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「吸血鬼…?」
「そうだよモニカさん。少し顔色が悪いだけで、一見ただの人間にしか見えなかったでしょ?驚いた?」
モニカの首筋を指先で撫でながら、ロイは静かに話を続ける。
「牙が見えないように気をつけないといけないし、瞳孔をずっと開いていないといけないのは少し面倒だったよ…。僕はまだ人間と一緒に生活し始めた日が浅いから、気を抜くとすぐ瞳孔が元に戻ってしまうんだ。前髪と眼鏡でなんとかごまかせてたけどね」
まるでちょっとした悩みを打ち明けるかのように、軽い口調で話しながらため息をついている。モニカとジュリア王女はロイの正体を受け入れられず呆然としている様子だった。
「きゅ…吸血鬼…?…じゃあ、あなたは…魔物…」
震える声でモニカがやっと言葉を発した。ロイはそれにうーんと首を傾げている。
「もう魔物になってしまったのかな僕は。100年前までは人間だったような気がするけど。人間だった頃の記憶がもうほとんど残っていないや。僕が覚えているのは、檻に閉じ込められていた僕を大勢の気持ち悪い大人たちが面白そうに眺めていたことと…お父さまがそんな大人たちを皆殺しにして僕を檻から連れ出してくれたことくらいしかないなあ」
「お父さま…」
「そうだよ。モニカさんには前に話したよね、お父さまのこと」
「100年前にあなたを檻から連れ出したのがお父さま…?じゃ、じゃあお父さまも吸血鬼ってこと…?」
「うん。お父さまも吸血鬼だよ。僕に血を与えてくれて、僕は完全な吸血鬼になることができた。だから僕にもお父さまの血が流れている。まさに血を分けた親子だね。…僕を産んだ両親のことはもう忘れた。顔も、声も、なにも覚えてないんだ。思い出そうとすると、ここがキュっとなる。なぜかは分からないけど」
胸に手を当ててロイはそう呟いた。闇鑑賞会の日の記憶しか思い出していないロイは、母親に白金貨1枚で売られたことも、吸血鬼となった彼を拒絶して死を願われたことも覚えていない。それはもしかしたら悲しみに耐えられないからと無意識に自分でその記憶に蓋をしているからなのかもしれない。
「悪いけど、あなたの身の上話に付き合ってる時間はないの。こっちには死にそうな子がいるんですから」
ジュリア王女がそう言ってモニカを押しのけた。モニカの前に立って杖をロイへ向ける。寂し気な表情をしていたロイはそれを見てまた冷徹な吸血鬼の顔となった。口角を片方だけ上げてにやりと笑う。
「へえ?杖を持っていたんだ」
「魔法使いは肌身離さず杖を持つことが基本よ。たとえ寝ているときでもね」
「さすがはジュリア王女ですね」
「ロイ。あなたが本当に吸血鬼…魔物なんだったら、あなたを倒さないといけない」
「王女、ひどく震えていますよ。恐怖で足がすくんでいますね」
「ジュリア王女!私が戦いますから隠れていてください!」
モニカがそう叫んでジュリア王女の腕を掴んだ。王女はガタガタと震えている。しかし王女はモニカの手を振り払いこう言った。
「あなたと私、どちらの方が戦えると思う?!私でしょう!だったら私が戦わなきゃ…!!出来損ないの子猫ちゃんは私の後ろで引っ込んでなさい!」
"出来損ないの子猫ちゃん"…ジュリア王女は、魔法が使えないと思っているモニカのことをバカにしていつもそう呼んでいた。一か月もモニカと魔法の授業を受けていたのに、モニカに秘められた膨大で良質な魔力にも気付けず、自分の方が優れていると勘違いしている王女に笑いを堪えられなかった。
「あはは!おかしいことを言いますね王女。僕から見たらあなたなんて赤子のようだ」
ロイはそう言ってジュリア王女に強力な火魔法を打った。ジュリアが反属性の水魔法を放つが到底打ち消すことはできない。巨大な火の玉が襲いかかり王女は「きゃああああ!」と叫びながら目を瞑った。
そのとき、部屋に透き通った歌声が響きわたった。ジュッ、と音がして火魔法が一瞬にして消滅する。
「ロイ。いい加減にしてちょうだい。ジュリアを傷つけることは許さないわ」
いつものおっとりとした表情ではなく、まるで歴戦の聖女のような目をしているモニカが立っていた。
「そうだよモニカさん。少し顔色が悪いだけで、一見ただの人間にしか見えなかったでしょ?驚いた?」
モニカの首筋を指先で撫でながら、ロイは静かに話を続ける。
「牙が見えないように気をつけないといけないし、瞳孔をずっと開いていないといけないのは少し面倒だったよ…。僕はまだ人間と一緒に生活し始めた日が浅いから、気を抜くとすぐ瞳孔が元に戻ってしまうんだ。前髪と眼鏡でなんとかごまかせてたけどね」
まるでちょっとした悩みを打ち明けるかのように、軽い口調で話しながらため息をついている。モニカとジュリア王女はロイの正体を受け入れられず呆然としている様子だった。
「きゅ…吸血鬼…?…じゃあ、あなたは…魔物…」
震える声でモニカがやっと言葉を発した。ロイはそれにうーんと首を傾げている。
「もう魔物になってしまったのかな僕は。100年前までは人間だったような気がするけど。人間だった頃の記憶がもうほとんど残っていないや。僕が覚えているのは、檻に閉じ込められていた僕を大勢の気持ち悪い大人たちが面白そうに眺めていたことと…お父さまがそんな大人たちを皆殺しにして僕を檻から連れ出してくれたことくらいしかないなあ」
「お父さま…」
「そうだよ。モニカさんには前に話したよね、お父さまのこと」
「100年前にあなたを檻から連れ出したのがお父さま…?じゃ、じゃあお父さまも吸血鬼ってこと…?」
「うん。お父さまも吸血鬼だよ。僕に血を与えてくれて、僕は完全な吸血鬼になることができた。だから僕にもお父さまの血が流れている。まさに血を分けた親子だね。…僕を産んだ両親のことはもう忘れた。顔も、声も、なにも覚えてないんだ。思い出そうとすると、ここがキュっとなる。なぜかは分からないけど」
胸に手を当ててロイはそう呟いた。闇鑑賞会の日の記憶しか思い出していないロイは、母親に白金貨1枚で売られたことも、吸血鬼となった彼を拒絶して死を願われたことも覚えていない。それはもしかしたら悲しみに耐えられないからと無意識に自分でその記憶に蓋をしているからなのかもしれない。
「悪いけど、あなたの身の上話に付き合ってる時間はないの。こっちには死にそうな子がいるんですから」
ジュリア王女がそう言ってモニカを押しのけた。モニカの前に立って杖をロイへ向ける。寂し気な表情をしていたロイはそれを見てまた冷徹な吸血鬼の顔となった。口角を片方だけ上げてにやりと笑う。
「へえ?杖を持っていたんだ」
「魔法使いは肌身離さず杖を持つことが基本よ。たとえ寝ているときでもね」
「さすがはジュリア王女ですね」
「ロイ。あなたが本当に吸血鬼…魔物なんだったら、あなたを倒さないといけない」
「王女、ひどく震えていますよ。恐怖で足がすくんでいますね」
「ジュリア王女!私が戦いますから隠れていてください!」
モニカがそう叫んでジュリア王女の腕を掴んだ。王女はガタガタと震えている。しかし王女はモニカの手を振り払いこう言った。
「あなたと私、どちらの方が戦えると思う?!私でしょう!だったら私が戦わなきゃ…!!出来損ないの子猫ちゃんは私の後ろで引っ込んでなさい!」
"出来損ないの子猫ちゃん"…ジュリア王女は、魔法が使えないと思っているモニカのことをバカにしていつもそう呼んでいた。一か月もモニカと魔法の授業を受けていたのに、モニカに秘められた膨大で良質な魔力にも気付けず、自分の方が優れていると勘違いしている王女に笑いを堪えられなかった。
「あはは!おかしいことを言いますね王女。僕から見たらあなたなんて赤子のようだ」
ロイはそう言ってジュリア王女に強力な火魔法を打った。ジュリアが反属性の水魔法を放つが到底打ち消すことはできない。巨大な火の玉が襲いかかり王女は「きゃああああ!」と叫びながら目を瞑った。
そのとき、部屋に透き通った歌声が響きわたった。ジュッ、と音がして火魔法が一瞬にして消滅する。
「ロイ。いい加減にしてちょうだい。ジュリアを傷つけることは許さないわ」
いつものおっとりとした表情ではなく、まるで歴戦の聖女のような目をしているモニカが立っていた。
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