魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ

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「こんなの、甘い考えかもしれないですけど……」

 照れながら付け足すと、マーティアス王子が首を振った。

「此度の反逆がどうなったか、顛末は知れ渡っています。近年魔界は大きな反乱もなく平和で、至上様を象徴としてしか知らなかった多くの者たちに嫌というほどその恐ろしさが伝わりましたからね。抑止力としては、及第点ではないでしょうか」
「私の力では記憶改ざんが追いつかないほどに至上様の粛清は知れ渡っています。ルカ様が力を完全掌握された暁に、下々の記憶をどうするかご判断いただければと。力不足で申し訳ございません」
「俺はもちろんルカくんの味方だよ。魔界史上初の愛される至上様になってほしいな」
「僕も応援します。ルカさんならきっと、本当に平和な魔界を作れると思います」

 みんなの優しい眼差しを受けて俺がはにかむと、ダン王子が俺の顔を覗き込むように近づいた。

「統治にあたって人を殺めたくないのなら、そうせずとも済むようにすればいい。これからは俺がお前を支える」
「!」

(支えてくれるんだ……)

 力強い宣言を嬉しく思うと同時に動揺してしまって、俺はどうにか頷き返す。

「しかし至上の力は制御できるように尽力しろ。ルカではないお前など、2度と会いたくない」
「……が、頑張ります」

 ダン王子が俺の目を見て言い切り、俺はなんだか気恥しくなって声が小さくなってしまった。

「わお、お熱いね~。わりと前から思ってたけどさ、俺たちってもう配偶者レース勝ち目なくない?」
「正式な配偶者の発表は3カ月後です。今から挽回できるように頑張ったらどうですか」
「マーティアスくん、なんでそんな他人事なの」
「ダンとルカさんが仲良くなって僕は嬉しいな。結婚祝いにハートの三段ケーキを作らないと」
「ラルフくんは他人事な上に気が早いよ」

 3王子が俺たちを冷やかして盛り上がると、俺を見ていたダン王子が鬱陶しそうに顔を向けた。

「おい。そろそろ邪魔だ。ルカと2人きりにしろ」
「見舞いに来てやった我々に、言うことがそれですか?」
「マーティアスくん落ち着いて。今日くらいいいじゃない」
「また来るね、ダン」
「ルカ様、隣でお待ちしております。ごゆっくり」

 ダン王子の言葉にすんなり従った面々は、まだ文句を言い足りなそうなマーティアス王子を連れて部屋から出て行く。

「やっと静かになったな」

 満足そうに言って、ダン王子はベッドから降りた。

「あ、ダメですよ。安静にしてないと」
「このくらい平気だ。そばにいさせろ。それともお前が俺のベッドに入るか?」
「いや、なんですかその二択……!」
「冗談だ」

 ふっと笑って俺の隣に座られると、距離が近づいたのもあって勝手に心臓が速まるのを感じた。相変わらず俺はチョロい。

「お前の体調はどうだ。封印の後遺症はないのか」
「封印の影響は全然。俺はすっかり元気ですよ」

 答えながら、ダン王子を見つめる。会えたらちゃんと言おうと思っていたことを伝えるために、息を吸った。

「……俺の封印を解いてくれて、ありがとうございました。本当に感謝してます」

 1カ月経って、ようやく面会が許される状況になった。ダン王子の襟元にはいまだ痛々しい包帯が見えていて、俺は胸が詰まる。あの時あの場でイリスさんが応急処置をしていなければ、ダン王子は確実に死んでいた。
 元より俺の中の至上様が、少しでも気分が違えばダン王子は見殺しになっていただろう。奇跡の重なりで命が繋がれただけだ。俺を助けるために自分は死んでもいいという判断をしたことを、俺はただ感謝するだけで終わりに出来なかった。

(もう絶対に、そんな危険な目に遭ってほしくない)

 俺を見つめる穏やかな目を見ると、涙が出そうになる。

「でも、俺のために命を懸けるのはもうやめてください。絶縁枷の解除方法だって、本当かわからなかったのに……」
「だが解除できただろ」
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