26 / 47
26
しおりを挟む
「はぁ…うるさすぎて集中できないな。休憩でもするか…」
観客席の歓声が医務室にまで届いてくる。セルジュは薬の調合を中断し、軽食をとるため食堂へ向かった。人混みが苦手なセルジュは対抗戦を一度も観客席で見たことがない。
廊下を歩いていると、一人の女子生徒が走ってきた。慌てているのかセルジュに目もくれず全速力でダッシュしている。彼女とすれ違ったとき、セルジュは目を疑った。
銀色の髪、灰色の瞳。そしてその顔と匂いはまるで…。
「ミモレス…?」
女子生徒にその声は聞こえなかったようで、バタバタと足音を立てながら競技場へ走って行った。セルジュはしばらく呆然と立ち尽くしていたが、彼女を探しにあとを追った。
彼女は観客席の一番前で選手に声援を送っていた。その声もミモレスにそっくりだった。
(彼女は誰だ?あんな生徒学院にいなかった。…そうか、転入生…。たしか、リングイール家の…。リングイール家とは一体何者だ?あんな…ミモレスそっくりの子がいるなんて…。まさか王族とつながりがあるのか…?)
「アーサー!!がんばってぇぇぇ!!」
(アーサー…。彼女の兄か。試合に出ているのか)
セルジュは競技場の中心で剣を振っている二人の少年に目をやった。一人はシリルという生徒、そしてもう一人はセルジュの知らない子だった。彼も銀色の髪をしている。
(二人とも銀色の髪をしている…。瞳の色は…遠すぎて分からない)
しばらく観戦していたが、ここにいてもモニカの後ろ姿と遠目のアーサーしか見ることができない。日を改めて二人に会おうと決めて、セルジュは医務室に戻った。
だが、その日のうちに二人と言葉を交わすことができた。試合で大怪我を負ったアーサーをモニカが医務室に連れてきたのだ。応急処置は取られていて傷は塞がっていたが、ひどい貧血を起こしている。
(じっくり見れば見るほど…モニカはミモレスにそっくりだ。それにアーサーも、男の子ながらミモレスの顔立ちに似ている。一体どういうことなんだ。…血だ。血で確かめたら分かる)
増血薬を作るためと嘯き、セルジュはアーサーに採血をした。注射器の先をペロリと舐める。
「うん。…ん?」
セルジュは首を傾げた。信じられないことが起こっている。
(ミモレスの血だ…!彼女の血と少しも違わない…!!アーサー…この子がミモレスの生まれ変わりだ…!!!なんということだ…なぜ…なぜリングイール家などという無名の貴族からミモレスの生まれ変わりが?!ど、どういうことだ?!)
冷たい視線を感じ、セルジュが我に返る。血を飲まれて固まっているアーサーと、びっくりして口を開けているモニカがセルジュをじっと見ていた。セルジュは慌ててごまかした。
「いやっ!今から増血薬を作るからその参考に舐めただけだからね?決して私が変な性癖の持ち主だなんて思わないように」
「は、はあ…」
「アーサーくんとモニカくんは兄妹だったね?モニカくん、君の血を分けてもらってもいいかい?」
「ええ。もちろん」
「ありがとう」
セルジュはモニカの腕にも注射器を刺した。採血をして、彼女の血も舐める。しばらく不思議そうに注射器を眺めたあと、二人に向き直りにこりと笑った。
「…うん。これなら良い増血薬が作れるよ」
「お願いします」
薬素材とモニカの血を混ぜ、セルジュ特製の増血薬が出来上がった。それに魔法をかけ、圧縮して小さな錠剤にする。手渡されたものをアーサーが飲んだ瞬間、彼の貧血があっという間に治った。
「わあ、すごい!貧血がなくなった!」
「だろう?私の薬はなかなかすごいんだよ」
「ありがとうございます!変な人だなんて思っちゃってごめんなさい!」
「ああ、やっぱり変な人って思われちゃってたか。よく言われるから慣れているけどね。また何かあったらいつでも医務室へおいで」
「はい!」
すっかり元気になったアーサーは、モニカの手を引き医務室を出て行った。廊下から二人の「さっきの薬すごかったねー!!」という可愛らしい声が聞こえる。セルジュは余っていたアーサーとモニカの血を交互に舐めた。興奮して瞳孔が細くなってしまっている。
「アーサーとモニカの血は…全く同じだ…。どちらもミモレスの血を受け継いでいる…!兄妹でここまで血がおなじことなんてありえない。ミモレスは魂も能力も大きすぎたんだ…ひとつの体ではおさまりきらなかったんだ…!彼らは兄妹なんかじゃない…双子だ…」
リングイール家という聞いたことのない貴族を名乗る、ミモレスの血を受け継いだ双子。そこから考えられるのは…。
「8年前に死んだとされている第一王子と第二王女…。彼らは生きていたんだ…。アーサーとモニカは…アウス王子とモリア王女だ…。正体を隠すため、家名、名前、年齢を偽り今まで生きてきたのか…」
二人の血が入っていた注射器を握りしめ、セルジュは嗚咽を漏らした。200年、この時を待っていた。200年もの間…彼はこの血を探し求めていた。
「ミモレス…ミモレス…!!やっと…やっとだミモレス…!やっと君を見つけたよ…。君に話したいことがたくさんある…。君に紹介したい子がいる…!私のことを父と呼んでくれる子のことを…君に話したい…!今度こそ君の願いを叶えるよ…私と君とロイで、これからは平民として暮らそう…君が医者で、僕が薬師をするんだ…。田舎に小さい家を建てよう…。そこで幸せに生きて行こう…」
観客席の歓声が医務室にまで届いてくる。セルジュは薬の調合を中断し、軽食をとるため食堂へ向かった。人混みが苦手なセルジュは対抗戦を一度も観客席で見たことがない。
廊下を歩いていると、一人の女子生徒が走ってきた。慌てているのかセルジュに目もくれず全速力でダッシュしている。彼女とすれ違ったとき、セルジュは目を疑った。
銀色の髪、灰色の瞳。そしてその顔と匂いはまるで…。
「ミモレス…?」
女子生徒にその声は聞こえなかったようで、バタバタと足音を立てながら競技場へ走って行った。セルジュはしばらく呆然と立ち尽くしていたが、彼女を探しにあとを追った。
彼女は観客席の一番前で選手に声援を送っていた。その声もミモレスにそっくりだった。
(彼女は誰だ?あんな生徒学院にいなかった。…そうか、転入生…。たしか、リングイール家の…。リングイール家とは一体何者だ?あんな…ミモレスそっくりの子がいるなんて…。まさか王族とつながりがあるのか…?)
「アーサー!!がんばってぇぇぇ!!」
(アーサー…。彼女の兄か。試合に出ているのか)
セルジュは競技場の中心で剣を振っている二人の少年に目をやった。一人はシリルという生徒、そしてもう一人はセルジュの知らない子だった。彼も銀色の髪をしている。
(二人とも銀色の髪をしている…。瞳の色は…遠すぎて分からない)
しばらく観戦していたが、ここにいてもモニカの後ろ姿と遠目のアーサーしか見ることができない。日を改めて二人に会おうと決めて、セルジュは医務室に戻った。
だが、その日のうちに二人と言葉を交わすことができた。試合で大怪我を負ったアーサーをモニカが医務室に連れてきたのだ。応急処置は取られていて傷は塞がっていたが、ひどい貧血を起こしている。
(じっくり見れば見るほど…モニカはミモレスにそっくりだ。それにアーサーも、男の子ながらミモレスの顔立ちに似ている。一体どういうことなんだ。…血だ。血で確かめたら分かる)
増血薬を作るためと嘯き、セルジュはアーサーに採血をした。注射器の先をペロリと舐める。
「うん。…ん?」
セルジュは首を傾げた。信じられないことが起こっている。
(ミモレスの血だ…!彼女の血と少しも違わない…!!アーサー…この子がミモレスの生まれ変わりだ…!!!なんということだ…なぜ…なぜリングイール家などという無名の貴族からミモレスの生まれ変わりが?!ど、どういうことだ?!)
冷たい視線を感じ、セルジュが我に返る。血を飲まれて固まっているアーサーと、びっくりして口を開けているモニカがセルジュをじっと見ていた。セルジュは慌ててごまかした。
「いやっ!今から増血薬を作るからその参考に舐めただけだからね?決して私が変な性癖の持ち主だなんて思わないように」
「は、はあ…」
「アーサーくんとモニカくんは兄妹だったね?モニカくん、君の血を分けてもらってもいいかい?」
「ええ。もちろん」
「ありがとう」
セルジュはモニカの腕にも注射器を刺した。採血をして、彼女の血も舐める。しばらく不思議そうに注射器を眺めたあと、二人に向き直りにこりと笑った。
「…うん。これなら良い増血薬が作れるよ」
「お願いします」
薬素材とモニカの血を混ぜ、セルジュ特製の増血薬が出来上がった。それに魔法をかけ、圧縮して小さな錠剤にする。手渡されたものをアーサーが飲んだ瞬間、彼の貧血があっという間に治った。
「わあ、すごい!貧血がなくなった!」
「だろう?私の薬はなかなかすごいんだよ」
「ありがとうございます!変な人だなんて思っちゃってごめんなさい!」
「ああ、やっぱり変な人って思われちゃってたか。よく言われるから慣れているけどね。また何かあったらいつでも医務室へおいで」
「はい!」
すっかり元気になったアーサーは、モニカの手を引き医務室を出て行った。廊下から二人の「さっきの薬すごかったねー!!」という可愛らしい声が聞こえる。セルジュは余っていたアーサーとモニカの血を交互に舐めた。興奮して瞳孔が細くなってしまっている。
「アーサーとモニカの血は…全く同じだ…。どちらもミモレスの血を受け継いでいる…!兄妹でここまで血がおなじことなんてありえない。ミモレスは魂も能力も大きすぎたんだ…ひとつの体ではおさまりきらなかったんだ…!彼らは兄妹なんかじゃない…双子だ…」
リングイール家という聞いたことのない貴族を名乗る、ミモレスの血を受け継いだ双子。そこから考えられるのは…。
「8年前に死んだとされている第一王子と第二王女…。彼らは生きていたんだ…。アーサーとモニカは…アウス王子とモリア王女だ…。正体を隠すため、家名、名前、年齢を偽り今まで生きてきたのか…」
二人の血が入っていた注射器を握りしめ、セルジュは嗚咽を漏らした。200年、この時を待っていた。200年もの間…彼はこの血を探し求めていた。
「ミモレス…ミモレス…!!やっと…やっとだミモレス…!やっと君を見つけたよ…。君に話したいことがたくさんある…。君に紹介したい子がいる…!私のことを父と呼んでくれる子のことを…君に話したい…!今度こそ君の願いを叶えるよ…私と君とロイで、これからは平民として暮らそう…君が医者で、僕が薬師をするんだ…。田舎に小さい家を建てよう…。そこで幸せに生きて行こう…」
0
お気に入りに追加
68
あなたにおすすめの小説

番から逃げる事にしました
みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。
前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。
彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。
❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。
❋独自設定有りです。
❋他視点の話もあります。
❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。
ヴァンパイア皇子の最愛
花宵
恋愛
「私達、結婚することにしたの」
大好きな姉と幼馴染みが結婚したその日、アリシアは吸血鬼となった。
隣国のヴァンパイア皇子フォルネウスに保護されて始まった吸血鬼生活。
愛のある結婚しか許されていないこの国で、未来の皇太子妃として期待されているとも知らずに……
その出会いが、やがて世界を救う奇跡となる――優しい愛の物語です。
イラストはココナラで昔、この小説用に『こまさん』に書いて頂いたものです。
詳細は下記をご覧ください。
https://enjoy-days.net/coconara

おっさん、異世界でスローライフはじめます 〜猫耳少女とふしぎな毎日〜
桃源 華
ファンタジー
50代のサラリーマンおっさんが異世界に転生し、少年の姿で新たな人生を歩む。転生先で、猫耳の獣人・ミュリと共にスパイス商人として活躍。マーケティングスキルと過去の経験を駆使して、王宮での料理対決や街の発展に挑み、仲間たちとの絆を深めながら成長していくファンタジー冒険譚。

だいたい全部、聖女のせい。
荒瀬ヤヒロ
恋愛
「どうして、こんなことに……」
異世界よりやってきた聖女と出会い、王太子は変わってしまった。
いや、王太子の側近の令息達まで、変わってしまったのだ。
すでに彼らには、婚約者である令嬢達の声も届かない。
これはとある王国に降り立った聖女との出会いで見る影もなく変わってしまった男達に苦しめられる少女達の、嘆きの物語。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。
アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。
両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。
両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。
テッドには、妹が3人いる。
両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。
このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。
そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。
その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。
両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。
両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…
両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが…
母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。
今日も依頼をこなして、家に帰るんだ!
この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。
お楽しみくださいね!
HOTランキング20位になりました。
皆さん、有り難う御座います。

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる