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タールにチムシーを寄生させた10日後。ダリア寮の生徒2人がロイを襲っているところをセルジュが捕まえて食事部屋へ連れ去った。そこにはチムシーに寄生され、10日間血を与えられず正気を失ったタールが檻に閉じ込められていた。生徒の首に傷をつけ同じ檻に放り込むと、タールが彼らに飛びつき血を貪った。大量に血を飲まれて泣き叫んでいる二人にチムシーを寄生させ3日ほど放置すると、3人がかわるがわるお互いの血を飲み合うようになった。その光景をロイが興味深げに眺めている。
「わぁー!お父さま見て!チムシーに寄生されたもの同士で血を飲み合ってます!チムシーに寄生された人間の血を飲んだら吸血欲を発症するんですよね?」
「そうだよ。彼らがお互いの血を飲めば飲むほど喉の渇きを覚える。その渇きを満たそうとまた血を飲み、さらに渇きがひどくなる。おもしろいねえ」
「ほんとばかだなあ!!あはは!」
「完全な吸血鬼になればチムシーに寄生された血を飲んでもそんなことにはならない。人間でも吸血鬼でもないこの期間が…一番つらいだろうね」
「ずっとこのままだったらいいのになあ。…タールおいで。血を飲んであげる」
「うぁ…ぁぁ…」
「あは。すっかり言葉を忘れちゃって。10日間も血を飲まなかったもんね。かわいそうなタール」
「ぅぅ…ぅぁあぁ…」
檻を開けてロイが中に入ると、タールは焦点の定まっていない目で彼を見た。よろよろと這い、ロイにしがみつく。正気を失ったタールは、母鳥に懐いている雛のようにロイの傍を離れたがらなかった。ロイが檻の中にいるときは彼に抱きつき、ロイが他の生徒の血を飲もうとすると嫌がり駄々をこねるように唸った。ロイはタールの頭を撫でてから、首元に噛みつき血を啜る。血を飲まれているのに嬉しそうにしているタールにセルジュは首を傾げた。
「なぜこんなにロイに懐いている?彼は正気を失う前、君のことが好きだったのかな?」
冗談を言ったつもりだったのだが、ロイは頷いてさらりと言ってのけた。
「みたいですよ。最後に襲われた日、それっぽいことを言ってましたし」
「なにぃ…?私のロイに近寄るなこのヴァンク家のアパンめ!!」
「まあまあ。今のタールかわいいじゃありませんか。まるで赤ちゃんみたいで好きですよ僕」
「許さん…!父は許さんぞロイ!」
「えぇ…?」
「おいアパン!ロイから離れろ!!」
セルジュが騒いでいると、タールは先ほどより強くロイにしがみつき歯を見せて威嚇した。
「うぅぅぅ…!!」
「なにぃ?!アパン風情がこの私に牙を向けるのか?!」
「うぅぅぅぅっ!!」
「ちょ…ちょっと…お父さま、アパンなんかに何むきになってるんですか…」
「むぅ…」
「間違ってもタールを殺したらだめですからね。僕のかわいい餌なんだから」
「ぐぬぬぅ…」
タールの頭を撫でながら呆れたようにロイがそう言った。ロイの胸に頭を預けていたタールが、注意されているセルジュに向かってにやりと笑った。かわいがられて良いだろうとでも言いたげな様子だ。セルジュは顔を真っ赤にしてソファを置いてある部屋に去っていった。
「お父さまったら…大人げないなあ」
「ぅぅ…あぁー」
「ん?なあに?もっと血を飲んでほしいの?」
「ぁぅ」
「いいよ。いっぱい飲んであげるね。僕のかわいいヴァンク家のアパン」
「ぁぅん」
ロイが血を飲みやすいよう、タールは首を傾け差し出した。「良い子だね」と顎を撫でるとタールは嬉しそうに唸った。タールの意識が失うまでたっぷりと血を飲み、彼に増血薬を移し飲ませてから檻を出た。
「はあ、おなかいっぱい!」
◇◇◇
2週間で3人もの生徒が失踪し、学院はざわめいていた。校長は慌てて理事長であるオーヴェルニュ侯爵に報告し、教師たちは毎日話し合いをしていた。
「この短期間で3人も…!ビアンナ、探知魔法をかけているのは君だろう?!なにか異変には気付かなかったのか?!」
一人の教師が副校長であるビアンナ先生に詰め寄った。ビアンナ先生は学院の敷地全体に探知魔法を常時張り巡らせており、なにかあればすぐに分かるよう管理していた。ビアンナ先生はため息をつきながら首を振った。
「残念ながら、この2週間で異変は探知できませんでした」
「なんだとぉ…?なんのための探知魔法だ!!」
「落ち着いてください先生」
セルジュは怒っている先生に声をかけた。慌てるのも仕方がない。彼はダリア寮長だ。2人もの生徒も行方不明になっては誰かに責任転嫁したくなるのは当然だろう。
「これが落ち着いていられると思いますかね?!セルジュ先生!」
「冷静に考えてください。ビアンナが探知できなかった…言い換えると彼らは城の外に出ていないと言うことでしょう。ビアンナが探知魔法をかけているのは学院の敷地内。…この城の中以外のね」
「あ…」
「そう。この城の壁には反魔法がかけられている。つまり探知魔法が効かないんですよ。城内ですべてが完結していたら、ビアンナが探知できなくても当然でしょう」
「な…なるほど」
セルジュの意見に全員がハッとして考え込んだ。
(このくらい言っておけば私を疑う者はいないだろう。あの隠し部屋は誰も知らないはずだ。まず見つからない)
「今は…失踪した生徒は学院内にいると考えて動きましょう。先生方は日替わりで夜に生徒の捜索をお願いします。生徒たちは授業以外で寮から出ることを禁じましょう」
ビアンナ先生がそう言うと教師たちは頷いた。その日から失踪した生徒の捜索が始まったが、何日経っても教師たちは失踪した生徒を見つけることができなかった。
「わぁー!お父さま見て!チムシーに寄生されたもの同士で血を飲み合ってます!チムシーに寄生された人間の血を飲んだら吸血欲を発症するんですよね?」
「そうだよ。彼らがお互いの血を飲めば飲むほど喉の渇きを覚える。その渇きを満たそうとまた血を飲み、さらに渇きがひどくなる。おもしろいねえ」
「ほんとばかだなあ!!あはは!」
「完全な吸血鬼になればチムシーに寄生された血を飲んでもそんなことにはならない。人間でも吸血鬼でもないこの期間が…一番つらいだろうね」
「ずっとこのままだったらいいのになあ。…タールおいで。血を飲んであげる」
「うぁ…ぁぁ…」
「あは。すっかり言葉を忘れちゃって。10日間も血を飲まなかったもんね。かわいそうなタール」
「ぅぅ…ぅぁあぁ…」
檻を開けてロイが中に入ると、タールは焦点の定まっていない目で彼を見た。よろよろと這い、ロイにしがみつく。正気を失ったタールは、母鳥に懐いている雛のようにロイの傍を離れたがらなかった。ロイが檻の中にいるときは彼に抱きつき、ロイが他の生徒の血を飲もうとすると嫌がり駄々をこねるように唸った。ロイはタールの頭を撫でてから、首元に噛みつき血を啜る。血を飲まれているのに嬉しそうにしているタールにセルジュは首を傾げた。
「なぜこんなにロイに懐いている?彼は正気を失う前、君のことが好きだったのかな?」
冗談を言ったつもりだったのだが、ロイは頷いてさらりと言ってのけた。
「みたいですよ。最後に襲われた日、それっぽいことを言ってましたし」
「なにぃ…?私のロイに近寄るなこのヴァンク家のアパンめ!!」
「まあまあ。今のタールかわいいじゃありませんか。まるで赤ちゃんみたいで好きですよ僕」
「許さん…!父は許さんぞロイ!」
「えぇ…?」
「おいアパン!ロイから離れろ!!」
セルジュが騒いでいると、タールは先ほどより強くロイにしがみつき歯を見せて威嚇した。
「うぅぅぅ…!!」
「なにぃ?!アパン風情がこの私に牙を向けるのか?!」
「うぅぅぅぅっ!!」
「ちょ…ちょっと…お父さま、アパンなんかに何むきになってるんですか…」
「むぅ…」
「間違ってもタールを殺したらだめですからね。僕のかわいい餌なんだから」
「ぐぬぬぅ…」
タールの頭を撫でながら呆れたようにロイがそう言った。ロイの胸に頭を預けていたタールが、注意されているセルジュに向かってにやりと笑った。かわいがられて良いだろうとでも言いたげな様子だ。セルジュは顔を真っ赤にしてソファを置いてある部屋に去っていった。
「お父さまったら…大人げないなあ」
「ぅぅ…あぁー」
「ん?なあに?もっと血を飲んでほしいの?」
「ぁぅ」
「いいよ。いっぱい飲んであげるね。僕のかわいいヴァンク家のアパン」
「ぁぅん」
ロイが血を飲みやすいよう、タールは首を傾け差し出した。「良い子だね」と顎を撫でるとタールは嬉しそうに唸った。タールの意識が失うまでたっぷりと血を飲み、彼に増血薬を移し飲ませてから檻を出た。
「はあ、おなかいっぱい!」
◇◇◇
2週間で3人もの生徒が失踪し、学院はざわめいていた。校長は慌てて理事長であるオーヴェルニュ侯爵に報告し、教師たちは毎日話し合いをしていた。
「この短期間で3人も…!ビアンナ、探知魔法をかけているのは君だろう?!なにか異変には気付かなかったのか?!」
一人の教師が副校長であるビアンナ先生に詰め寄った。ビアンナ先生は学院の敷地全体に探知魔法を常時張り巡らせており、なにかあればすぐに分かるよう管理していた。ビアンナ先生はため息をつきながら首を振った。
「残念ながら、この2週間で異変は探知できませんでした」
「なんだとぉ…?なんのための探知魔法だ!!」
「落ち着いてください先生」
セルジュは怒っている先生に声をかけた。慌てるのも仕方がない。彼はダリア寮長だ。2人もの生徒も行方不明になっては誰かに責任転嫁したくなるのは当然だろう。
「これが落ち着いていられると思いますかね?!セルジュ先生!」
「冷静に考えてください。ビアンナが探知できなかった…言い換えると彼らは城の外に出ていないと言うことでしょう。ビアンナが探知魔法をかけているのは学院の敷地内。…この城の中以外のね」
「あ…」
「そう。この城の壁には反魔法がかけられている。つまり探知魔法が効かないんですよ。城内ですべてが完結していたら、ビアンナが探知できなくても当然でしょう」
「な…なるほど」
セルジュの意見に全員がハッとして考え込んだ。
(このくらい言っておけば私を疑う者はいないだろう。あの隠し部屋は誰も知らないはずだ。まず見つからない)
「今は…失踪した生徒は学院内にいると考えて動きましょう。先生方は日替わりで夜に生徒の捜索をお願いします。生徒たちは授業以外で寮から出ることを禁じましょう」
ビアンナ先生がそう言うと教師たちは頷いた。その日から失踪した生徒の捜索が始まったが、何日経っても教師たちは失踪した生徒を見つけることができなかった。
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