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第2章
水の名前 2
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ニルナ王女がパティ様、ベティ、ジェニー、そして私をお茶に誘ってくださった。そう、あの日ベティを茶化した時と同じ面子だ。ニルナ王女以外は全員既婚者となっていた。
「私もそろそろ結婚をしたいものです。と、言うかそろそろ適齢期も過ぎてしまい行き遅れになってしまいますわ。」
「ニルの美貌なら選び放題よ。行き遅れになんてならないわ。」
パティ様が励ますものの、ニルナ王女の余り気分が回復したようには見えなかった。
「では、気になるお方とかはいらっしゃらないのですか?」
「そうね、そのような殿方は今の所いないわ。」
うーんとその場にいる全員が心の中で同時に唸った。同じ女性として恋愛結婚に対する憧れはよくわかる。ベティ以外は全員一応政略結婚だが、普通に婚約期間に愛を育み、最早恋愛結婚と言っても過言ではないくらいに愛し合っている。ニルナ王女もきっと本当の政略結婚はなさらないと思うけれど、王族ではない私には彼女の覚悟は推測の域を超えている気がした。
いつのまにか話題はアイヴォルダ王子の話に移っていた。あの御告げによって彼はまず次期王位継承権の第1位を得た。これにより、メルキオール第1王子の長男であったメイナード王子は王位継承権が第2位に落ちてしまった。このことをメルキオール王子がどのように思っているのはか全く分からなかった。このような場合、間を取り持って情報を与える役割はレイチェル様だったらしいが、彼女はオニフレッド皇国に嫁いでしまったため全く情報の交換ができていなかった。かといって、ヴィンセント王子が直接どう思っているかなど聞けるはずもなく、ただ気まずい空気が流れているそうだ。
「ニルが聞いてあげればいいのでは?」と、パティ様がおっしゃったがニルナ王女はそう言うのは得意でないらしい。それに、王位継承権の問題だけではない。役割があると言うのは凄い重圧になってしまう。たしかに、アイヴォルダ王子には産まれながらにして魔力が溢れていて、目は水の精霊の髪の色と全く同じだった。また、『無の子』と言うのはおそらく無属性の子だと言われている。500年に一度くらいで生まれてくると言う稀有な存在だ。まぁ、私が稀有だと言うのはおかしいのかもしれないが。無属性の子が生まれやすい条件は研究でわかっている。相反する属性同士の子が無属性になる可能性があるのだ。ただ、魔法が使えないという事も起こり得る。
「私たちはヴォルを王にしようとは思っていなかったのだけれど。」
ヴォル、と言うのはアイヴォルダ王子の愛称だ。王位継承権が高い位置にあると言うことは暗殺など命の危険が迫ってくる。リアムは元第2王子だったため、私たちの子ども、但し男子に限ってだが王位継承権が一応与えられる。お腹の子が男であれば今のところカルロス王子が王太子になった時点で返上するつもりだ。ちなみに王の娘であれば王位継承権を得られる。だが、その女王の子供は王になれないと言う決まりがあるため、その場合は先代の王の兄弟やその子どもから王が出るらしい。しかし、そのようになったことは今まで一度もなかった。元々は王であっても一夫一妻制だったのが子が生まれなかった時に、別の王妃を娶ろうとなり、第3王妃まで認められるようになっだと言うことだ。
「ポジティブに考えましょう、ベティ。精霊の加護を受けているなんて素敵よ。今までそんなことなかったんだもの。それに親が堂々としていなければそれこそ子の命が危ないのよ。あなたはもう私と同じ王族よ。責任を持ちなさい。」
ニルナ王女は優しい目をしながらベティを叱った。
「そ、そうですわよね。ありがとうございます。」
「なんならお義姉さまとお呼びしましょうか?」
「やめてくださいな!恥ずかしいわ。」
王女の冗談で場は少し和んだ。
「実はね、私今妊娠しているの。」
「まぁ!ジェニー本当なの?」
自分の事のように喜ぶベティには先程の暗い表情はなかった。幼馴染の幸せを本当に喜んでいた。
「それで、来月がフレッドの誕生日ですから、それに合わせてフレッドには報告しようと思ってるの。だから、私たちだけの秘密にしておいてください。」
「もちろんよ!びっくりさせなきゃね!来月になったら赤子用のベッドを贈ってもいいかしら?」
「パティ様ったらレイモンド陛下に似てきていらっしゃいますわ。私とリアムが婚約した時に陛下が仰ったことと一緒ですもの。」
私は思わず吹き出してしまい、目に涙を溜めながらパティ様にそう言った。パティ様は白い肌を赤く変え、目を泳がせている。
「そ、そうですわね…。レイと同じというのは少し恥ずかしいですわ。お洋服くらいにしようかしら。」
こうして穏やかな時間は過ぎていった。
少しの観光も終え、従業員や実家へのお土産も買い、私たちは帰路につくことにした。リアムは今回の旅行で私との時間があまり取れなかったことに対して少しご立腹だった。宰相として公務に勤しんでいたのだ。国王が代替わりした時に宰相や大臣などは一新される。大臣は基本的に公爵家から出るが、今の財務大臣はクルーガー侯爵だ。貴族も王の戴冠式後に息子に家督を譲るのが一般的だ。息子があまりにも小さい場合は譲らないと言うこともある。なぜクルーガー侯爵が財務大臣なのかと言うと、ガルブレイス公爵はまだ家督をクリスに譲っていないからだ。クリスは来年成人となり、ガルブレイス公爵になる予定だ。その時に財務大臣に任命されるらしい。軍部大臣はガルシア公爵、つまりフレデリック様の兄で、法務大臣はゴールディング公爵、ジェニーの兄だった。リアムの宰相としての手腕は確かでモーリェモンドは更に発展を遂げていた。それをみてレソルム王国の貴族たちはリアムや陛下に対して助言を求め、きちんと対応していたら結局仕事ばかりで私やベスと過ごせなかったと言うことだ。
今、馬車の中には私とリアムしかいない。ベスはジェスと同じ馬車に乗っている。私はリアムの髪に指をかけた。リアムの碧い瞳がこちらを焦げ付くように見つめてくる。私も負けじと視線を絡め、お疲れ様と彼を労った。口付けを贈り、ぎゅっと抱きしめた。一瞬少し驚いた顔をしたリアムだったが、私の身体に手を回しお互いの距離をほとんどなくした。顎に指が伸びて今度は彼から口付けが贈られる。何度も何度も繰り返し軽く触れるだけのキス。自然と2人の間に流れる空気は熱され、糸を紡ぐほどに求めあっていた。しかし、無情にも早く着いた馬車の揺れが止まり、少し私たちは身を整えて馬車をおりた。
「私もそろそろ結婚をしたいものです。と、言うかそろそろ適齢期も過ぎてしまい行き遅れになってしまいますわ。」
「ニルの美貌なら選び放題よ。行き遅れになんてならないわ。」
パティ様が励ますものの、ニルナ王女の余り気分が回復したようには見えなかった。
「では、気になるお方とかはいらっしゃらないのですか?」
「そうね、そのような殿方は今の所いないわ。」
うーんとその場にいる全員が心の中で同時に唸った。同じ女性として恋愛結婚に対する憧れはよくわかる。ベティ以外は全員一応政略結婚だが、普通に婚約期間に愛を育み、最早恋愛結婚と言っても過言ではないくらいに愛し合っている。ニルナ王女もきっと本当の政略結婚はなさらないと思うけれど、王族ではない私には彼女の覚悟は推測の域を超えている気がした。
いつのまにか話題はアイヴォルダ王子の話に移っていた。あの御告げによって彼はまず次期王位継承権の第1位を得た。これにより、メルキオール第1王子の長男であったメイナード王子は王位継承権が第2位に落ちてしまった。このことをメルキオール王子がどのように思っているのはか全く分からなかった。このような場合、間を取り持って情報を与える役割はレイチェル様だったらしいが、彼女はオニフレッド皇国に嫁いでしまったため全く情報の交換ができていなかった。かといって、ヴィンセント王子が直接どう思っているかなど聞けるはずもなく、ただ気まずい空気が流れているそうだ。
「ニルが聞いてあげればいいのでは?」と、パティ様がおっしゃったがニルナ王女はそう言うのは得意でないらしい。それに、王位継承権の問題だけではない。役割があると言うのは凄い重圧になってしまう。たしかに、アイヴォルダ王子には産まれながらにして魔力が溢れていて、目は水の精霊の髪の色と全く同じだった。また、『無の子』と言うのはおそらく無属性の子だと言われている。500年に一度くらいで生まれてくると言う稀有な存在だ。まぁ、私が稀有だと言うのはおかしいのかもしれないが。無属性の子が生まれやすい条件は研究でわかっている。相反する属性同士の子が無属性になる可能性があるのだ。ただ、魔法が使えないという事も起こり得る。
「私たちはヴォルを王にしようとは思っていなかったのだけれど。」
ヴォル、と言うのはアイヴォルダ王子の愛称だ。王位継承権が高い位置にあると言うことは暗殺など命の危険が迫ってくる。リアムは元第2王子だったため、私たちの子ども、但し男子に限ってだが王位継承権が一応与えられる。お腹の子が男であれば今のところカルロス王子が王太子になった時点で返上するつもりだ。ちなみに王の娘であれば王位継承権を得られる。だが、その女王の子供は王になれないと言う決まりがあるため、その場合は先代の王の兄弟やその子どもから王が出るらしい。しかし、そのようになったことは今まで一度もなかった。元々は王であっても一夫一妻制だったのが子が生まれなかった時に、別の王妃を娶ろうとなり、第3王妃まで認められるようになっだと言うことだ。
「ポジティブに考えましょう、ベティ。精霊の加護を受けているなんて素敵よ。今までそんなことなかったんだもの。それに親が堂々としていなければそれこそ子の命が危ないのよ。あなたはもう私と同じ王族よ。責任を持ちなさい。」
ニルナ王女は優しい目をしながらベティを叱った。
「そ、そうですわよね。ありがとうございます。」
「なんならお義姉さまとお呼びしましょうか?」
「やめてくださいな!恥ずかしいわ。」
王女の冗談で場は少し和んだ。
「実はね、私今妊娠しているの。」
「まぁ!ジェニー本当なの?」
自分の事のように喜ぶベティには先程の暗い表情はなかった。幼馴染の幸せを本当に喜んでいた。
「それで、来月がフレッドの誕生日ですから、それに合わせてフレッドには報告しようと思ってるの。だから、私たちだけの秘密にしておいてください。」
「もちろんよ!びっくりさせなきゃね!来月になったら赤子用のベッドを贈ってもいいかしら?」
「パティ様ったらレイモンド陛下に似てきていらっしゃいますわ。私とリアムが婚約した時に陛下が仰ったことと一緒ですもの。」
私は思わず吹き出してしまい、目に涙を溜めながらパティ様にそう言った。パティ様は白い肌を赤く変え、目を泳がせている。
「そ、そうですわね…。レイと同じというのは少し恥ずかしいですわ。お洋服くらいにしようかしら。」
こうして穏やかな時間は過ぎていった。
少しの観光も終え、従業員や実家へのお土産も買い、私たちは帰路につくことにした。リアムは今回の旅行で私との時間があまり取れなかったことに対して少しご立腹だった。宰相として公務に勤しんでいたのだ。国王が代替わりした時に宰相や大臣などは一新される。大臣は基本的に公爵家から出るが、今の財務大臣はクルーガー侯爵だ。貴族も王の戴冠式後に息子に家督を譲るのが一般的だ。息子があまりにも小さい場合は譲らないと言うこともある。なぜクルーガー侯爵が財務大臣なのかと言うと、ガルブレイス公爵はまだ家督をクリスに譲っていないからだ。クリスは来年成人となり、ガルブレイス公爵になる予定だ。その時に財務大臣に任命されるらしい。軍部大臣はガルシア公爵、つまりフレデリック様の兄で、法務大臣はゴールディング公爵、ジェニーの兄だった。リアムの宰相としての手腕は確かでモーリェモンドは更に発展を遂げていた。それをみてレソルム王国の貴族たちはリアムや陛下に対して助言を求め、きちんと対応していたら結局仕事ばかりで私やベスと過ごせなかったと言うことだ。
今、馬車の中には私とリアムしかいない。ベスはジェスと同じ馬車に乗っている。私はリアムの髪に指をかけた。リアムの碧い瞳がこちらを焦げ付くように見つめてくる。私も負けじと視線を絡め、お疲れ様と彼を労った。口付けを贈り、ぎゅっと抱きしめた。一瞬少し驚いた顔をしたリアムだったが、私の身体に手を回しお互いの距離をほとんどなくした。顎に指が伸びて今度は彼から口付けが贈られる。何度も何度も繰り返し軽く触れるだけのキス。自然と2人の間に流れる空気は熱され、糸を紡ぐほどに求めあっていた。しかし、無情にも早く着いた馬車の揺れが止まり、少し私たちは身を整えて馬車をおりた。
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