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真夜中の闇鑑賞会。参加する者は身元が割れないよう仮面を付けるのが暗黙のルール。招待状の中には小瓶が同封されていた。そこに入れた参加者の血が、今回の闇鑑賞会の参加費となる。会場は廃墟の地下。セルジュが会場に入った時にはすでに10名近くの貴族が椅子に腰かけていた。ほとんどの貴族が黒いドレスやコートを身に付けている。並べられている椅子の中央には黒い布がかけられた大きな何かがあった。中から小さなうめき声が聞こえる。
(檻だろうな…。ここにチムシーに寄生された少年が入っているのか)
半時間の間に席が埋まり、主催者が檻の前に立った。彼女もヴェネチアンマスクで目を隠しているが、トラントの話からしてヴァンク家の者だろう。
「皆さま。よくお越しくださいましたわ。本日は皆さまにわたくしのお気に入りをお披露目いたしたく闇鑑賞会を催しました」
観客がソワソワと興味深げに布をかけられた檻に注目している。
「さて、あなたがたはチムシーに寄生された人をご覧になったことがありまして?チムシーに寄生された人は吸血欲を発症し、人であるのに人の血を求めるのです。血を飲まなければ禁断症状を起こし苦しみ、血を飲めばさらに血が欲しくなる哀れな存在…。この少年もまた…」
主催者がパチンと指を鳴らすと、黒い布がぱさりと落ちた。檻の中でうずくまっている少年の姿を見て貴族たちは「おおお!」と興奮した声をあげている。少年が身に付けている黒い帽子、黒いコット、黒い短パンには銀色の刺繍が施されており、彼の病弱そうな顔や体と相まって儚げな色気を纏っている。
「この日のために、彼には5日ほど血を与えておりません。ではまず、参加費としていただいたあなたがたの血を飲ませてみましょう。…ロイ、聞こえるかしら?」
「…はい、奥様」
「私が手に持っているものは何だと思う?」
「…血」
「これをどうしたいのかしら?」
「飲みたいです…飲ませてください…お願いします…」
ロイと呼ばれた少年は檻にしがみつき主催者に懇願した。口から涎を垂らし、檻の間から手を伸ばして小瓶を取ろうとしている。主催者はクスクス笑いながら瓶を持った腕を高く上げた。
「こらこら。お行儀よくしなさいな。貴族の皆さま方が見ていらしているのに」
「お願いします…お願いします…」
「舌を出しなさい、ロイ」
少年は言われるがまま檻に顔を押し付けて舌を出した。主催者は小瓶の蓋を開け血を一滴だけ垂らす。
「ハッ、ハッ…」
「あら、これだけじゃ足りないの?もっと欲しいなら、私の言うことを聞けるかしら?」
「はい…言うこと聞きます…だから血を…」
「小瓶を一本飲むごとに服を一枚お脱ぎなさい」
「…脱ぎますから…血をください…」
セルジュは目の前の光景に言葉を失った。小さい小瓶を一本飲むごとに服を脱がされ、裸になったところで次は参加者が直接血を与える時間となった。貴族は一人ずつ檻の中に入り、腕や首にナイフで傷をつけ少年に血を飲ませた。血を飲ませた参加者は少年に何をしても許された。闇鑑賞会に行き慣れた参加者たちは鞭など少年をいたぶる道具を持参していた。少年を傷つけて悦ぶ女性貴族、少年を凌辱して愉しむ男性貴族…。少年は5日間与えられていなかった血をもらうために涙を流しながらそれらに耐えていた。
「こんなことが許されるのか…?」
「そこのあなた、あなたもロイと遊んでみませんこと?もう血だらけの体液まみれですけれど、それもまた一興でしょう?」
「…そうだな」
セルジュが立ちあがると、他の参加者がニヤニヤと彼を目で追った。次はどんなことをして我々を楽しませてくれるのだろうか、あら背丈のある素敵な方だわ少年を抱いてくれないかしらとコソコソ話しているのが聞こえる。セルジュは檻の前に立ち貴族たちに声をかけた。
「時に皆さま。チムシーに寄生され続けた人間が何になるかはご存知かな」
「もちろん存じ上げておりますわ。吸血鬼になるのでしょう?」
一番手前に座っていた女性が答えた。セルジュは頷き今度は主催者に話しかけた。
「マダム。彼にいつまでチムシーを寄生させるのでしょう?」
「もちろん吸血鬼になるまでですわ」
「ほう。では吸血鬼になった彼をどうするおつもりで?」
「あらあら!もうその時が待ち遠しいのですか?困ったお人」
主催者は少年が吸血鬼になったときのことを想像してクスクスと笑った。
「そうね…吸血鬼になったら、本当に聖魔法でしか死なないか確かめるわ。四肢を斬ってみたり…心臓を貫いてみたり…首を斬ってみたり…。その時はまた鑑賞会をしましょうね。そして本当に死ななかったのなら、聖女様の元へ連れていき、ゆっくりじっくり聖魔法が彼を蝕むのを見て愉しませてもらうわ。もしよければ、お誘いしますわよ。うふふ」
「…彼は、罪人かなにかで?」
「いいえ?貧乏な平民から買い取りましたの。たった白金貨1枚で」
「罪のない平民の子をいたぶって、なんとも思わないのですか?」
「あら…私を説教するつもりですの?」
セルジュの言葉に気分を害したのは主催者だけではなかった。参加者も不機嫌そうに彼に罵声を浴びせる。
「なんだお前は!気に入らないのならさっさと帰れ!」
「場がしらけるようなことを言うんじゃありませんわ!せっかくの楽しかった時間が台無しじゃありませんの!」
「平民のガキ一匹いじめたくらいで何を言っている!こっちは貴族様なんだぞ!こいつらが誰のおかげでメシを食っていけていると思っている!少しくらいこいつらで遊んでも誰も文句は言わんだろう!!」
男性貴族の言葉でセルジュのなにかがプツリと切れた。怒号をあげながら腕を振る。強風魔法が会場の空気を裂いた。半分以上の貴族の首が一瞬にして飛んだ。生き残った貴族たちが悲鳴を上げながら会場から逃げようとしたが、大火に包まれ骨も残さず焼き尽くされた。たった一人、主催者だけを残して。
「ひっ…ひぃ…」
力が抜けへたりこんでいる主催者をちらりと見たあと、セルジュは首がなくなった観客に向けて声を張り上げた。
「さあ皆さま、お待たせいたしました。今から本日の目玉をご紹介いたします。それは…ヴァンク家のマダムが吸血鬼に血を吸いつくされるところでございます」
(檻だろうな…。ここにチムシーに寄生された少年が入っているのか)
半時間の間に席が埋まり、主催者が檻の前に立った。彼女もヴェネチアンマスクで目を隠しているが、トラントの話からしてヴァンク家の者だろう。
「皆さま。よくお越しくださいましたわ。本日は皆さまにわたくしのお気に入りをお披露目いたしたく闇鑑賞会を催しました」
観客がソワソワと興味深げに布をかけられた檻に注目している。
「さて、あなたがたはチムシーに寄生された人をご覧になったことがありまして?チムシーに寄生された人は吸血欲を発症し、人であるのに人の血を求めるのです。血を飲まなければ禁断症状を起こし苦しみ、血を飲めばさらに血が欲しくなる哀れな存在…。この少年もまた…」
主催者がパチンと指を鳴らすと、黒い布がぱさりと落ちた。檻の中でうずくまっている少年の姿を見て貴族たちは「おおお!」と興奮した声をあげている。少年が身に付けている黒い帽子、黒いコット、黒い短パンには銀色の刺繍が施されており、彼の病弱そうな顔や体と相まって儚げな色気を纏っている。
「この日のために、彼には5日ほど血を与えておりません。ではまず、参加費としていただいたあなたがたの血を飲ませてみましょう。…ロイ、聞こえるかしら?」
「…はい、奥様」
「私が手に持っているものは何だと思う?」
「…血」
「これをどうしたいのかしら?」
「飲みたいです…飲ませてください…お願いします…」
ロイと呼ばれた少年は檻にしがみつき主催者に懇願した。口から涎を垂らし、檻の間から手を伸ばして小瓶を取ろうとしている。主催者はクスクス笑いながら瓶を持った腕を高く上げた。
「こらこら。お行儀よくしなさいな。貴族の皆さま方が見ていらしているのに」
「お願いします…お願いします…」
「舌を出しなさい、ロイ」
少年は言われるがまま檻に顔を押し付けて舌を出した。主催者は小瓶の蓋を開け血を一滴だけ垂らす。
「ハッ、ハッ…」
「あら、これだけじゃ足りないの?もっと欲しいなら、私の言うことを聞けるかしら?」
「はい…言うこと聞きます…だから血を…」
「小瓶を一本飲むごとに服を一枚お脱ぎなさい」
「…脱ぎますから…血をください…」
セルジュは目の前の光景に言葉を失った。小さい小瓶を一本飲むごとに服を脱がされ、裸になったところで次は参加者が直接血を与える時間となった。貴族は一人ずつ檻の中に入り、腕や首にナイフで傷をつけ少年に血を飲ませた。血を飲ませた参加者は少年に何をしても許された。闇鑑賞会に行き慣れた参加者たちは鞭など少年をいたぶる道具を持参していた。少年を傷つけて悦ぶ女性貴族、少年を凌辱して愉しむ男性貴族…。少年は5日間与えられていなかった血をもらうために涙を流しながらそれらに耐えていた。
「こんなことが許されるのか…?」
「そこのあなた、あなたもロイと遊んでみませんこと?もう血だらけの体液まみれですけれど、それもまた一興でしょう?」
「…そうだな」
セルジュが立ちあがると、他の参加者がニヤニヤと彼を目で追った。次はどんなことをして我々を楽しませてくれるのだろうか、あら背丈のある素敵な方だわ少年を抱いてくれないかしらとコソコソ話しているのが聞こえる。セルジュは檻の前に立ち貴族たちに声をかけた。
「時に皆さま。チムシーに寄生され続けた人間が何になるかはご存知かな」
「もちろん存じ上げておりますわ。吸血鬼になるのでしょう?」
一番手前に座っていた女性が答えた。セルジュは頷き今度は主催者に話しかけた。
「マダム。彼にいつまでチムシーを寄生させるのでしょう?」
「もちろん吸血鬼になるまでですわ」
「ほう。では吸血鬼になった彼をどうするおつもりで?」
「あらあら!もうその時が待ち遠しいのですか?困ったお人」
主催者は少年が吸血鬼になったときのことを想像してクスクスと笑った。
「そうね…吸血鬼になったら、本当に聖魔法でしか死なないか確かめるわ。四肢を斬ってみたり…心臓を貫いてみたり…首を斬ってみたり…。その時はまた鑑賞会をしましょうね。そして本当に死ななかったのなら、聖女様の元へ連れていき、ゆっくりじっくり聖魔法が彼を蝕むのを見て愉しませてもらうわ。もしよければ、お誘いしますわよ。うふふ」
「…彼は、罪人かなにかで?」
「いいえ?貧乏な平民から買い取りましたの。たった白金貨1枚で」
「罪のない平民の子をいたぶって、なんとも思わないのですか?」
「あら…私を説教するつもりですの?」
セルジュの言葉に気分を害したのは主催者だけではなかった。参加者も不機嫌そうに彼に罵声を浴びせる。
「なんだお前は!気に入らないのならさっさと帰れ!」
「場がしらけるようなことを言うんじゃありませんわ!せっかくの楽しかった時間が台無しじゃありませんの!」
「平民のガキ一匹いじめたくらいで何を言っている!こっちは貴族様なんだぞ!こいつらが誰のおかげでメシを食っていけていると思っている!少しくらいこいつらで遊んでも誰も文句は言わんだろう!!」
男性貴族の言葉でセルジュのなにかがプツリと切れた。怒号をあげながら腕を振る。強風魔法が会場の空気を裂いた。半分以上の貴族の首が一瞬にして飛んだ。生き残った貴族たちが悲鳴を上げながら会場から逃げようとしたが、大火に包まれ骨も残さず焼き尽くされた。たった一人、主催者だけを残して。
「ひっ…ひぃ…」
力が抜けへたりこんでいる主催者をちらりと見たあと、セルジュは首がなくなった観客に向けて声を張り上げた。
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