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42 10年後編
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【10年後 マムズ地区】
24歳となったタールは、今ではヴァンク家の当主として責務を果たしていた。あの日以降彼はあまり笑わなくなり、今まで仲の良かった友人たちともほとんど関わらなくなった。長い間チムシーに寄生されていた後遺症として、彼は人間の血を必要とした。飲まなければたちどころに自我を失い、犬のような挙動をしてしまう。タールはそんな自分を恥じていたが、ずっとこのままでいたいと心のどこかで思っていた。
彼の両親は5年前に不審死し、それまで飼っていた5人の子どもはタールによって大切に育てられている。立派な当主として民からの人望も厚く好かれていた。
「ご主人様、アルダ様がいらしております」
「またか…通せ」
ため息をつきタールは立ち上がった。エントランスには別段会いたいとも思っていない女性が立っている。女性はタールを見てにこっと笑った。
「やっほータール。元気?」
「ルリン…今日は何の用だ?俺はもう闇系の場所には行かないと何度も言っているだろう」
「ふふ。あなたってばいつからそんな良い子ちゃんになっちゃったの?おもしろくなぁい。…でも、今回は興味持つと思うわ」
ルリンは25歳となったが、あの事件の後遺症として稀に自我を失ってしまう。特に夜中はけたたましい笑い声をあげながら近くにいる人、もしくは自分の腕に噛みつく。また、彼女も吸血欲が完全には収まらず少量の人間の血を必要とした。そんな彼女に嫁ぎ先はなく、今でも実家であるアルダ伯爵の家で生活している。だがそれはそれで楽しんでいるようで、今でもアルダ家の人間として闇鑑賞会や闇オークションに足しげく通っていた。そして時たまヴァンク家を訪ね、何度断っても闇イベントを誘いに来るのだ。
この日もなにか良からぬイベントに誘うために来たようだ。自信ありげにタールへ近寄り、耳元で囁いた。
「今晩の闇オークションで何が出品されると思う?」
「知らないし興味ない。帰ってくれ」
「まあ最後まで聞きなさいよ。なんと、吸血鬼の子どもが出品されるらしいの」
ルリンに背を向けて歩き出したタールが立ち止まった。振り返らず、小さな声で唸る。
「…おちょくるのはやめろ」
「とか言いながら興味深々じゃない。ふふ。本当よ。なんでも深い森に迷い込んだ孤児がチムシーに寄生されたまま生き延びていたらしいわ。そんな彼を冒険者が見つけて保護、親が見つからなかったから孤児院へ預けていたんだけど、血を飲ませないといけないからみんなうんざりしていたらしいの。噂を聞きつけた闇商人がその子を買い取り、バーベリ家に売った。しばらくおもちゃにしていたんだけど、やっぱり血を飲ませることが嫌になって闇オークションに出すことにしたらしいわ。リスクがあるから買い手は出ないでしょうけど、あなたなら興味があると思って」
「……」
「姿は13歳くらいの男の子って噂。あは、誰かを思い出さなあい?」
「黙れルリン」
「あなた、ロイちゃんに異常な執着を見せていたわよねえ。おもちゃにしてる間も、おもちゃにされてる間も、ロイを失ってからも。ロイちゃんのこと、好きだったんでしょ?」
「はあ、その口を縫い付けてやろうか?」
「今も、まあ私たちは体質が異常だからって言うのもあるけれど…それでもあなただったらいくらでもお嫁さんもらえるでしょう。それでももらわないのはロイちゃんを忘れられないからじゃない?ロイちゃんは死んじゃってもういないけど、似たような子をまた手に入れられるかもしれないわよ。うふふ。もし買ったら、私にもまた遊ばせてね。キャハハ」
「帰れ」
「分かった分かった。…ちなみに場所はタンプトン廃墟の地下。時間は夜中0時。参加費白金貨10枚よ。じゃあね」
そう言い残してルリンは帰って行った。タールは不機嫌そうに舌打ちをして自室に閉じこもる。イライラと貧乏ゆすりをしながら頭を抱えた。
「…ロイ」
24歳となったタールは、今ではヴァンク家の当主として責務を果たしていた。あの日以降彼はあまり笑わなくなり、今まで仲の良かった友人たちともほとんど関わらなくなった。長い間チムシーに寄生されていた後遺症として、彼は人間の血を必要とした。飲まなければたちどころに自我を失い、犬のような挙動をしてしまう。タールはそんな自分を恥じていたが、ずっとこのままでいたいと心のどこかで思っていた。
彼の両親は5年前に不審死し、それまで飼っていた5人の子どもはタールによって大切に育てられている。立派な当主として民からの人望も厚く好かれていた。
「ご主人様、アルダ様がいらしております」
「またか…通せ」
ため息をつきタールは立ち上がった。エントランスには別段会いたいとも思っていない女性が立っている。女性はタールを見てにこっと笑った。
「やっほータール。元気?」
「ルリン…今日は何の用だ?俺はもう闇系の場所には行かないと何度も言っているだろう」
「ふふ。あなたってばいつからそんな良い子ちゃんになっちゃったの?おもしろくなぁい。…でも、今回は興味持つと思うわ」
ルリンは25歳となったが、あの事件の後遺症として稀に自我を失ってしまう。特に夜中はけたたましい笑い声をあげながら近くにいる人、もしくは自分の腕に噛みつく。また、彼女も吸血欲が完全には収まらず少量の人間の血を必要とした。そんな彼女に嫁ぎ先はなく、今でも実家であるアルダ伯爵の家で生活している。だがそれはそれで楽しんでいるようで、今でもアルダ家の人間として闇鑑賞会や闇オークションに足しげく通っていた。そして時たまヴァンク家を訪ね、何度断っても闇イベントを誘いに来るのだ。
この日もなにか良からぬイベントに誘うために来たようだ。自信ありげにタールへ近寄り、耳元で囁いた。
「今晩の闇オークションで何が出品されると思う?」
「知らないし興味ない。帰ってくれ」
「まあ最後まで聞きなさいよ。なんと、吸血鬼の子どもが出品されるらしいの」
ルリンに背を向けて歩き出したタールが立ち止まった。振り返らず、小さな声で唸る。
「…おちょくるのはやめろ」
「とか言いながら興味深々じゃない。ふふ。本当よ。なんでも深い森に迷い込んだ孤児がチムシーに寄生されたまま生き延びていたらしいわ。そんな彼を冒険者が見つけて保護、親が見つからなかったから孤児院へ預けていたんだけど、血を飲ませないといけないからみんなうんざりしていたらしいの。噂を聞きつけた闇商人がその子を買い取り、バーベリ家に売った。しばらくおもちゃにしていたんだけど、やっぱり血を飲ませることが嫌になって闇オークションに出すことにしたらしいわ。リスクがあるから買い手は出ないでしょうけど、あなたなら興味があると思って」
「……」
「姿は13歳くらいの男の子って噂。あは、誰かを思い出さなあい?」
「黙れルリン」
「あなた、ロイちゃんに異常な執着を見せていたわよねえ。おもちゃにしてる間も、おもちゃにされてる間も、ロイを失ってからも。ロイちゃんのこと、好きだったんでしょ?」
「はあ、その口を縫い付けてやろうか?」
「今も、まあ私たちは体質が異常だからって言うのもあるけれど…それでもあなただったらいくらでもお嫁さんもらえるでしょう。それでももらわないのはロイちゃんを忘れられないからじゃない?ロイちゃんは死んじゃってもういないけど、似たような子をまた手に入れられるかもしれないわよ。うふふ。もし買ったら、私にもまた遊ばせてね。キャハハ」
「帰れ」
「分かった分かった。…ちなみに場所はタンプトン廃墟の地下。時間は夜中0時。参加費白金貨10枚よ。じゃあね」
そう言い残してルリンは帰って行った。タールは不機嫌そうに舌打ちをして自室に閉じこもる。イライラと貧乏ゆすりをしながら頭を抱えた。
「…ロイ」
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