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最終章 初恋と親友
第三十八話
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◇◇◇
シアンさんの部屋に遊びに行った日から二週間が経った。そろそろ会いたい。
彼女に恋をしていると自覚してからは緊張してしまって、遊びに誘うどころか、自分からメッセージを送ることすらできていない。毎朝起きるたびにスマホを覗いては、シアンさんからのメッセージが来ているか来ていないかで一喜一憂している。
まるで中学生のような恋愛をしている自分に戸惑う。だってこんなに心臓がバクバクするなんて知らなかったんだから、仕方ないだろ。
《ユウくん、今週の日曜日あいてる? スイーツビュッフェについてきてほしいなー》
「ひょあ!!」
八月二週目の週水曜日、部活で忙しい七岡以外の『勉強会』グループで集まっている時に、シアンさんからお誘いが来た。
変な声をあげた俺に、夏休みの課題をしていたメンバーが顔を上げる。
テンパッていた俺は、「はなさっ、はな、はなさきしゃん!」と隣に座っていた花崎さんの腕をガッシリ掴んだ。
彼女は突然とんでもない握力で腕を掴まれたことにまず驚き、次に俺の紅潮した困り顔に目を丸くする。
「ど、どうしたの!?」
俺は、彼女の耳元で興奮気味に囁く。
「あのさっ、どうしよう俺っ」
「どうしたの? なにがあったの?」
「俺さ、今好きな人がいて」
「え!?」
「遊びに誘われたっ!」
「えーーーー!?」
彼女の大声に、様子を見ていたメンバーが我慢できずに食いついた。
「おい南! さっきから何をコソコソ話してんだよ! 俺たちにも聞かせろ!」
「そうだそうだー! 聞かせなさーい!」
やいのやいのと騒がしい木渕と栞奈ちゃんに、俺はブンブン首を横に振って、ソファと花崎さんの背中の間に顔を突っ込んで隠れた。
「おい南! さっきから花崎さんにくっつきすぎだぞコノヤロウ!」
「お前らには言えねえ~……」
「なんでー!? ひどーい!」
花崎さんに話せたのは、俺がぽっちゃり好きだと知っていたからだ。だが他のメンバーにはまだ言えない。性癖がバレるのが怖い。
頑なに言おうとしない俺に、花崎さんが優しく声をかける。
「南くん。アレがバレるんじゃないかって心配して言えないの?」
頷くと、彼女は「大丈夫だよ」と俺の頭を撫でた。
「このメンバーは、相手の体型なんて聞いてこないから。好きな人ができたってことだけ、ひとまず言ってみたら? もちろん、本当に言いたくないなら、言わなくていいと思うけど」
そう言われてみたらそうだ。好きな人ができたと言われて、どんな人とは聞かれても、どんな体型の人かとピンポイントに聞かれることはまずないだろう。
俺は花崎さんから体を離して、テーブルの下で彼女の手を握った。そして深呼吸をして、メンバーに打ち明ける。
「お、俺。今、好きな人、いて」
「「「「ええええーーーーーー!?」」」」
「おまっ、そ、それ、花崎さんのことじゃ……」
顔を真っ青にして震える木渕に、俺は「ちげえっ」と即答した。
「お前らの知らない人。ゲームで知り合って、それで、そっから何回か会ってて……す、好きになって……」
俺の好きな人が花崎さんじゃないと知り胸を撫でおろした木渕は、表情が一変してニヤニヤした顔になった。
酒井さんと中迫さんも好奇心を抑えきれず、鼻の穴を膨らませて話の続きを待っている。
栞奈ちゃんはしばらく時が止まっていたが、目尻を下げて頬杖をつく。
「それでそれでー?」
「今週の日曜日、遊ぼうって誘われた……」
「あれ? 付き合ってないのー?」
「うん。俺の片想い」
「結也先輩が片想い!? 珍しー!」
栞奈ちゃんがそう言うと、他のメンバーもうんうんと頷いている。俺も「なー」と同意して、ため息交じりに呟いた。
「俺の顔見てもなんの反応も示さないし、俺の財布の中見ても奢らせてくれないし……。どうしていいのか分かんねえ……」
「そんな人いるのか! すげえな!」
木渕もそう思うか。そうなんだよ。すげえんだよ、俺の好きな人。
「じゃあ、中身で勝負しないといけないね」
花崎さんがニシシと笑う。中身になんて全く自信がない俺がうなだれていると、木渕がバシバシと背中を叩いた。
「安心しろ! お前は良いヤツだ! ちょっと残念なヤツでもあるが!」
「残念なのは分かってんだよ~」
「こら木渕先輩ー! 結也先輩が気にしてるところを言ってあげないで!」
栞奈ちゃんに窘められて、木渕が「励ましたつもりなんだがなあ」と頭を掻いた。
それから俺は、メンバーに質問攻めにされた。どんな人なんだと聞かれたので、年上の綺麗な人だと答えた。どういうところが好きなんだと聞かれて、趣味が合うし、一緒にいて楽しいと言ってくれるところだと答える。
結局シアンさんがぽっちゃり系だということ以外は、包み隠さず話すことになった。
話を聞き終えたメンバーは、シアンさんに好印象を抱いたようだ。
「シアンさんめちゃくちゃ良い人じゃねえか! そうなんだよ、お前は年上と相性が良いだろうって、ずーっと思ってた!」
「うんうん。それに、やっぱり顔とかお金じゃなくて、趣味で慕ってくれる人っていうのが良いよね。素敵だと思う」
木渕と花崎さんがそう言うと、酒井さんと中迫さんも同意する。
一方栞奈ちゃんは、新たに見つけた読書好きの人に興奮しているようだった。
「シアンさんの好きな小説なにかなー? 絵画好きってことは、画家を題材にした小説が好きなのかな!? あー! 私もシアンさんと美術館行ってみたーい!! 結也先輩、素敵な人に出会えてよかったね!」
全員に応援してもらえることが、こんなに嬉しいことだとは思いもしなかった。
心の内に秘めておきたいことを、友人に打ち明けるとこんなに気持ちが楽になることも知らなかった。
「なあ、相談なんだけど――」
それから俺は、次会う時にどんな服を着たらいいかとか、どんなことをしたら喜んでくれるだろうとか、くだらないことをたくさん相談した。
俺の友だちは、自分のことのように真剣に考えて意見を出してくれた。
俺、こいつらと出会ってから、生きるのが楽しい。
シアンさんの部屋に遊びに行った日から二週間が経った。そろそろ会いたい。
彼女に恋をしていると自覚してからは緊張してしまって、遊びに誘うどころか、自分からメッセージを送ることすらできていない。毎朝起きるたびにスマホを覗いては、シアンさんからのメッセージが来ているか来ていないかで一喜一憂している。
まるで中学生のような恋愛をしている自分に戸惑う。だってこんなに心臓がバクバクするなんて知らなかったんだから、仕方ないだろ。
《ユウくん、今週の日曜日あいてる? スイーツビュッフェについてきてほしいなー》
「ひょあ!!」
八月二週目の週水曜日、部活で忙しい七岡以外の『勉強会』グループで集まっている時に、シアンさんからお誘いが来た。
変な声をあげた俺に、夏休みの課題をしていたメンバーが顔を上げる。
テンパッていた俺は、「はなさっ、はな、はなさきしゃん!」と隣に座っていた花崎さんの腕をガッシリ掴んだ。
彼女は突然とんでもない握力で腕を掴まれたことにまず驚き、次に俺の紅潮した困り顔に目を丸くする。
「ど、どうしたの!?」
俺は、彼女の耳元で興奮気味に囁く。
「あのさっ、どうしよう俺っ」
「どうしたの? なにがあったの?」
「俺さ、今好きな人がいて」
「え!?」
「遊びに誘われたっ!」
「えーーーー!?」
彼女の大声に、様子を見ていたメンバーが我慢できずに食いついた。
「おい南! さっきから何をコソコソ話してんだよ! 俺たちにも聞かせろ!」
「そうだそうだー! 聞かせなさーい!」
やいのやいのと騒がしい木渕と栞奈ちゃんに、俺はブンブン首を横に振って、ソファと花崎さんの背中の間に顔を突っ込んで隠れた。
「おい南! さっきから花崎さんにくっつきすぎだぞコノヤロウ!」
「お前らには言えねえ~……」
「なんでー!? ひどーい!」
花崎さんに話せたのは、俺がぽっちゃり好きだと知っていたからだ。だが他のメンバーにはまだ言えない。性癖がバレるのが怖い。
頑なに言おうとしない俺に、花崎さんが優しく声をかける。
「南くん。アレがバレるんじゃないかって心配して言えないの?」
頷くと、彼女は「大丈夫だよ」と俺の頭を撫でた。
「このメンバーは、相手の体型なんて聞いてこないから。好きな人ができたってことだけ、ひとまず言ってみたら? もちろん、本当に言いたくないなら、言わなくていいと思うけど」
そう言われてみたらそうだ。好きな人ができたと言われて、どんな人とは聞かれても、どんな体型の人かとピンポイントに聞かれることはまずないだろう。
俺は花崎さんから体を離して、テーブルの下で彼女の手を握った。そして深呼吸をして、メンバーに打ち明ける。
「お、俺。今、好きな人、いて」
「「「「ええええーーーーーー!?」」」」
「おまっ、そ、それ、花崎さんのことじゃ……」
顔を真っ青にして震える木渕に、俺は「ちげえっ」と即答した。
「お前らの知らない人。ゲームで知り合って、それで、そっから何回か会ってて……す、好きになって……」
俺の好きな人が花崎さんじゃないと知り胸を撫でおろした木渕は、表情が一変してニヤニヤした顔になった。
酒井さんと中迫さんも好奇心を抑えきれず、鼻の穴を膨らませて話の続きを待っている。
栞奈ちゃんはしばらく時が止まっていたが、目尻を下げて頬杖をつく。
「それでそれでー?」
「今週の日曜日、遊ぼうって誘われた……」
「あれ? 付き合ってないのー?」
「うん。俺の片想い」
「結也先輩が片想い!? 珍しー!」
栞奈ちゃんがそう言うと、他のメンバーもうんうんと頷いている。俺も「なー」と同意して、ため息交じりに呟いた。
「俺の顔見てもなんの反応も示さないし、俺の財布の中見ても奢らせてくれないし……。どうしていいのか分かんねえ……」
「そんな人いるのか! すげえな!」
木渕もそう思うか。そうなんだよ。すげえんだよ、俺の好きな人。
「じゃあ、中身で勝負しないといけないね」
花崎さんがニシシと笑う。中身になんて全く自信がない俺がうなだれていると、木渕がバシバシと背中を叩いた。
「安心しろ! お前は良いヤツだ! ちょっと残念なヤツでもあるが!」
「残念なのは分かってんだよ~」
「こら木渕先輩ー! 結也先輩が気にしてるところを言ってあげないで!」
栞奈ちゃんに窘められて、木渕が「励ましたつもりなんだがなあ」と頭を掻いた。
それから俺は、メンバーに質問攻めにされた。どんな人なんだと聞かれたので、年上の綺麗な人だと答えた。どういうところが好きなんだと聞かれて、趣味が合うし、一緒にいて楽しいと言ってくれるところだと答える。
結局シアンさんがぽっちゃり系だということ以外は、包み隠さず話すことになった。
話を聞き終えたメンバーは、シアンさんに好印象を抱いたようだ。
「シアンさんめちゃくちゃ良い人じゃねえか! そうなんだよ、お前は年上と相性が良いだろうって、ずーっと思ってた!」
「うんうん。それに、やっぱり顔とかお金じゃなくて、趣味で慕ってくれる人っていうのが良いよね。素敵だと思う」
木渕と花崎さんがそう言うと、酒井さんと中迫さんも同意する。
一方栞奈ちゃんは、新たに見つけた読書好きの人に興奮しているようだった。
「シアンさんの好きな小説なにかなー? 絵画好きってことは、画家を題材にした小説が好きなのかな!? あー! 私もシアンさんと美術館行ってみたーい!! 結也先輩、素敵な人に出会えてよかったね!」
全員に応援してもらえることが、こんなに嬉しいことだとは思いもしなかった。
心の内に秘めておきたいことを、友人に打ち明けるとこんなに気持ちが楽になることも知らなかった。
「なあ、相談なんだけど――」
それから俺は、次会う時にどんな服を着たらいいかとか、どんなことをしたら喜んでくれるだろうとか、くだらないことをたくさん相談した。
俺の友だちは、自分のことのように真剣に考えて意見を出してくれた。
俺、こいつらと出会ってから、生きるのが楽しい。
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