狂った夢、かなえます

クロモリ

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第五章 悪意は人に向けるものではない……とか思う日もある。

第34話 助手は雇主だけは助けない

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「自分の身体に不満はないかい?」

そんな声から始まる動画が、相変わらず存在した。
世界最大の動画共有サービスに上げられた、その動画は意味不明の文字列……アルファベット、数字、記号などの組み合わせ……で検索すると引っかかるのも、相変わらずで。

「自己紹介が遅れたね、私は人形師の│蜜蘭《みつらん》だ」
淡々と意味不明なことを喋った女の声が、そう終わると。

「……さ~て、と」
男の声が続くようになっていた。
「まぁ……さっきのクソ人形師の言うことを、間に受けそうなヤツ……聞いてくれ」
ダラけきった声音で、男は続けた。
「人形師の俺は助手なんだが~ま~言いたいことがあってね……人形師の工房になんか来るなよ、ってコトだ。
一応、言っておくが、来るな来るなとか言って客の目を惹こうだなんて、しょうもねぇーマーケティングでもねぇからな?
で、俺がやっぱり言いたいのは、自分の身体……改造してどうすんだ? コトさ。
子供の頃に、お母さんに言われなかったか? 大事にしろって、自分の身体。それは間違いじゃないんだ。つーか、お母さんの言うことは大体、正しいから覚えとけ……あ、整形は別な? 美人はいい、整形でもね。
これ、お母さんは言わなかっただろうけど……大体のお母さんは美人じゃねぇからさ、そこは分かってやれ。優しくしてやれ。多分、辛いんだ」

支離滅裂に饒舌な男の声は、ダラダラと続く。

「そうそう、辛いのと同じくらい幸せなんて、そこら辺で幾らでも見つけられる。漢字も似てるしな。見間違うコトは、割とあるのさ。
あ、ちなみに俺は近所の野良猫が、とてとてっと歩いてンのを見られれば、その日は幸せだ……足下にすり寄られれば、至福だね。昇天してもいい――ってな感じで人間の幸せなんてな、そンなんでいいのさ。
だから、人形師のコトなんて忘れちまえ」
 男の声は終わり間際に、どうでも良さそうに、言った。
「……生きてるだけで、良いのさ。だって生まれたんだ、そのまま生きて良いってコトだろうよ……って感じに、良いこと言った雰囲気を出したよね、俺? いいよな、こんな感じで終わって~あ、一応。ここまで付き合ってくれて、ありがとよ……じゃぁな~」
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