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オヴェルニー学院には4つの寮がある。リリー、ローズ、ダリア、ビオラ。貴族階級ごとに分かれており、ロイは一番階級が高いリリー寮だった。
「ねえあなた、新入生よね?」
「えっ?」
入学パーティーが終わり、リリー寮の談話室の端で一人ぽつんとソファに座っているロイに二人の女の子が話しかけてきた。一人は活発そうで飾り気のない子で、もう一人はお洒落でとてもかわいい子だった。活発な子が眩しい笑顔をロイに向けて自己紹介をした。
「わたし、マーサって言うの!あなた、さっきのパーティーにいたわよね?」
「わたしはグレンダ。あなたの名前を教えてくれる?」
さすが貴族のお嬢さんだけあり、二人ともどことなく気品がある。アパンとは違い、綺麗で清潔な空気を纏っていた。セルジュと使用人以外と話したことがないロイは、ぎくしゃくしながら名乗った。
「ロ、ロイ…」
「ロイっていうの?素敵な名前ね!」
「ありがとう…」
「私たちも新入生なの。ほら、リリー寮って生徒数が少ないでしょう?今年の新入リリー寮生は私たち3人だけみたいよ。だから仲良くしましょ!」
マーサとグレンダが手を差し出した。ロイは戸惑いながら彼女たちと握手を交わしてすぐ手を引っ込めた。その日の夜、食事部屋で二人の話をセルジュにするロイはとても嬉しそうだった。
「マーサとグレンダ…特段良い貴族でもないが、悪いこともしていない家元だ。友人ができて良かったねロイ」
「はい!二人とも、こんな僕に優しくしてくれました。えへへ」
「これからきっと楽しい日々が待ってるよ」
「はい!とても楽しみです!」
セルジュの言いつけ通りロイは地味な生徒を演じながら学院生活を過ごした。リリー寮の生徒たちは良い子が多く、先輩もロイに優しくしてくれた。マーサとグレンダとは特に仲良くなり、一緒に食事をしたり授業終わりに談話室でお喋りを楽しんだ。
「ねえロイ!あんた前髪長すぎない?私が切ってあげましょうか」
オヴェルニー学院に入学して半年が経ったある日の夜、グレンダが談話室で読書をしていたロイの顔を覗き込んだ。ロイは慌てて目を逸らす。ロイはまだ瞳孔を常に開いていることができない。ぶあつい眼鏡と長い前髪で、瞳孔が開いてもバレないようにしていたのだ。
「大丈夫だよグレンダ。僕はこのままでいいんだ」
「ええー!あんたはそこまで顔立ちが良いわけじゃないんだから、せめて身なりだけでも整えとかないとだめじゃない!」
「さらっと失礼なこと言わないで!?」
この半年で育んだ友情のおかげ(?)で、グレンダやマーサは歯に衣着せぬ物言いをロイにすることがよくあった。結婚願望の強い二人は、ロイ以外の男の子に対しては声色を変えて甘えるようなしぐさをしているのに、ロイに対してはそうではなかった。異性としてではなく親友として接してくれていることに悪い気はしなかった。
「おーいグレンダ。またロイにひどいこと言ってんのかあ?」
「あんまりそんなこと言ってると嫌われるぞー」
そばを通りがかった男子生徒2人がグレンダに話しかけた。彼らはチャドとノアという名前で、グレンダの2つ年上の先輩だ。顔立ちが良く人当たりの良い性格で、男子からも女子からも好かれていた。
「ロイはそんなことで怒らないもん!それに、あなたたちも思わない?!ロイの前髪長すぎるって」
「確かに長いなあ。ロイ、今週末髪切ってやろうか?」
「ううん。僕はこのままでいいんだ」
「だってよグレンダ。本人がそのままでいいんだったら、お前がとやかく言ってやるなよ」
「むう…」
「あはは」
「ロイ、何笑ってるのよぉ!」
「ごめんごめん。なんだかとっても居心地がよくて」
「この会話でぇ…?」
「お前の感覚がわかんねー」
「けどまあ、お前が楽しそうでよかったよ」
貧しい家に生まれ、幼少期に白金貨1枚で貴族に買われ吸血鬼にされてしまったロイ。人間時代では小さい体で血を吐くほど働かされ、吸血鬼時代では貴族たちにひどいことをされてきた。完全な吸血鬼になるため三日間生死を彷徨ったときを境に、彼はセルジュに助けられるまでの記憶をほとんど失っていた。だが彼にとって人間が、冷たく、怖く、自分を苦しめる存在だということは心に刷り込まれていた。
そんなロイが初めて優しい人間に出会えた。アパン以外の人間と出会えた。生まれて初めて、人間の友だちができた。ロイは幸せだった。自分も人間だったら良かったのにと思ってしまうほど、友人に囲まれて過ごす生活が幸せでしかたがなかった。
その日から、ロイは人間の血を飲むことを拒むようになった。
「ねえあなた、新入生よね?」
「えっ?」
入学パーティーが終わり、リリー寮の談話室の端で一人ぽつんとソファに座っているロイに二人の女の子が話しかけてきた。一人は活発そうで飾り気のない子で、もう一人はお洒落でとてもかわいい子だった。活発な子が眩しい笑顔をロイに向けて自己紹介をした。
「わたし、マーサって言うの!あなた、さっきのパーティーにいたわよね?」
「わたしはグレンダ。あなたの名前を教えてくれる?」
さすが貴族のお嬢さんだけあり、二人ともどことなく気品がある。アパンとは違い、綺麗で清潔な空気を纏っていた。セルジュと使用人以外と話したことがないロイは、ぎくしゃくしながら名乗った。
「ロ、ロイ…」
「ロイっていうの?素敵な名前ね!」
「ありがとう…」
「私たちも新入生なの。ほら、リリー寮って生徒数が少ないでしょう?今年の新入リリー寮生は私たち3人だけみたいよ。だから仲良くしましょ!」
マーサとグレンダが手を差し出した。ロイは戸惑いながら彼女たちと握手を交わしてすぐ手を引っ込めた。その日の夜、食事部屋で二人の話をセルジュにするロイはとても嬉しそうだった。
「マーサとグレンダ…特段良い貴族でもないが、悪いこともしていない家元だ。友人ができて良かったねロイ」
「はい!二人とも、こんな僕に優しくしてくれました。えへへ」
「これからきっと楽しい日々が待ってるよ」
「はい!とても楽しみです!」
セルジュの言いつけ通りロイは地味な生徒を演じながら学院生活を過ごした。リリー寮の生徒たちは良い子が多く、先輩もロイに優しくしてくれた。マーサとグレンダとは特に仲良くなり、一緒に食事をしたり授業終わりに談話室でお喋りを楽しんだ。
「ねえロイ!あんた前髪長すぎない?私が切ってあげましょうか」
オヴェルニー学院に入学して半年が経ったある日の夜、グレンダが談話室で読書をしていたロイの顔を覗き込んだ。ロイは慌てて目を逸らす。ロイはまだ瞳孔を常に開いていることができない。ぶあつい眼鏡と長い前髪で、瞳孔が開いてもバレないようにしていたのだ。
「大丈夫だよグレンダ。僕はこのままでいいんだ」
「ええー!あんたはそこまで顔立ちが良いわけじゃないんだから、せめて身なりだけでも整えとかないとだめじゃない!」
「さらっと失礼なこと言わないで!?」
この半年で育んだ友情のおかげ(?)で、グレンダやマーサは歯に衣着せぬ物言いをロイにすることがよくあった。結婚願望の強い二人は、ロイ以外の男の子に対しては声色を変えて甘えるようなしぐさをしているのに、ロイに対してはそうではなかった。異性としてではなく親友として接してくれていることに悪い気はしなかった。
「おーいグレンダ。またロイにひどいこと言ってんのかあ?」
「あんまりそんなこと言ってると嫌われるぞー」
そばを通りがかった男子生徒2人がグレンダに話しかけた。彼らはチャドとノアという名前で、グレンダの2つ年上の先輩だ。顔立ちが良く人当たりの良い性格で、男子からも女子からも好かれていた。
「ロイはそんなことで怒らないもん!それに、あなたたちも思わない?!ロイの前髪長すぎるって」
「確かに長いなあ。ロイ、今週末髪切ってやろうか?」
「ううん。僕はこのままでいいんだ」
「だってよグレンダ。本人がそのままでいいんだったら、お前がとやかく言ってやるなよ」
「むう…」
「あはは」
「ロイ、何笑ってるのよぉ!」
「ごめんごめん。なんだかとっても居心地がよくて」
「この会話でぇ…?」
「お前の感覚がわかんねー」
「けどまあ、お前が楽しそうでよかったよ」
貧しい家に生まれ、幼少期に白金貨1枚で貴族に買われ吸血鬼にされてしまったロイ。人間時代では小さい体で血を吐くほど働かされ、吸血鬼時代では貴族たちにひどいことをされてきた。完全な吸血鬼になるため三日間生死を彷徨ったときを境に、彼はセルジュに助けられるまでの記憶をほとんど失っていた。だが彼にとって人間が、冷たく、怖く、自分を苦しめる存在だということは心に刷り込まれていた。
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