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血を飲ませたので、ロイの容態は一時的に回復した。だが、ロイとセルジュの関係はもう以前に戻ることはないだろう。無理やり血を飲まされたロイは、その後しばらく泣き続けていた。セルジュが彼の体に触れようとすると「触るなァぁ!!」と叫んで食事部屋から出て行ってしまった。その日から、3か月に一度セルジュは無理やりロイに血を飲ませていた。日を重ねるごとにロイのセルジュに対する憎しみは増し、血を飲まされているときはずっと「死ねっ…!死んでしまえこの魔物がっ…!」と涙を流しながら罵られた。
(ロイが嫌がっても、私のことを憎んでも、何度でも私は血を飲ませるよ)
「セルジュ先生。授業中に怪我をしてしまったの。診てくださる?」
物思いに耽っていると、一人の少女が医務室に入ってきた。セルジュは彼女に笑顔を向けて椅子に座るよう合図した。
「さてジュリア王女。どちらを怪我なさったのかな?」
「手よ。隣で授業を受けていた子の風魔法が誤って私の手を切ってしまったの」
「それはそれは。王女様に傷をつけた子は死罪ですね?」
「まさか。私は弟ほど人の命を軽く見ていないわ」
彼女の名はジュリア。第二王位継承権を持つこの国の王女で、セルジュがこの学院に入り込んだ目的のひとつだ。ジュリアが入学して1年が経っていたが、いまだ彼女の血の味を確かめることはできていなかった。
「王女、今回は採血させていただけませんか。あなたに合う薬を作るためにね」
「いいえセルジュ先生。私、お母さまに強く言われておりますの。この血を城の外の者に差し出してはいけないと。だから既製の薬で結構よ」
「そうですか。分かりました」
噂によるとジュリア王女は高慢でかなり気の強い性格らしい。確かに気取った仕草をとるし、見下しているような口調はあまり良い印象は抱かない。顔立ちもミモレスとは似ていないので、セルジュは彼女がミモレスの生まれ変わりだと思っていなかった。
(まあ、血を飲むまではミモレスの生まれ変わりかどうかは分からないが。しかし…もし彼女が生まれ変わりだったとしても愛せる気がしないな)
ジュリア王女に薬を処方してから、セルジュはまた物思いに耽った。ネックレスを外し、ペンダントの蓋を開ける。そこには銀色の髪…ミモレスの髪束が入っていた。
(今までお前の子孫の血を全て確かめたが…お前と同じ血の味の者はだれ一人としていなかった。髪の色が同じでも、瞳の色が同じでも、彼らが受け継いだのはそれだけだった。ミモレス…もうお前が死んで200年が経った。そろそろ私の前に現れてもいいのではないか?)
「はぁ…」
セルジュは深いため息をつき、窓の外を眺めた。この100年間、ロイのおかげで感じていなかった焦燥がセルジュを襲う。今ではさらにロイに憎まれていることに対する虚しさや悲しさまで感じてしまう。
「いっそのこと、ミモレスに出会う前に死ねばよかった」
◇◇◇
その1年後、もう一人の王族であるウィルク王子が入学してきた。わがままで横暴、人を人と思っておらず、気に食わない生徒をすぐ処刑しようとする。歴代の愚王とそっくりで、血を飲まずともそちらの血を色濃く継いでいることが分かった。
ある日セルジュは血相を変えた先生に訓練場に呼び出された。駆けつけるとウィルク王子が足から血を流している。一人の生徒に向かって暴言の数々を吐いていた。
「この僕に傷を負わせたな?!おい!!誰か伝書インコをよこせ!こいつを処罰する!!死に方は何がいい?斬首か?!毒か?!」
「申し訳ありません!申し訳ありません!」
「謝ってすむとでも?!お前の血をその体から全て抜いたとしても、僕の血一滴の価値もないやつを、謝られたからと言って許すと思うのか?!」
「ウィ、ウィルク王子、セルジュ先生を呼んできましたから…。そんな傷、あっと言う間に治りますよ。なので許してやってもらえませんかね」
先生がそう言っても火に油を注いだだけだった。
「そんな傷?!そんな傷と言ったか?!どうやら貴様も死にたいようだな!!」
「王子、失礼します」
セルジュは王子に駆け寄り容態を診た。なんのことはない。ただの擦り傷だ。ポーションを飲ませただけで傷一つ残らず完治した。
「これで大丈夫ですよ。痛みはありませんか?」
「ない。下がれ」
「失礼いたします」
まだ騒いでいる王子に背を向けて、セルジュは医務室に戻って行った。過去最悪の国王マリウスに、顔も口調も性格もそっくりなウィルク王子に吐き気をもよおした。
(王子にミモレスの血が一滴も流れていないことは明らかだな。…ジュリア王女はもしかしたら少しは流れているかもしれいない。彼女の血をどうやって手に入れるか、それをこれから考えないとな。
学院にも来ずずっと城に籠っているヴィクス王子…彼の血を手に入れることはほぼ不可能。まあ、彼の暴政具合を見ているとミモレスの血を引いているとは思えないが。
第一子アウス王子と、第二子モリア王女はもう死んでいるから確かめようがないし…。この代の王族で味を確かめる必要があるのはジュリア王女だけか。…もし死んだ王子と王女がミモレスの生まれ変わりだったら最悪だな)
8年前にこの世を去ったアウス王子とモリア王女。彼らは双子として生まれた。非常に優秀だったそうだが、生まれつき病弱で6歳の頃に命を落としたと言われている。しかしセルジュはそう思っていなかった。この世界では双子は不吉の前兆とされている。偏見に満ちたこの世を作った王族が、双子などという最も忌み嫌われる存在を大切にするはずがない。王子と王女は王族に殺されたとセルジュは確信していた。
(それに…王妃はもともと嗜虐性の強い貴族の出だ。彼らは王妃にいたぶられて死んでしまったのかもしれないな。…まあ、死んだ彼らのことを考えてもしかたない。今はジュリア王女の血をどうするかを考えなければ)
(ロイが嫌がっても、私のことを憎んでも、何度でも私は血を飲ませるよ)
「セルジュ先生。授業中に怪我をしてしまったの。診てくださる?」
物思いに耽っていると、一人の少女が医務室に入ってきた。セルジュは彼女に笑顔を向けて椅子に座るよう合図した。
「さてジュリア王女。どちらを怪我なさったのかな?」
「手よ。隣で授業を受けていた子の風魔法が誤って私の手を切ってしまったの」
「それはそれは。王女様に傷をつけた子は死罪ですね?」
「まさか。私は弟ほど人の命を軽く見ていないわ」
彼女の名はジュリア。第二王位継承権を持つこの国の王女で、セルジュがこの学院に入り込んだ目的のひとつだ。ジュリアが入学して1年が経っていたが、いまだ彼女の血の味を確かめることはできていなかった。
「王女、今回は採血させていただけませんか。あなたに合う薬を作るためにね」
「いいえセルジュ先生。私、お母さまに強く言われておりますの。この血を城の外の者に差し出してはいけないと。だから既製の薬で結構よ」
「そうですか。分かりました」
噂によるとジュリア王女は高慢でかなり気の強い性格らしい。確かに気取った仕草をとるし、見下しているような口調はあまり良い印象は抱かない。顔立ちもミモレスとは似ていないので、セルジュは彼女がミモレスの生まれ変わりだと思っていなかった。
(まあ、血を飲むまではミモレスの生まれ変わりかどうかは分からないが。しかし…もし彼女が生まれ変わりだったとしても愛せる気がしないな)
ジュリア王女に薬を処方してから、セルジュはまた物思いに耽った。ネックレスを外し、ペンダントの蓋を開ける。そこには銀色の髪…ミモレスの髪束が入っていた。
(今までお前の子孫の血を全て確かめたが…お前と同じ血の味の者はだれ一人としていなかった。髪の色が同じでも、瞳の色が同じでも、彼らが受け継いだのはそれだけだった。ミモレス…もうお前が死んで200年が経った。そろそろ私の前に現れてもいいのではないか?)
「はぁ…」
セルジュは深いため息をつき、窓の外を眺めた。この100年間、ロイのおかげで感じていなかった焦燥がセルジュを襲う。今ではさらにロイに憎まれていることに対する虚しさや悲しさまで感じてしまう。
「いっそのこと、ミモレスに出会う前に死ねばよかった」
◇◇◇
その1年後、もう一人の王族であるウィルク王子が入学してきた。わがままで横暴、人を人と思っておらず、気に食わない生徒をすぐ処刑しようとする。歴代の愚王とそっくりで、血を飲まずともそちらの血を色濃く継いでいることが分かった。
ある日セルジュは血相を変えた先生に訓練場に呼び出された。駆けつけるとウィルク王子が足から血を流している。一人の生徒に向かって暴言の数々を吐いていた。
「この僕に傷を負わせたな?!おい!!誰か伝書インコをよこせ!こいつを処罰する!!死に方は何がいい?斬首か?!毒か?!」
「申し訳ありません!申し訳ありません!」
「謝ってすむとでも?!お前の血をその体から全て抜いたとしても、僕の血一滴の価値もないやつを、謝られたからと言って許すと思うのか?!」
「ウィ、ウィルク王子、セルジュ先生を呼んできましたから…。そんな傷、あっと言う間に治りますよ。なので許してやってもらえませんかね」
先生がそう言っても火に油を注いだだけだった。
「そんな傷?!そんな傷と言ったか?!どうやら貴様も死にたいようだな!!」
「王子、失礼します」
セルジュは王子に駆け寄り容態を診た。なんのことはない。ただの擦り傷だ。ポーションを飲ませただけで傷一つ残らず完治した。
「これで大丈夫ですよ。痛みはありませんか?」
「ない。下がれ」
「失礼いたします」
まだ騒いでいる王子に背を向けて、セルジュは医務室に戻って行った。過去最悪の国王マリウスに、顔も口調も性格もそっくりなウィルク王子に吐き気をもよおした。
(王子にミモレスの血が一滴も流れていないことは明らかだな。…ジュリア王女はもしかしたら少しは流れているかもしれいない。彼女の血をどうやって手に入れるか、それをこれから考えないとな。
学院にも来ずずっと城に籠っているヴィクス王子…彼の血を手に入れることはほぼ不可能。まあ、彼の暴政具合を見ているとミモレスの血を引いているとは思えないが。
第一子アウス王子と、第二子モリア王女はもう死んでいるから確かめようがないし…。この代の王族で味を確かめる必要があるのはジュリア王女だけか。…もし死んだ王子と王女がミモレスの生まれ変わりだったら最悪だな)
8年前にこの世を去ったアウス王子とモリア王女。彼らは双子として生まれた。非常に優秀だったそうだが、生まれつき病弱で6歳の頃に命を落としたと言われている。しかしセルジュはそう思っていなかった。この世界では双子は不吉の前兆とされている。偏見に満ちたこの世を作った王族が、双子などという最も忌み嫌われる存在を大切にするはずがない。王子と王女は王族に殺されたとセルジュは確信していた。
(それに…王妃はもともと嗜虐性の強い貴族の出だ。彼らは王妃にいたぶられて死んでしまったのかもしれないな。…まあ、死んだ彼らのことを考えてもしかたない。今はジュリア王女の血をどうするかを考えなければ)
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