狂った夢、かなえます

クロモリ

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第一章 愛されるための身体能力

第9話 そして恋する少女は奇麗に笑う

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孝幸はまたも、助手業として佐伯舞華さえきまいかを尾行していた。

制作工房から出てきた舞華をつけろと、少し遅れて出てきた蜜蘭に指示されていたからだった。文句は言わなかった。孝幸自身、舞華がどうなったか見なければならないと感じたのだった。

けれど。

「……、」
日の落ちた人気ひとけの全くない公園のベンチに腰掛ける舞華。

一見、ごく普通の女の子のままなのだ。そう、制作工房から出てきた舞華は、全く変わりなかった。

(詐欺……ってオチか?)
 
公園を囲う歩道のガードレールに寄りかかりながら、ベンチに座る舞華の背中を見張っていた孝幸はそう考えてもいた。
 
蜜蘭は人形師ではない……そもそも人形師というものから全て嘘。

いや、と、孝幸は考える。

非現実的な妹の身体……身体能力は実在した。

(……ま、いい。隠れて見れば分かるだろうよ)
 
思いながら、孝幸は公園の敷地を仕切るような植樹で、舞華から身を隠していた。一応、伊達眼鏡で変装もしている。髪型も変えた。完全とは言えないが、すぐにバレることもないだろう。

(……今度から、アレだな、探偵的な道具が欲しい。少し不安だ)

とか考えていると、舞華はまたも男と出会っていた。舞華の背中越しに孝幸が前にも見た、男の笑顔が伺えた。

(あーもしかして)
孝幸が半ば予想していた通りの光景が繰り返される。
男は舞華の隣に座ることもなく、手を差し出す。
その手に、舞華から差し出された紙幣が乗る。
(何にも変わってねぇーな……や、違うか)
男は舞華の前からすぐに立ち去っていった。
(ちょっと酷くなってンな……)
男が立ち去って少しして、舞華の頭と肩がベンチに隠れる。うずくまった……ように孝幸には見えた。これから舞華は泣くんだろう……孝幸は想像した。

「……ちッ」
思わず出た舌打ちと共に、尻を乗せていたガードレールを蹴飛ばす。足を踏み出す。公園の入り口へと小走りで回り込む。ベンチでやはりうずくまっていた舞華を見、正面から歩調を遅くしながら、ゆっくりと歩んでいく。
(何してンだ……俺は。慰めでも言うつもりかぁ?)
内心で自分の行動に首を傾げながらも、あと数歩の距離まで舞華へと近づく。
声をかけようとした、その時だった。

――と、音がした。

音は静かに、けれど確かに――舞華から、より正確には彼女の身体の内から音が響いていた。きりきり、という異音。きりきりきりと、異音が強くなっていく。
 
孝幸は、思い出していた。
(あの女は本物の、やっぱり人形師だ)
かつて妹の身体からも、この音を聞いたのだ。
(人形となった人間の……ゼンマイの音)
思い返していると、果たして。

「――、」
うずくまり、まるで胎児のようだった舞華はゆっくりと身体を起こし、ベンチからふらりと立ち上がった。
 
いや、舞華と呼んで良いものか。
身長が少し高くなっている。
肩幅が少し、狭くなっている……髪は長くなっている。
女の顔は、全く別のものだった。
(この顔……あの喫茶店で見た――)

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