方端の席へ座った。
「あら、やっぱり来たのね」
「ちっ…」
装飾をちりばめた派手なヴェネチアンマスクを付けたルリンが嬉しそうにタールの隣へ腰かけた。対してタールは嫌な顔を隠そうともしない。ルリンは気にせず彼の腕に抱きついた。
「お目当てが手に入るといいわね」
「離れろ気持ち悪い」
「もう。教えてあげたのは私よぉ?もう少し感謝してくれてもいいんじゃない?」
「ちっ」
無視してもルリンは上機嫌で話しかけてきた。いい加減めんどくさくなったタールは、手首を軽く切ってルリンの口に押し付けた。血を見たルリンは理性を忘れ夢中で貪りだす。
「俺もお前も、もう人間じゃないな」
「私たちは年も取るし吸血鬼のような力も魔力もないわ。ただ血が好物な人間よ」
「はん」
「さて皆さまお待たせいたしました。今から闇オークションを開催いたします」
そうこうしているうちに闇オークションが始まった。魔物の魂魄や奇形の人間、いわくつきの骨とう品など、出品物は悪趣味なものばかりだった。それを参加者は破格の値段をつけて買い取っていく。
吸血鬼の少年の競りが始まったのは、オークションが開始して2時間後だった。檻に入れられたその少年は、血を与えられていないのかうつろな目でぐったり倒れこんでうめいていた。
「これが最後の商品でございます!今日の目玉、吸血鬼の子どもでございます!!」
吸血鬼と聞いて会場がざわめいた。参加者は顔を寄せ合って耳打ちしたり、立ちあがって姿をよく見ようとしている。手ごたえのある反応に司会者は満足げに説明を続けた。
「吸血鬼になっておそらく1年ほど経っております。血を与えてかわいがるもよし、血を与えず苦しむ姿を見て愉しむもよし。吸血鬼なので年を取ることもありません。永遠に少年のまま可愛がれますよ。今後吸血鬼が手に入ることなど、数百年ないでしょう。…さて、では白金貨50枚から」
「100枚!」
「150枚!」
「200枚!」
合図と共に参加者が手を挙げて金額を引き上げていく。タールはじっとその様子を眺めていた。
「あら?参加しないのタール?」
「黙ってろ」
「はあい」
「300枚!」
「500枚!」
「800枚!」
「1000枚!」
白金貨1000枚のところで参加者の声が少なくなった。
「…1100枚!」
「……1200枚!」
「……」
「…1500枚!!」
ぐぬぬ、と悔しそうな参加者のうなり声が聞こえる。黙り込んだ会場を見て、司会者は「1500枚でよろしいですか?」と声をかけた。
「……」
「ふむ。では1500枚でー…」
「3000枚」
「?!」
会場全員が後ろを振り返った。めんどくさそうに手をあげているタールを凝視する。1500枚と言った参加者が歯ぎしりをして再び手を挙げた。
「3100枚!」
「4000枚」
「ぐぅっ…!」
「4000枚、他はいらっしゃいませんか?」
「……」
「では、4000枚でー…」
「5000まぁい!」
「はぁ?!」
隣で手を挙げたルリンをタールは二度見した。
「おい!なんでだよ!」
「だってぇ、私もロイちゃんの代わりほしいもん。あんなにひどいことされたんだから、今度は私があの子にたくさんひどいことしてあげるんだあ。私は何か月も血を飲ませてもらえなかったら、あの子には一生血をあげないのぉ。たぁっくさん縛ってあげて、えへへ、かわいがってあげるんだー」
「くそ、このクズが…」
「あら、あなただって仲間だったじゃない。鞭で一緒にロイちゃんの背中血まみれにしてたじゃないの、忘れたのぉ?」
「……」
「ふふ。私が買ったらあなたにも遊ばせてあげる」
「5000枚、他はー…」
「6000枚」
投げやりにタールが手を挙げた。それを見たルリンがにやにやと口元に手を当てる。
「7000まぁい」
「8000枚」
「9000まぁい」
「1万」
「あらあらタール、あんな子ども一人になんて額を出すの?」
「お前もだろう」
「ふふ。人の欲しいものを取る楽しみを味わうためなら、いくらだって投げ捨ててあげるわ」
「悪趣味なやつ」
「11000まぁい!」
「はあ…。2万枚」
「えぇ?!」
「ほら、このままじゃ俺のものになるぞ。いいのか?」
「ぐぅ…25000枚!」
「3万枚」
「ひぃんっ」
「どうした?いくらだって投げ捨てるんじゃなかったのか?」
ニッと笑うタールを、ルリンは頬をふくらませて睨みつけた。さすがにこれ以上は払えないのかフンとそっぽを向く。
「もういい!好きにしたらぁ?!」
「ああ、そうさせてもらう」
「さ、3万枚…他にいらっしゃいませんか?いらっしゃいませんね…?で、では吸血鬼の少年は3万枚で落札となりました!」
◇◇◇
白金貨3万枚を支払い、タールは吸血鬼の少年を引き取った。やつれすぎて自分で立つ力もない。そんな少年を抱きかかえて馬車に乗ろうとするタールにルリンが声をかけた。
「タール!私にもその子で遊ばせてよね!!」
「断る。二度と俺の城に来るな」
「もぉー!!」
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