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「かわいいかわい俺のロイちゃん。今晩は俺と遊ぼうね」
「っ」
昼食時、食事を摂っているロイの耳元に、後ろを通りがかったタールが囁いた。彼の声を聞いただけで寒気が走る。ロイが固まっているとタールは言葉を続けた。
「今晩も物置に来い。昨日つけられた傷はちゃんと治しとけよ」
「……」
顔を離し、ロイの背中をポンと叩いてからタールは去っていった。
「最近タールと仲がいいねロイ」
二人の様子を見ていたグレンダとマーサが、あまり嬉しそうじゃない顔でタールの姿を目で追っていた。
「…彼はあんまり良い噂を聞かないわ。大きなお世話かもしれないけど、気を付けてね」
「うん。ありがとう」
二人の優しさに胸があたたかくなる。今のロイにとって、マーサ、グレンダ、ノア、チャドだけが優しい人間だった。他の生徒たちはただの餌にしか見えない。彼らの姿を見ても「こいつはおいしそうだな」「こいつはまずそう」という気持ちしか湧き上がってこなかった。どうしてこの3年間、こんな餌と一緒に過ごすことが楽しいと思っていたのか…今のロイには到底理解のできないことだった。
「それにしても昨日まで死人みたいな顔だったのに、今日はとっても元気そうね!」
「うっ」
マーサの言葉にロイの体がこわばった。9か月ぶりにたっぷり血を飲んだロイはすっかり元気になっていた。吸血鬼ほどの回復力を持たない人間からすれば不自然なほどにだ。ロイはごまかし笑いをしながら答えた。
「あは、あはは。最近あまりにも体調が良くなかったからさ、観念してセルジュ先生に診てもらったんだー。薬をもらったら一発で治ったよー。いやー助かった」
「そうなの?よかったー。もう死んじゃうんじゃないかって思ったわ」
「さすがセルジュ先生ね!」
「うん!セルジュ先生は最高だね!」
「あらら。ずーっと毛嫌いしてたのに!」
「今までの僕がばかだったよ。…ほんとに」
◇◇◇
暗い物置。タールが来た時にはすでにロイが待っていた。机の上に座って足をぷらぷらさせている。どこか遠い目をしていたロイはタールに気付いて微笑んだ。いつもと雰囲気が違うロイにタールは高揚した。
「おいおい。今日はご機嫌じゃねえか。そんなに俺に遊んでほしかったのか?」
「うん。待ちわびた」
「あははは!!ちょっと前まで泣き喚いてたのになあ!!すっかり本性あらわしやがった。さっさと服脱ぎな。お前の望み通りじっくりいたぶってやるからさ」
ロイはシャツを脱いで背中をタールに向けた。すぐさま鞭が飛んでくる。じんとした痛みを感じたが、血をたっぷり飲んだロイの体はすぐに回復する。
「ん?なんだ?今日のお前、全然痕が付かねえ…血も出ねえし」
「……ふふ」
「ああ?何が面白いんだよ!!お前痛がりもしねえしよ!!いつもみたいに泣けよ!鞭の音にビビッてビクビクしろよ!!」
「昨日の子たちとの方が楽しかったなあ」
「ああっ?!」
ロイが鞭を振っているタールの目をちらりと見てそう呟いた。彼と目が合うとハンと鼻で笑って見せた。タールは歯をぎりぎり鳴らしロイを押し倒した。逆上してフーフー荒い息を立てている。乱暴にロイのズボンをおろしながら大きな声で叫んだ。
「お前は俺のおもちゃだろ!!何ほかのやつに飼いならされてんだよ!!」
乱暴に体を動かしながら、タールは「くそっ!あいつらっ!」と悪態をついている。ロイは呆れてため息をついた。
「君が彼らに僕を遊ばせてたんじゃないか」
「俺はっ!あいつらにお前を自慢したかっただけだ!!横取りされてたまるかよ!!」
「えぇ…」
「ど、どうだ!俺が一番うまいだろ!!12歳のころからおもちゃで遊んでたんだ!他のやつらより気持ちいいだろ!?」
「いや…この行為に気持ち良さを感じたことはないけど…」
「だ…だったらこれからお前も気持ち良くしてやるから!な?!だからお前はもう他のやつと遊ぶな!!俺だけのおもちゃでいろ!!」
「はぁ…?」
「な、なんならお前の欲しい物もやるよ!何が欲しい?金か?服か?なんでもやるから、だから、俺以外のやつの方が楽しいとか気持ちいとか言うなよ!!俺が一番だって言え!!」
なんてバカな餌なんだろうとロイは小さくため息をついた。この愚かな餌は独占欲が強すぎる。まるで自分が"おもちゃ"と呼んでいるものに、恋をしてしまっているかのようだった。つくづく人間のすることは理解に苦しむ。
「一番だって言ったら、僕の欲しいものをくれる?」
「ああ!!やるよ!!」
「じゃあ、血をちょうだい?」
「…は?」
突拍子のないおねだりに、タールは動くのをやめてロイを見た。乱暴にされたせいでロイの髪が乱れている。前髪で隠していた目がはっきりと見えた。猫のように細い瞳孔がタールを見つめている。目が合うとロイが薄気味悪い笑みを浮かべた。
「ひっ…!」
「何をしているんだい?」
タールの背後から低い声が聞こえた。びくりと体を強張らせ後ろを振り向く。そこには冷たい表情をした白衣を纏った吸血鬼が立っていた。タールは慌ててロイから体を離し言い訳を並べた。
「セ、セルジュ先生!!あのっ!これは、ですね!実は俺ら付き合っててっ…!」
「へえ、そうなのかいロイ?」
「まさか」
ロイが服を着ながら鼻で笑った。タールは舌打ちをして「こ、こいつに誘われたんです!!」と叫んだ。
「ほう、ロイが誘ったのかい?」
「いつもよりは乗り気に見せましたけど、誘ったのはあくまであっちですよ」
「…だ、そうだが。他に思いつく言い訳はあるかい?」
タールは自分を見放したロイにはらがたち、握っていた弱みを暴露した。
「先生!こいつはフィール家の実子ではありません!フィール家で飼われているただのおもちゃです!!貴族の子でもないやつがこの学院にいるなんて考えられません!!退学にするべきでは?!」
それを聞いたセルジュ先生はクスクス笑った。焦って泣き喚くと思っていたロイまで笑いを堪えて肩を震わせている。
「…タールくん。フィール侯爵について知っていることはあるかい?」
「え…?あ、はい。フィール侯爵は医学に精通しており、血をフィール家に送ると素晴らしい薬を作ってくれると聞いています。お会いしたことはありませんが…黒髪の長身で瞳は黄色、とても色気のある方だという噂を聞いたことがあります…」
「タールくん、私はなにの先生かな?」
「?…医務室の先生です」
「私の髪は何色だい?」
「黒髪です…」
「瞳の色は?」
「…黄色で…す」
「背は高い方かな?」
「はい…」
「色気があるなんて噂が流れていたのは知らなかったな。まったく、誰が一体そんな噂を」
「ま…まさか…あなたが…」
「そう。私がフィール侯爵だよタールくん。我が子をずいぶん可愛がってくれたみたいだね」
「あ…あ…」
タールはガタガタ震えながら後ずさりした。フィール侯爵本人に、彼のおもちゃを好き勝手しているところを見られてしまったとあってはどうしようもない。セルジュはタールの顎をクイと持ち上げ、まるで畜生を見るような目で彼の瞳を覗き込み口角を上げた。
「この100年…私はアパンを甘やかしすぎていたようだ。ただ血を飲み、ただ殺すだけなどでは私の怒りはもうおさまらんよ」
「ひぃ…ひぃーっ…」
「さあ、ヴァンク家のアパンよ。貴様らがロイにしてきたことをその身に教え込んでやろう。これからは私たちが貴様らをおもちゃにして遊ぶことにするよ」
セルジュはタールの口に布を詰め込み手足を紐で縛った。暴れる彼を食事部屋の牢屋に入れ、いつのまにか棲みついていたチムシーを一匹タールの背中に寄生させた。布と紐を外されたタールは檻を掴んで泣きながら懇願した。
「ここから出してください!!もうしません!!もう悪いことはしませんから!!」
「100年も悪行を続けてきてよく言うね。ヴァンク家の血は滅びるべきだ。お前が立派な吸血鬼になったらヴァンク家に帰してやろう。…ハハハ!!そしてお前はヴァンク家の血を全て飲み滅ぼせばいい!!クハハハ!!ハハハ!!」
「あはははは!!いいですねそれ!!楽しそう!!」
「ひぃっ…く…狂ってる…!」
「狂っている?ヴァンク家のものにだけは言われたくないが…だが、確かにそうだな。どうしてだろう。今とても気分が良いよ。君をどういたぶってやろうか。どう苦しめてやろうか。考えるだけでゾクゾクする。これが狂ったということなのかな?ハハハ!!100年かけて私とロイを狂わせたのはお前たちだろう!!」
「あははは!!ほんと、人間ってばかだなあ!!ねえお父さま。僕のど渇いちゃった。この餌の血飲んでもいい?」
「もちろんいいよ。でも殺しちゃあいけないよ。これからじっくり、いたぶらないといけないんだから」
「さっきから…血を飲むってなんだよ…!!気色悪い!!」
「タール、君まだ気づいてないの?僕たち吸血鬼なんだよ。あは」
「きゅ…吸血鬼…」
「そう。ほんと、なんて運命の巡り合わせなんだろう。僕はねタール、100年前、ヴァンク家に飼われてたんだよ。チムシーを寄生させられて、おもちゃにされて…闇鑑賞会に出されたこともあるんだ」
「…100年前に俺んちで飼われてた吸血鬼だって…?」
「そう。この背中の傷痕だって、君のご先祖様が付けた傷さ。あはは!」
「……」
「でも、お父さまが助けてくれた。闇鑑賞会に来てた人たち全員殺してくれたんだよ。ヴァンク家の主催者は、僕が血をぜぇんぶ飲み干した。とっても不味かったよ」
「聞いたことある…100年前に、闇鑑賞会で虐殺が起きたって…。みんな殺されて、おもちゃが逃げ出したって…。そ…それが…お前…?」
「へえ!僕の話聞いてたんだね!!嬉しいなあ。…ねえタール。チムシーに寄生されたらね、血を飲まなかったらとってもつらいんだよ?頭がくらくらして、喉がかわいて、手足がしびれて…。5日飲まされなかったらね、なんでもするから血を飲ませてほしいって思うようになるんだ。君は何日自我を保っていられるかな?あはは!!楽しみだなあ!!」
ロイは楽し気に笑いながらタールの腕を掴み噛みついた。勢いよく血を飲まれ、寒気がはしり手足が冷たくなる。タールは泣き叫んだ。
「う…うわあぁぁぁあ!!!助けて!!だれか!!だれかたすけてぇぇえ!!!」
「助けは来ないよ。君はずっとずっと…吸血鬼になるまで…ずーっとこの檻で暮らすんだ。クク…ハハハ…ハハハハ!!!吸血鬼になるまでの1年半、吸血欲に苦しみ、禁断症状に苦しみ、肉体の変化に苦しむがいい!!…大丈夫、寂しくなんてない。じきに君のオトモダチも連れてきてあげるからね。それに…こんな腐った国を作り上げた王族の血も。すべて…すべて根絶やしにしてやろう!!アハハハハ!!!」
「あははは!!あははは!!」
「だれか!!だれかあぁぁぁ!!!」
「っ」
昼食時、食事を摂っているロイの耳元に、後ろを通りがかったタールが囁いた。彼の声を聞いただけで寒気が走る。ロイが固まっているとタールは言葉を続けた。
「今晩も物置に来い。昨日つけられた傷はちゃんと治しとけよ」
「……」
顔を離し、ロイの背中をポンと叩いてからタールは去っていった。
「最近タールと仲がいいねロイ」
二人の様子を見ていたグレンダとマーサが、あまり嬉しそうじゃない顔でタールの姿を目で追っていた。
「…彼はあんまり良い噂を聞かないわ。大きなお世話かもしれないけど、気を付けてね」
「うん。ありがとう」
二人の優しさに胸があたたかくなる。今のロイにとって、マーサ、グレンダ、ノア、チャドだけが優しい人間だった。他の生徒たちはただの餌にしか見えない。彼らの姿を見ても「こいつはおいしそうだな」「こいつはまずそう」という気持ちしか湧き上がってこなかった。どうしてこの3年間、こんな餌と一緒に過ごすことが楽しいと思っていたのか…今のロイには到底理解のできないことだった。
「それにしても昨日まで死人みたいな顔だったのに、今日はとっても元気そうね!」
「うっ」
マーサの言葉にロイの体がこわばった。9か月ぶりにたっぷり血を飲んだロイはすっかり元気になっていた。吸血鬼ほどの回復力を持たない人間からすれば不自然なほどにだ。ロイはごまかし笑いをしながら答えた。
「あは、あはは。最近あまりにも体調が良くなかったからさ、観念してセルジュ先生に診てもらったんだー。薬をもらったら一発で治ったよー。いやー助かった」
「そうなの?よかったー。もう死んじゃうんじゃないかって思ったわ」
「さすがセルジュ先生ね!」
「うん!セルジュ先生は最高だね!」
「あらら。ずーっと毛嫌いしてたのに!」
「今までの僕がばかだったよ。…ほんとに」
◇◇◇
暗い物置。タールが来た時にはすでにロイが待っていた。机の上に座って足をぷらぷらさせている。どこか遠い目をしていたロイはタールに気付いて微笑んだ。いつもと雰囲気が違うロイにタールは高揚した。
「おいおい。今日はご機嫌じゃねえか。そんなに俺に遊んでほしかったのか?」
「うん。待ちわびた」
「あははは!!ちょっと前まで泣き喚いてたのになあ!!すっかり本性あらわしやがった。さっさと服脱ぎな。お前の望み通りじっくりいたぶってやるからさ」
ロイはシャツを脱いで背中をタールに向けた。すぐさま鞭が飛んでくる。じんとした痛みを感じたが、血をたっぷり飲んだロイの体はすぐに回復する。
「ん?なんだ?今日のお前、全然痕が付かねえ…血も出ねえし」
「……ふふ」
「ああ?何が面白いんだよ!!お前痛がりもしねえしよ!!いつもみたいに泣けよ!鞭の音にビビッてビクビクしろよ!!」
「昨日の子たちとの方が楽しかったなあ」
「ああっ?!」
ロイが鞭を振っているタールの目をちらりと見てそう呟いた。彼と目が合うとハンと鼻で笑って見せた。タールは歯をぎりぎり鳴らしロイを押し倒した。逆上してフーフー荒い息を立てている。乱暴にロイのズボンをおろしながら大きな声で叫んだ。
「お前は俺のおもちゃだろ!!何ほかのやつに飼いならされてんだよ!!」
乱暴に体を動かしながら、タールは「くそっ!あいつらっ!」と悪態をついている。ロイは呆れてため息をついた。
「君が彼らに僕を遊ばせてたんじゃないか」
「俺はっ!あいつらにお前を自慢したかっただけだ!!横取りされてたまるかよ!!」
「えぇ…」
「ど、どうだ!俺が一番うまいだろ!!12歳のころからおもちゃで遊んでたんだ!他のやつらより気持ちいいだろ!?」
「いや…この行為に気持ち良さを感じたことはないけど…」
「だ…だったらこれからお前も気持ち良くしてやるから!な?!だからお前はもう他のやつと遊ぶな!!俺だけのおもちゃでいろ!!」
「はぁ…?」
「な、なんならお前の欲しい物もやるよ!何が欲しい?金か?服か?なんでもやるから、だから、俺以外のやつの方が楽しいとか気持ちいとか言うなよ!!俺が一番だって言え!!」
なんてバカな餌なんだろうとロイは小さくため息をついた。この愚かな餌は独占欲が強すぎる。まるで自分が"おもちゃ"と呼んでいるものに、恋をしてしまっているかのようだった。つくづく人間のすることは理解に苦しむ。
「一番だって言ったら、僕の欲しいものをくれる?」
「ああ!!やるよ!!」
「じゃあ、血をちょうだい?」
「…は?」
突拍子のないおねだりに、タールは動くのをやめてロイを見た。乱暴にされたせいでロイの髪が乱れている。前髪で隠していた目がはっきりと見えた。猫のように細い瞳孔がタールを見つめている。目が合うとロイが薄気味悪い笑みを浮かべた。
「ひっ…!」
「何をしているんだい?」
タールの背後から低い声が聞こえた。びくりと体を強張らせ後ろを振り向く。そこには冷たい表情をした白衣を纏った吸血鬼が立っていた。タールは慌ててロイから体を離し言い訳を並べた。
「セ、セルジュ先生!!あのっ!これは、ですね!実は俺ら付き合っててっ…!」
「へえ、そうなのかいロイ?」
「まさか」
ロイが服を着ながら鼻で笑った。タールは舌打ちをして「こ、こいつに誘われたんです!!」と叫んだ。
「ほう、ロイが誘ったのかい?」
「いつもよりは乗り気に見せましたけど、誘ったのはあくまであっちですよ」
「…だ、そうだが。他に思いつく言い訳はあるかい?」
タールは自分を見放したロイにはらがたち、握っていた弱みを暴露した。
「先生!こいつはフィール家の実子ではありません!フィール家で飼われているただのおもちゃです!!貴族の子でもないやつがこの学院にいるなんて考えられません!!退学にするべきでは?!」
それを聞いたセルジュ先生はクスクス笑った。焦って泣き喚くと思っていたロイまで笑いを堪えて肩を震わせている。
「…タールくん。フィール侯爵について知っていることはあるかい?」
「え…?あ、はい。フィール侯爵は医学に精通しており、血をフィール家に送ると素晴らしい薬を作ってくれると聞いています。お会いしたことはありませんが…黒髪の長身で瞳は黄色、とても色気のある方だという噂を聞いたことがあります…」
「タールくん、私はなにの先生かな?」
「?…医務室の先生です」
「私の髪は何色だい?」
「黒髪です…」
「瞳の色は?」
「…黄色で…す」
「背は高い方かな?」
「はい…」
「色気があるなんて噂が流れていたのは知らなかったな。まったく、誰が一体そんな噂を」
「ま…まさか…あなたが…」
「そう。私がフィール侯爵だよタールくん。我が子をずいぶん可愛がってくれたみたいだね」
「あ…あ…」
タールはガタガタ震えながら後ずさりした。フィール侯爵本人に、彼のおもちゃを好き勝手しているところを見られてしまったとあってはどうしようもない。セルジュはタールの顎をクイと持ち上げ、まるで畜生を見るような目で彼の瞳を覗き込み口角を上げた。
「この100年…私はアパンを甘やかしすぎていたようだ。ただ血を飲み、ただ殺すだけなどでは私の怒りはもうおさまらんよ」
「ひぃ…ひぃーっ…」
「さあ、ヴァンク家のアパンよ。貴様らがロイにしてきたことをその身に教え込んでやろう。これからは私たちが貴様らをおもちゃにして遊ぶことにするよ」
セルジュはタールの口に布を詰め込み手足を紐で縛った。暴れる彼を食事部屋の牢屋に入れ、いつのまにか棲みついていたチムシーを一匹タールの背中に寄生させた。布と紐を外されたタールは檻を掴んで泣きながら懇願した。
「ここから出してください!!もうしません!!もう悪いことはしませんから!!」
「100年も悪行を続けてきてよく言うね。ヴァンク家の血は滅びるべきだ。お前が立派な吸血鬼になったらヴァンク家に帰してやろう。…ハハハ!!そしてお前はヴァンク家の血を全て飲み滅ぼせばいい!!クハハハ!!ハハハ!!」
「あはははは!!いいですねそれ!!楽しそう!!」
「ひぃっ…く…狂ってる…!」
「狂っている?ヴァンク家のものにだけは言われたくないが…だが、確かにそうだな。どうしてだろう。今とても気分が良いよ。君をどういたぶってやろうか。どう苦しめてやろうか。考えるだけでゾクゾクする。これが狂ったということなのかな?ハハハ!!100年かけて私とロイを狂わせたのはお前たちだろう!!」
「あははは!!ほんと、人間ってばかだなあ!!ねえお父さま。僕のど渇いちゃった。この餌の血飲んでもいい?」
「もちろんいいよ。でも殺しちゃあいけないよ。これからじっくり、いたぶらないといけないんだから」
「さっきから…血を飲むってなんだよ…!!気色悪い!!」
「タール、君まだ気づいてないの?僕たち吸血鬼なんだよ。あは」
「きゅ…吸血鬼…」
「そう。ほんと、なんて運命の巡り合わせなんだろう。僕はねタール、100年前、ヴァンク家に飼われてたんだよ。チムシーを寄生させられて、おもちゃにされて…闇鑑賞会に出されたこともあるんだ」
「…100年前に俺んちで飼われてた吸血鬼だって…?」
「そう。この背中の傷痕だって、君のご先祖様が付けた傷さ。あはは!」
「……」
「でも、お父さまが助けてくれた。闇鑑賞会に来てた人たち全員殺してくれたんだよ。ヴァンク家の主催者は、僕が血をぜぇんぶ飲み干した。とっても不味かったよ」
「聞いたことある…100年前に、闇鑑賞会で虐殺が起きたって…。みんな殺されて、おもちゃが逃げ出したって…。そ…それが…お前…?」
「へえ!僕の話聞いてたんだね!!嬉しいなあ。…ねえタール。チムシーに寄生されたらね、血を飲まなかったらとってもつらいんだよ?頭がくらくらして、喉がかわいて、手足がしびれて…。5日飲まされなかったらね、なんでもするから血を飲ませてほしいって思うようになるんだ。君は何日自我を保っていられるかな?あはは!!楽しみだなあ!!」
ロイは楽し気に笑いながらタールの腕を掴み噛みついた。勢いよく血を飲まれ、寒気がはしり手足が冷たくなる。タールは泣き叫んだ。
「う…うわあぁぁぁあ!!!助けて!!だれか!!だれかたすけてぇぇえ!!!」
「助けは来ないよ。君はずっとずっと…吸血鬼になるまで…ずーっとこの檻で暮らすんだ。クク…ハハハ…ハハハハ!!!吸血鬼になるまでの1年半、吸血欲に苦しみ、禁断症状に苦しみ、肉体の変化に苦しむがいい!!…大丈夫、寂しくなんてない。じきに君のオトモダチも連れてきてあげるからね。それに…こんな腐った国を作り上げた王族の血も。すべて…すべて根絶やしにしてやろう!!アハハハハ!!!」
「あははは!!あははは!!」
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