【完結】吸血鬼の元騎士

mazecco

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「おや、目が覚めたのかい?」

ロイとモニカが戦っている時、セルジュは牢屋を覗き込んでいた。意識が戻ったアーサーが、王子とマーサを庇うように抱いている。二人の意識ははっきりしているようで、禁断症状がおさまっているのが分かった。

「ほう、アーサー、この二人に血を与えたのかい。すっかり禁断症状がおさまってしまっているね。全く。困ったことをしてくれる」

「セルジュ先生!!助けてください!!僕をここから出してください!!」

セルジュの姿を見るや否や、ウィルク王子が助けを求めてきた。彼は禁断症状で意識が朦朧としていたようで、セルジュが誘拐犯だと気付いていないようだ。セルジュは柔らかい笑みを浮かべて王子に手を差し伸べた。

「いいとも。おいで」

檻の間から差し伸べられた手を取ろうとしているウィルク王子を、アーサーが慌てて引き留める。

「だめだウィルク!セルジュ先生もロイと繋がってる!!連れていかれたらこの6人の生徒たちと同じことになるよ!」

「え…?そ、そんな…嘘ですよね先生?助けに来てくれたんですよね?」

「そうだよ王子。助けに来たんだ」

「騙されないでウィルク!」

王子はセルジュとアーサーの顔を交互に見た。どういう思考回路でそう思ったのか、アーサーを睨みつけて唸った。

「そ、そうかアーサー。そうやって僕を騙してずっと牢屋に閉じ込めようとしてるんだな?」

「なっ…」

「モニカと僕が結婚するのがいやで、こんなところに連れてきたんだろう!!なんてやつだ!ここから出たら処刑してやる!!」

「ちがう!!ウィルク!僕を信じて!!」

「クク…ククク…ハハハハハ!!!」

「?!」

アーサーと王子のやりとりを黙って聞いていたセルジュが、我慢できずに大声で笑いだした。気味の悪い笑い方にウィルクが「ヒィっ!」とアーサーにしがみつく。セルジュは指で目に溜まった涙を拭いながら呟いた。

「ああ…最高ですね。高慢で、愚かな王族の血。早く飲んでみたい」

(彼の血とマリウス、どちらの方が不味いかな。ふふ。私はウィルク王子の方が不味いに賭けよう)

セルジュの言葉に王子は驚いて「えっ?」とか細い声をあげた。

(おっと、しまった。まだ先生を演じなければ)

「いえ、なんでもありませんよ。さあ、おいでなさい王子。ここから出してあげますから」

「い…いやだ…」

「おや?突然どうしたんですか?さっきまであれほど出たがっていたのに。さあ、早く」

「僕じゃなくて…マーサを…」

「えっ?!」

突然名前を呼ばれたマーサはびっくりしてアーサーにしがみついた。王子はそんな彼女の肩に手を置き、アーサーから引きはがそうと力を込めた。

「はやく!マーサ、様子を見てこい!!」

「ええええ!」

アーサーはぱちんと王子の頬をひっぱたいた。

「ウィルク。いい加減にしろ。守るべきものを見代わりにしてどうする」

「ちがう!一番に守るべきものは王族の血だ!」

「…少しは変わったと思ってたんだけどな」

深いため息をつき、アーサーは二人から手を離した。

「おい!アーサー!僕から離れるな!」

「おやおや、噂に違わず横暴な血だねえ」

セルジュはクスクス笑いながら3人を見下ろした。最も薄汚い血を"一番に守るべきもの"とのたまう、傲慢で愚かな人間に呆れてものも言えない。

(なるほどこのような人間が治める国がまともなわけがない。このような者が王族だから、貴族の間で非道な行いが許されるのだ。ロイのような可哀そうな子が生まれてしまうのだ)

アーサーは立ち上がり、セルジュの目を真っすぐと見た。

「血を飲むなら、僕のものを」

「……」

愚かな王族とロイのアパンを庇うため、アーサーが自分の血を差し出そうとしている。

(さすがミモレスの生まれ変わり…。自分を犠牲にして他者を守るか…。気高く、そして美しい)

「君は最後にしようと思ってたんだけどな。…いいよ、おいで」

セルジュは牢屋を開きアーサーの手を引いた。アーサーは大人しく従う。王子たちに声が届かないところまで離れると、歩きながらセルジュに声をかけた。

「ここの牢屋にいる子たちの分まで僕の血を飲んでかまいません。だから他の子たちは解放してくれませんか」

「そのお願いは聞けないな。そこにいる6人の子どもたちは、私とロイの餌であり、またおもちゃでもあるんだよ。見たかね?チムシーに寄生された者同士で血を飲み合う姿を。彼らがお互いの血を飲めば飲むほど、吸血欲に駆られてしまう。飲んでも飲んでもおさまらないんだ。見ていてとても…愛おしいんだよ」

「餌…あなたとロイも、チムシーに寄生をされてるんですか?」

「ああ。数百年前まではそうだった。だが今はもうそうじゃない。私とチムシーはひとつになった。人はそんな存在をこう呼ぶ…吸血鬼とね」

「吸血鬼…!じゃあ、ロイも?!」

「ああ。ロイも吸血鬼だよ。100年前、私が彼を拾って完全な吸血鬼にした。かわいいかわいい私の子どもさ」

ソファの部屋に連れてこられたアーサーは、隅に積み上げられている干からびたアパンの死体を見て絶句していた。

「あれは…」

「ああ。ここに棲みつき始めた時に連れてきた餌だったんだけどね。ロイが血を飲みすぎて全員殺してしまったんだ。困るよね」

「っ…」

「大丈夫だよアーサー。私は殺さない程度にしか飲まないから」

セルジュはソファに腰かけ、隣にアーサーを座らせた。優しい手つきでアーサーの首に爪を立てる。

「…うん、相変わらず綺麗な血の色をしているね」

傷口から流れるアーサーの血をうっとりと眺めたあと、アーサーの首もとに吸い付いた。

「うっ…」

「アーサー…。以前舐めた時から分かっていたよ。君は王族の血を引いているね。それも…色濃く高潔の血を受け継いでいる」

「……」

「モニカも同じ血の味だった。君たち、兄妹と言うのは嘘だろう?正しくは…双子」

「……」

「…君たち、アウス王子とモリア姫だろう?なぜ死んだはずの君たちがこの学院にいるんだい?」

「……」

「…おや、血を飲みすぎてしまったかな。ほとんど意識がないね。…それにしても、懐かしい味だ」

嬉しそうに血を飲む吸血鬼がそう囁いた言葉をおぼろげに聞きながら、アーサーは意識を失った。吸血鬼はくったりとしたアーサーを優しく抱きしめ、彼の頭に唇をそっと当てた。

「ミモレス…。君の血を探して200年が経った…。やっと見つけたよ。もう…二度と離さない」
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