62 / 69
60
しおりを挟む
「こんなの、甘い考えかもしれないですけど……」
照れながら付け足すと、マーティアス王子が首を振った。
「此度の反逆がどうなったか、顛末は知れ渡っています。近年魔界は大きな反乱もなく平和で、至上様を象徴としてしか知らなかった多くの者たちに嫌というほどその恐ろしさが伝わりましたからね。抑止力としては、及第点ではないでしょうか」
「私の力では記憶改ざんが追いつかないほどに至上様の粛清は知れ渡っています。ルカ様が力を完全掌握された暁に、下々の記憶をどうするかご判断いただければと。力不足で申し訳ございません」
「俺はもちろんルカくんの味方だよ。魔界史上初の愛される至上様になってほしいな」
「僕も応援します。ルカさんならきっと、本当に平和な魔界を作れると思います」
みんなの優しい眼差しを受けて俺がはにかむと、ダン王子が俺の顔を覗き込むように近づいた。
「統治にあたって人を殺めたくないのなら、そうせずとも済むようにすればいい。これからは俺がお前を支える」
「!」
(支えてくれるんだ……)
力強い宣言を嬉しく思うと同時に動揺してしまって、俺はどうにか頷き返す。
「しかし至上の力は制御できるように尽力しろ。ルカではないお前など、2度と会いたくない」
「……が、頑張ります」
ダン王子が俺の目を見て言い切り、俺はなんだか気恥しくなって声が小さくなってしまった。
「わお、お熱いね~。わりと前から思ってたけどさ、俺たちってもう配偶者レース勝ち目なくない?」
「正式な配偶者の発表は3カ月後です。今から挽回できるように頑張ったらどうですか」
「マーティアスくん、なんでそんな他人事なの」
「ダンとルカさんが仲良くなって僕は嬉しいな。結婚祝いにハートの三段ケーキを作らないと」
「ラルフくんは他人事な上に気が早いよ」
3王子が俺たちを冷やかして盛り上がると、俺を見ていたダン王子が鬱陶しそうに顔を向けた。
「おい。そろそろ邪魔だ。ルカと2人きりにしろ」
「見舞いに来てやった我々に、言うことがそれですか?」
「マーティアスくん落ち着いて。今日くらいいいじゃない」
「また来るね、ダン」
「ルカ様、隣でお待ちしております。ごゆっくり」
ダン王子の言葉にすんなり従った面々は、まだ文句を言い足りなそうなマーティアス王子を連れて部屋から出て行く。
「やっと静かになったな」
満足そうに言って、ダン王子はベッドから降りた。
「あ、ダメですよ。安静にしてないと」
「このくらい平気だ。そばにいさせろ。それともお前が俺のベッドに入るか?」
「いや、なんですかその二択……!」
「冗談だ」
ふっと笑って俺の隣に座られると、距離が近づいたのもあって勝手に心臓が速まるのを感じた。相変わらず俺はチョロい。
「お前の体調はどうだ。封印の後遺症はないのか」
「封印の影響は全然。俺はすっかり元気ですよ」
答えながら、ダン王子を見つめる。会えたらちゃんと言おうと思っていたことを伝えるために、息を吸った。
「……俺の封印を解いてくれて、ありがとうございました。本当に感謝してます」
1カ月経って、ようやく面会が許される状況になった。ダン王子の襟元にはいまだ痛々しい包帯が見えていて、俺は胸が詰まる。あの時あの場でイリスさんが応急処置をしていなければ、ダン王子は確実に死んでいた。
元より俺の中の至上様が、少しでも気分が違えばダン王子は見殺しになっていただろう。奇跡の重なりで命が繋がれただけだ。俺を助けるために自分は死んでもいいという判断をしたことを、俺はただ感謝するだけで終わりに出来なかった。
(もう絶対に、そんな危険な目に遭ってほしくない)
俺を見つめる穏やかな目を見ると、涙が出そうになる。
「でも、俺のために命を懸けるのはもうやめてください。絶縁枷の解除方法だって、本当かわからなかったのに……」
「だが解除できただろ」
照れながら付け足すと、マーティアス王子が首を振った。
「此度の反逆がどうなったか、顛末は知れ渡っています。近年魔界は大きな反乱もなく平和で、至上様を象徴としてしか知らなかった多くの者たちに嫌というほどその恐ろしさが伝わりましたからね。抑止力としては、及第点ではないでしょうか」
「私の力では記憶改ざんが追いつかないほどに至上様の粛清は知れ渡っています。ルカ様が力を完全掌握された暁に、下々の記憶をどうするかご判断いただければと。力不足で申し訳ございません」
「俺はもちろんルカくんの味方だよ。魔界史上初の愛される至上様になってほしいな」
「僕も応援します。ルカさんならきっと、本当に平和な魔界を作れると思います」
みんなの優しい眼差しを受けて俺がはにかむと、ダン王子が俺の顔を覗き込むように近づいた。
「統治にあたって人を殺めたくないのなら、そうせずとも済むようにすればいい。これからは俺がお前を支える」
「!」
(支えてくれるんだ……)
力強い宣言を嬉しく思うと同時に動揺してしまって、俺はどうにか頷き返す。
「しかし至上の力は制御できるように尽力しろ。ルカではないお前など、2度と会いたくない」
「……が、頑張ります」
ダン王子が俺の目を見て言い切り、俺はなんだか気恥しくなって声が小さくなってしまった。
「わお、お熱いね~。わりと前から思ってたけどさ、俺たちってもう配偶者レース勝ち目なくない?」
「正式な配偶者の発表は3カ月後です。今から挽回できるように頑張ったらどうですか」
「マーティアスくん、なんでそんな他人事なの」
「ダンとルカさんが仲良くなって僕は嬉しいな。結婚祝いにハートの三段ケーキを作らないと」
「ラルフくんは他人事な上に気が早いよ」
3王子が俺たちを冷やかして盛り上がると、俺を見ていたダン王子が鬱陶しそうに顔を向けた。
「おい。そろそろ邪魔だ。ルカと2人きりにしろ」
「見舞いに来てやった我々に、言うことがそれですか?」
「マーティアスくん落ち着いて。今日くらいいいじゃない」
「また来るね、ダン」
「ルカ様、隣でお待ちしております。ごゆっくり」
ダン王子の言葉にすんなり従った面々は、まだ文句を言い足りなそうなマーティアス王子を連れて部屋から出て行く。
「やっと静かになったな」
満足そうに言って、ダン王子はベッドから降りた。
「あ、ダメですよ。安静にしてないと」
「このくらい平気だ。そばにいさせろ。それともお前が俺のベッドに入るか?」
「いや、なんですかその二択……!」
「冗談だ」
ふっと笑って俺の隣に座られると、距離が近づいたのもあって勝手に心臓が速まるのを感じた。相変わらず俺はチョロい。
「お前の体調はどうだ。封印の後遺症はないのか」
「封印の影響は全然。俺はすっかり元気ですよ」
答えながら、ダン王子を見つめる。会えたらちゃんと言おうと思っていたことを伝えるために、息を吸った。
「……俺の封印を解いてくれて、ありがとうございました。本当に感謝してます」
1カ月経って、ようやく面会が許される状況になった。ダン王子の襟元にはいまだ痛々しい包帯が見えていて、俺は胸が詰まる。あの時あの場でイリスさんが応急処置をしていなければ、ダン王子は確実に死んでいた。
元より俺の中の至上様が、少しでも気分が違えばダン王子は見殺しになっていただろう。奇跡の重なりで命が繋がれただけだ。俺を助けるために自分は死んでもいいという判断をしたことを、俺はただ感謝するだけで終わりに出来なかった。
(もう絶対に、そんな危険な目に遭ってほしくない)
俺を見つめる穏やかな目を見ると、涙が出そうになる。
「でも、俺のために命を懸けるのはもうやめてください。絶縁枷の解除方法だって、本当かわからなかったのに……」
「だが解除できただろ」
124
お気に入りに追加
711
あなたにおすすめの小説
期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています
ぽんちゃん
BL
病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。
謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。
五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。
剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。
加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。
そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。
次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。
一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。
妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。
我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。
こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。
同性婚が当たり前の世界。
女性も登場しますが、恋愛には発展しません。

悪役側のモブになっても推しを拝みたい。【完結】
瑳来
BL
大学生でホストでオタクの如月杏樹はホストの仕事をした帰り道、自分のお客に刺されてしまう。
そして、気がついたら自分の夢中になっていたBLゲームのモブキャラになっていた!
……ま、推しを拝めるからいっか! てな感じで、ほのぼのと生きていこうと心に決めたのであった。
ウィル様のおまけにて完結致しました。
長い間お付き合い頂きありがとうございました!

弱すぎると勇者パーティーを追放されたハズなんですが……なんで追いかけてきてんだよ勇者ァ!
灯璃
BL
「あなたは弱すぎる! お荷物なのよ! よって、一刻も早くこのパーティーを抜けてちょうだい!」
そう言われ、勇者パーティーから追放された冒険者のメルク。
リーダーの勇者アレスが戻る前に、元仲間たちに追い立てられるようにパーティーを抜けた。
だが数日後、何故か勇者がメルクを探しているという噂を酒場で聞く。が、既に故郷に帰ってスローライフを送ろうとしていたメルクは、絶対に見つからないと決意した。
みたいな追放ものの皮を被った、頭おかしい執着攻めもの。
追いかけてくるまで説明ハイリマァス
※完結致しました!お読みいただきありがとうございました!
※11/20 短編(いちまんじ)新しく書きました!
※12/14 どうしてもIF話書きたくなったので、書きました!これにて本当にお終いにします。ありがとうございました!

転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる
塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった!
特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。

悪役王子の取り巻きに転生したようですが、破滅は嫌なので全力で足掻いていたら、王子は思いのほか優秀だったようです
魚谷
BL
ジェレミーは自分が転生者であることを思い出す。
ここは、BLマンガ『誓いは星の如くきらめく』の中。
そしてジェレミーは物語の主人公カップルに手を出そうとして破滅する、悪役王子の取り巻き。
このままいけば、王子ともども断罪の未来が待っている。
前世の知識を活かし、破滅確定の未来を回避するため、奮闘する。
※微BL(手を握ったりするくらいで、キス描写はありません)

動物アレルギーのSS級治療師は、竜神と恋をする
拍羅
BL
SS級治療師、ルカ。それが今世の俺だ。
前世では、野犬に噛まれたことで狂犬病に感染し、死んでしまった。次に目が覚めると、異世界に転生していた。しかも、森に住んでるのは獣人で人間は俺1人?!しかも、俺は動物アレルギー持ち…
でも、彼らの怪我を治療出来る力を持つのは治癒魔法が使える自分だけ…
優しい彼が、唯一触れられる竜神に溺愛されて生活するお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる