魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ

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 死んでいたかもしれないのに、ダン王子はそんなことなど気にしていないように言った。

「それとこれとは別ですよ……!とにかく俺は……ダン王子に、死んでほしくないんです」
「そうか。お前の泣きそうな顔も悪くないな」
「っ!ほんと相変わらず、人の話全然聞かないですね。まったく誰のせいで、っ、俺が、こんな──」

 目の前で泣く気なんてなかったのに声が震えて、咄嗟に口を閉じるとダン王子に抱き寄せられた。なだめるように背中を擦られると余計に視界が滲んでしまってダメだった。

「……お前が大切だからやったことだ。だが、本当に泣かせてしまうなら考えものだな」
「まだ、泣いて、ない……っ」
「泣いてるだろ。こっちを見ろ」

 顎に手を添えられて、俺は上を向いた。眉を下げたダン王子が俺の目じりをそっと拭う。
 その仕草に、この人のことが好きだという気持ちが溢れてきて「……死んでほしくない」と俺は繰り返した。

「俺だって死にたいわけじゃない。ただ、お前が関係するなら話は別だ」
「なんで、そんな──」
「理由はわかってるだろ」

 赤い瞳が俺を捉えて離さない。理由はわかっているつもりだった。絶縁枷を解除してもらったのだから。
 でも、いまだに自分では信じられていなくて、俺は速まる心臓だけを抱えてただダン王子を見つめた。

「ルカ。俺はお前を愛している。だからお前のためなら死も厭わない」

 流れるように紡がれた言葉に、俺は違う意味で涙が出そうだった。また泣いてしまう前にちゃんと伝えなければ。俺はダン王子の手を握って、口を開いた。

「っ、俺は……俺も、好きです。ダン王子のことが」
「……そうか」

 優しく手を握り返される。

「ルカ。俺はお前のために生きると誓う。そして、お前が至上に支配された時は命をかけて止めてやる。何度でもな。だから、一生俺のそばにいろ」
「……はい。でも、ダン王子に命を犠牲になんてさせません。ずっと一緒にいてほしいから」

 涙を消して伝えると、ダン王子はほほ笑んで俺の頬を撫でた。

「心地良いほどの愛の言葉だな」

 俺たちは引き寄せられるように唇を重ね合わせた。無理やりでもなく不意打ちでもない、心の通い合ったキスだった。

(俺……ほんとにダン王子と……)

 沸き上がる喜びが胸に溢れ、唇を離しただけの距離で見つめ合うと自然とはにかんでしまう。ダン王子は俺の手を取って、薬指にキスを落とした。

「明日にでも挙式するか」
「ダン王子が誰よりも気早いですよ」
「いいだろ別に。俺がルカと結婚するのは決まったことだ」

 自信に満ちた不適な笑みが、俺に向けられる。そのまますぐ唇が触れ合って、甘い重なりに心が満たされていく。幸せに心臓が高鳴り、愛しさで体温が上がるのがわかる。
 言葉を必要とせずに、俺たちはふたりだけの空間で愛を伝え続けていた。
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