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EP6
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鳥の鳴き声がした。
「……ん……」
ぼんやり目を開くと、少しだけ開いたカーテンから朝日が差し込んでいる。少しずれた毛布を引き上げて、自分が素肌であることを思い出した。
(夢じゃなかったか……よかった……)
ゆっくりと横を見れば、長いまつ毛を伏せて眠っているダン王子がいて、俺はそのいつもより幼く見える寝顔を眺めながら昨晩のことを鮮明に反芻し始めた。ちょっと思い返しただけで、顔が熱くなるのがわかる。
(……それにしても、ホントすごかったな……)
ベッドで毛布にくるまって、俺はただそう思った。とにかくすごかった。人生で経験したあらゆるものの中で1番気持ちが良くて、最終的に満たされまくってほとんど寝落ちしてしまった。こんなことも人生で初めてだった。
「……」
反芻と共にダン王子を見つめていると、心の中にこそばゆい感覚が芽生える。
(……キス、したい……かも……。って、いやいや!俺はそんな文化の人間じゃないし……!)
今まで抱いたことのない感情を持て余して、俺はキスなどする前にダン王子を見るのをやめた。そういえばいまだに裸だし、服を着ておこうと全然違うことを思いついて起き上がる。しかしベッドから降りようとした時、ぐいっと腕を引かれた。
「うわっ──」
再びベッドに沈んだ身体は、すぐにダン王子に抱き締められていた。肌と肌が直に触れ合ってどぎまぎしたが、ダン王子はいつもと変わらない目で俺を見た。
「どこに行く」
「あ~ちょっと、服くらい着ようかと思って……」
「俺しかいないんだ、いいだろ。まだここにいろ」
まだ眠そうな声を出すダン王子は、ぎゅっと俺を抱きしめ直す。その様子は俺に甘えてくれているようで、俺も口元を緩めつつダン王子と向き合った。
「じゃあ、まだここにいます」
「ああ」
満足そうに口角を上げたダン王子が再び眠ることはなく、俺の額にキスをしてから俺に口づける。先ほど実行できなかった願望が叶って、俺は内心喜びながらキスに応えた。何度か啄まれるうちにダン王子は俺に覆いかぶさっていて、俺は彼のうなじに腕を伸ばした。
その時。
「おはようございます、ルカ様。ご朝食の用意を──」
「わあー?!!イリスさん!!?」
いつも決まった時間にイリスさんが俺を起こしに来るのが慣例だった。だから彼は何も悪くないのだが、俺が真っ赤になってダン王子の下から抜け出すとダン王子はイリスさんを睨んで大きい舌打ちをした。
「おやおや、これは……」
舌打ちを意にも介さないイリスさんはダン王子が見えていないのか、ポッと頬を染めて口元を押さえるとすぐに気を取り直して俺に笑顔を向けた。
「おめでとうございます」
「なっ、何が!?」
俺は動揺したままリアクションを返し、まず服を着ようと取り急ぎシャツとパンツを魔法で引き寄せる。
「ご朝食の準備がございますが、ダン王子もお召し上がりになりますか」
「朝は食わん」
「左様で。ルカ様がお好きな『ウドン』という異国料理をご用意しておりますが」
仕事のできるイリスさんは一晩でうどんを再現してきたらしい。正直ダン王子はうどんなんて興味ないだろと思ったが、少しの沈黙の後にため息混じりに答えた。
「……俺のも用意しておけ」
「かしこまりました。では、ルカ様。隣室でお待ちしておりますので」
俺に頭を下げてすぐ、サッとイリスさんが消える。ダン王子は髪をかき上げて上体を起こすと俺を見た。
「今日は街に行く。朝食は手短に済ませるぞ」
「へ、街?」
「行きたがっていただろ。時間が許す限り案内してやる」
まさか昨日の今日でデートを叶えてもらえるとは思ってなくて、俺は嬉しさの前にまず唖然とした。
「ほ、ほんとに?」
「それか1日中ベッドにいたいというのなら、付き合ってやるが。俺はどちらでも構わん」
「いや、待って!!準備するから!」
(1日中ベッドとか、身も心も持たないっての……!)
色んな意味で焦りながらベッドを降りて衣服をまとう俺を見て、ダン王子はベッドの上で可笑しそうに笑っている。
「見てないで、ダン王子も早く準備してくださいよ」
「俺もそうしたいが、あいにく愛しい伴侶からのキスがないと動けない」
「はいはい、そうですか──え?」
耳が一瞬スルーしかけたが、思いもよらぬことを言われた俺は動きを止めてダン王子を見た。彼は俺を待っているかのように手を差し出している。
「ほら、早く」
「え!?な、なんで急に──」
「理由なんてどうでもいいだろ。したい。まさか俺にキスするのが嫌なのか?」
「違いますけど……!っ、わ、わかりました……!すればいいんでしょ、すれば!」
「そうだ。何度でもいいぞ」
ベッドに乗り直して、俺はダン王子に近づく。不敵な微笑と目が合って羞恥心が強まったものの、意を決して目を瞑った。
──ちゅ。
唇が重なってすぐ離れようとすると、それよりも早くダン王子の両腕が俺を捉えていた。
「まだ足りないな」
「え、あっ……ちょっと……!」
あっという間に抱きしめられてベッドに連れ戻されてしまった。今度はダン王子からキスを贈られ、俺も抵抗をやめる。どうせ形ばかりの抵抗だったのは、自分でもわかっている。
(結局、何されても好きなんだから仕方ない)
口では素直になれずとも、じゃれ合いも何もかもダン王子とすることは何でも俺の心を満たしてくれる。愛する人と幸せな時間を過ごせるという幸福を、俺は生まれて初めて噛み締めていた。
朝ごはんはしばらくお預けだなと思いながら、俺はダン王子を抱きしめ返した。
おわり
「……ん……」
ぼんやり目を開くと、少しだけ開いたカーテンから朝日が差し込んでいる。少しずれた毛布を引き上げて、自分が素肌であることを思い出した。
(夢じゃなかったか……よかった……)
ゆっくりと横を見れば、長いまつ毛を伏せて眠っているダン王子がいて、俺はそのいつもより幼く見える寝顔を眺めながら昨晩のことを鮮明に反芻し始めた。ちょっと思い返しただけで、顔が熱くなるのがわかる。
(……それにしても、ホントすごかったな……)
ベッドで毛布にくるまって、俺はただそう思った。とにかくすごかった。人生で経験したあらゆるものの中で1番気持ちが良くて、最終的に満たされまくってほとんど寝落ちしてしまった。こんなことも人生で初めてだった。
「……」
反芻と共にダン王子を見つめていると、心の中にこそばゆい感覚が芽生える。
(……キス、したい……かも……。って、いやいや!俺はそんな文化の人間じゃないし……!)
今まで抱いたことのない感情を持て余して、俺はキスなどする前にダン王子を見るのをやめた。そういえばいまだに裸だし、服を着ておこうと全然違うことを思いついて起き上がる。しかしベッドから降りようとした時、ぐいっと腕を引かれた。
「うわっ──」
再びベッドに沈んだ身体は、すぐにダン王子に抱き締められていた。肌と肌が直に触れ合ってどぎまぎしたが、ダン王子はいつもと変わらない目で俺を見た。
「どこに行く」
「あ~ちょっと、服くらい着ようかと思って……」
「俺しかいないんだ、いいだろ。まだここにいろ」
まだ眠そうな声を出すダン王子は、ぎゅっと俺を抱きしめ直す。その様子は俺に甘えてくれているようで、俺も口元を緩めつつダン王子と向き合った。
「じゃあ、まだここにいます」
「ああ」
満足そうに口角を上げたダン王子が再び眠ることはなく、俺の額にキスをしてから俺に口づける。先ほど実行できなかった願望が叶って、俺は内心喜びながらキスに応えた。何度か啄まれるうちにダン王子は俺に覆いかぶさっていて、俺は彼のうなじに腕を伸ばした。
その時。
「おはようございます、ルカ様。ご朝食の用意を──」
「わあー?!!イリスさん!!?」
いつも決まった時間にイリスさんが俺を起こしに来るのが慣例だった。だから彼は何も悪くないのだが、俺が真っ赤になってダン王子の下から抜け出すとダン王子はイリスさんを睨んで大きい舌打ちをした。
「おやおや、これは……」
舌打ちを意にも介さないイリスさんはダン王子が見えていないのか、ポッと頬を染めて口元を押さえるとすぐに気を取り直して俺に笑顔を向けた。
「おめでとうございます」
「なっ、何が!?」
俺は動揺したままリアクションを返し、まず服を着ようと取り急ぎシャツとパンツを魔法で引き寄せる。
「ご朝食の準備がございますが、ダン王子もお召し上がりになりますか」
「朝は食わん」
「左様で。ルカ様がお好きな『ウドン』という異国料理をご用意しておりますが」
仕事のできるイリスさんは一晩でうどんを再現してきたらしい。正直ダン王子はうどんなんて興味ないだろと思ったが、少しの沈黙の後にため息混じりに答えた。
「……俺のも用意しておけ」
「かしこまりました。では、ルカ様。隣室でお待ちしておりますので」
俺に頭を下げてすぐ、サッとイリスさんが消える。ダン王子は髪をかき上げて上体を起こすと俺を見た。
「今日は街に行く。朝食は手短に済ませるぞ」
「へ、街?」
「行きたがっていただろ。時間が許す限り案内してやる」
まさか昨日の今日でデートを叶えてもらえるとは思ってなくて、俺は嬉しさの前にまず唖然とした。
「ほ、ほんとに?」
「それか1日中ベッドにいたいというのなら、付き合ってやるが。俺はどちらでも構わん」
「いや、待って!!準備するから!」
(1日中ベッドとか、身も心も持たないっての……!)
色んな意味で焦りながらベッドを降りて衣服をまとう俺を見て、ダン王子はベッドの上で可笑しそうに笑っている。
「見てないで、ダン王子も早く準備してくださいよ」
「俺もそうしたいが、あいにく愛しい伴侶からのキスがないと動けない」
「はいはい、そうですか──え?」
耳が一瞬スルーしかけたが、思いもよらぬことを言われた俺は動きを止めてダン王子を見た。彼は俺を待っているかのように手を差し出している。
「ほら、早く」
「え!?な、なんで急に──」
「理由なんてどうでもいいだろ。したい。まさか俺にキスするのが嫌なのか?」
「違いますけど……!っ、わ、わかりました……!すればいいんでしょ、すれば!」
「そうだ。何度でもいいぞ」
ベッドに乗り直して、俺はダン王子に近づく。不敵な微笑と目が合って羞恥心が強まったものの、意を決して目を瞑った。
──ちゅ。
唇が重なってすぐ離れようとすると、それよりも早くダン王子の両腕が俺を捉えていた。
「まだ足りないな」
「え、あっ……ちょっと……!」
あっという間に抱きしめられてベッドに連れ戻されてしまった。今度はダン王子からキスを贈られ、俺も抵抗をやめる。どうせ形ばかりの抵抗だったのは、自分でもわかっている。
(結局、何されても好きなんだから仕方ない)
口では素直になれずとも、じゃれ合いも何もかもダン王子とすることは何でも俺の心を満たしてくれる。愛する人と幸せな時間を過ごせるという幸福を、俺は生まれて初めて噛み締めていた。
朝ごはんはしばらくお預けだなと思いながら、俺はダン王子を抱きしめ返した。
おわり
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