24 / 47
24
しおりを挟む
「ロイー!今日も二人に教えてやってくれよぉ」
魔法の授業中、一番後ろの席に座っていたノアに声をかけられた。ノアがどきどきしながら彼の元へ向かう。
モニカは魔法が苦手だが、学院一かわいいと言われていたグレンダでも太刀打ちできないほどの容姿と、誰にでも優しい性格、よく笑う(しかも笑顔がとてもかわい)ことから男子に人気があった。ノアとチャドもモニカのことが気になっているらしく、授業のときには彼女の前の席に座るようになった。
彼女は最近仲良くなったライラという子と一緒に授業を受けていた。ライラも魔法が苦手で、二人でうんうん唸りながら杖を振ってはため息をついている。前に座っているノアとチャドが魔法を教えようとするのだが、彼らは魔法はそこそこ使えるが教えるのは絶望的に下手だった。困り果てた彼らはいつもロイに助け船を求めて声をかけてくる。表には出さないが、ロイは毎日ノア達に呼ばれるのを心待ちにしていた。ここまで男子に人気が出てしまったモニカに、ロイが自分から声をかける勇気なんてない。
ロイが来たことに気付いたモニカはパッと顔を輝かせた。その表情がこれまた可愛い。ロイは平静を保つために太ももを強くつねった。
「ロイ~!助けて~」
「大丈夫だよモニカさん。まずは呪文の発音が間違ってないか確認しよう。ライラと一緒に唱えてみて…」
何万冊もの書物を暗記しているロイは、知識豊富で教えるのが上手だった。そのおかげでライラは徐々に魔法を使えるようになってきたのだが、モニカはなかなか上達しない。
(おかしいな…。発音も問題ないし杖の振り方だって綺麗なのに…杖にまったく魔力が伝わっていない。やっぱり魔力が多すぎて上手く作動していないのかな…)
「わーん、全然できないよお」
30分杖を振り続けていたが、とうとうモニカがねをあげた。こんなに頑張っているのに全く成果が出なければ心が折れてもおかしくない。落ち込んでいるモニカを4人が励ました。
「モ、モニカちゃん。一緒にがんばろうっ」
「はじめよりずっと良くなってるよモニカさん。だからめげないで」
「あはは!!モニカはほんとだめだなあ!」
「気にするなモニカ!お前はかわいいし性格もいいんだ。ちょっとくらいダメなとこがあったほうがかわいいぞ。それに、諦めずにがんばってるモニカは素敵だぞ」
「そうだぞモニカ!お前ができるようになるまでずっと見ててやるから、がんばれがんばれ」
「がんばるぅ…」
モニカは気を取り直して杖を握った。4人が見守る中、何度も何度も杖を振る。授業が終わる直前にほんの少しだけ魔法が発動し、ロイ、チャド、ノア、ライラは大喜びした。
◇◇◇
モニカの美貌はウィルク王子をも夢中にさせた。初対面で早々に妾として迎え入れると宣言して彼女の唇を奪い、リリー寮の子たちを騒然とさせた。迷惑そうに笑うモニカの気持ちなど全く汲み取ろうとせず、ウィルク王子は毎日彼女を付け回した。抱きつこうとしたり唇を奪おうとする王子を、必死に兄のアーサーがガードしていた。
モニカを追い回す王子を見ていると、ロイの胸がざわついた。モニカを見ているときに感じるきゅんきゅんよした胸の苦しさとはちがう、どろどろとした感情がロイを襲った。
(王子はモニカさんが嫌がってることも分からないのかな。あんなことしてたって嫌われるだけでしょ。モニカさんから離れろよバカ王子)
ノアやチャド、兄のアーサーがモニカと楽しそうに会話しているときでも胸がチクチク痛んだ。王子に追いかけ回されているときは困ったようにしている彼女だが、彼らと話しているときはとても幸せそうに笑っていた。特にアーサーの前では他の人に見せない表情をしていた。甘えていて少しわがままで、兄に抱きついたり膝の上に頭を乗せて寝ている時が人生で一番幸せだと感じているような穏やかな顔をする。
ロイは、チャド、ノア、アーサーほどの端正な顔立ちをしていない。彼らのようなカリスマ性もなければ、話で人を楽しませることもできない。それになにより…彼は人間ではない。モニカに釣り合うような存在ではないことは誰よりも分かっていた。
モニカが転入して5日後、寮対抗戦という学院の一大イベントが開催された。マーサやグレンダも出場するのだが、観戦する気になれずロイは食事部屋でぼぉっとしていた。
「タール…おいで」
「ぁぅうぅっ!」
ロイが来たことに喜んだタールは、牢屋に入ってきた彼に飛びついて頭をなすりつけた。ロイはクスっと笑い彼の頭を撫でる。心地が良いのかタールはとろんと目を閉じて彼に体を預けた。
「ねえ、君もこんな気持ちだったの?」
「ぁぅぅ…?」
「人を好きになるって、とっても苦しいねタール」
「ぅぅ…ぁぅん」
「はぁ…モニカさんも君みたいに僕に懐いてくれたらなあ。めいっぱいかわいがってあげるのに」
他の人のことを考えていることに気付いたタールは頬を膨らませてロイを押し倒した。自分で首を傷つけ、傷口をロイの口元に押し付ける。
「わぶっ!ちょ、ちょっとタール!突然どうしたの?!」
「あぅぅぅ…ぁうぅう!」
「ちょっ…!血が服についちゃうだろう?!あははっ!なんだよタール!重いよやめてよぉ!!あははは!」
「ぁうぅっ!ぁぅぅっ!」
ロイが笑ったのが嬉しかったのか、タールはそのあともロイに自分の血をこすりつけた。
魔法の授業中、一番後ろの席に座っていたノアに声をかけられた。ノアがどきどきしながら彼の元へ向かう。
モニカは魔法が苦手だが、学院一かわいいと言われていたグレンダでも太刀打ちできないほどの容姿と、誰にでも優しい性格、よく笑う(しかも笑顔がとてもかわい)ことから男子に人気があった。ノアとチャドもモニカのことが気になっているらしく、授業のときには彼女の前の席に座るようになった。
彼女は最近仲良くなったライラという子と一緒に授業を受けていた。ライラも魔法が苦手で、二人でうんうん唸りながら杖を振ってはため息をついている。前に座っているノアとチャドが魔法を教えようとするのだが、彼らは魔法はそこそこ使えるが教えるのは絶望的に下手だった。困り果てた彼らはいつもロイに助け船を求めて声をかけてくる。表には出さないが、ロイは毎日ノア達に呼ばれるのを心待ちにしていた。ここまで男子に人気が出てしまったモニカに、ロイが自分から声をかける勇気なんてない。
ロイが来たことに気付いたモニカはパッと顔を輝かせた。その表情がこれまた可愛い。ロイは平静を保つために太ももを強くつねった。
「ロイ~!助けて~」
「大丈夫だよモニカさん。まずは呪文の発音が間違ってないか確認しよう。ライラと一緒に唱えてみて…」
何万冊もの書物を暗記しているロイは、知識豊富で教えるのが上手だった。そのおかげでライラは徐々に魔法を使えるようになってきたのだが、モニカはなかなか上達しない。
(おかしいな…。発音も問題ないし杖の振り方だって綺麗なのに…杖にまったく魔力が伝わっていない。やっぱり魔力が多すぎて上手く作動していないのかな…)
「わーん、全然できないよお」
30分杖を振り続けていたが、とうとうモニカがねをあげた。こんなに頑張っているのに全く成果が出なければ心が折れてもおかしくない。落ち込んでいるモニカを4人が励ました。
「モ、モニカちゃん。一緒にがんばろうっ」
「はじめよりずっと良くなってるよモニカさん。だからめげないで」
「あはは!!モニカはほんとだめだなあ!」
「気にするなモニカ!お前はかわいいし性格もいいんだ。ちょっとくらいダメなとこがあったほうがかわいいぞ。それに、諦めずにがんばってるモニカは素敵だぞ」
「そうだぞモニカ!お前ができるようになるまでずっと見ててやるから、がんばれがんばれ」
「がんばるぅ…」
モニカは気を取り直して杖を握った。4人が見守る中、何度も何度も杖を振る。授業が終わる直前にほんの少しだけ魔法が発動し、ロイ、チャド、ノア、ライラは大喜びした。
◇◇◇
モニカの美貌はウィルク王子をも夢中にさせた。初対面で早々に妾として迎え入れると宣言して彼女の唇を奪い、リリー寮の子たちを騒然とさせた。迷惑そうに笑うモニカの気持ちなど全く汲み取ろうとせず、ウィルク王子は毎日彼女を付け回した。抱きつこうとしたり唇を奪おうとする王子を、必死に兄のアーサーがガードしていた。
モニカを追い回す王子を見ていると、ロイの胸がざわついた。モニカを見ているときに感じるきゅんきゅんよした胸の苦しさとはちがう、どろどろとした感情がロイを襲った。
(王子はモニカさんが嫌がってることも分からないのかな。あんなことしてたって嫌われるだけでしょ。モニカさんから離れろよバカ王子)
ノアやチャド、兄のアーサーがモニカと楽しそうに会話しているときでも胸がチクチク痛んだ。王子に追いかけ回されているときは困ったようにしている彼女だが、彼らと話しているときはとても幸せそうに笑っていた。特にアーサーの前では他の人に見せない表情をしていた。甘えていて少しわがままで、兄に抱きついたり膝の上に頭を乗せて寝ている時が人生で一番幸せだと感じているような穏やかな顔をする。
ロイは、チャド、ノア、アーサーほどの端正な顔立ちをしていない。彼らのようなカリスマ性もなければ、話で人を楽しませることもできない。それになにより…彼は人間ではない。モニカに釣り合うような存在ではないことは誰よりも分かっていた。
モニカが転入して5日後、寮対抗戦という学院の一大イベントが開催された。マーサやグレンダも出場するのだが、観戦する気になれずロイは食事部屋でぼぉっとしていた。
「タール…おいで」
「ぁぅうぅっ!」
ロイが来たことに喜んだタールは、牢屋に入ってきた彼に飛びついて頭をなすりつけた。ロイはクスっと笑い彼の頭を撫でる。心地が良いのかタールはとろんと目を閉じて彼に体を預けた。
「ねえ、君もこんな気持ちだったの?」
「ぁぅぅ…?」
「人を好きになるって、とっても苦しいねタール」
「ぅぅ…ぁぅん」
「はぁ…モニカさんも君みたいに僕に懐いてくれたらなあ。めいっぱいかわいがってあげるのに」
他の人のことを考えていることに気付いたタールは頬を膨らませてロイを押し倒した。自分で首を傷つけ、傷口をロイの口元に押し付ける。
「わぶっ!ちょ、ちょっとタール!突然どうしたの?!」
「あぅぅぅ…ぁうぅう!」
「ちょっ…!血が服についちゃうだろう?!あははっ!なんだよタール!重いよやめてよぉ!!あははは!」
「ぁうぅっ!ぁぅぅっ!」
ロイが笑ったのが嬉しかったのか、タールはそのあともロイに自分の血をこすりつけた。
0
お気に入りに追加
68
あなたにおすすめの小説

番から逃げる事にしました
みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。
前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。
彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。
❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。
❋独自設定有りです。
❋他視点の話もあります。
❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。
ヴァンパイア皇子の最愛
花宵
恋愛
「私達、結婚することにしたの」
大好きな姉と幼馴染みが結婚したその日、アリシアは吸血鬼となった。
隣国のヴァンパイア皇子フォルネウスに保護されて始まった吸血鬼生活。
愛のある結婚しか許されていないこの国で、未来の皇太子妃として期待されているとも知らずに……
その出会いが、やがて世界を救う奇跡となる――優しい愛の物語です。
イラストはココナラで昔、この小説用に『こまさん』に書いて頂いたものです。
詳細は下記をご覧ください。
https://enjoy-days.net/coconara


Link's
黒砂糖デニーロ
ファンタジー
この世界には二つの存在がいる。
人類に仇なす不死の生物、"魔属”
そして魔属を殺せる唯一の異能者、"勇者”
人類と魔族の戦いはすでに千年もの間、続いている――
アオイ・イリスは人類の脅威と戦う勇者である。幼馴染のレン・シュミットはそんな彼女を聖剣鍛冶師として支える。
ある日、勇者連続失踪の調査を依頼されたアオイたち。ただの調査のはずが、都市存亡の戦いと、その影に蠢く陰謀に巻き込まれることに。
やがてそれは、世界の命運を分かつ事態に――
猪突猛進型少女の勇者と、気苦労耐えない幼馴染が繰り広げる怒涛のバトルアクション!

だいたい全部、聖女のせい。
荒瀬ヤヒロ
恋愛
「どうして、こんなことに……」
異世界よりやってきた聖女と出会い、王太子は変わってしまった。
いや、王太子の側近の令息達まで、変わってしまったのだ。
すでに彼らには、婚約者である令嬢達の声も届かない。
これはとある王国に降り立った聖女との出会いで見る影もなく変わってしまった男達に苦しめられる少女達の、嘆きの物語。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。
アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。
両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。
両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。
テッドには、妹が3人いる。
両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。
このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。
そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。
その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。
両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。
両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…
両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが…
母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。
今日も依頼をこなして、家に帰るんだ!
この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。
お楽しみくださいね!
HOTランキング20位になりました。
皆さん、有り難う御座います。

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる