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「やったぁ!!できたわ!!見て先生!!上手にできたでしょう?!…って、またイチャイチャしてる!!やめてよ先生!!アーサーはわたしのなんだから!!」
やっと完成した錠剤の薬を手のひらに乗せ、モニカが嬉しそうな声をあげた。が、アーサーとセルジュが抱き合っているのを見てぷんぷんとアーサーを引きはがす。頬を膨らませながら薬をセルジュに差し出した。セルジュはクスクス笑いながら薬を手に取った。
「ああ、上手だ。さすがミモレスの生まれ変わりだね。この魔法を使いこなせるなんて」
「えへへ」
両手を腰にかけ得意げに威張るモニカの仕草がミモレスにそっくりで、セルジュの喉元が熱くなった。モニカの頭を撫で、薬をモニカの手に戻す。
「これは私しか知らない魔法だ。きっと重宝されるはず」
「ありがとう先生!!」
「よかったねえモニカ」
「アーサー!私これからお薬作るときでも力になれるよ!!」
モニカがぎゅーっと兄に抱きつくところをセルジュは微笑まし気に見つめた。彼らを見ているだけで、忘れていた人を愛する心が戻ってくるような気がした。人は愛しく、守るべきものだと思わせてくれる。
「君たちのような貴族ばかりだったらよかったのに…」
「え?」
「いや、なんでもないよ。…さて、じゃあ最後の仕事だよアーサー」
「……」
セルジュはそう言って立ち会がった。アーサーは視線を落として唇を噛んでいる。
「最期は君の手で殺されたい。いいかい?」
「あっ…」
モニカの顔が暗くなる。彼が魔物だと言うことを一瞬忘れてしまっていたようだ。魔法を教えてもらったことによって、彼女もセルジュに親しみ始めていた。モニカは兄とセルジュを交互に見た。セルジュに死んでほしくないと考えていることが伺える。
(本当に…モニカは優しい子だ。魔物だからといって拒絶しない。彼女のような人がロイの母親だったら…あの子はもっと幸せだったかもしれないのに。私とロイが、この子たちにもっと早く出会えていたら…もっと違う道があったのかもしれないのに)
「モニカだめだよ。先生は貴族の生徒を誘拐してチムシーを寄生させていたぶっていた。それは事実だ。彼は決して良い魔物じゃないんだ…今は」
モニカの躊躇いを察したアーサーがぴしゃりと言った。
「でも…」
「それに王子まで手にかけようとした。情にほだされないで。セルジュ先生はもう、大罪人なんだよ。だから…僕が殺す」
アーサーの言葉はまるで自分に言い聞かせているようだった。唇を噛み、剣を構える。剣を持っている手がかすかに震えている。きっとアーサーもセルジュを殺したくないと思っている。殺そうとするのは、死を望んでいるセルジュのためだ。
「僕の手で…殺します、先生」
「ああ、殺してほしい」
「……」
アーサーは動けない。目を潤ませ、顔を歪ませている。
「アーサー、まだミモレスの感情が残っているのか?」
「…はい」
「そうか…。辛い役目をおわせてすまないね」
「……」
ミモレスの感情を残している今のアーサーは、セルジュに深い愛情を抱いているのだろう。愛する人をその手で殺さなければならない。それほど辛いことはないだろう。セルジュはアーサーとモニカに最期の言葉をかけた。
「モニカ、私の風魔法を打ち消すなんてさすがとしか言いようがない。アーサーも、私の硬い皮膚を貫けるなんて…よほど鍛錬を積んできたんだね。普通の人間なら刃が折れてしまうんだ」
「……」
「……」
二人とも泣いている。セルジュの死を悲しんでくれている。それだけでセルジュは充分だった。
(ありがとう、二人とも)
「…ヒト型の魔物は、首と心臓を聖魔法武器で貫くと死ぬ。その二つが再生してしまう前に、素早く斬るんだよアーサー」
「…はい」
「最期に君たちに出会えてよかった。君たちなら…ミモレスのように、人の血を流さずとも世を変えられるかもしれない。期待しているよ。…長々とすまないね。さ、いつでもいいよ。殺してくれ、アーサー」
「っ…」
アーサーの剣がセルジュの首を跳ね飛ばす。彼の頭は勢いよく床に落ちた。間髪入れず彼の心臓を貫くと、徐々に体が崩れていった。アーサーは剣を投げ捨てセルジュを抱きしめる。胸が張り裂けそうに苦しく涙が溢れて止まらない。
「セルジュ…!!さようならセルジュ…」
セルジュの体は灰となり、着ていた服と首にかけていたペンダントネックレスだけが残った。ペンダントの蓋を開けると、中には銀色の髪が入っていた。アーサーはネックレスを首にかけ、セルジュの服を抱きしめむせび泣いた。隣でモニカも泣いている。魂魄となったセルジュの姿はもう彼らの目には映らない。それでも二人を抱きしめた。彼らには幸せになってほしいと願いを込めて、そっと大切に。
「お父さま」
「…ロイ」
ロイの魂魄がセルジュに寄り添った。
「いきましょう、お父さま」
「ああ」
ふたつの魂魄はひとつとなって、また新しい身にその魂魄が宿るのを待つ。
やっと完成した錠剤の薬を手のひらに乗せ、モニカが嬉しそうな声をあげた。が、アーサーとセルジュが抱き合っているのを見てぷんぷんとアーサーを引きはがす。頬を膨らませながら薬をセルジュに差し出した。セルジュはクスクス笑いながら薬を手に取った。
「ああ、上手だ。さすがミモレスの生まれ変わりだね。この魔法を使いこなせるなんて」
「えへへ」
両手を腰にかけ得意げに威張るモニカの仕草がミモレスにそっくりで、セルジュの喉元が熱くなった。モニカの頭を撫で、薬をモニカの手に戻す。
「これは私しか知らない魔法だ。きっと重宝されるはず」
「ありがとう先生!!」
「よかったねえモニカ」
「アーサー!私これからお薬作るときでも力になれるよ!!」
モニカがぎゅーっと兄に抱きつくところをセルジュは微笑まし気に見つめた。彼らを見ているだけで、忘れていた人を愛する心が戻ってくるような気がした。人は愛しく、守るべきものだと思わせてくれる。
「君たちのような貴族ばかりだったらよかったのに…」
「え?」
「いや、なんでもないよ。…さて、じゃあ最後の仕事だよアーサー」
「……」
セルジュはそう言って立ち会がった。アーサーは視線を落として唇を噛んでいる。
「最期は君の手で殺されたい。いいかい?」
「あっ…」
モニカの顔が暗くなる。彼が魔物だと言うことを一瞬忘れてしまっていたようだ。魔法を教えてもらったことによって、彼女もセルジュに親しみ始めていた。モニカは兄とセルジュを交互に見た。セルジュに死んでほしくないと考えていることが伺える。
(本当に…モニカは優しい子だ。魔物だからといって拒絶しない。彼女のような人がロイの母親だったら…あの子はもっと幸せだったかもしれないのに。私とロイが、この子たちにもっと早く出会えていたら…もっと違う道があったのかもしれないのに)
「モニカだめだよ。先生は貴族の生徒を誘拐してチムシーを寄生させていたぶっていた。それは事実だ。彼は決して良い魔物じゃないんだ…今は」
モニカの躊躇いを察したアーサーがぴしゃりと言った。
「でも…」
「それに王子まで手にかけようとした。情にほだされないで。セルジュ先生はもう、大罪人なんだよ。だから…僕が殺す」
アーサーの言葉はまるで自分に言い聞かせているようだった。唇を噛み、剣を構える。剣を持っている手がかすかに震えている。きっとアーサーもセルジュを殺したくないと思っている。殺そうとするのは、死を望んでいるセルジュのためだ。
「僕の手で…殺します、先生」
「ああ、殺してほしい」
「……」
アーサーは動けない。目を潤ませ、顔を歪ませている。
「アーサー、まだミモレスの感情が残っているのか?」
「…はい」
「そうか…。辛い役目をおわせてすまないね」
「……」
ミモレスの感情を残している今のアーサーは、セルジュに深い愛情を抱いているのだろう。愛する人をその手で殺さなければならない。それほど辛いことはないだろう。セルジュはアーサーとモニカに最期の言葉をかけた。
「モニカ、私の風魔法を打ち消すなんてさすがとしか言いようがない。アーサーも、私の硬い皮膚を貫けるなんて…よほど鍛錬を積んできたんだね。普通の人間なら刃が折れてしまうんだ」
「……」
「……」
二人とも泣いている。セルジュの死を悲しんでくれている。それだけでセルジュは充分だった。
(ありがとう、二人とも)
「…ヒト型の魔物は、首と心臓を聖魔法武器で貫くと死ぬ。その二つが再生してしまう前に、素早く斬るんだよアーサー」
「…はい」
「最期に君たちに出会えてよかった。君たちなら…ミモレスのように、人の血を流さずとも世を変えられるかもしれない。期待しているよ。…長々とすまないね。さ、いつでもいいよ。殺してくれ、アーサー」
「っ…」
アーサーの剣がセルジュの首を跳ね飛ばす。彼の頭は勢いよく床に落ちた。間髪入れず彼の心臓を貫くと、徐々に体が崩れていった。アーサーは剣を投げ捨てセルジュを抱きしめる。胸が張り裂けそうに苦しく涙が溢れて止まらない。
「セルジュ…!!さようならセルジュ…」
セルジュの体は灰となり、着ていた服と首にかけていたペンダントネックレスだけが残った。ペンダントの蓋を開けると、中には銀色の髪が入っていた。アーサーはネックレスを首にかけ、セルジュの服を抱きしめむせび泣いた。隣でモニカも泣いている。魂魄となったセルジュの姿はもう彼らの目には映らない。それでも二人を抱きしめた。彼らには幸せになってほしいと願いを込めて、そっと大切に。
「お父さま」
「…ロイ」
ロイの魂魄がセルジュに寄り添った。
「いきましょう、お父さま」
「ああ」
ふたつの魂魄はひとつとなって、また新しい身にその魂魄が宿るのを待つ。
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