【完結】吸血鬼の元騎士

mazecco

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「え…?」

「私も人間が干からびるまで血を飲みつくしたことがございませんから楽しみで仕方がありません。ご安心ください、マダムが気を失うまでに全ての血を飲み干して御覧に入れましょう。みなさんどうぞお楽しみに」

「あ…あなた…なにを…」

「娯楽のために人間が人間を殺す。なんと愉快なことでしょうマダム。私にとって、人間は愛しくか弱い、守らねばならない存在です。ですがあなたがたのような人間は私にとって人間ではない。人間にも2種存在しているのだと、私に気付かせてくれたこと心より感謝申し上げます」

「だ…だれか!!だれか助けて…!!ヒッ…」

セルジュに髪を掴まれ身動きが取れなくなった主催者の首に爪を食いこませた。乱暴に指をはじくと首に深く傷がつき大量の血が噴き出す。

「きゃあああああ!!!死ぬっ!!死ぬっ!!誰か!!!」

「騒がしい餌ですね。こんなことなら声帯を切断すればよかった」

主催者を引きずりながら、セルジュが檻を開けた。くったりと倒れている少年がかすかに首をもたげる。セルジュは彼の頭を撫で優しく微笑んだ。

「少年。まだ喉が渇いているかい?」

「はい…血を…ください…なんでもしますから…」

「さあ、好きなだけお飲み」

檻の中に主催者を乱暴に投げ捨て、彼自身も中に入った。少年は血を流している首に飛びつき夢中になって貪っている。失血によって気を失いそうな主催者の手にナイフを刺し、痛みを与えて意識を保たせた。彼女にはもう叫ぶ気力すらない。

「答えよ人間」

「あ…ぅ…」

「お前たちはいつから平民の子を買ってこのようなことをしていた」

「知ら…ない…わ…。何代も…何代も…前からよ…」

「なんだと…」

「あの…魔性の女が…王妃になったときは…禁止されていたようだけど…次期国王の代になってからは…また解禁された…」

「魔性の女?誰のことだ」

「ミモ…レス…。彼女…王族でも…ないくせに…レオ国王を…洗脳して…自分の思うがままに動かした…。貴族の間では憎まれた存在…。彼女のせいで…貴族は…娯楽をほとんど奪われた…と聞く…わ」

「……」

「ふふ…。王族や…貴族を…コケにするから…最期は…自分の孫に殺されたそうよ…自業自得ね…」

「なんだって…」

信じられないことばかりでセルジュは細かく震えた。ミモレスは病死だと世間では知られている。それに、平民や知人の貴族はミモレスのことを最も優秀だった王妃として評価している。まさかミモレスのことを憎み蔑む者がいようなど…自分の孫に殺されたなど、誰が想像するだろうか。

「それに比べて…マリウス国王は最高だわ…娯楽を認めてくれるし…民から税金をむしりとっても…何も言わないんですもの…」

「平民の子をはした金で買い、殺すまで遊ぶこともか?」

「もちろんよ…国王もされているわ…彼は聖女を買って…死ぬまで魔物と戦わせることが好きらしいわよ…ふふ…私も見てみたいわ…」

「狂ってる…」

「あなた…ウブな貴族なのね…貴族はほとんど…そういったお遊びが好きなのよ…あなたもその楽しみが…分かる…日が…来るわ…」

その言葉が彼女の最後の言葉だった。死んだ後も、干からびるまで少年は血を飲み続けた。それでやっと吸血欲がおさり正気に戻ったのか、少年はミイラと化した主人を見て叫び声をあげた。

「わぁぁぁ!!奥様…!奥様…!!申し訳ありません!!ごめんなさいっ!!ごめんなさいっ!!うぅっ…!」

「少年」

「ひっ…!ごめんなさい…!ごめんなさい…!」

「謝らなくていい。これは人間じゃない。ただの餌だよ」

「え…えさ…?」

「おいで。もう君をいじめるやつはいない。家に帰してあげる」

「…ほんとう?」

「本当だよ。君の家はどこだい?」

「…アヴル」

「アヴルか…かなり遠いな。馬車で2日かかる。それでもいいかい?」

「どうして僕にそこまで良くしてくれるの…?」

「話は馬車の中でゆっくりしよう。まずはここから出るよ」

セルジュはマントを脱いで少年にかけてやった。その足で馬車に乗り、薬を飲ませて手当をした。
彼がチムシーに寄生されて半年以上が経っていた。背中に寄生したチムシーはすでに体と融合しかけていてはがすことはできなかった。彼はもう人間に戻れない。あと1年かけて、ゆっくりと苦しみながら吸血鬼となり果てるだろう。そんな彼を両親が受け入れるはずがなかった。彼の顔を見た母親の第一声は、セルジュを失望させるに充分なものだった。

「ああ?!どうして帰ってきたんだい!!まさか逃げ出してきたんじゃないだろうねえ!!早く貴族様んとこに戻んな!!うちがどうなってもいいのかい!!ったく…」

「…マダム。はじめまして。わたくし、北の地方で領主をしております、フィール侯爵と申します。どうぞよろしくお願いいたします」

「こ…侯爵?!あらあらあら!!侯爵様がどうしてこんなところに?!」

「あなたの息子さんを保護し、あなたに返すために参りました。彼は逃げたわけではありません。彼の主人が不慮の事故に遭われて亡くなったので、彼を家に戻してほしいと頼まれたのです」

「おやおや、そうだったのかい!そ、それは嬉しいねえ!!ほらロイ、こっちに来な!!」

「うん…」

「マダム…。お伝えしなければならないことがございます。彼はその貴族に…吸血鬼にされてしまいました。なので血を与えなくてはなりませんので、毎日欠かさず飲ませてあげてください」

「…吸血鬼?あんた…魔物になったのかい…?」

「……」

母親は叫び声をあげて少年を突き飛ばした。

「あっ…あっちに行け!!だっ…誰か!!誰かこいつを殺しておくれ!!」

「母さん…」

「私のことを母さんなんて呼ぶなこの魔物が!!」

「うぅっ…」

「自分の子に…なんてことを…」

「こんな…魔物っ…!私の子なんかじゃないっ!!!あんた、さっさとその魔物を連れて帰っておくれ!!煮るなり焼くなり、なにしたっていいから!!」

「…すまない少年。ここに連れてきたのは間違いだった。さあ、おいで」

「うぅー…っ」

母親の言葉に涙を流している少年の手を引き、セルジュは再び馬車に乗った。泣き続けている少年を抱きしめ、優しく背中をさすった。いつの間にか少年は眠っていた。

「ミモレス…この国は、もう君の知っている国じゃない。いや…君は知っていたのかな。知らなかったのは、私の方だ…。私が命をかけて守っていた人間は…こんなにも愚かで醜いものだったのか…」
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