【完結】吸血鬼の元騎士

mazecco

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「ロイー!今日も二人に教えてやってくれよぉ」

魔法の授業中、一番後ろの席に座っていたノアに声をかけられた。ノアがどきどきしながら彼の元へ向かう。

モニカは魔法が苦手だが、学院一かわいいと言われていたグレンダでも太刀打ちできないほどの容姿と、誰にでも優しい性格、よく笑う(しかも笑顔がとてもかわい)ことから男子に人気があった。ノアとチャドもモニカのことが気になっているらしく、授業のときには彼女の前の席に座るようになった。

彼女は最近仲良くなったライラという子と一緒に授業を受けていた。ライラも魔法が苦手で、二人でうんうん唸りながら杖を振ってはため息をついている。前に座っているノアとチャドが魔法を教えようとするのだが、彼らは魔法はそこそこ使えるが教えるのは絶望的に下手だった。困り果てた彼らはいつもロイに助け船を求めて声をかけてくる。表には出さないが、ロイは毎日ノア達に呼ばれるのを心待ちにしていた。ここまで男子に人気が出てしまったモニカに、ロイが自分から声をかける勇気なんてない。

ロイが来たことに気付いたモニカはパッと顔を輝かせた。その表情がこれまた可愛い。ロイは平静を保つために太ももを強くつねった。

「ロイ~!助けて~」

「大丈夫だよモニカさん。まずは呪文の発音が間違ってないか確認しよう。ライラと一緒に唱えてみて…」

何万冊もの書物を暗記しているロイは、知識豊富で教えるのが上手だった。そのおかげでライラは徐々に魔法を使えるようになってきたのだが、モニカはなかなか上達しない。

(おかしいな…。発音も問題ないし杖の振り方だって綺麗なのに…杖にまったく魔力が伝わっていない。やっぱり魔力が多すぎて上手く作動していないのかな…)

「わーん、全然できないよお」

30分杖を振り続けていたが、とうとうモニカがねをあげた。こんなに頑張っているのに全く成果が出なければ心が折れてもおかしくない。落ち込んでいるモニカを4人が励ました。

「モ、モニカちゃん。一緒にがんばろうっ」

「はじめよりずっと良くなってるよモニカさん。だからめげないで」

「あはは!!モニカはほんとだめだなあ!」

「気にするなモニカ!お前はかわいいし性格もいいんだ。ちょっとくらいダメなとこがあったほうがかわいいぞ。それに、諦めずにがんばってるモニカは素敵だぞ」

「そうだぞモニカ!お前ができるようになるまでずっと見ててやるから、がんばれがんばれ」

「がんばるぅ…」

モニカは気を取り直して杖を握った。4人が見守る中、何度も何度も杖を振る。授業が終わる直前にほんの少しだけ魔法が発動し、ロイ、チャド、ノア、ライラは大喜びした。

◇◇◇
モニカの美貌はウィルク王子をも夢中にさせた。初対面で早々に妾として迎え入れると宣言して彼女の唇を奪い、リリー寮の子たちを騒然とさせた。迷惑そうに笑うモニカの気持ちなど全く汲み取ろうとせず、ウィルク王子は毎日彼女を付け回した。抱きつこうとしたり唇を奪おうとする王子を、必死に兄のアーサーがガードしていた。

モニカを追い回す王子を見ていると、ロイの胸がざわついた。モニカを見ているときに感じるきゅんきゅんよした胸の苦しさとはちがう、どろどろとした感情がロイを襲った。

(王子はモニカさんが嫌がってることも分からないのかな。あんなことしてたって嫌われるだけでしょ。モニカさんから離れろよバカ王子)

ノアやチャド、兄のアーサーがモニカと楽しそうに会話しているときでも胸がチクチク痛んだ。王子に追いかけ回されているときは困ったようにしている彼女だが、彼らと話しているときはとても幸せそうに笑っていた。特にアーサーの前では他の人に見せない表情をしていた。甘えていて少しわがままで、兄に抱きついたり膝の上に頭を乗せて寝ている時が人生で一番幸せだと感じているような穏やかな顔をする。

ロイは、チャド、ノア、アーサーほどの端正な顔立ちをしていない。彼らのようなカリスマ性もなければ、話で人を楽しませることもできない。それになにより…彼は人間ではない。モニカに釣り合うような存在ではないことは誰よりも分かっていた。

モニカが転入して5日後、寮対抗戦という学院の一大イベントが開催された。マーサやグレンダも出場するのだが、観戦する気になれずロイは食事部屋でぼぉっとしていた。

「タール…おいで」

「ぁぅうぅっ!」

ロイが来たことに喜んだタールは、牢屋に入ってきた彼に飛びついて頭をなすりつけた。ロイはクスっと笑い彼の頭を撫でる。心地が良いのかタールはとろんと目を閉じて彼に体を預けた。

「ねえ、君もこんな気持ちだったの?」

「ぁぅぅ…?」

「人を好きになるって、とっても苦しいねタール」

「ぅぅ…ぁぅん」

「はぁ…モニカさんも君みたいに僕に懐いてくれたらなあ。めいっぱいかわいがってあげるのに」

他の人のことを考えていることに気付いたタールは頬を膨らませてロイを押し倒した。自分で首を傷つけ、傷口をロイの口元に押し付ける。

「わぶっ!ちょ、ちょっとタール!突然どうしたの?!」

「あぅぅぅ…ぁうぅう!」

「ちょっ…!血が服についちゃうだろう?!あははっ!なんだよタール!重いよやめてよぉ!!あははは!」

「ぁうぅっ!ぁぅぅっ!」

ロイが笑ったのが嬉しかったのか、タールはそのあともロイに自分の血をこすりつけた。
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